67、【閑話】ヤング・レディーズ・メイド、コーラから見た師弟関係(ジオルグ外伝1・2話後)
「ねえ、コーラ……おかしくない? 変ではない?」
みなさま皆様みな様、こっそりこのコーナーが人気だと聞き、ほくそ笑んでいるアニエスお嬢様付きヤング・レディーズ・メイドのコーラです。
は〜い、こんにちはー!
ところで、上のセリフが誰のものか……皆様はおわかりになりましたかー?
私は、言われた当人ですが一瞬聞き間違いかと二度見してしまいましたっ。
そう、おっしゃっているのは他でもないアニエスお嬢様なのです!
あの着替えなんて一日一回で良くないかしら? だって非効率だもの……。そう言いつつ、言われたものは黙って着てくれる。
が、基本スタンスで自分を着飾ることには常に受け身なお嬢様が、ま、まるで普通のご令嬢のようです!!
「お嬢様……今日のお相手は、そんなに重要な方なのですか?」
それにお嬢様は気もそぞろにおっしゃいます。
「え? んーまあ……」
応えながら姿見の前をうろうろしています。
……いったい、どんな方が参られるというのでしょうか!?
その時ドアをノックする音が聞こえました。
「お嬢様…………ジオルグ様がいらっしゃいました」
なんだかアレクサンダー様の歯切れがやたら悪いような?
「すぐ行くわ……先にお通ししてくれる?」
「承知しました」
「……コーラやはりアクセサリーはこっちが……うーんでも」
「……失礼いたします」
少し間が合ってからドアが閉まりました。ええっ!? だからいったいどんな方がみえたの!?
「そうだ! コーラお願い……エースを呼んできてくれない?」
「え、エース様をですか?」
「忙しいかしら? 来るのは難しいと思う……?」
……お嬢様の部屋に呼ばれてないがしろにするエース様なんてまるで想像が出来ないのですが?!
むしろ、スマートを装いつつ、競歩でやってくる姿しか思い浮かびません!
「エース様のお部屋に行ってまいります」
「ありがとう。お願いするわね」
想像通り、エース様は俊足で来てくださいました。え、瞬間移動かと思いましたよ!?
「義姉さん! どうしたの?!」
「ああ、エース来てくれたのね。あなただけが今は頼りなの!」
それにエース様は嬉しそうにアニエス様の手を握ります。
「そうなんだ……俺でよければ何でも協力するよ!」
「ほんとう!? これからジオルグ師匠にお会いするのだけど……イヤリングとネックレスは、こっちとこっちどちらがいいと思う!?」
「はは! ……どっちでもいいよ!」
「「!!」」
先程と言っていることとやっていることが真逆で、お嬢様と私は強い衝撃を受けました。
「え、エースそんなこと言わずに……どうか選んで? エースはセンスがいいし……男性の好む物がわかるでしょう……?」
それに先程までの機嫌の良さはどこへやら……明らかに不機嫌になり、長椅子に脚を投げ出し座ってしまいました。
「……え、エース……さん?」
思わずお嬢様もさん付けです!
「何で俺が師匠と会うためのアニエスのアクセサリーを選ばないといけないの!?」
なんか拗ねてらっしゃいます。
これはこれで良きかな! と、密かに私は満足しております。あはっ!
「どうしたのエース、何か気に食わない……?」
「…………」
やだー! 口尖らせてる! かーわーいーいーっ!!
「何で俺がアニエスの初恋相手のために、アニエスのアクセサリーを選ばなきゃいけないのか聞いてるんだけど?」
え、何それ何それ!!
「……師匠はエースにとっても師匠じゃない? お客様を迎えるのに、きちんとした格好をするのってそんなにおかしい?」
「セオドリック様に会う時は部屋着で会おうとする時さえあるのに……?」
それにお嬢様がしどろもどろとなります。
「いや、その……セオドリック様に関しては、その、行儀見習いでもっと汚い格好でお会いしたこともあるし……」
「いや……修行時の時の方がもっと酷い格好の時があったよね?」
「それは、ほんの子供の時だったわけでして……」
「初恋も子供の時の話だよね? なのにどうして、今、気にするの……?」
「え……と」
……まるで過去の恋人との関係を追及する妻のような尋問ぶりです! さすが!!
「……エースはそもそも何故そんなに怒っているの?」
お、お嬢様!? それを聞いてしまいますか!?
けれどそれにエース様は怯むことがありません。
「アニエスが他の人に夢中になるのが面白くない。そいつの話をするのが面白くない。それでちょっと赤くなるのが……何もかもが、面白くない!!」
そう言い切りました。
逆に清々しくって、漢らしさすら感じてしまう嫉妬ぶりです……。
「エースまるで妬いているみたい……」
妬いていますよ!! アチアチに!!
