表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アニエス嬢はご苦労されてます  作者: ちゃ畜
カサンドラの夏休みとお兄様
77/227

77、夏の休暇の終わりと新たな季節


「タニアからは、隣で休んでいるはずなのに君の姿が見えない、と報告があってな。様子を見に来てみれば……ずいぶん重大なことを隠してくれていたようだ」


 帰ろうとしたアニエスたちだったが、セオドリックに呼び止められ、再びアレクサンダーの自室へと戻される。

 対面にセオドリックとタニアを据えられ、アニエスはまるで尋問のように、その力について説明することになった。


「えーと……その……私も当初は戸惑っていたのものでございまして」


 それにセオドリックはギロリと睨んだ。


「戸惑っていたのに、運用が随分と早いな?」


「いや~とっさに……火事場の馬鹿力でしょうか?」


「へえー、それで三人でこっそり秘密を共有しようと」


「……え、えへへ」


 アニエスは気まずそうに指先を先程から、くるくると(もてあそ)んでいる。


「……自覚はあるのか? 君はアレクサンダーの『ドラゴニスト』を解除したんだ。竜を使役できるだけでも国家機密級だ。それに加えてその力まで露見すれば、近隣列強が黙っているはずがない。――最悪、(さら)われるぞ」


「ええ? でも、『魔力無し』の私がまさかそんなことが出来るだなんて、誰も思わないでしょう……?」


 アニエスはセオドリックの目が怖すぎて、盛大に目を反らしてブツブツと言う。


「……だが、君はさらに『クォーター・エルフ』だろう?」


 その言葉に、アニエスは弾かれた様にセオドリックを見た。

 タニアも驚いたように、目を見開いている。


「実は、以前から疑っていた。皇帝陛下のあの尋常ではない魔力と魔法……あれは、とても人の業とは思えない。そして君も、君の母上も……どこか常軌を逸している」


 一拍置き、セオドリックは視線を細める。


「祖父君の経歴も洗わせた。妻は海外の没落貴族とされているが、素性が不自然なほど不明瞭。加えて彼が長く滞在していたのは“失われた大地”――かつてエルフが支配していた土地だ。……なら推論は一つしかない」


 アニエスは、だらだらと滝のような汗が流れ続けるのを全身に感じた。


「竜の所有者であり、魔脈を自在に操って他者の魔法を封じも蘇らせもでき、さらには魔力すら増幅させる力を持つ……。その上、絶滅したとされるエルフの血が流れている。……それだけ揃っていて、単なる“魔力無し”で済むと思うのか?」


「……エース! セオドリック様が怖い。助けて!!」


 だがエースも、それが紛れもない事実だと理解している。

 だからこそ何も言えず、ただアニエスを見返した。


「特に隣国アーチボルトに君の存在が知れるわけにはいかない。……少なくとも貴族の令嬢という立場ではな?」


 それに、アレクサンダーがピクリと反応する。


「それは……その先をどう言おうとされているんですか。セオドリック様?」


 セオドリックが、そのアレクの反応に不敵に唇の端を上げてみせた。


「どういう意味だと思う? それならアレクサンダー、……君の口から聞きたい」


 余裕をもってセオドリックがそう返す。そんな二人の間にバチバチと火花が散った。

 それを横目に、タニアがアニエスに別の質問をした。


「でも……下着姿だったのは驚いたけど、それはアニエスがアレクサンダーを助けた際に、自分の服を元々貸していたからなのよね?」


 アニエスは頷く。


「アニエスはどうやって牢を抜けたの?」


「ああ、それは……」


 そう言いアニエスはおもむろに靴紐を解きだした。

 そして靴を脱ぐと、中から薄いシールの様な札のような紙束を出してきた。


「これは……?」


「『魔符(マジックカード)』です。カサンドラは公爵領! 『魔符』の運用が条例で許可されていますから、この魔符を使い牢の鍵を熔かし脱出したのです!」


「まあ! これが? ……アニエスは確か人質の条件で『魔符(マジックカード)』の全国運用を願い出ていたわね!」


「はい、で、今は公爵領で運用のテストをしていて……その実績を議会に上げられるように、今も準備をしているところです」


「……では、こんな便利なものが公爵領では、すでにやり取りされているのね!」


「いえ、これは非売品というかオリジナルの物なので、実は一般にはまだ出回ってなくて」


「じゃあ、いったい誰がこれを作ったの?」


「私です! ……私が個人的に、使用具合をテストするために用意したものなんですよ。これは」


「……え!? アニエスが!! すごいわ!! いったいどうやって?!」


「私は魔力が無いのでアーティファクトを使用しました。エースにも手伝ってもらったけど……」


「アーティファクトを貴女は持っているのねアニエス! えー、いったい何処で買ったの?」


「いえいえ、買ったのではなく。見つけ……」


「義姉さん!」「お嬢様!」


 二人に声を掛けられ、ハッ!! とアニエスはそこで話し過ぎている事態に気付く。


 そう……自分の中で当たり前過ぎて、常識とはかけ離れた状態になっていることが人間には稀にある。


 それが事もあろうに……アニエスはよりにもよって今、この状態でそれをぶっ放してしまったのだ!


