46、水着と青い海
夏と言えば海と山!
そう、だからアニエス達は海に来ている。
まさに碧とはこの色である!! という素晴らしい色彩を放ち、カサンドラの美しい海は目の前にどこまでも広がっていた。
さらに朝、猛ダッシュで別荘の離れの部屋に向かうその人影はノックもそこそこに遠慮なくドアをぶち開ける。
「ひゃほーうぃ!! アレクサンダー海だよ、海ぃ!! 早く着替えて、着替えて?!」
そう言って南国風のドレスを身に纏い。
二本の緩く編んだ三つ編みを垂らし、麦わら帽子を被った朝から元気百倍の超ハイテンションなアニエスが、両手に大きなフラミンゴを模したおもちゃを掲げ、ドアの前に仁王立ちししてた!
「……どうしてここに? お嬢様……」
こんな離れにアレクサンダーが居を移しているのは、この人物と距離を置くためでは果たして無かっただろうか……?
だがそんなことはお構いなしに、ずずいっとアニエスは部屋に突入してくる。
「せっかく海に行くのに! 実家の様な堅苦しい格好をして……アレクはいったい何をしているの!?」
アレクサンダーは明らかに困惑顔で眉をひそめる。
「先生に出して頂いた課題をしておりましたが……?」
そう普通に答えた。
それにアニエスはやたら大げさに「はふーん」とため息をついて見せた。
「……何をいったい……そんなの貴方なら夏の休暇の最終日にまとめて終わらせられるでしょう!?」
そう、吼えてくるアホ主人。
「計画性のない、まるで駄目な人間じゃないですかソレ」
冷静に、駄目主人にツッコみながら、ホント今日、やたらテンション高いなこの人……。
と思い、アレクサンダーは眉間の皺をなお深くして仏頂面になる。
すると、その後ろからひょいと、ハーフパンツ型の水着の上に白いパーカーのような上着を羽織ったエースが顔を出した。
「別に課題をする時間はまだまだあるだろう? 早く着替えろよ、アレク」
そう言って手に持っていた大型の水鉄砲の水をシャシャシャシャッとアレクサンダーの顔に向けて撃つ。
びしょびしょの顔にされた水も滴る超絶美少年アレクサンダーは思わず『イラっ☆』っとした。
「いいよ……OK、OK! そんなに頑ななら、こちらにも考えがあるYO! というわけで……エースは左から私は右からで!」
そうするとエースもごく軽い調子で応じた。
「イエ★サー」
アニエスはポケットからさっとエースと似たタイプの海パンを出して左手に構えた。
…………もはや嫌な予感しかしない!!
「わあああああああああ!! 何するんですか!? 止めろよマジ、この馬鹿ヤロウども!!?」
そして、離れからは悲鳴に近い暴言が空高く響いたのであった――。
げっそりした様子でアレクサンダーは水着に上半身にシャツにすっかり着替えている。
何が起こったのかについては、彼の名誉のため言及しないでおこう。それが大人のマナー。
そうして準備が整い、アニエス、エースに連れられて別荘の目の前の真っ白な砂浜に降りていた。
そこにはセオドリック、タニア、ノートンが既に待っている。
「おーまたせしました! タニア様!!」
すると、タニアもニコニコと手を振って返す。
「うふふ、時間ぴったりよ! ただ船はもう少し掛かるみたいね? ここでも十分に泳いで楽しそうだけど……」
アニエスはチッチッチとそれに口を鳴らして、指を大仰に振ってみせる。
「いえいえ……島の方がもっと海の透明度が高いみたいなのでせっかくならそちらに参りましょう。なにしろ初、カサンドラの海ですからー!」
そういうとやがて真新しい美しい、大型の巡洋艦……いわゆるクルーザーのような船が目の前に乗り付けた。
「今日のために父が私に買ってくれました。誕生日プレゼントだそうです」
まるでラジコンでも買ってもらったようなノリでアニエスは言う。
忘れがちだが、トイレ掃除ばかりさせられて忘れがちだが……!
