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アニエス嬢はご苦労されてます  作者: ちゃ畜
カサンドラの夏休みとお兄様
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68、仮想敵国アーチボルトと創世の女神様


「今回のミスリルの事件……やはりアーチボルトの介入があったか」


 イライアスがどこからか受け取った魔導通信機『フォロー』越しに話をしていた。


「ローゼナタリアの『ロナ』を揺さぶろうとは、敵ながら天晴れというべきか無謀というか……でも、なかなかの目の付け所だ。しかし今回関わっていた組織と憲兵、官僚、政治家はもう洗いおわったし始末は迅速につける。処刑は免れない、場合によってはお家の取り潰しもだよ。よりにもよって我々のミスリルに手を出してきたからな。処刑は早ければ今日の午後には行う。ああ解ってるよ。そちらのことはよろしく頼むぞ? ……ああ、では良い夏のバカンスを」


 物騒な話の後、受話器と本器を執事のアーネストに渡すとイライアスは軽くウィスキーのような高級酒を飲んだ。


「まったく、人が気持ちよく夏を過ごしていたというのに……とんだ邪魔をされたものだな?」


 イライアスはイラ立たし気に、届いていたミスリル関連の資料をざっと眺めてテーブルにバサッと置いた。


「アーチボルトは戦争がしたくてうずうずしている。ローゼナタリアが欲しくて仕方ないらしい。特にロナの持つ土地や秘技と…………をな」


 それにアーネストは葉巻の先端を切り主人に差し出してイライアスが受け取り火を着ける。


「旦那様には珍しくだいぶイラついたご様子ですね?」 


 イライアスはフンと鼻を鳴らす。


「腹が立つのはこんなことをしておきながら、アーチボルトの王家が先日、アニエスを王か皇太子の第一側室にどうかと言ってきた件だ。馬鹿にするのも大概にしてほしい」


 それにアーネストが目を見開く。


「お嬢様をですか?」

「大方ロナ直系と親戚になり、ローゼナタリア内部に入り込もうという算段なのだろう」


 その話に、小さい頃から大切にしてきたお嬢様が政治の道具にされそうな事態に、アーネストはわずかに動揺をみせた。


「アニエスの結婚は慎重に考えねばならないな……。セオドリック殿下は何かアニエスについて勘付いている気がする。正直これ以上、娘とは親しくなっていただきたくないものだ」


 葉巻を口から放し派手に煙を出す。イライアスが心落ち着けたい時のクセである。


「ディアナはああいうが、やはりエースと結婚させるのが一番無難かもしれない」


 アーネストは少し戸惑いがちに尋ねた。


「エース様はタニア様と婚約させるのでは?」


 そう言うとイライアスはふっと笑う。


「保険だよアーネスト。いざ王家との縁組があった方が有利な場合、後出しだと何かと勝手が悪いからね?」


 すううと深く煙を吸うと、葉巻はだいぶ赤く焦げた。一度口から離しゆっくりと煙を吐く。


「セオドリック殿下もそうだが、クラウディウス……陛下もアニエスについて何か勘付いている。皇后に……などというくらいだ。我が息子ながら恐ろしい。どうやって知ったのやら? 間者の間者を付けて情報操作は上手くいっていたはずなのに」


「………………」


「アニエスが『ロナの先祖返り』……そして『エンド・ユーザー』だというのは、今、ロナにとってはミスリルよりデリケートな問題だ。それだというのに母はお気に入りのフレイ殿下に少しバラしてしまったらしい。全くうかつが過ぎるよ……今度フレイ殿下とは直接会って、何とか魔法で記憶を変えられないか試してみないと」


 イライアスは葉巻を灰皿にこすりつけると立ち上がった。


「アーネストが我が家の執事で良かった……その口の堅さは(きん)にも勝るぞ?」


「恐れ入ります閣下」


 アーネストは頭を下げる。


「さてもうこんな時間か……いい父、いい夫をしてこなければ……そうだアーネスト」


「何でしょうか? 旦那様」


「そろそろエースに専属の執事をと考えている。屋敷内に適当そうなものがいれば、それでもいいが……外に良い人材があるならそちらを付けてやりたい。準備をしておいてくれるか?」