 セオドリックが綺麗に微笑みながら、先程からテーブルを指先でトントンと鳴らしている。


「アニエス。とても興味深い話だ。……はい、続きをどうぞ?」


「……いやだなあ! 冗談ですよセオドリック様ったら、またまた本気にして! そんなアーティファクトが簡単に手に入るわけないじゃないですかあぁ!」

 

 あはははは。

 あはははは。

 アニエスは全力でごまかそうとするが先程から汗が止まらない。

 夏だからね! 暑い〜!!


「アーティファクトは産出量が極めて少なく。見つかり次第、国の所有物になる決まりだ。裏マーケットでも本当にめったに手には入らない。……それを君は見つけたと……そう言った?」


 げ、げこぉ……。


「……ここで一つ、私の推理を聞いてもらえないか、アニエス? ……聖遺物と呼ばれるアーティファクトは、多くが独自の強大な魔力エネルギーを宿しているとされている。だからこそ一万年前の遺物であっても、今なお使用が可能だ」


 彼はアニエスを真っ直ぐ見据えた。


「君の目は人の魔脈だけでなく、……無機物の魔力も見ているのではないか。それならば、君が遺物を見つけられた理由も説明がつく」


 そして、静かに名を告げる。


「……どうなんだ。アニエス・ロナ・チャイルズ・アルテミスティア」


 まるで蛇に睨まれた蛙である。

 アニエスはどうやってこの場を取り繕おうか……必死にその頭を回転させた。


「セオドリック様……」


 そこで、アニエスはすっくと立ちあがった。


「何だ?」


「ごめんなさい……少しお茶を飲み過ぎてしまったみたいで、お花を摘みに行ってまいります☆」


「は?」


「すぐに戻ってまいりますので、では!!」


 アニエスは考えた末に……逃げることにした。

 取りあえず、今あるアーティファクトだけでも隠さなければ!?


 魔符(マジックカード)で風を呼び、アニエスは全速力で自室へ向かう。

 だがそんなのお見通しで、先回りしていたセオドリックが待ち受けており、あっけなく御用となった。


「………君はどうして普段あんなに賢いのに、時に信じられないほど愚かで馬鹿なんだ?」


 掴まえたセオドリックが呆れてアニエスに言うと、アニエスはぐすんぐすんと泣いて答える。


「う、生まれた星の宿命のせいかと……」


 そして、アニエスが所持していたアーティファクトは、全て国へ没収となった。


「……ひどい!! ……こんな(むご)いことがあろうか!?」


 アレクサンダーの部屋へと戻り、ベソをかいているアニエスに対してエースが言う。


「でも正直……ぺらぺらとタニア様に話しだす義姉さんを見て、セオドリック様と全く同じことを思ったよ」


「右に同じく」


 エースとアレクサンダーも呆れてものも言えない様子だ。


(ううっ!! 仲間だと思ったのに、裏切り者!)


「アニエスは……色々あって気が抜けてしまっていたのよね? そうよね、きっと!」


(うううっ! こんな時もタニア様なんてお優しいのだろう。天使なのだろうか? ………うん、知ってる!)


「セオドリック様のバーカバーカ! ……もう嫌いっ!!」


 思わずアニエスが、子供のような悪態をセオドリックにつく。


「はいはい、私は大好きだよ? 愚かな君も……実に愛しい」


「ふうっ! そんな大人が子供をなだめるみたいに!?」


 まあ実際、今のアニエスの格好は子供でしかない。


「でも本当、今回の休暇は色んなことが目白押しだった! ……こんな濃い夏休みは二度と来ないわね」


「いや、タニア様その見解はまだまだ甘いかと」


「そうですね……お嬢様と来年も夏を過ごされるのなら、いったいどんなことが待ち受けているやら……」


「ムードメーカーであり、まさにトラブルメーカーだからな。騒いでいても、黙っていても」


「ううっ! 皆して、けちょんけちょんじゃないですかあ!?」


 口ではあれこれ言いながらも、ここにいる全員が、次の夏も当然のようにアニエスと過ごす未来を疑っていない……。

 その揺るぎない想いに、果たして本人は気づいているのだろうか?



 こうして長かった夏の休暇を終わる……。

 そして、いよいよ其々の新しい季節が訪れようとしているのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