58、温泉と壁の話 ☆挿し絵あり
カサンドラには各所に温泉が湧いているが、転移陣が繋がったのはその中でも秘湯中の秘湯。
山肌に沿って、棚田のように段々と温泉が連なっている。
さらに眼下にはカサンドラの街並み、その向こうには碧く広がる海。
――息を呑む絶景だった。
「でも、これでは丸見えですね」
確かにアレクサンダーの言う通り、見晴らしはいいが目隠しも無くて、まさかこのまま混浴のように入れとでもいうのだろうか……?
「大丈夫。私の光と土魔法で見えない壁を作りますから男女お互いに見晴らしは良いままで、互いを気にせず楽しめますよ? ……でも念のため男女の場所は少し離しましょう!」
そう言うことでお互い八十ヤード(※約七十三メートル)ほど離れた温泉の間にそれぞれレティシアが光と土で見えない壁を作ると、本当にお互いの姿が一切見えなくなった。
「おお~、あれかな? 光と土ってことは“鏡”を使った錯覚みたいなもの?」
エースがそう言うとセオドリックが頷く。
「だろうな、それにしても景観は損なっていないし見事だ」
そう賞賛した。
来ている人間はそれこそ王侯貴族なので服は使用人に脱がしてもらい、男女それぞれ軽く身体を洗ってもらってから湯船へと入る。
広くて他に誰もいないので遠慮なく声が出せるのが嬉しい。
「はあーーーきもちいいですねーー!!」
女子サイドの温泉で、アニエスは温泉にずるずると沈んでいく。
「ふふ、アニエスったらー! 溺れるわよ?」
アニエスは姿勢を戻して、十一ヤード(※約十メートル)ほど離れて入る人物に手を振った。
「マリオンも、もっとこっちにおいでよー!」
マリオンはプイッとそっぽを向いた。
「結構です!」
そうきっぱりと断る。……まあ、いつものことだ。
「ふう、マリオンは今日も連れないなぁ~……エースたちはどうしてるんだろう?」
その男性チームも、すっかり綺麗にされて既に湯船へと浸かっていた。
白い濁りの湯に入れば、夢心地である。
「……おお、急な提案だったが、これはなかなか良いな」
そう言うのはセオドリックだ。
それに続けてエースが感想を漏らす。
「うわ何これ、力抜ける……」
お湯に蕩けてゆく身体……標高が高いのか、常夏のカサンドラにしては空気はひんやりとしているので、熱い湯がことのほか心地よかった。
「帝国にも湧いている温泉はいくつもありますが、こちらは景色もよく、また格別ですね。……さてと、メルヴィン。そろそろいいのでは?」
「本当になさるおつもりですか? 陛下……」
呆れた様子でツーブロックの頭に黒い丸サングラス、ついでにでかい体格の財務大臣メルヴィンが答える。
「そうですね。皆さんもよければ一緒に聞きませんか?」
「何のお話ですか陛下?」
セオドリックが聞くとクラウディウスがその形良い口に笑みを乗せる。
「これから女湯の音声をこちらにも聞こえる様にしようかと思いまして」
「はぁっ!?」
男性陣はそれにザワついた。
「何も覗こうってわけでは無いし音を拾うくらい構わないと思ってね? レティシアが丁度、腹を割って色々聞いてみると言っていましたし……」
「いや、いくら何でもプライバシー的にアウトでしょう……」
「覗きでなくとも、気持ちはそれと大して変わらないじゃないですか!」
「紳士として、それは如何かと?」
正義にもとる行為だと反対の声を少年貴公子たちは次々に上げて抗議する。
「ははは、そうですか? 流石は皆さん紳士ですね。でも残念だなぁ。きっとこんな解放的な場所でなら、アニエスは普段隠しているようなことも、憧れのお姉様を前に、ポロっと話してしまうかもしれないというのに……?」
だがそんな悪魔の囁やきにも少年たちは果敢に異を唱える。
「それにしたって!」
「好きな男子の話だったり……」
「いや、多分そんなのはまだいないはずです!」
「そこまで言わずとも、……気になって実は目で追ってしまう誰それがいるのです。これってどういうことでしょうね? レティシア姉さま? とか」
「いやいや……」