ロナ家は各国の王室を輩出し、世界中の銀行というほど各国の超多額の国債や債権を有している、世界屈指の超名門にして超大金持ち。
アニエスは正真正銘、その一人娘なのである。
だからこんな風に稀に金銭感覚がとち狂っていてもおかしく無いのだ!
「……アニエス嬢はそう言えばロナ家のご令嬢でしたね」
そう思う人のその代表、ノートンがしみじみと言う。
「まあ! 本当にたくさんの島があるのね」
タニアはカサンドラの地図を見せてもらい、目的の島の辺りを教えてもらった。
「今、向かっているのがこちらです。いつもは無人島ですが、コックや給仕を今日はこちらに建つ建物に呼んでいるので、ランチはこちらでとる形になります。 ……いろいろ他のアクティビティも楽しめますよ!」
とはいえアニエスも昨日仕入れたばかりの付け焼刃情報だったりする。
「二人は水着はまだ着ないのか?」
セオドリックがそう声を掛けると、二人はキャッキャとはしゃいで互いに手を組んで軽く踊った。
「現地で着替えることになっているんですのよ、お兄様! 今日は二人で何でも衣装をお揃いにするんです!」
「このサマードレスも来る前から、色違いでタニア様と一緒に作ったんです。双子コーデというやつですね! ……アンジェリカ様の受け売りですが!」
仲睦まじく答える二人は、まるで姉妹のように仲が良い。
「そういえば、義姉さんに女友達が出来るのはタニア様が初めてだね?」
エースが言うとアニエスの笑顔が急に固まった。
「確かに、お嬢様が同い歳位の女性と仲良く並んで座っているところは、タニア様のところでお世話になる以前は、一度も見たことがありません」
それを聞きタニアは非常に驚く。
「まあ! そうなの? なんでまた!?」
そういうとアニエスは急に傾いで、その顔に影を作った。
「いえ……私だって仲良くしたかったのです。普通に女友達が欲しかったのです……。だけど……何故かいつも多くの女性に目の敵にされがちというか……はっきり、申し上げて嫌われがちというか……年上の女性にはまだ、そうでもないのですが、同年代は軒並み全滅……何故なんでしょうか?」
アニエスは昔の記憶を辿るように悲しげに視線を落とす。
「嫌いなものは食べてあげるし、課題を忘れたなら笑顔でノートを見せるし、教えるし、相手が好きなものは全力で調べて自分も大好きになって、秘密だってなんだってちゃんと守るのにぃ……!!」
そう言いながら遠くを見た。
「あらあらあら、それは…………はっ!! でも、確かに……王宮での……新人教育もだいぶ大変そうではあるわね??」
タニアは何か思い当たった様子で目を見開く。
「あ、はは……王宮のことは、今は宜しいのではないでしょうか? どうせ現実に戻される日はやがて訪れるのです。……ええ、無慈悲に。だから、こうして今はシャバの空気を吸っていたい……」
ザバーンと波の音が響く。
先程までのハイテンションはどうしたのだろう。
今はその背中に負け組の哀愁さえ漂っていた。
「いったい何があるの、王宮に」
エースが聞くと、ふっ、とアニエスは苦笑いする。
「別に、ただ中間管理職ってのは大変なんだなと身を以て、痛いほどに感じているだけです……」
それをフォローするように、タニアが続ける。
「今年の子たちは、個性とアクがほんの少し強過ぎるというか……何というか……。それで、その尻拭いのほとんど全部をアニエスが肩代わりしている状況なの。本当に優しくていい先輩だと思うわ!」
そう言って労った。
「タニア様お優しい……でも本当、むしろあの子たちに直接言うのが怖いのか、行儀見習いの先輩方や高等女官の皆さまが、何故か私にそれをぶつけてきて責めるのです。……いや、私も知りませんよ……はっ! いけないいけない!! 今日は楽しいバカンス……暗くなっては、もったいないです!」
なんだかアニエスは王宮で思った以上に苦労を重ねているようである。
「……義姉さん。串に刺したパイナップルあるよ食べる?」
「ハイビスカスティー飲みますか?」
「アニエス嬢。ほらほら、ウミガメが見えますよ?」
「しょうがないな、じゃあ一晩、この胸を貸してやろう?」
同情からか男性陣がアニエスにやたら優しくなった。
「ううっ、皆やさしいよぅ……ありがとう存じますぅぅ……」
「………………」
その様子を隣で見ていたタニアは、アニエスが同年代女子に嫌われる一番の理由は、たぶんハイスペック超イケメンにやたらチヤホヤにモテモテで気に食わない……という嫉妬が、主にその原因ではないだろうかと感じている。
が、アニエス本人は自分がモテている事実をまるでわかっていないので、タニアはそっと黙っておくことにした。
小一時間ほどして、船はやがて目的の島に到着し岸に滑り込む。
「着いたーーーーーーー!!!」
アニエスは腕を高く上げ、笑顔満面で島への最初の一歩を踏み出す。
「なんて海の透明度なの、底のサンゴ礁や綺麗な魚が丸見えだわ!」
あまりの海の綺麗さにタニアが感動している。
ほかの皆も口々に海の綺麗さを絶賛した。
それではいよいよ、ショー・タイム!!
