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アニエス嬢はご苦労されてます  作者: ちゃ畜
カサンドラの夏休みとお兄様
71/227

71、寝室事情と祠   ※あとがきに【おまけ閑話】あり

ヒント:鯨


「レティシアがどうにも夜の熱を持て余してしまうものですから……幾度か、我々の寝台が小さな洪水に見舞われまして……。ゆえに、今はこちらへ移しているのです」


 その爆弾発言に、意味の分かるセオドリックとノートンとメルヴィンは、盛大に噴出し、咳き込む。

 けれど意味がわからず、質問をした当人のアニエスは首を傾げた。


「え、船が浸水をしているのですか? それは危険ですね。レティシア姉様はお風邪を召してはございませんか! 濡れてしまったら……寝室を移すのもいた仕方ありませんね」


 実にピュアな反応だった。

 だってアニエスはただ軽くこう聞いただけなのである。


「本日の集合はいつもの船では無いのですね?」


 とくに何の変哲もない問いだ。


「違いますよ、アニエス。……我々は夜になると、少しばかり情熱が過ぎる。その結果、寝室を何度も移す羽目になるのです。召使いたちには苦労をかけていますね。……どう思う、レティシア?」


 それに、レティシアは恥ずかしさから顔を真っ赤にして震えて涙目になる。


「……陛下、昨晩のことをまだ怒ってらっしゃるのですか?」


 それにクラウディウスはレティシアの耳元で囁く。


「さあ、それは今夜わかるのでは……?」


 というと、アニエスとマリオン以外のそちらにそれほど詳しくない面々でも、あ、そういう系の話なんだな……。と察しがつき、思わずレティシアを見た。


「よくは分かりませんが、レティシア姉様を虐めないでくださいませ陛下! 私が盾になりますよ!」


 アニエスが勇敢にもレティシアの前に立つ。それにクラウディウスは嬉しそうに微笑んだ。


「ああ、アニエス。どうしてそんなにも神々しく清らかでいられるのか……。その分、触れれば乱して壊れてしまいそうだ。念のため、アニエスには寝室は五つほど整えておきましょう。……万全を期すためにね?」


 そう言いアニエスの顔をそっと長い指先で撫でた。


「っ! 気安く触らないでくださいませ。あと、寝室は家にあるので、全く御心配には及びません!」


 その手をていっ! と弾き返しながらアニエスが睨んだ。


「で、本題に入りますが、女神の役を……付け焼刃の私で本当に良いのですか?」


 一応、個人的に練習は重ねたが、果たして罰が当たらないものだろうか……。

 それにレティシアが優しくアニエスの頭を撫でた。


「大丈夫ですよ。……我々もしっかりその辺りはフォローいたします。だからいっそ、記念に間違えるくらいの心持ちで構いませんからね?」


 そう微笑んだため、ようやくアニエスもほっと肩の力を抜いた。


「間違えぬよう最大限に努めます。ですが……そう仰って頂けると心がふわっと軽くなります。ありがとう存じますレティシア姉様!」


 頭に置かれた手に、アニエスは優しく自分の手を添えた。


「おやおやアニエス、だいぶレティシアと私の扱いが違くはありませんか?」


「実績と実害。私の判断はその身に起こったことに対して平等に公平だと存じますが?」


「やれやれ、先日、私は君に多大な実益をもたらしたと思うのですがね?」


「二度と繰り返してはならない、黒歴史なら刻み込まれた記憶がございます……ぐぬぬぬっ」


「可愛かったですね? もう一度『お兄様だーーーいすき♡』と言ってごらん?」


「……この方を刺しても宜しいですか? メルヴィン様!?」


 問われた皇帝陛下の四天王にして、大柄ツーブロックの丸サングラス財務大臣が代わりに頭を下げる。


「アニエス姫……どうか主君の大迷言は水に流し、矛をお納め下さい……」


 そう恭しく願い出た。


「アニエス。女神の役をやるのなら、まずはお清めをせねばなりません」


 レティシアがそう言うのを聞き、アニエスはキョトンとする。


「お清め?」


「はい、そうです。本来は魔力属性に応じた魔石でその魔力をまず清めます」


「え……と……では、私はいったいどうすれば……?」


 アニエスは魔力が無い。それも微塵も……。


「そうですね……ですから全魔石が収められた祠で今回は祈りを捧げる形にいたします。魔力が無いからとお清めをしないのは……流石に障りがありますから」


 アニエスはそれに頷く。


「そうですね。そういうことは(おろそ)かにすべきでないと私も思います!」


 しかしいったい祠とはどこにあるのだろう?