「『誰それが何々をしたのが格好良く見えて……けれど、そんなのわざわざ誰かに言うことではないし? でも誰それが誰あれと仲良くするのを見ていると、何だか腹が立って……私、急に心が狭くなってしまったのでしょうか? ねぇ、レティシア姉さま?』」
「……!!」
「……なんでそんなに義姉さんの声マネが上手いんですか?」
そこで、クラウディウスがとどめの一言を放つ。
「まあ聞かないのならば仕方ない。私だけが聞くこととしましょう? アニエスの秘密は私だけが知ればよい。そうすればアニエスをじっくり口説き落とすのにも役立ちますからね」
「「「…………」」」
結局、クラウディウスだけが聞いて暴走するのも困るし、他の人間にアニエスの秘密を知られたくないし、別にそうは言っても大した話はしないに違いないし……。
などなど、グダグダと自分自身に言い訳を並べつつ、結局は全員で聞くということで、何故か落ち着いてしまった。
「陛下……人を巻き込んで、こんな遊びをして……あまりに趣味が悪いですよ?」
「お、聞こえてきましたね?」
ピントの合ったラジオの様に、音が淀み無く聞こえてくる。まず、流れてきたのはレティシアの話声だった。
「……アニエス、もしかして私の胸が気になりますか?」
リアルタイムで始まり、まるですぐ隣で話しているようにはっきりと聞こえる。
「え、いえいえ!! 滅相もございません!! ………嘘です! ごめんなさい!! あの……その……えと、すごく……すごく大きいな……凄い、すごいな……と思っていました!」
アニエスがさっそく阿呆なことになっていた。
何だろう? 良く知る人物だからか話をしている声で、まるで目の前に情景が浮かぶようだ。
「もし、宜しければ……触ってみませんか?」
「!! よ、宜しいのですか?」
「うふふっ特別ですよ?」
「で、では、タニア様も一緒に! マリオンも!!」
「私は、結構ですぅ!!」
マリオンは大方の予想通り断った。
しかし一方タニアはというと……。
「え、でも、私まで……宜しいのかしら?」
どうやら、触りたいらしい。
……これも大方の予想通りだった。
「ふふ、いいですよ?」
「!!」
「わーい! タニア様お願いしましょうよ!」
「! ……で、では、私もお願いします……!!」
「はい、どうぞ」
しばらくの間があり、どうやら感触を今、吟味しているらしい。
一分、二分ほど経ち、再び話しが始まった。
「ありがたいですね……タニア様」
「ありがたいわね…………アニエス」
「……思わず拝んじゃいますねタニア様?」
「……思わず拝んじゃうわねアニエス!」
「「……ありがたや~~~~~……」」
本当にこの二人は、アホなことほど気が合う残念な娘達である!!
「うふふふ、どうやら後宮では私の胸に触った者は、なぜか恩恵に預かって胸が大きくなるという噂もあるのですよ?」
「!! ええっ、では、もっと触っても宜しいですか!?」
「どうぞ〜♪」
「……だって! マリオン!!」
「なにを馬鹿なこと言ってるのですか! 私は触りませんからね!!」
「ええ……ナインズ仲間なのにな」
「……いま何か言いましたか?」
「ううん! ひとりごとーーーー!!」
なんか、集中して聞いちゃうな……これ。
「とはいえ、……ほんとに個人的な大変な話をしだしたら、どうするおつもりですか陛下?」
メルヴィンが思わず聞くとクラウディウスが何のことはないと、それに答える。
「レティシアには全て話してあるから、そこら辺は上手く調整するだろう。……本気で不味い話になったら、あちら側から遮断する手筈になっているので大丈夫ですよ」
どうやらレティシアとは、しっかり打ち合わせ済みだったようだ。
「どんだけ話の分かる嫁さんなんですか!? レティシア様は……」
思わず関心とも、呆れともとれる声をメルヴィンは漏らす。
「アニエス、ところで私に何か聞きたいことがあるのではありませんか? どうぞ何でも聞いてください」
「聞きたいこと……本当に何でも宜しいのですか?」
「ええ、勿論」
「では……」
「男女が夫婦になる……つまり子供を成すのに、男女は実はどういう事をしているのですか?」
ぶ=======っ!!
