55、兄嫁様と魔法属性 ※あとがきに【おまけ閑話あり】
大船団の入港に、カサンドラの住民と観光客が一斉に港へ殺到した。
足の踏み場もないほどの人混みがうねり、まるで波のように岸壁を埋め尽くしている。
肝心のアニエス達はそんな中、船団の中心に位置する船に集まっていた。
「皆の者、少しばかり留守にし相すまなかった。特にレティシア、私の代わりによく皆をまとめてくれたな。礼を申すぞ」
「滅相もございません。第一皇帝妃として当然のことを致しましたまで……」
現れたのは、淡い紫の髪をやわらかく三つ編みに垂らし、宝石めいたアメジストの瞳を持つ女性。
度の強そうな眼鏡越しに覗くその視線は静かで、タニアがおっとりとしたタイプなら、こちらは“しっとり”といった佇まいで、成熟した美をいっそう際立たせていた。
そして何より特筆すべきことは……。
(お、……大きいな!)
(大きい……)
(なんて、デカさなんだ…………!?)
破れんばかりの豊かが過ぎる胸を携えていることだった。
「ローゼナタリアのご友人方、よくぞ我が帝国の船にいらしてくださいました。心より歓迎いたします」
アニエス達も、セオドリックから身分順に改めて正式な挨拶をしていく。
全員の挨拶が済むとレティシアがにこにこと頷く。
「では、船内をご案内いたします……きゃっ!」
「……レティシア、私が急にいなくなり身体が疼いて夜啼きをしたりはしませんでしたか?」
レティシアの腰を手繰り寄せ、クラウディウスはレティシアの耳元で低く囁く。
「へ、陛下……私はいつでも陛下の御心のままに、陛下の行動を邪魔するなど滅相もございません。た、ただ……陛下がいなくて、この身が寂しさを覚えることだけは、どうかお許しくださいませ……」
恥ずかしそうにするレティシアにクラウディウスはにっこりとする。
「相変わらずレティシアは可愛いですね。流石は私の一番の寵妃です」
なんというか午前中とは思えない超ラブラブぶりである。
っていうかすみません。これって子供が見ていいものですか?
「アニエス、そんなに見つめて嫉妬ですか?」
クラウディウスが、じっとこちらを見つめるアニエスに対して言うとアニエスは口を開いた。
「……そんなことよりも、レティシア様に自分の身分も考えず、出過ぎた行いだとは重々承知の上、もし宜しければご質問をしても構わないでしょうか?」
クラウディウスのことは軽くスルーされる。
「なんでしょうかアニエス様?」
「レティシア様はもしや聖、光、闇、土の超混合魔法の使い手でらっしゃるのですか?」
「あっ……どうしてそれを!?」
「やはり、……そうなのですね!!」
アニエスは好奇心と興奮から、その瞳をいつもより更にキラキラさせた。
「その通りですが……そのことは帝国でもほんの一部しか知らないことです。何故それをアニエス様はご存じなのですか?」
アニエスは、二ッと笑い答える。
「私は長年、趣味で魔法の特徴や傾向を研究してきました! その結果、得意とする魔法は身体的特徴に表れやすい――というのが私の持論です!」
「まあ、そうなのですか? 面白いわ。どうか続けてください!」
「あの、長くなってしまうやも……」
「構いませんわ!!」
「では……オホン。たとえば、指がよくしなる者は魔法にも柔軟性があり、しならない者は頑固な分、安定した魔法を扱う傾向があります。……また『魔力が高い者ほど美男美女が多い』と言われるのは、整った容姿は身体の均衡が優れている証であり……そのバランスの良さが魔力の軸を安定させ、高い魔力を得やすくするからです!」
「まあ、……確かにそれだと説得力がありますね!」
「魔法の資質は、しばしば身体的特徴に反映されます。とりわけ顕著なのが色です。黒は万能色とされるため除きますが、赤毛は火系、亜麻色は風系に強い傾向が見られます。」
話しているうちに、アニエスはどんどんとエンジンがかかり……滑舌もなめらかに話は止まらなくなる。
「レティシア様の紫の髪と瞳は、極めて稀なものです。紫の魔法傾向は……「高貴と下品」「神秘と不安」といった相反する性質を内包し、聖・光・闇・土に属します。……まり紫は、“高度な二面性を併せ持つ色”なのです」
どうやら彼女はこのことを心から探究してきたらしい。
話せば話すほど瞳は光を宿し、いつもの落ち着きを忘れたように、普段よりもずっと子どもらしい表情を浮かべていた。
「ですから、相反するとされる属性を併用できる超魔法の使い手ではないか……? と推察いたしました。ゆえに当てずっぽうながら、恐れながらお尋ねした次第にございます!」
「やあ、すっきりしたあ!!」と、つやつや、てかてかと輝く顔。その変貌ぶりに、エースとアレクサンダー以外は完全に凍りついた。
真っ先に感想を漏らしたのはセオドリック。
「さすがは実年齢、四十五……!」
「な゙! だから、サバなんて読んでませんって! しかも勝手に加齢させないでください!?」