「では、祠をこれへ」


 そう言い、運ばれてきたのは箱としてだけ考えるならかなり大きいものだった。

 しかしそれは我々で例えるなら、ネットカフェの狭い一人分のワンブースくらいの広さしかない。アニエスはそれを見て思わず固まった。


「……アニエス?」


「……え!! あ、は、はい、何でございますか?!」


「どうしたのですか。なんだか顔がずいぶん青いような…………?」


「い、いえいえ、私が顔色が悪く見えるのはもとからです。姉様!」


 あはははは……と笑いつつ、アニエスはどうにも足がその箱に向いて行かない。

 その時アニエスの肩を掴む者がいた。


「……セオドリック様?」


「アニエス、無理はするな」


 ああ、そうか。とアニエスは思う。

 セオドリックはアニエスが閉所&暗所恐怖症だと知っている。


「……大丈夫です。少しの間ですから」


 でも、セオドリックが話しかけてくれたおかげで、逆にアニエスは先程までの体のこわばりが無くなった気がした。気が楽になり、前に進める。


「では、行って参ります」


 アニエスは、そっと扉に触れると気付けばそこはもう祠内だった。


(……思ったより……暗くはない)


 でも、気を付けないと膝ががくがくと震えてきそうだ。


(勢いで入ってしまったけれど、お清めっていったい何をどうするのかを聞くのを忘れていた……)


 おおう……いったん戻るべきだろうか? しかし、アニエスはそう思いながら歩は勝手に前へ前へと進んでいく。


「……!?」


 そして、鏡の前に立った。その周りには無数の魔石と宝石の類がちりばめられている。


「…………」


 アニエスは取りあえず、神殿でお祈りするように、膝を折り、手を合わせてみた。


「……やはり、失敗?」


 一抹の不安。

 すると、下から宝石類がぐるりと煌めきだした。


「!!」


 どうして、光のほとんど届かない空間で急に……これは気のせいだろうか?

 だがそう思い顔を上げると、鏡から白い腕が伸びてきた。


「!!?」


 し、心霊現象!? これはまだ聞いてないです! レティシア姉様!! アニエスは内心で叫ぶ。

 しかし、その腕の正体は……。


「……私?」


 出てきたのは、もう一人のアニエスだった。

 ……というか、これも十分に怖いのではないか? ……真夏にはまさにぴったりだ。

 

 そのもう一人の自分は鏡から出てくると、じっと自分を見つめ、そして……。


「!!」


 自分の唇に唇を重ねてきた。


(……これいったいどういう状況なの!?)


 訳が分からず内心パニックを起こす。


 しかし、その感触は水面に口を着けたような凪のような静かさと冷たさ……。

 アニエスの心もまるで水に浸かった様に静かに、静かに……なっていく。

 唇を離すと、もう一人の自分はおもむろに自分の耳に口を寄せ囁いてきた。


『真の『エンド・ユーザー』よ、王を全て選びなさい』


「え……?」


(王……いったい何の……?)


 しかし、そう言うともう一人の自分は後ろ向きにふううと引っ張られ、鏡の奥へと消えてしまった。


「……………」


 祠内はしんと静かになる。 


「………………ただいま」


 アニエスは、祠から出ることにした。

 今のは……話したら、何だか呪われそうである。


 では、なにも言わない方がいいのか?