「かしこまりました」


「……エースにもそろそろ、ロナの汚い部分にも馴れて行ってもらわなければいけない。その際にサポート役は一番重要だからね」


 アーネストはフットマンを呼び、主人の朝の身支度を任せ、自分は主人の言いつけのためにさっそく動き出したのだった。





◇◇


「もうすぐ大祭になりますね? レティシア姉さま!」


 豪華客船の様に広い船の中の豪華なレティシアの自室でお茶をいただきながら、アニエスはわくわくとお祭りの話を切り出した。


「アニエスはお祭りが好きですか?」

「はい! 面白いことは大抵好きです!」


 アニエスは元気よく答えた。

 それにレティシアは本当の姉のような温かい眼差しを送りながら続けて教えてくれた。


「もともと、この大祭は神話に則ったものなんですよ?」

「じゃあ、神殿由来のものなんですか?」

「いいえ、もっと古い神話が基になっているの……それこそアーティファクトが出来る前のお話らしいわ?」


 ローゼナタリアには国教とされる二大宗教がある。

 神があって、それがもたらしたのが魔法であるとされる神殿宗教と、魔法がそもそも万物の基礎と考える魔術経典教会である。

 その成り立ちの違いから二つの宗教は実はあまり折り合いが良くないのだが……。

 けれど矛盾した話ではあるが、両方を信仰している家も多い。というのが今のローゼナタリアの真の姿であった。

 そしてヴァルハラ帝国もまた、この二大宗教の力が大きいらしい。

 その対立はローゼナタリアより顕著で、皇帝一代毎にメインとなる宗教が入れ替わるというのを繰り返していた。

 けれど、そんな中で大国を代表するお祭りがそのどちらにも由来していないのは、何だかとても意外だった。


「神話はどういったものなんですか?」

「……女神が出てくるんですよ?」


 そう言って義姉妹の語らいに割って入ったのはアニエスの実兄。皇帝クラウディウスである。


「!! いつの間に!? 鍵は閉めていたはず……!」


 アニエスはこの事態を予測して事前にレティシアに許可をもらい、部屋の鍵を閉めていた。

 ……二重に!


「可愛いアニエスが遊びに来ているのにどうして顔を見ないでいられますか? 酷いじゃありませんか。私も混ぜてください?」

「…………私は穏やかに過ごしたいのでご遠慮願いたいのですが?」

「いいでしょう? 穏やか、実に結構です。……さ、アニエス、私の膝の上が開いています。どうぞお座りなさい」

「椅子がありますので……」

「いや? 無いですよ」


 そう言った瞬間にアニエスの椅子が急に消え、アニエスは気付いたら兄の膝の上に座らされていた。


「……何ですかこれは?」

「だって椅子だけが消えたら、うっかりアニエスが転んでしまうでしょう?」

「椅子を返して!!」

「大丈夫! 兄が肉の椅子になってあげますよ?」

「気持ち悪っ!?」

「仲がよろしいですねえ」


 レティシアがしっとりと微笑むのに、アニエスはゲンナリしている。


「仲良くなんかないです! 私は常識人な兄が欲しかった! レティシア姉さまにもご不満はありませんか!? もしご不満ならロナ家が全力を持って姉さまにお味方をします。なのでどうかお心を偽らず……いつでもお頼りください!!」


 それに、レティシアは尚もしっとりと微笑む。


「いいえ……まったく不満なんかございません。何なら私は世界一の果報者だと思っていますよ?」

「え、えーーーー?」


 アニエスは、にわかに信じられずチラりと兄のクラウディウスを見た。


「百聞は一見に如かず。アニエスも私の妃になってみれば解るのでは?」

「……レティシア姉さまは……きっと、女神様みたいにお心が広いんですね………………。っと、そうそう女神というのは何ですか?」


 それにレティシアは話を続ける。


「ああ、『始まりの魔女』とも言われる女神様なんだけど、実は女神様自身は何も力が無いのですよ?」


「え? 女神様なのに……??」


「ええ、だけど彼女の周りには様々な眷属の王や神が集まってくるのです。彼女のところへ行くことで王や神は力を得たり目覚めることが可能になり、そこで初めて王や神になることが出来るの」


