偽り
エリアルと軽くお話をした後、私はお兄様とパーティを楽しんでいた。
もうお料理が美味しすぎて仕方ないの。
王城のパーティの時は緊張で食べるどころじゃなかったから今回はパーティを満喫できている。
「そんなに食べると豚になるぞ」
さっきから私の様子を見ていたお兄様がからかってきた。
(もうっ豚だなんてひどいわ)
「ちゃんと毎日運動していますから。今日くらいいいんです!」
そう意地悪なことを言ってきたお兄様に言い返した。
家の外から出ることはほとんどないけど、毎日お庭を歩いたりストレッチは欠かさず行なっている。
「そうか。それは偉いな」
そう言って嬉しそうに微笑んでいる。
ちょっとからかってきてもすぐにこれなんだから。
お兄様はやっぱり私に甘いわよね。
「ソフィ、さっき知り合いがいるのを見かけて挨拶をしたいんだが、お前1人で待てるか?それともついてくる?」
うーむ、これは難しい二択。
お兄様と一緒にいるのは心強いけれど、たぶんお兄様のお相手は男の方よね。
そうなるとちょっと怖い気もする。
今は周りはご令嬢しかいないし、それにパーティの真ん中にいる。
多分ここに残っていても滅多なことは起こらないだろう。
「私ここで待っておりますわ。お兄様なるべく早く帰ってきてくださいね」
「おう。本当にごめんな。すぐ話して終わらせてくるから」
そう言ってお兄様は急ぎ気味にその知り合いのところに向かった。
遠目で見てみるとやっぱりお相手は男の方だった。
ガタイがいいので騎士様っぽいわね。
さて私はまた何か食べましょうかね。
「うーん」
今度はデザートを頂こうと思ったのだけれどありすぎて悩んでしまう。
「その中ならそちらのケーキがおすすめよ」
そう突然声をかけられた。
そちらを見てみると髪が肩ぐらいまである綺麗なご令嬢がいた。
「すごく悩んでいたみたいだから。さっき食べたのだけれどそれ美味しかったのよ」
あら、見られていたのね。
ソフィは少し顔を赤らめて恥ずかしくなる。
「それはありがとうございます。悩んでいたので助かりましたわ。」
そう言って私はケーキをお皿にとる。
そのケーキはチョコレートがかかっていてすごく美味しそう。
「あなたソフィア様でしょう?私お話をしてみたかったの。良ければ2人でお話しません?」
「あら、私のことを知っていらしたのですね。えっとあなたは...」
「私はアイナ・クラークと申します」
クラークと言うと確かセリウス様のご親戚に当たるところよね。
そこにひとり娘がいると聞いたことがある。
それなら信用できるかな...?
お兄様もまだ帰ってこないだろうし少しお話するぐらい大丈夫でしょう。
「アイナ様でしたか。セリウス様のご親戚に当たる方ですよね。今、人を待っておりまして、少しでいいならお話しましょう」
そう告げるとアイナ様は嬉しそうにこちらへと私を導いた。
その姿はすごく可愛くてこちらまで嬉しくなる。
アイナ様が私を連れてきたのはパーティ会場の隅っこだった。
周りには誰もいなく本当にふたりきりだ。
「はぁ、ちょろくて助かったわ」
そうアイナ様は呟いた。その表情は先程までとは違いすごく狂気に満ちている。
「えっと?」
「あ、別にあなたに何かしようとかじゃないから安心して。ちょっと言いたかったことがあるだけだから」
さっきまでのアイナ様は偽りだったってこと?
豹変ぷりに驚く。
なんだか逃げなきゃという気持ちにさせられる。
しかし足がすくんで動けない。
「私あなたが殿下の婚約者なんて許せないの。見た目はまぁ悪くないけど私の方がずっとお似合いよ。それなのに急に出てきて横取りしやがって」
そうしてアイナ様は手に持っていたワインを私にかけた。
ズキンっとアイナ様の言葉が私の胸に響く。
「ふふっその姿の方がお似合いよ。たいして位も高くないくせに出しゃばらないでちょうだいね、ソフィア様?」
アイナ様は高笑いしながら来た道を戻っていった。
せっかく今日のためにローザが着飾ってくれたドレスはワインで濡れてしまった。
それにこの染みはきっと落ちないだろう。
ああ、何も言い返せなかった。
きっとみんなが賛成してくれている訳じゃないのは分かっていた。
普通私なんかが殿下のそばに居るべきじゃないのよね。
それは分かっている。
でもどうしようもなく私は殿下が好きなのよ。
「こんなところにいたのかソフィ」
俯いている私に声をかけてくれたのはお兄様だった。
「探したんだぞ...てかどうしてそんなに濡れているんだ?」
お兄様は私のドレスの染みに気づいてすごく真剣な顔になった。
「いえ、実はうっかりこぼしてしまったの」
そう私は精一杯の笑顔で答える。
お兄様に頼ってしまいたい。
だけれどこれはきっと私の問題なのよね。
お兄様に頼っても何も解決はしない。
「そう...か。とりあえず今日は帰るか。ソフィも疲れただろう」
そう言ってお兄様は私の手を引いて歩き出した。
その手はすごく暖かくて安心する。
きっとお兄様は気づいている。私に何があったのか。
だって私ワインなんて飲めないもの。
それでも何も言わずただ手を握っていてくれる。
本当にいいお兄様に巡り会えたわね。
私はもっと強くならなければいけない。
殿下といて誰も文句が言えないくらいにはね。