「え、悪い?」
開き直りモード全開です!
「エース、……私は師匠のことは好きだけど、エースのことは師匠より大切だわ? もし優先させるのならエースを優先させる」
そう言い、お嬢様はエース様のお隣に座りました。
「嫌な思いをさせてごめんねエース? 愚かな私を許して……?」
「……」
お嬢様こういう時のフォロー本当に上手ですよね? 思わずメモってしまいました。
「そう言って、また師匠と冒険に行くんじゃないの? ……二人きりで」
え? それはお目付け役でもあるヤング・レディーズ・メイドの私も聞き捨てならないのですが?
「次はエースと行くわ。……エースお願い、一緒に行ってくれる?」
それにエース様は食いつき気味に前のめりになりました。
「……二人っきり?」
「ええ」
「………………泊りで?」
「内容によるけど、その必要があれば!」
こ、これは……ヤング・レディーズ・メイドとしてお止めすべきでしょうか?
とても言いだせそうにない空気ですが!?
「わかった。じゃあ……許す」
エース様のその目は間違いなくハンティングする猛禽類のそれです。
お嬢様〜、はやく逃げて!!
「エースありがとう。エースはやっぱり優しいね……じゃあ、アクセサリーはどちらがいいと思う?」
あああ! せっかく和んだ空気があああ!
その時、またドアをノックする音が聞こえました。
「お嬢様失礼いたします……だいぶジオルグ様をお待たせしているのですが……」
「!! いっけない、今行くわ!」
「俺も行くよ」
もちろん私も向かいます!!
さてさてさて……座っていた男性は、体格のかなり良い少しワイルドな感じの方で、顎髭を生やした肌の少し焼けた男性でした。
……ふむ。顔は別に悪くないですね?
お嬢様とエース様が並んで座り、前にジオルグ様、
お嬢様の後ろにアレクサンダー様と私。コーラが立っている形の配置に相成ります。
「本日は足をお運びいただきありがとう存じます。お師匠様」
そう言いお嬢様が礼をすると、ジオルグ様は目を丸くされました。
「頭ではわかってはいたが、そうしてるとやっと実感が湧いてきたよ。アニエスが公爵令嬢だって……」
「恐れ入ります」
ジオルグ様は、お嬢様から今度はエース様とアレクサンダー様に視線を移されました。
「何でしょうか」
エース様が問われるとジオルグ様が目を細めます。
「いや、改めて……二人とも男前に育ったなと……あんなに『馬面になれ~』『禿げろ~』と、昔、呪いをかけ続けたのに……」
「何、とんでもねー呪いをかけようとしてるんですか」
「アニエスから聞いたぞ? お前らめちゃめちゃモテるらしいなー? ……本当に腹の立つ!」
そう言いジオルグ様は出されたお茶を召し上がりました。
……ほっほう、意外にも仕草は上品ですね?
もともとの育ちは良いのかもしれません!
「国軍のアイドルに逆夜這い……世の中はどんだけ不公平なんだよ!?」
「何をのんきな……されたらどんなに大変かわかりますよ!?」
「止めろ〜!! モテる苦労なんて俺は聞きたくない!!」
「お師匠様はそんなにおモテになりたいのですか?」
「……モテたくない男なんていない! いや……けど俺はそんなに贅沢じゃない。……せめて一人だけでも俺のことをめちゃくちゃ想ってくれたらそれでいい!!」
「では、私が想っていれば、それで良いのではないのですか……?」
……おおーーーーと、まさかの大爆弾発言だ! その計り知れない威力をお嬢様だけが、おわかりにならないいいい!!
「……ごめん、このお茶の名前なんて言うんだっけ? 美味いな?」
「ローズヒップティーです」
話をそらそうと必死です! そりゃそうでしょう!
お嬢様がさっきの発言をした瞬間から、お二人からダークマターなオーラが解き放たれ、周りの食器類や窓ががガタガタと鳴っているのですから!!
「……でも師匠はご不満なのですよね?」
おっとー!? お嬢様が逃がさない。逃がさないぞー!?
「……この菓子も上手いな? あんま甘いの食べないけど」
「シガールです」
おお、でも、めげずに話をそらそうと頑張ります! ジオルグ選手っ!
「ふむ、じゃあ私がお師匠様の寝所に忍び込んで、隠れていれば……お師匠様の望みは叶うのでしょうか?」
すごいッ! スゴすぎる!?
