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アニエス嬢はご苦労されてます  作者: ちゃ畜
カサンドラの夏休みとお兄様
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47、物まねと男女平等

 

 古今東西。 

 笑いの種とは共感の中にある。

 そのわかりやすい例があるあるネタや身近な人物の物まねである。


「んんっまあああ!! なに、今のは何ですか!? アニエス様? え、もう一度。んんっまあああ!!」


「~やめてーーー!! アニエス! お、お腹が痛いぃぃ!!」


 それは、宮廷行儀指導女官の一人を模したものだったが、声音と言い調子と言い……その再現率は恐ろしいものだった。


 タニア以外の宮廷から同席している侍女や、同じくよく知るノートンも、顔を真っ赤にして笑いを押し殺そうと肩をぶるぶると震わせている。


 アニエス達はアレクサンダーの部屋のある離れに集まっていた。 

 ある意味隔離するためにアレクサンダーを離れに移動したのに、そこはすっかり皆のたまり場になっている……。


「ほんと義姉さんの悪意ある人真似のクオリティーの高さは、常軌を逸してるよね……」


 よく知らないエースやアレクサンダーですら、その人物がどういう人となりかが嫌というほど伝わった。


「~~~〜いったいどこから声を出しているのアニエス?」


 その問いにアニエスは、フムっと顎に手を当て考える。


「どこから……というと難しいですが。喉だけじゃなく頭蓋骨に上手く響かせたり、口や舌や歯の動きなんかを工夫したりする感じでしょうか? ……あ、あと姿勢も結構影響しますね!」


 そう言って今度はまた違う人物の声を出した。


「やあエース、アレクサンダー調子はどうかな?」


「「!!」」


 その声はよく知る。 

 ロナ公爵、イライアスのものそっくりだった。


「!! すごいわ、男性の声も出せるのアニエス……!?」


「はい、でも程度によります」


「本当に器用で芸達者ですね……出来ないことは魔法以外であるのですか?」


 ノートンに褒められて、いやあ~とアニエスは照れくさそうにする。


「でも、それだけ色んな音域の声が出せるのならきっと歌も上手いのでしょうね!」


 タニアがそう言うと、アニエス含むエースとアレクサンダーはかなり微妙な顔をした。


「ご期待に沿えず申し訳ありません。けど、歌に関しては私は本当に不得手でございまして……」


 それにタニアはまたまた~と、本気にしなかったが、アニエスは続けて話す。


「昔、私が歌った時、空から鳥が失神して落ちてきて、アレクサンダーに止めてくれと泣いて懇願されました」


「えっ?」


「あとエースと大喧嘩した時にじゃあ歌ってやると脅したら、それこそ青くなって秒で謝ってきました。さらにエースの竜にも威嚇されてシャーッされました」


「………………」


 どうやらアニエスは想像を絶するド音痴らしい。


「あと褒めて頂いて恐縮ですが私は魔法以外にも出来ない事ばかりなのですよ? 今日も見せましたが、泳ぎに関してもせいぜい六十一フィート(約二十メートル)くらいしか泳げないですし……。身体も、ほっとくと勝手に海底に沈んでしまいます」


 アニエスは体脂肪のあまりの低さから本当に何もしないと海底に沈んでいく。

 それこそ潜水は楽だが、浮上はなかなか大変なのだ。


「でもそれを聞いて逆に安心したわ。なんだかより親しみを感じて」


「……私にはタニア様こそ欠点がまるで思い浮かばないのですが?」


 性格が良くて、可愛くて綺麗で、魔力が高くて、頭が良くて、王女様で人気者で……。

 はたして完璧超人とはタニアのことではないのだろうか?


「うふふ、これでも人の上に立たなければならない立場だもの、欠点は上手に隠しているの。でも、それこそ本当は上げたらキリが無いほど苦手なものだらけなのよ?」


「玉ねぎとかな」


 間髪入れずセオドリックが応えると、それに、タニアは頬を膨らませる。


「んもぉ! お兄様! バラさないで下さい!!」


 そう、ぷんぷんと怒った。

 いや、可愛すぎるだろ。

 ……やっぱり欠点なんてないんじゃないだろうか?