 ……お清めのはずが、別のものを連れてきたのでは? と不安に駆られる。


「!! お嬢様……大事は無いですか!?」


 そう言いアレクサンダーが真っ青な顔で駆け寄ってきた。


「ああ、だいじょ……うぶ」


 アニエスは思わず彼を凝視した。

 ……魔脈。

 魔力の流れをアニエスは確かに視ることが出来る。


 けれど、それもある程度集中しないと掴めないはずなのに……今はそんなことをせずともはっきりと見えた。


 というか、それは今までよりもっと詳細になっていて、魔脈の光の色の差がより細かく、立体的に視覚できている。


「………………」


 しかも、アニエスが「いや、見たくない!」と思った瞬間。それは全く見えなくなり、通常の景色に戻った。


「………………」


 もう一度……見たいと思う。 


 すると、それらはまた、どくどくと脈打つ姿を現す。

 ……さらにより大きく詳しく見たいと願えば、そこだけまるで顕微鏡や望遠鏡を覗くがごとく、魔脈内の小さな光る者たちの息吹きまで、はっきりと映し出すことが出来た。


 今この時、アニエスがそうしたければスイッチの切り替えのように、その意思でその視界は自由自在に操れる。


「……なんなの、これ」


 思わず、アニエスは呟く。


「やはりご気分が悪いのですか? お嬢様」


 アレクサンダーが心配そうに問いかける。


「……ううん大丈夫! ……急に明るくなったから目が(くら)んだの。……ありがとう、心配してくれて!」


 そこにレティシアが、アニエスの背中をさすりながら話しかけた。


「アニエス本当に大丈夫ですか……? 一時間以上も祠に入っていたようだけど」


 それにアニエスは弾かれるように顔を上げる。


「い、いいい……一時間!?」


 そう逆に質問してしまった。

 アニエスの体感としては五分とかかっていないのに……。


「だから……倒れているかもしれないから、祠を開けようかとお話していたところだったのよ!?」


 アニエスはそれを聞き頭を下げる。


「それは……ご心配おかけしました。大丈夫です。おそらくお清めも……」


 そう言うも、レティシアはまだ心配そうだ。


「無理をしていませんか? 本当に女神役をこのまま今夜することが出来る?」


 その問い掛けに、アニエスは笑う。


「はい、大丈夫です……ほんとに目が眩んだだけなので! 引き受けたからには、どうかお役目はさせてください!」


 アニエスはやっと動揺を消し、通常通りの返答が出来た。


「そう……でしたら、分かりました。なら着替えましょうか? アニエス」


「はいっ!」


 アニエスは促されて女神の衣装に着替えた。

 顔の上に女神のお面……瞳を閉じた女性の顔のお面をつけ、(かつら)も被る。

 

 視界が狭い中を手をとられ山車(だし)の階段を上り、真ん中の席に着くと、山車ごと移動用の舟に乗せられ、その舟が岸に着くと山車はカサンドラの地に下ろされる。


 さあ、いよいよ祭りは一番の山場を迎えようとするのだった。






【おまけの閑話】


 夏休みはじめ、船団がもうすぐカサンドラに到着する中。

 クラウディウスが一足先にロナの別荘へと文字通り飛んでいき、第一皇帝妃のレティシアは大船団の留守を任されていた。

 

 今回、例のクラウディウスの『魔力無し』の最愛の妹にレティシアも初めて会うことになる。

 クラウディウスがよく絵や彫像、人形や刺繍でその姿を描くため、姿形だけなら会う前からその妹をレティシアもよく知っていた。

 やはり、兄弟だからか基本的にクラウディウスに似ていると思う。

 それにプラスするように少女らしいあどけなさや子供らしさがあった。


 だがこんな少女に、あの神に最も近いといわれたクラウディウス皇帝陛下が夢中になる………。それに、レティシアはなんだかにわかに信じられない気持ちになる。



 別段クラウディウスにもともと、少女や幼女を特別愛でる性癖があるわけではない。


 どこから聞いてきたのか、クラウディウスが妹に耽溺していると聞き及び、こぞって権力者たちは幼い娘やわざわざ見目麗しい幼子を養女にして皇帝の宮殿へと贈った。

 しかしそれにクラウディウスは丁寧に相手の尊厳を守りながら断りを入れる。


「貴殿の姫は聡明で美しく、実に将来有望ですね。………しかし、あまりに幼な過ぎる。今は養育に力を入れ、この子たちの可能性を可能な限り広げてあげるのが大切でしょう。ねや事は、大人になってから覚えればよい。この蕾が美しい花を咲かせたとき、まだ私にあなた方にとって価値があるようでしたら、その時またお話を伺いましょう?」


 そうにっこりと、黄金の微笑みを見せた。


 むしろその微笑みを見て、幼女や少女たちは皇帝陛下に夢中になり、結婚できないと知った時、まるで世界が終わるように絶望して絶叫する者も多数現われたくらいだ。


 さて、話を戻そう。

 まずはレティシアについてだ。


 レティシア自身はもちろん皇帝陛下を夫としても男性としても最高に愛している。

 ……だが、それ以上に彼によって人生を開かれた恩を強く感じており、海よりも深い信仰心をクラウディウスに抱いていた。


 さらに、同時に彼の決して人には理解されないであろう『退屈』という深い苦悩を知っているレティシアは、彼が夢中になれるものを見つけ喜んでもいるのだ。

 

 なぜなら、もしそんなものが見つけられないままだったなら、彼は絶望して自ら命を絶ってもおかしくないと思っていたから……。

 レティシアは、自分が信仰する神が死ぬのを何よりも恐れていた。


 ………けれどそうはいっても同時に、やはり不安もある。

 あれだけ素晴らしい人物であるクラウディウスだ。

 例え実兄といえど、彼の妹はきっと彼に恋心を抱くに違いない。

 

 ずっと離れて暮らし兄妹というより他人も同然だろう。そうなったら相思相愛までのカウントダウンは、もう残りわずかである。


 そのとき、果たしてクラアウディウスは、後宮を解体させないといえるだろうか?