KOを狙っているかの猛攻! 相手は息も絶え絶えに違いないぞ!?
「私だけでは、やはり物足りないですか? 私では、やっぱり魅力が足りませんか……?」
かはーーーーーっ!!
お嬢様の口からよもやそんなセリフが聞ける日が来ようとは!! 誰が想像できたというのでしょう!?
「あ、アニエス……俺はものの例えで言ったわけでは無く……そんな具体的なそれでも無く……、もっとふわっとしてるんだ……?」
んん? なんだろう……結局何が言いたいんだ?
「じゃあ、……私とは都合の良い関係になりたいというお話でしょうか?」
お嬢様! お嬢様が強すぎますッッッ!!
もう、相手のライフはきっとゼロだというのに!
「そ、そーーーーーじゃないなあ。うん」
そこでお嬢様はお茶を一息入れました。ほっ……。
「そうですね……。お師匠様は私の胸を触っても、怒っただけでしたもの」
ガタ、ガタタンッ!!
思わずエース様が立ち上がり、アレクサンダー様が前に出ました!!
「え、……胸?! ……どういうこと?」
先程のお嬢様のフォローで機嫌が良かったはずのエース様!
もうその顔には、そのかけらが微塵もございません!
「ていうかお嬢様もお嬢様です。そこは僕の管理管轄でしょうが!?」
おーと、アレクサンダー様も怒っているが、何故か若干ズレを感じるのは気のせいだろうか!?
「うん、お師匠様がね、私にあまりに無防備だからそういうのは止めろとおっしゃるんだけど……私にはそれがなんなのか見当もつかなくて、……その時ちょうど洗って下着を身に着けていなかったからそのことかと思い聞いたの。そしたら『冗談だろ?』とおっしゃられて……自分でお聞きになったのに嘘つき呼ばわりは心外だと思い、でも『百聞は一見にしかず』とは言え、見せるのも抵抗があるし……じゃあ、と思い触っていただいたのよ。どう……二人とも納得した?」
「「「………………」」」
そこで反論したのはジオルグ様でした。
「俺が言っていたのは下着のことでは無くてだな……タンクトップに短パンの露出の多い格好で、平気で、異性に触れるようなところに関して言ったんだよ!」
それにお嬢様は本当にびっくりしたご様子になります。
「そうだったのですね!! ……冒険者の女性の方は露出が非常に高い方が多いので、てっきり、そういうものなのだと思っておりました……。たしかに私も社交界でははしたないと、ああいう格好はいたしませんね」
「それがいい、変な奴も多いからな」
「なら……」
そこでアレクサンダー様が声をあげました。
「お師匠様は、それではお嬢様に子弟以上の感情は持ち合わせていないという認識で宜しいですか?」
「当たり前だろ」
「……本当に?」
エース様が確認します。
「師匠と弟子は、教師と生徒だ!」
「…………」
それに、ようやくアレクサンダー様が穏やかな顔になります。
「それを聞いて安心いたしました。数々の非礼をお許しください」
「はは、……いいってことよ! 俺こそ二人をやきもきさせて悪かったな?」
「僕も態度が悪かったです。申し訳ありません」
「いいって! いいって!!」
「………………」
「じゃあアニエス! 俺の要件だが……」
「……くせに」
「あん?」
「師匠、最初に私に会った時。上から下まで舐める様に見たくせに!!」
そこでお嬢様が涙目でお声をあげました。
「いや、あれは……お前と気付かなくてだな」
「――下着も」
「へ?」
「干していた下着も……チラッと見ましたよね?」
「いや、それは、ひらひらするものを本能的に見るというやつで……」
「テントに朝起こしに行った時も、私のお尻を見ていました!」
「!! いや、それは!」
「「………………」」
「……師匠……随分とお話が違うようですが?」
「結局、どう言い繕っても男は男らしいね……?」
「~~~~~~待ってくれ!! 確かに俺は男の汚らわしい部分があるかもしれないっ!! しかし、立場はわきまえてるっ! それに、こいつは街を歩けば一日百人の男にナンパされるような、とんでもないスタイルの持ち主だぞ!? ……それを見るなという方が不自然な極まりない話じゃないか!?」
それに、お二人の空気はさらに不穏なものになります。
「一日、……百人!?」
「もぉ師匠。それはそんなのではありませんってば!」
しかし、それに割り込むようにエース様はお嬢様に質問されました。
「じゃあ、『百』は何の数字なの?」
「えー……? ……ご飯をおごってくれたり、車に乗せてくれたり、わざわざ道案内してくれたり、買い物の代金を代わりに払ってくれたり、花をくれたり、おまけしてくれたり、一人が寂しいと思うのかやたらと何度も話しかけてくる。そんな親切な人たちの数よ?」
「で、そのうち女の人は何人?」
「そんなのっ! ………あれ? おかしい?! ……ゼロだわ!?」
お嬢様。本気でびっくりしたご様子。
うん……ヤバいですね。なかなかにキテいらっしゃる!!