 場がタニアで盛り上がっている中。アニエスはそこでこそっとノートンに話しかけた。


「ノートン様、もしかして体調が優れないのではないですか?」


 そう問いかけると、ノートンは遅れて一拍置いてから反応する。


「え……」


 なんだからしくない返事に、アニエスはさらに心配になった。


「何だか海から帰ってからお顔の表情が優れないご様子。もし疲れているなら先に休まれてはどうでしょう? 今日は特に暑かったですから……」


 ノートンを気遣いアニエスが言うと、それにノートンはわずかに青い顔で首を振る。


「いや、少し昼に眩暈がしただけで大したことは……大丈夫です」

「そうですか? では念のため気つけ薬をお渡ししておきますね……アレクサンダー、薬は鞄の中にある?」

「はい、旅行カバンの中に……」


 そう言った後、アレクサンダーはあることを思い出し青くなった。


「悪いけど勝手に開けるわね?」

「待ってくださいお嬢様!! そこは僕がさが……!!」


 そう言ってアレクサンダーが止めるより早く、アニエスは旅行バッグを開けていた。


「!! ……タニア様! いかがわしい本が入っています!」

「……何ですって!!」


 うあーと、アレクサンダーは顔を手で覆う。

 エースはアレクサンダーを小突き、小声で言った。


「おい、どうしてまだ捨ててないんだよっ!」


 アレクサンダーを責めると、アレクサンダーは気まずそうに弁解する。


「……丁度いいゴミ捨て場所がなかなか見つからなかったんだ……」


 ノートンが可哀そうな後輩を思わず、庇おうと前に出た。


「だ、男子校なので、そうゆう物を入れてくる。いたずらな者もいまして……!!」


 と間に入って釈明した。しかし……。

 アニエスは本をさっと開きまじまじと見つめる。


「……わあ、何コレ、なんかすごい!!」

「待ってアニエス、私も見たい!」


 女子二人は思いがけず、すごい食いつきを見せた。


「………………」


 アレクサンダーはすっと立ち上がり、すたすたとアニエスの前に行きアニエスに手のひらを見せる。


「お嬢様それをこちらにお渡しください。捨ててまいります」


 それに、アニエスは目を()いた。


「えっ………? 何でそんな勿体なことをするの!?」


「だって、そんなの女性が見てもしょうがないでしょう?」

 

 そう言うと、アニエスは熱い眼差しで宣言する。


「女性の裸や胸に興味があるのは男だけだと思った

らそんなの大間違いよ!? この世は、男女平等ッッ!!」


 タニアがまた援護するように、こぶしを振り上げ振り上げアニエスを応援した。


「そうよ、そうよ!! ……アニエス、もっと言ってやって!?」


 抗議の叫びをあげる。

 そう女性に、もっと、もっと行動の自由を!


「ここにいる女子、アホしかいない……」


 その姿に、思わず冷静にエースはツッコミを入れた。

 アレクサンダーは深いため息をつく。そして……。


「もう、勝手にしてください」


 と取り上げるのをやめると、ウキウキとアニエスとタニアは早速、本をしっかり眺めはじめた。


「まあ? これはいったい、どうなっているの!?」

「タニア様! こっちはもっとすごいです!!」


 キャッキャ言いながら眺めつつも、アニエスはべらべらと次々とページを(めく)った。

 しかし、あるページでピタリとその動きを止める。


 エースがそれに、不審に思い覗いてみると、そのページは見覚えがあり、何だかその光景自体にも既視感があった。


(そうだ、このページはアレクサンダーも手を止めていた!)


「……義姉さん、何かそこに気になることがあったの?」


 すると、アニエスはその問いに真面目くさった顔で答える。


「いや、胸が大きいのはいいなと思って!」


 と応えたのである。まさかの理由も一緒かい。

 ……奇跡のコラボレーションだった。


(うん、長年一緒にいると似てくるっていうもんな。……自分は、気を付けよう)


「ま、女の方が実はスケベという話もあるから、不思議はないな?」


 その様子を観察していたセオドリックが、淡々とした様子で言うと、アニエスはセオドリックに聞いた。


「セオドリック様は、やはりこういう物事にお詳しいのですか?」


「まあ、人並みには……」


「そうですか……では、はい!! セオドリック先生!」


「……なんだね、アニエス君」 


「この女性は、何で何も身に着けず、エプロンだけ着ているのですか?」


「うむ、良い質問だ。それは……」


 (;゜д゜)ゴクリ……


「……興奮するからだ!!」


 ( ゜Д゜)!!


「……興奮……するの……ですか! ……?」


「ああ、何だかんだ……男なら……されたら興奮する!!」


「べ、勉強になります!」


 ……押忍!


「はい! セオドリック先生!」


「なんだね、タニア君」


「この女性は、なぜ猫やらウサギのような耳を身に着けているのでしょう? ……耳はあるのに」


「うむ、それもいい質問だ。それは……」


 (; ・`д・´)どきどき


「可愛い×かわいいい=すごく可愛い! ……からだ!!」


 (=゜ω゜)ハッ!!? ……( ..)φメモメモ


「……なるほど、私とても合点がいきました!」


「――以上。このことはテストに出題されるので、よーく覚えておくようにっ!」


「「はーーーい!」」


 二人は元気よく先生の言葉に手を上げて返事をした。

 ……なんだコレ?


 一通りの小芝居を終えるとアニエスは、ハッとする。


「って、そうじゃない! 薬を探してたんだった!! あれ、ノートン様は?」


「ノートン先輩ならやはり体調が優れないと、お部屋に戻られましたよ」


「そうなの……アレクサンダー、あとで……この薬を渡して来てもらえますか?」 


「かしこまりましたお嬢様」


 アニエスはちらりとエースを見る。


「……」


「お嬢様? どうかされましたか??」


 それにアニエスは小声で囁く。


「ノートン様は、ずっとエースに対してぎこちないご様子だったけど……タニア様がもしかして関係するのかな?」


 しかしその声はほんの小さな声で、拾うのは困難だった。


「お嬢様?」


「ああ、ごめんね。ちょっと気になることがあったの。じゃあ、よろしくね! それと明日から軍の関係者がいよいよこちらに泊まる予定だから、使用人のみんなにも言って部屋の準備をお願いします!」


「承知しました」


 何事も無く? カサンドラの四日目の夜が終わろうとしていた。


 そしていよいよ、五日目に台風の目になる新たな登場人物が、別荘にたどり着こうとしていたのである。









 アニエスの音痴にアレクの竜でなくエースの竜にシャーッされたところがミソだと思います……。


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