レティシアが続けて言う。
「アニエス様自ら、本当に全部を個人的に調べて分析したのですか? 学校でどなたかのご教授を受けたとかではなく!?」
「私は家庭教師が付いたことはあっても、学校に通った経験はございません。それにこれはあくまで趣味ですから……」
「アニエスが賢いのは知っていましたが、想像以上のようだ」
クラウディウスが面白そうにアニエスを見ながら言った。
「アニエス、本当に貴女は……掘れば掘るほど何かが出てくる、鉱山か宝山のような人ね?」
タニアは感心して呟いた。
アニエスは褒められて、いやあそれほどでも~という態度をとったが、それにすかさず、アレクサンダーがツッコミを入れる。
「皆様……どうかお嬢様をあまり持ち上げないでください。この方は頭の回転は速いのですが、同時に信じられないほど愚かでもあるのです。とくに調子に乗せると、落差が悲惨です」
それにエースが淡々と追い打ちをかける。
「うん。義姉さんはゼロか億、兆、垓。……ブレーキは標準装備されてないからね」
アニエスがくるりと振り向き、フンガーと憤慨する。
「やめてよ! 今いい感じに評価が爆上がり中なんだから、……そんな水差さないで!」
もっとも、反論しないあたり、自覚はあるらしい。
「しかし、レティシア様ほどの魔法と魔力をお持ちで、後宮七百名――その世話係を含めれば三千名近くを束ねる立場にありながら……不躾を承知で申し上げます。なぜ正妃である皇后には就かれていないのでしょうか?」
アニエスは、続けてレティシアに問うた。
「ヴァルハラ帝国では基本、皇子を生まなければ正妃にはなれない決まりになっているのです」
レティシアは笑って答える。さらに……。
「クラウディウス様の魔力があまりにも桁外れであるため、子が成りにくいのではないか、と専門家は申しております。……あのお方の力は、まさに昇る太陽。国を照らし続ける存在です。それなのに……この身の魔力の及ばなさが、悔しくて仕方がありません」
そうは言うが、レティシアほどの魔力の持ち主は、世界でも数えるほどしかいないのでは……? と、アニエスはレティシアの魔脈を密かに覗きながら思った。
また話を聞いて「あれ?」とある疑問が浮かぶ。
「でも確か妻側の魔力の低い分には子は成せると、父から教わりました」
「一般的にはそうですね。ですがその差が余りにあり過ぎる場合はごく例外もあるのです。……それほどまでにクラウディウス様は、神に近いお力をお持ちなのですよ」
それを聞き、アニエスはチラッとクラウディウスを見た。
(一番自分に近しいはずの第一妃にまで、こういわれてしまうこの人は、実はかなり、孤独なのではないのだろうか?)
ふと、そんな考えがアニエスの脳裏に浮かんだ。
「……ではやっぱり、レティシア様を姉君のようにお慕いするはご迷惑なのでしょうか?」
アニエスは、自分にしか聞こえないに、呟いたが、それにレティシアはパッと、顔を輝かせる。
「アニエス様は、私を姉と呼んでくださるのですか?」
アニエスは、聞かれていたとは思っておらず、カーーーッと、耳まで赤くなってしまう。
「も、申し訳ありません! 恐れ多くも……!」
「いいえ、……いいえ!! 是非どうか宜しければ私のことは姉と思い……出来ればそうお呼びください」
アニエスはそう言われて、さらに赤くなりながらももじもじとしながら、そっと囁く。
「はい……レティシア姉さま」
さっそく、そう呼んでみた。
「……かわいい」
「可愛い」
「カワイイい!!」
……しかし、そう、なぜか反応したのはレティシア本人ではなく周りの男性陣だった。
それに、アニエスはさらに顔を赤くして目をぐるぐるさせながら反論する。
「な……!! 馬鹿にしていらっしゃいますね!? し、仕方ないでしょう! 私は心密かに姉を持つことに強く憧れていたのですからー!?」
「いやはや、でかしたぞレティシア。お陰でこんなに可愛いアニエスが見れた」
「陛下に喜んでいただき、私も心より嬉しく存じますわ!」
レティシアは、クラウディウスが喜んでくれたことが本当に嬉しいようで、顔を赤らめて微笑んだ。
「ではこれから皇帝陛下の四天王のお二人を皆様をご紹介いたしますね」
そして、また新たなる人物が物語に更なる彩りを添えようとしているのだった。
【おまけ閑話・ラブラブは二十倍になって】
クラウディウスがレティシアの身体を撫でながら舌を絡め合うキスをする。
「レティシア………可愛いですね。鳴き声がヒヨドリやメジロみたいですよ? ふふふ」
「ク、クラウディウス様……! お、お恥ずかしいです!!」
「なんでです………もっとどうか聞かせてください? レティシアも嫌ではないからそんな声を出すのでしょう?」
「だ、だって陛下があんまりにも………!」
「………朕は意地悪ですか?」
「わ、解っておいでで、どうして!」
「そう言いながら、好きで好きでたまらないくせに……ほら、こことか?」
「あ、あ、あ! 陛下、陛下あっ!」
