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剣と魔法と怪異譚  作者: 岩クラゲ
第二部、浮浪者と冒険者編
25/61

25-いざ、地下水路へ

幽鬼討伐に向けて準備をする一向。

その途中、師匠とルヒナは街の治安の悪さを見ることになった。

 私、師匠、リリアンさんの三人は幽鬼討伐のため、街の地下水路へと向かった。道案内は街を知ったるリリアンさんだ。

 大通りを抜けて裏道に入り、建物の隙間を縫うようにしてさらに奥まった所へ。

 ちなみに今日は曇りな上、裏路地は建物の陰で日が射さない。どんよりとした嫌な雰囲気だ。


「それにしても、異様な光景ですね……」


 裏路地は浮浪者の巣窟になっていた。木材で組んだ骨組みに布をかけただけのテントが道幅を狭くし、散乱するゴミが足元を悪くしている。

 そして地べたに座り込んでいる浮浪者たちのねちっこい視線が気持ち悪い。普段私を「可愛い!」、「最高に美しい!」と思っている人たちの視線とは違う、不愉快な感じだ……。

 特に異様なのが、彼らの半数以上が武器を所持していることだ。斧や剣、曲がったナイフ……。どれも抜き身で血と脂で汚れ、ろくに手入れもされてない。こういうのって普通、取り締まりの対象じゃないの?

 私は用心のため、簡易魔法、障壁・鎧を自分にかけておいた。


「お、おい、金とその女を置いて行け」


 治安悪いなあと思っていたら、早速刃物を持った男が前方に現れた。

 そいつはボロを纏い、髪も髭も白髪交じりでボサボサな中年の男だった。腕も脚もガリガリで、手にしている短剣は刃がボロボロだ。そんなのでよく三人相手に、正面から脅しにこれるもんだ。