 ……後宮が解体すれば、レティシアはもうクラウディウスの側にはいられない。


 もちろん、政治的な意味合いや絡みの多い後宮の解体は容易ではないだろう。

 上位二十妃は陛下の親衛隊であり、皇帝陛下の重要な護衛の要だ。

 ……けれど、果たしてそんなもの、どれだけの意味があるだろうか? 

 もともとグラディウス程の人に、敵う者など無し。どんな不可能も可能にする、かの尊きお方なのに……。


「レティシア第一皇帝妃様。陛下がお戻りになられました!」


 ようやく迎えたその時に、レティシアはぐっと気合を入れる。

 

(しっかりしなくては、余裕を持たなくては、私は他でもない後宮を預かる第一皇帝妃なのですから!)



 ローゼナタリアのうら若い王侯貴族の面々を連れ、クラウディウスがいつもの太陽のような存在感で船へと戻る。

 いつ見ても、惚れ惚れするそのお姿。

 

 側に仕える者達も、毎日拝見しているにもかかわらず、ますます尊崇して、ため息をつき、心の奥まで望んで支配されている。


 そう、必ずこうなってしまうのだ。


(妹君も陛下にべったりかもしれないですね……)


 そう思い、レティシアはクラウディウスの周囲にそれらしい人物を探す。

 ところがその周囲に、あの絵姿と似た人物はいなかった。


(え? もしかして一緒ではないのでしょうか……?)


 しばらく、人にはバレぬように密かにキョロキョロと探すと、一番後ろに小さく白金髪の頭がわずかに見える。

 しかし、その前を恐ろしく美しい黒髪と銀髪の少年が並んで前に立ちふさがり、まるで隠している……いいや、隠れているようだ!! 


 中腰になり二人の後ろをぴったりとくっつき歩きづらそうにしながら、警戒心バリバリで、まるで皇帝陛下からの視線に、必死に逃れようとでもしているように見える。


「…………………」


 レティシアは、最初、これは気のせい? と思った。

 もしかしたら極度の恥ずかしがり屋なのかもしれない。


「皆の者、少しばかり留守にして相済まなかった。特にレティシア、私の代わりによく皆をまとめてくれたな。礼を申すぞ?」


「滅相もございません。第一皇帝妃として当然のことをしたまでです」


 クラウディウスに声をかけられたことで、ローゼナタリアの面々からレティシアは自然、注目を集める。

 その中のアニエスももちろん例外ではなく、二人の間からひょっこりと顔を覗かせ、じーっとこちらを見ている。


 レティシアはぷっと思わず噴きだしそうになった。


 その姿がまるで興味のあるものを一心不乱に見つめる小動物そのものに見えたからだ。


(まるで子リスのよう………!)


 しかも、アニエスは最初レティシアの顔を見て、次に驚愕したようにレティシアのあまりに豊満すぎるバストを凝視し固まっている。

 それに、レティシアの肩はプルプルと震えるのを必死にこらえた。


(思っていることが顔にモロにでています!?)


 何とも無防備な姿に、レティシアの胸は温まると同時に不思議な気持ちでいっぱいになる。


(顔こそ陛下の面影があるのに………いつも余裕があって一部の隙も無い陛下とはまるで違う)


 一通りの挨拶を済ませた後、さっそくレティシアは船内を案内しようと、くるりと後ろを向いた。


「では、舟のご案内をいたします………きゃっ!」

「……レティシア、私が急にいなくなり体が疼いて夜鳴きをしたりはしませんでしたか?」


 そう甘く囁く低い声や、青く見つめる澄んだ静謐な瞳、自分の腰を抱く大きく美しい手にレティシアはいまだにクラクラとする。

 愛おしくて気が狂いそう!!


「へ、陛下………私はいつでも陛下の御心のままに、陛下の行動を邪魔するなど滅相もございません。ただ………陛下がいなくて、この身が寂しさを覚えることだけは、どうかお許しくださいませ………」


 ああ、とてもこの人なしでは生きてはいけない……! レティシアは思う。

 でも、もし後宮が無くなることがあれば……そう思い、レティシアはアニエスの方へと視線を投げた。


 するとアニエスは二人のこのラブラブなやり取りには興味がなく、懸命に近くを飛んでいる蚊を捕まえようと手を構え、虚空をひたすらに睨んでいる。


 そして、パシンっと蚊を捕まえると、両手を開き「わあ~こんなに血が~! 食われている~!!」というように、眉間とあごを引くように、くしゃっとさせた変顔をしていた。


「………………」


 もしかしたら、ありとあらゆることが杞憂なのでは……? 