アニエスの質問は兄のことでも、レティシア自身のことでも、帝国のことでもなく……。
……親が子供になるべくしてほしくない質問、堂々第一位のソレであった!
「……え……と」
あまりに、想定外の話で思わずレティシアが言い淀む。
「っあ、あにえす!!」
タニアも流石にびっくりしている。
「また何で……?」
「……最近、気を付けろ気を付けろと周りに言われるのですが、はっきり申し上げて、それがどうゆうもので、何をどう気を付ければ良いのか……私にはさっぱりなのです!」
アニエスがすごく真面目くさって言った。
「だから、きちんとどうゆうものかを知れば何かが違うのかなと……何となくですけど、周りにはなかなか聞きづらい空気がございまして……、だから今、レティシア姉さまに聞いてしまいました!」
そう言いアニエスが照れ笑いを浮かべる。
「そうですか……そうですね。まず、気を付け方の基本としては男女で部屋に二人きりにならない……。男女で二人きりで会わない……というものがありますでしょうか?」
それに、アニエスはうーーーんと唸り、首をひねる。
「……割と私は部屋で男女二人になることも多いですが、そんな危険な目に合ったことなど無いですけどねえ……?」
(((いや、あるだろう……!?)))
思わず、身に覚えのある人狼のオオカミ……いいや、……メンズの一部面々が盛大に脳内でツッコむ。
詳しく申せば※十四話とか三十話とか、四十三話とかとか、四十四話とかとかとか……!!
……こ、これは確かに、ある程度の知識を入れておかないと危険かもしれない。
しかし、レティシアはいったい何と答えるのだろう?
しばらくの沈黙の後、レティシアはようやく口を開いた。
「い……痛みを二人で越えることで、二人は夫婦になります」
それにアニエスは不思議そうに、澄んだ声で聞き返す。
「……痛み、でございますか?」
「そうです」
「それは伝説の魔獣を二人で倒したり、さる民族が成人の証に紐無しバンジーを飛んでみたり……」
「い、いえ……そんな大げさなものではなく、二人で壁を越えるのです」
「え、壁? 壁を越えるのですか??」
「越えるというか……抜けると言った方が正しいでしょうか……?」
「それが――痛みを伴うのですか?」
「ええ、…………初めはわんわんと泣いて、一生で一番痛いと思うくらい……っ」
……ゴクリ。
思わず、男たちは固唾をのんだ。
壁……つまり、それは……。
「いったい何で、そんなことを?」
「その先が子を成す道に通じるからです」
「でも、………あまりにそんな痛かったら、ほとんどの人は途中であきらめてしまうのではないですか?」
「いえ、最初は痛かったものも……慣れてくれば……き、気持ち良くなるのです」
「え、壁を越えるのが、……でございますか?!」
「そうです。……クセになるほど……それは怖いくらい、気持ち良くなるのですよ……?」
◇◇
「……これ本当に本当にレティシア様は、盗聴を了承しているんですよね?! 我々、全員の!?」
メルヴィンがクラウディウスを振り返ると、皇帝陛下はふっと不敵な笑みをこぼす。
「ああ……どエロイ女であろう?」
それにセオドリックが思わず食い気味に同意する。
「大変失礼を承知ながら……かなりドスケベな女性だと思います。しかし何と……何という逸材なんですか……!」
それにまた皇帝陛下クラウディウスは頷く。
「これが後宮の選ばれし卓越した妃、七百人のトップに君臨するということ」
「相、納得いたしました!!」
レティシアの壁越えに、つい男性陣は興奮気味に意見を述べ合うのだった。
◇◇
お湯が流れる音のみの沈黙がしばらく続いた。
そこでようやくアニエスが口を開く。
「なるほど」
「……私の説明でご理解いただけたでしょうか?」
「レティシア姉さま」
「はい」
「それは、――嘘ですね!!」
「え、えええっ……!!」
な、なんだってーー!?