「おい! ど、どうした? 金がねえのか? それなら、その女だけでも置いて行け!」

「きゃー、こわーいっ。ししょー、このひとー、わたしをねらってるーっ」

「かわい子ぶるな、猫なで声を出すな、俺に引っ付くな。つーか、『その女』って言われて真っ先に自分のことだと思う精神……」

「言うな、アレク……。わかってる……。アタシよりもルヒナちゃんの方が可愛いよ……」

「くそう、イチャつきやがって……! 女を連れてこんな所に来たこと、後悔させてやる! この短剣が見えねえのか!?」


 そんな震える手で、今にも折れそうな短剣を見せつけられてもなあ。

 可愛いく振舞えたし、もう男をのしちゃいますか。


「簡易魔法、ちゃ──」

「ルヒナ、障壁の魔法にしとけ」

「はいはい。簡易魔法、障壁」


 私たちと男の間に、路地の幅に合わせた大きさの障壁を張った。これで男は封じられたけど、私たちもこの道を通れなくなった。


「な、なんじゃこれ? いきなり目の前に淡く光るガラスの壁が……。くそ、くそ! 女あ!!」


 男は障壁を拳でドンドンと叩いたけど、そんなので破れる訳がない。


「さあ、別の道を行こう。リリアン、また道案内を頼む」

「こっちだよ」

「待て、お前ら、待て! せめて隣の、縦にも横にもデカい女だけでも置いて行け! この、この!」


 男は尚も喚き続けている。本当、人間族の男って最低だ。



 ◆



 引き続き私たちはリリアンさんの案内で薄暗い裏路地を進み、一軒のレンガ造りの家の前に辿り着いた。

 その家の扉は鉄製で、窓には頑丈な鉄格子がはめてあった。分厚いカーテンが閉められていて、中の様子は見れない。


 こんこん。


 その扉をリリアンさんがノックする。


「アタシだ、リリアンだよ。入れてくれ。あと、後ろの二人はアレクとルヒナ。アタシが個人的に雇った手伝いの異術師だ」


 数秒すると中から物音がして、扉の上部にある覗き窓の蓋が開いて二つの目がこちらを覗いた。

 扉の向こうの人物は私たちを視認した後蓋を閉め、中でガチャガチャと何かを操作した。おそらく扉のかんぬきを外しているんだろう。


 ぎぃ……。


 錆びた嫌な音を立て、扉が開いた。

 中に居たのは長身細身で、質素な金属鎧を着た兵士の男だった。


「すぐ入れ」


 兵士に促され、私たちはそそくさと家の中に入る。中は外と違って小綺麗で、暖炉や椅子にテーブル、大きめのベッド、棚に並べられた各種食材などがあった。

 生活に必要な物が一通り揃っている。そして部屋の隅には、重厚そうな鍵付きの鉄の扉が。


「リリアンさん、ここは?」

「ここには地下水路に通じる入り口があってねえ。浮浪者が出入りしないように、兵士が住み込みで見張ってるんだよ」

「まあ、未発見の出入り口が他にもあるようだから、ここだけ見張ってても意味無いんだけどな」


 リリアンさんの説明を兵士が補足した。


「リリアン、また地下に?」

「ああ。地下への扉、開けてくれるかい?」


 兵士はのそのそと部屋の隅へ行き、懐から鍵を出して鉄製の扉を開けた。それと同時に、冷たく湿った風が室内に流れ込んでくる。


「ここが地下水路への入り口ですか……」


 兵士の横から覗き込むと、扉の向こうは下へと続く階段になっていて、明かりが一切無い闇で埋まっていた。ただでさえ狭い階段が石造りの壁と天井の圧迫感によってさらに狭く見える。


「よし、それじゃあ行くよ。アレク、ルヒナちゃん、気を引き締めな」


 リリアンさんはいつの間にか手に持っていたランプに火を着け、階段を下りていった。それに師匠が続き、私も後を追いかける。

 三人が階段を少し降りたところで、背後で鉄の扉が閉められ、ガシャリと鍵をかけられた。


「え? あれ、いいんですか? 鍵閉められちゃいましたよ?」

「誰もここから出入りできないようにしてるんだから、当然だよ。なあに、心配するな。帰る時はアタシが声をかければ開けてもらえるから。あの兵士が酒を飲んで寝てたら別だけど」


 酒が飲める職場……。


「それにしても暗いですね。転んじゃいそうです。師匠、野営地で深夜に魔人に襲われた時、光る玉みたいなの出してたじゃないですか。あれ、今使ってくださいよ」

「あの光の球は貴重な物だ。こんな所じゃ勿体なくて使えない。自分の足元が暗いなら、着火の魔法で明かりを取れ。……と言いたいところだが、ここは地下で日光が入らん。魔力は温存しておけよ?」

「はーい。……あ、そうだ。それならせめて、転ばないように手を握ってくださいよ」

「こんな危険な場所で、無意味に片手を塞ぐ馬鹿がいるか」


 そんなこんなで階段を降りること数分、私たちは地下水路の広い空間に出た。


 ザァアアアアアア……。


 そこはリリアンさんのランプの光では照らしきれないほど広かった。

 天井からは地上の排水溝からの光が射しこみ、立体的に交差した水路を照らしていた。壁からは大量の水が滝のように流れ落ち、地下の闇の中に飲み込まれている。そして所々に散らばる浮浪者の生活の跡と血の跡……。


「リリアン、この地下水路は現状、どんな感じなんだ?」

「散らばってるガラクタやテントの残骸からわかる通り、ここは浮浪者の吹き溜まりになってた。だけど幽鬼が現れ、そいつらを殺して回ったんだ。兵士が何度か避難指示を出したんだが、地上に逃れたのが半分、さらに地下に隠れ潜んだのが半分って感じだよ。その後、冒険者が幽鬼討伐のために地下に潜ったんだが、誰一人生きては帰らなかった。幽鬼に殺されたのが半分、浮浪者に殺されて身ぐるみ剥がされたのが半分って言われてる。それで手が付けられなくなり、幽鬼は厳密には怪異だってことでアタシに討伐の依頼がきたのさ。そしてアタシはこの前地下に潜り、幽鬼を捕える罠を張って回ったんだよ。今日はその罠の確認」


 さっきのリリアンさんと兵士のやり取りを見て思ったけど、やっぱりリリアンさん、前にもここに来てたんだ。

下水の問題は魔法で解決してると仮設定。

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