「…………あの、盛り上がっているところ大変恐縮なんですが陛下………」
「なんだいメルヴィン?」
「えーと、その今、御前会議中なのですが……」
「うん、わかっている」
「………あの、でしたら出来れば続きは今夜にしていただけますか? ほら、他の者達もこんな風に目を盛大に逸らしておりますし」
「ふむ………………………? むしろ堂々と見ても構わないのだがな?」
「レティシア」
「は、はい、何でしょうか陛下」
「やはり見られるのは嫌ですか?」
「!!」
「あんなことを言ったが、レティシアが嫌なことは私もしたくない。何しろ私の大切な妻ですからね」
「そ、それは………!」
「ちゃんと言いなさい。レティシア」
「………確かに………恥ずかしいですが………陛下に求められるのはいつでも嬉しく…………」
「でも、見られるのは嫌でしょう?」
「嫌…………と申しますか…………」
「もしかして、興奮しているんですか?」
「!!」
「ちゃんと言いなさい。レティシア」
「……!! ……っ。 …………しょ、正直、少しだけ…………」
「「「………!!!?」」」
「………変態ですね…………貴女という人は?」
「お、お許しください……陛下!!」
「どうでしょう? ………可愛すぎます」
「!!」
「えええええええええええええええええええええっ!?」
メルヴィンが思わず叫ぶ。そして、メルヴィンの隣りで見ていたベアトリスが感心したような声を上げた。
「………さすがは七百妃の頂点であらせられるわ………あんな妻を私ももう一人ほしいくらいです」
「いやいやいやいやいや!! ああ、いや、違います! レティシア様のことを否定するわけではなく………え、これなにかのフィクション??」
「レティシアは私が見つけた逸材中の逸材ですからね?」
「………逸材過ぎるでしょう!?」
「こんなに素晴らしい身体なのに、私以外知る者がいなくて残念ですね? レティシア」
「!! そんな!? 私は陛下以外、指一本、いっさい触れられとうございません!!」
「おやおや、そんなこと言っていいのですか? 現にこの御前会議でもレティシアを物欲しそうに見ている者が何人かいましたよ? 普段は後宮、奥にいる貴女をこんな間近で目にして興奮するなという方が無理な話ですが………?」
「確かに!! これ程の素晴らしいお美しさにこの雅やかさ、それに加えて薫るように酔うようなうっとりしてしまうこの色香………胆力の足りない者なら欲望に負けてしまうことでしょう?」
「因みに、その一人はベアトリス。君です」
「えへへ! 大丈夫ですわ陛下。私は事前に言われれば『待て』もできますから!!」
「うん、もうベアトリスはいい大人なのだから言われる前にそうしてください?」
「はーーーーい!」
「………しかし、そことそこにいる二人はそれすら出来ないらしいですね? 近頃レティシアの私室の周りをうろついているとか………?」
「「…………!?」」
「へ、陛下! 何か誤解を…………!!」
「私は決してそんな…………!?」
「連れて行け」
クラウディウスの兵がその二人を無理やり席から引きずり落とし、連行する。その様子を見て、そこに居る高級官吏は青くなった。
「………陛下。お役に立てまして?」
「うん、レティシアありがとう。ずいぶん恥ずかしい思いをさせたね?」
「いえ…………そんな!」
「いや、まあ、実際きみが変態で逸材なのは本当ですしね…………?」
「ク、クラウディウス様!」
レティシアは真っ赤になるが、否定はしなかった。
「………片方は、私が帝国を離れたこの隙に謀反を企む前政権の息のかかった者。もう一人はこのカサンドラで友人であるローゼナタリア連合王国を利に目がくらみどこぞへと売ろうと画策した者だ。バカンス中とはいえ私の目が曇ることは無い。以後、気を引き締めてかかられよ。本日の朝の会議はこれまでとする。以上」
そう言い、クラウディウスはレティシアやメルヴィン、ベアトリスとともに立ち上がり、他の者達も立ち上がり頭を下げ礼をする。クラウディウスは会議室を出ると、すぐにレティシアの腰を抱き寄せた。
「それじゃあ、レティシア寝室へ参ろうか?」
「え!? あれは演技では……!?」
「どうやら君をじろじろと実際に物欲しそうに見ていた男たちの視線に、私は嫉妬しているようだ」
「そ、そうなのですか!?」
「大変ですねレティシア………普段、二十人で回しているお役目をここでは全て貴女が担わなければならないのですから……?」
「! ああ、私は……!!」
「嫌ですか?」
「いいえ…………あまりの光栄と幸福に気絶してしまいそうです……!」
「可愛い方ですね」
「……レティシア様の腰……果たしてこの一か月もつのでしょうか?」
「うーん、だから今回、治癒魔法に特化した者を多く連れてきているのでは?」
「……………………なるほど」
かくして、今日も船団のラブ&ピースは守られるのであった。