……だがアニエスは続ける。
「何故なら夫婦はそこら中に溢れているのに、そのような壁は見たことも聞いたこともございません! その壁というものがあるのなら、それこそ、そこら中、世界中にあるはずなのに……おかしいではございませんか!?」
「いえ、あの……ですが……」
「私が、まず第一に考えたのは、教会や神殿の奥にあるという説です。ですが世の中には教会神殿の許しを得ずに子を成している夫婦者も数多くいます。ですのでこの案は一度、棄却いたします」
アニエスはどうしてその考えに至ったのかを説明しだす。
「次に夫婦の寝室。レティシア姉さまが先程男女で密室に二人きりになるのは危険だとおっしゃいました。ですのでその部屋の壁について考えたのです。けれど、私の両親をはじめ、夫婦の寝室というものに入ったことはございますが…………壁が不自然に壊れているという現場を私は目撃したことがございません!! もしや壁には魔法が施されている…………? とも考えましたが、詳しくは申せませんが、私がその不自然に気付かぬはずが無いのです!!」
アニエスが拳をふりふり熱弁を、さらにさらに続ける。
「それに魔力の無い平民も普通にもちろん夫婦になるのですから、壁に魔法の有無は必要ないということでは無いですか? ですのでこちらの案も棄却になります。――そうなると、もはや……それらしいものが思い当たらないのです……! ですので失礼ながら……私が子供と思い嘘をついていると言う結論に至りました。…………せっかく考えいただいた嘘を見破ってしまい……申し訳ございません!」
いや、子供だましどころかかなり際どいとこまで話してるぞ。この婦人は!?
◇◇
「…やばいやばいヤバい、……面白すぎますね陛下の妹君。……超真剣に考えたのでしょうに、もの凄いフルスイングで的を外してきましたよ!?」
クラウディウス皇帝陛下は、満足そうにウンウンと頷いている。
「本当にこの超ポンコツっぷりが、またすごく可愛いでしょう? 本当に堪りませんねアニエスは!」
セオドリックがさらに追い打ちをかける。
「しかも本人は自分の理論に絶対的自信があったのでしょう……。『論破しちゃってごめんなさい』という思わぬ恥ずかしい思いやりを発揮していますよ……。本当に別の意味で逸材中の逸材ですよ、アニエスは」
そんな、やりとりの中、ガチの身内二人は顔を両手で覆い、まるで自分がひどく恥をかいたように赤くなり震えていた。
震えながらもアレクサンダーが、何とか声を振り絞る。
「皆様……お嬢様の残念ぶりをあまり弄らないでやってください。本人は真剣なので……!」
もう一人の身内であるエースも声を上げた。
「残念なのは本人もそうなりたくてそうなったわけ
では無いので……。というか、本当ご勘弁してください?!」
……アニエスは預かり知らぬところで、散々な言われようであった。
◇◇
レティシアがアニエスの反論に声を上げる。
「いいえ! 私は、嘘も子供だましもしてはおりません!! 壁は……そこら中にございます!」
アニエスはそれに食って掛かる様に言う。
「だから……いったいどこに、あるとおっしゃるのですか!?」
本人はいたって真剣だ。
レティシアは一瞬口ごもる。が、その後、彼女はついに言ってしまった。
「女性の……中にです!」
そう核心を述べる。
けれどアニエスは今まで壁の話をされていたのに急に身体の話になったため混乱した。
「女性の…中?」
そう繰り返し、不可解そうな表情になる。
ん?
んんっ??
んーーーーーーーっ?
ん?
と、理解できずにアニエスは、何度も何度も首をかしげた。
「……分かりました」
バシャッという水の跳ねる音をさせ、レティシアは立ち上がる。
「アニエス……あちらに二人で参りましょう? 直接お教えして差し上げます」
そう言ってアニエスの腕をぐいっと引いて立ち上がらせた。
「? そんな……すぐに、お見せできるものなのですか??」
「……むしろ、今だからこそ可能なのです。……貴女の壁がいったいどんなものなのか、この温泉の魔法の壁と同じ術を使い、……直接お教えいたしましょう!!」
◇◇
ぶぶ===============っっつ!!!