 

 レティシアは段々とそう感じ始める。

 少なくとも、先に紹介したクラウディウスに魅せられた少女や幼女はこうではなかった……。


 少女たちはクラウディウスがいつものようにレティシアを愛で始めると、まるで大人顔負けに嫉妬して睨んだり、どうにか二人を邪魔をしようと幼いなりの知恵を絞ってみせた。


 けれどアニエスは、クラウディウスがどうしようとどこ吹く風。

 むしろ構われないことで、のびのびしているようにも見える。


 そして、その考えは徐々に確信へと変わっていった。


 クラウディウスを軽くスルーし、レティシアに質問したかと思うと、自分の好きなことをレティシアと絡めてこれでもかと夢中になって語り、そのあとでレティシアを姉と呼びたいと言ってきたのだ!


 クラウディウスよりむしろレティシアに興味津々で、どう色眼鏡無しに公平に見ようとしても、レティシアにこそアニエスは懐いている!!


(本当に本当に……クラウディウス様にそうゆう感情は無いのだわ……!?)


 確かに彼女の周りには素晴らしい少年たちが集まっている……。

 しかし、それを差し引いてもクラウディウスの魅力は圧倒的にもかかわらず、アニエスはこの点に関して恐ろしいまでに真っ当であった。


 また、この少女は文字通りいろんなことが隙だらけなのだが、……なのにどこか底なしの海のような掴みきれず、侮れないところがあり、その辺りがクラウディウスと兄妹という事実に説得力を持たせている。

 

 まるで正反対なのに、このクラウディウスを理解できる……または並ぶことが出来る人間がいるとすれば、この少女だけかもしれない。

 そんな予感をレティシアに持たせた。



 ……それを直感的に感じ取ったからこそ、もしかすればクラウディウスはこの少女に激しく抗えぬほどに惹きつけられたのかもしれない。


 だって誰だって、一生孤独だと思っていた世界に唯一自分と同じ人間がいれば、そんなのは必死に縋らずにはおられないだろう。


(それが……自分だったらと思う己のおこがましさと愚かしさよ)


 レティシアは頭を振った。

 もう、一生分のご恩や幸福をクラウディウスから授かっているというのに……欲しがる自分が恥ずかしくて情けない……!! レティシアは自分を懸命に恥じる。

 すると、そんな今から温泉に行こうと転移陣に乗ったレティシアの手をそっと掴む者がいた。


 オパールのような七色の光彩を瞳に持つ少女。

 その瞳はまるで何もかも承知しているように透明で、なのに深く濃く、温かく、レティシアのその姿を映し出している。


「レティシア姉様……大丈夫ですか? どこか痛むのですか?」


 アニエスはレティシアを心配し声をかけた。


「……どうしてですかアニエス? 私はなにも痛くはありませんよ」


 そう言うが、アニエスは何かを察しているようで口を固く閉じうつむく。

 そう、このアニエスという子は何とも察しがよい……。


 アニエスは意を決したようにレティシアに言う。


「レティシア姉さま……私は姉様のお味方です! もし、少しでも帝国の待遇。陛下へのご不満があればすぐにおっしゃってください。どんなことがあろうと姉妹の契りを交わしたこの私が、全力でレティシア姉さまを如何なる不安や不幸、不遇からも必ずお守りいたします!!」


 その瞳に炎を燃やし、アニエスは熱く宣言する。


「………………」


 レティシアは目が点になった。

 姉妹の契りというか……。けれど、そんな真剣な様にレティシアは何とも胸がこそばゆく嬉しいと感じてしまう。

 まるで、本当の血を分けた妹にそう言われでもしてるみたいだ。


「アニエスは不思議な子ですね……」


「私にはレティシア姉さまのあまりの慈悲深さと愛情深さの方がよほど不思議です! 私が自分の夫が血迷って、実の妹を嫁にしたいなどという戯言を言おうものなら……例え刺し違えても抹殺しようと試みるに違いありません!?」


 あまりの過激な発言に、レティシアは逆に笑ってしまった。


「アニエス、心配はご無用です。私は世界一果報者の幸せ者だと思っておりますから!」


 そう言うと、アニエスは疑わしげに眉を寄せた。

 この反応……なんて正直な義妹だろうか?


「レティシア……私のアニエスは実に可愛いだろう?」


 クラウディウスがレティシアにそう言い後ろからレティシアを抱きしめる。それに、目を閉じてレティシアは考えてから、目を見開き、口角を上げて本心から答える。


「はい! 陛下のおっしゃる通りですわ……!」


 そう、心に偽りなく同意するのだった。


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