「それでは着替えてまいりますので、皆さんは先に泳いでいてくださいな」
「ああっ、分かった」
セオドリックが答えると、二人はメイドを連れ更衣室へと消えて行った。
「……どんな水着なんだろうな?」
「ほとんど服みたいなやつじゃないですか? 大胆と言っても、たかが知れているでしょう」
それは、半分正解であり、だけど大きく間違っていることが後にわかる。
「おまたせ!」
アニエスとタニアは、お揃いのセーラーワンピースのような水着に、白黒縞のタイツに靴、白い水兵帽を被って登場した。
女性用水着でも若い女の子が着るオーソドックスなタイプだ。
この水着は思いっきり泳ぐというより、水泳を病気療養や健康法の一種と捉え、主に水に浸かることを目的としているため、余計なものが多く動きにくい。
けれど、貞節な女性には、まさに理想の水着だと思われている。
「ほら!」
と、エースは言ったが……そこからが本領発揮だったのである。
「アニエス、じゃあアレしちゃうぅ?」
「もちろんです! タニア様!!」
海に入るという段になり、二人が急に今、着用している水着を脱ぎだした。
それに周囲はぎょっとする。
しかし二人はちゃんと下に別のお揃いのピンクの金魚をイメージした水着を着ていたのだ!!
さっきの双子のような水着と違い、合わせてはいるがタニアはビキニ姿に、アニエスはワンピース姿。
一見するとタニアの方が大胆に思えたが、アニエスが後ろを向くと背中はほぼ丸見えで、いくつものリボン状の紐が交差し最後に蝶々結びになって金魚のヒレのようになっている。
また、水着の下の方はハイレグカットになっていて、ウエストとヒップラインの中間地点まで切り込まれた鋭角ラインとなっていた。
それは、普段女性はロング丈のスカートが基本とされ、胸元は出しても脚は出さない文化圏において相当に大胆な姿である!
「!? アニエス……確かに背の割に腰の位置がかなり高いとは思っていたけれど、まさかこれほど手足が長くスタイルが良いとは知らなかったわ!」
タニアが指摘するように、アニエスは今日のメンバーの中で一番背が低かった。
……にもかかわらず、股下に関しては全くもってそうとは言い切れない!