アレクサンダー、エース、セオドリック、ノートンが盛大に噴出して、ゴホゴホと激しくむせ返っている。
「……こんなことになるなら、しっかり覗き見しておけばよかったですね?」
一人残念そうに皇帝陛下がこぼした。
「強硬手段とは、レティシア様のこの行動こそを……言うのでしょうね?」
メルヴィンも呟いた。
「あの……っ!!」
アレクサンダーが真っ赤になって何かを訴えたがったが、上手く言葉が出ない。
それに皇帝陛下がウンウンと微笑んだ。
「いつかは知ることになるのだし……レティシアが教師なら大丈夫ですよ。少年?」
そう、謎の励ましをするのだった。
◇◇
十五分経過後
レティシアとアニエスがどうやら無事に戻ってきたようだ。
「大丈夫? ……アニエス」
「…………」
アニエス、無言である。
なのでレティシアがアニエスをそっと慰める。
「最初は戸惑うものですが……いずれ知ることなので、知れてよかったと思いますよ?」
それでもしばらくは沈黙を守っていたアニエスだったが、その時、突如、口を開いた。
「あのレティシア姉さま……では、先程あちらでおっしゃっていた。男性の持つあの特有の筒状のものは……」
「(コクン)はい、そうです」
「なるほど。それは…………とても、利にかなっていますね」
「え……」
意外な反応にレティシアとタニアは戸惑った。
「いえいえ、とても納得いたしました! ああ、だからスナップボタンも『オス』とか『メス』とか言うのか〜。今までの靄のかかっていた視界がすうっと晴れ渡ったような気がいたします。それもこれもレティシア姉さまのおかげです!」
「ア、アニエスがそういうのなら……身体を張った甲斐がございました!」
「はい! おかげで対策も浮かびました。それなら……」
アニエスは満面の笑みになる。
「いざとなったら、男性のあの筒をシャキンとちょん切ればいいのですね!?」
◇◇
「は、あっ!?! こ~~~~怖い!!!!!! ……いやでも、さすがは皇帝陛下の妹君というところなのでしょうか? ……?」
だがそれには、かの皇帝陛下も真顔で返す。
「いや、私も普通に怖い……」
この御方が素で引いているのを、その時メルヴィンは初めて見た。
「「「…………」」」
男子勢は無言である。
しかし心なしか自分の大事なところを守る様に手でぎゅっと押さえていた。
◇◇
「……アニエス。それは男性にとっては命を奪われる以上の大事です! あまりに惨過ぎる所業。悪魔です?! ですので考えは理解しますが……危機を感じた際は別の方法を考えて取る様になさいませ?」
レティシアは、アニエスの発言に対して優しく諭した。
「そんなに男性にとっては大事なものなのですね……? 分かりました。レティシア姉さまの言う通りにいたします」
アニエスも何とか納得してくれたようである。
話が終わり、アニエスはそのまま湯から出て着替えだした。ドレスではなくズボンへと……。
「アニエスその恰好は……?」
「はい、皆様には多大な迷惑をお掛けしましたので、これからそのお詫びをしようかと思いまして」
アニエスは、使用人に持ってこさせたソレを肩に掛け、糸の張り具合を見る。
「私、……苦手なものは沢山ございます。……ですが、これについてだけはアレクサンダーもエースも私の腕には、到底及ばないのですよ? …………ですので、どうか期待していて下さいね! たくさん取ってまいりますから!!」
そう言うと急に目の色を変え、構えると早速それをはるか上空に向けて大きくしならせた。
一瞬空気が張り詰める――。
そして、その右手を素早く離したその瞬間! 音の速さでそれは飛んでいく!
「まずは、一つ……!」
アニエスの鋭い矢が、空飛ぶ鳥のど真ん中を打ち抜くのであった。
ずっと書きたかった話第2弾! 遂に書ききったと感無量です。