「へえ~~~~~!」


「更に、その王たちはみんな彼女の夫になるのですが。女神は力が無いのでその夫たちに守られて暮らしました」


「!!? ……へ、……へ~~~」


「女神はその夫よりさらに強い子供を次々生み。ついには世界中の王の母になってしまいました」


「え……?」


「でも、それにヤキモチを焼いた他の女神や女王たちが彼女を八つ裂きにして殺してしまいます」


「お……おう……」



「それを嘆いた男神や王たちは大いなる力を使い、女神を復活させました。けれど男神や王たちも内心、互いに嫉妬をしていて……王たちは復活した女神をそれぞれ、奪ったり、隠したり、逃げたりしてしまいます」


「……それ、だいじょうぶ?」


「女神は最後に冥府の王が、冥界の奥に隠してしまい一生出られなくしてしまいました」


「散々ですか?」


「ようやくすべての男神や王があきらめて帰った後、冥府の王は喜んで奥の扉を開けました」


「あ、でも帰ってはくれたんですね」


「しかしそこには女神の姿はなく、一つの宝石があるのみで冥界の王は嘆き悲しむのでした。……というのがお話のあらましなのだけど……?」


「何で創世のお話って大抵カオスなのでしょうね?」


 そこでクラウディウスは、ひょいとアニエスを覗き込んだ。


「その宝石が何か分かりますか?」


 そう言ってくる。


「え……ダイヤモンドとかでしょうか?」


 クラウディウスは、そういうアニエスの髪や頬を撫で話を続けた。


「アニエスの瞳のような……美しい『オパール』だったそうですよ?」

「……ふーーーん?」


 だがアニエスは特に感動もない。


「あれ? 嬉しくはないですか?」


「いや、私の目は確かに変わっていると言われますが……別に本当の宝石じゃないですし……先祖にもこんな瞳の人は何人かいるってうかがっていますよ?」


「だけどアニエスは女神の様に魅力的ですよね?」


「……今の話を聞いた後じゃ……嬉しくない」


 そこでレティシアがにこやかにアニエスに言った。


「アニエス、女神をやってはみませんか?」


 ど、どうゆうこと…………!?


「毎回大祭には女神役が山車(だし)に乗ることになっているのです。けれど、帝国の女神役は帝国でその役を果たさないといけないから、ここでは空席なの……だから皇帝の実妹であるアニエスは適任だと思うのだけど……やってみてはくれないかしら?」


 それにはもちろん、アニエスは慌てた。


「そそ、そんな大役は無理です! 皇帝陛下の妻なのだからレティシア姉さまこそがすべきです!?」


 それにレティシアは困った顔になる。


「……結婚している者はできない決まりになっているの。駄目かしら? お願いできないかしら?」


「~~~~~~~~~~~~~~~~」


 そんな風に……そんな風に大好きな義姉にお願いされると、もともと押しに弱いアニエスは……。


「うあ………………」

「お願い!! アニエス」

「…………………………………………はい………………」


 了承せざるを得なかった。


「!! ありがとうアニエス!」


 この結果にクラウディウスは満足そうにする。


「でかしましたよ! レティシア」


 そう頷いている。……くうう!!


「……や……やってしまった……!! 話を聞いた後なのに…………!!!!」


 い、いや~! また黒歴史な予感しかしないーーーー!!! アニエスが、自分の言動を激しく後悔する中。

 いよいよ帝国の大祭が船上で幕開けしようとしていた。

 まずは始まりの目玉は国同士の軍事共同訓練&大見世物である。


 では、待て次回!!







ブラックイライアス降臨。

あと果たしてエースの執事はどんな人物になにるのでしょうか? 乞うご期待です。


 


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