「…………セオドリック様にすぐに義姉さんの冒険者登録を取り下げて頂かないと」
「え!? どうして!!」
「というかお嬢様の部屋の窓とドアに外鍵を付けましょう。 ……三重に」
「ええっ!? 何でまた!!?」
お嬢様が慌てて抗議します。
「~~~~~~私なら大丈夫よ!!」
「そう思っているのは、この部屋で義姉さんただ一人だけだよ!?」
しかし、そこでジオルグ様が助け舟を出しました。
「まあまあ、落ち着けよ!! ……気持ちはわからんでもないが……こういう奴は押さえつけると、どこで、どう飛び出すか知れないところがあるぞ? ……たぶん早々に、屋敷に火を放ってその間に逃げるか、地面に穴を掘って脱出するか、気球を使って空から逃げていくぞ!? …………付き合いが長いんだから……わかるだろう?」
「確かに」
「そこら辺は、さすがに師匠ですね?」
そこでお嬢様は立ち上がりました!
「もう!! 本当に大丈夫よ! 現に私はこうして無事で……純潔だってしっかりと守っているじゃないの!」
しかしそれに即レスする皆様。
「いや、それは奇跡に奇跡が重なっていただけで無事ではありませんから!?」
「いや俺も、……押さえるなとは言ったが……大丈夫だとは微塵も思ってないぞ?」
「というか、狼が『たまたま』だって言ってるんだよ。その当事者本人が!?」
おっと……、狼さんの自供まで入りました!
「ええ、じゃあ? どうすればいいの? ……わかったわ。それじゃあこれからは目しか見えない服を着て、体の線を出さないように努め、声を出さないようにひっそりしていれば……それでいい?」
お嬢様もなかなかに極端でございますね?
「ひどい……それで労働意欲が下がります」
「日々の中で潤いが全く無いのは、別問題だと思う」
「男っていうのは、他人には見せたくないけど、自分だけは見たい……そんなわがままな生き物なんだよ」
……カオス!! まさに現場は混乱を極めておいでです!!
「~~~だったら、昔みたいにエースやアレクサンダーや師匠が、皆で一緒に冒険をしてくれたらいいじゃない!?」
そこでお嬢様が叫びました。
「心配なら一緒に来ればいいじゃない!? そうしたらすぐになんとでもできるでしょう?」
しかしその案にエース様は渋い顔をされます。
「そうしたいのは山々だけど……ドラゴニスト三人で監視もつけないで外に出すなんてあり得ないよ……今もドアの外に監視がいるし……」
しかしお嬢様も引きません。
「じゃあ、タニア様やセオドリック様もパーティーに入れましょう! ……どうせならノートン様やマリオンも誘って!!」
「……もの凄い豪華すぎるメンバーなんですが」
「全員、冒険者登録して同じグループになる! なんなら変な大義名分を付ければ、豪華メンバーにも世間は納得してくれるはず!」
そしてお嬢様は途端、機嫌良さそうに不敵な笑みを顔に浮かべました。
「そうよ……その手があったわ。……何故いままで気付かなかったのかしら? 私、早速セオドリック様に通信してまいります!」
そう言って善は急げと、お嬢様は部屋を飛び出していかれました。
中に残されるは殿方三人……。
「で……どう思う? アレクサンダー」
「確かにむちゃくちゃだと思いましたが……理にかなう部分もありそうではありますね」
「というか、あいつは飛び出したらもう誰にも止められないだろ…………?」
「……それに、お嬢様が冒険に夢中になれば社交界や婚活のことは二の次になって、……モラトリアムな期間がさらに延長になりますものね?」
そう言った私に、殿方三名の視線が集まりました。
おや、失礼いたしました。出過ぎた真似を……?
「確かに知らないところで新参者と仲良くなる機会を大幅に削れるか」
「しかも昔みたいにお嬢様と一緒にいられるお時間が増える」
「あと、あいつにいいところを見せる機会も増えると思うぞ? あいつ、根が野生児だから『紳士的な~』とかそういうのには、基本は靡かないだろ」
「「「…………」」」
どうやら皆さんの意見も固まったご様子です。
さて、そうして後に有名なるパーティーがこの日をきっかけに結成したわけですが、それはまた、別の機会に……?
納まるところに納まりました。