アニエスのその脚はまだほんの少女なのに、いや、むしろそれだからなのか、すらりとした夢のように細長く完成された美しさを持っており、すでに十分魅力的だ。
それにセオドリックは前に歩み出てくると……。
「全くな……本当にいいモノを持っている……」
と言い、アニエスの脚を膝からお尻にかけてその手で当たり前に撫で回す。
「きゃああああ! 何をしているんですかセオドリック様の馬鹿あほッ! 訴えますよ!? そして、絶対に勝ちます!!」
アニエスが激しく抗議する。
「いや、こんな格好しているのはこうゆうことがしてほしいからだと思って……?」
人形のように整った顔の真面目な表情で、言ってることは割とド最低であった……。
「まんまセクハラおじ様の思想ですよ、それ!! っというか……なぜに腰に手を回す……?」
アニエスが抗議している真っ只中に、いつの間にかセオドリックの長い指は、薄く引き締まったアニエスの細腰にお行儀よく添えられている。
「いや、丁度良いところに腰があったから?」
言いながらアニエスの身体をグイっと引き寄せようとした。
アニエスはそれにグググっと反発する。
「どんな理屈ですか! 殿下の手を置いて一番丁度よい場所は、その海パンのポケットでしょう!?」
「え、それではアニエスの身体に触れられなくなってしまう!?」
セオドリックはビックリした表情をしているが、こちらこそビックリである。
「いやそれで合っております。大丈夫!」
さらに今度は、その手がアニエスの肩を抱いてきた。
アニエスは日々鍛えて動体視力も瞬発力も人間離れしているのに、女性の扱いに関する手の俊敏さについては、セオドリックは他を圧倒する達人技を見せてくる……。
ただ、王太子としてそれが正しいのかについては、もはや誰にもわらない!!
っと、その時だ。
甲子園で高校球児がマウンドでここ一番に投げるような剛速球と変わらないビーチバレーボールが、セオドリックの顔面真横にクリーンヒットしてひしゃげる。
「ああ! ……申し訳ありませ〜ん殿下!! 方向を誤ってしまってそっちに流れてしまいましたぁ。ごめんなさあい!!」
そう、キラキラした美少年スマイルでエースが謝った。
絶対狙いを定めて打ち放たれた大砲の様な球だったが、その綺麗な顔がすまなそうにしていると、あ、そうなのかな? と、思えてくるのだから、あら摩訶不思議である。
が、セオドリックはそんなキラキラに誤魔化されたりしなかった。
「~~いやいやいや……絶対にわざとだろう!? 普通だったら、あんなのをまともに受けたら首が百八十度回転するぞ!?」
「……それを狙ったのに、何故、平気なんですか??」
顔は、いまだに実にすまなそうな表情を作っているが、本音は口からダダ洩れである。
またアレクサンダーもごく不機嫌極まりない表情で言った。
「こんな野獣が、四六時中お嬢様の周りをうろうろしているだなんて、下手なスラムや繁華街に身を置くより、危険極まりない……。本当に王宮は大丈夫なんですか?」
それに対して横からタニアがにこにこ顔で言う。
「それについては大丈夫。アニエスを極力お兄様に会わせないように、王宮が手を施していますからね」
なんと新事実の発覚である。
セオドリックとアニエスのエンカウント率のあまりの低さは、タニアの謀略によるものだったのである!
それを耳にしたセオドリックは目を剥いた。
「はっ! どういうことだタニア!? お前たしか……『こんなに会えないのはアニエスの仕事が多くて、タイミングが合わないからじゃないかしら?』って言っていただろう!? こっちはそれで優秀な文官まで送ったんだぞ!?」
タニアはそれにおっとりと笑顔で頬に手を添え答える。
「文官には本当に助かっております。ありがとう存じますお兄様。……ですが、それとこれとは話がまた別。先程アレクサンダーが申し上げた通り、そのままお兄様のいる王宮にアニエスを放置したら、それこそ狼の森に丸腰の少女を放つようなもの……。そんなの、責任者として対策しないわけにはまいりません」
と話してから、タニアはノートンの方を向いて、ねえ、ノートン? と首をかしげてみせた。
「おい、今度は裏切りか? お前……タニアに寝返ったのか?」
ノートンは困り顔になる。
「……というか、これは王宮全体で出された特例法のため……殿下を裏切る形になったのは私だって本当に心苦しいのです! しかし、それに背くわけにはいかず……もちろん殿下のお命にかかわることなら、いかなる命令にも背くつもりでいます! ですが事これに関しましては……」
ノートンは本当に辛そうな表情だ。
「は……? タニアが個人的に手を回したのではないのか?!」
それにタニアは、さらに答える。
「もちろん特例法が無くとも私は全力でアニエスを守る心づもりでいました。けれど今回発令の特例法に関してはロナ公爵閣下主導のもと、秘密裏に決定された王宮法案になります。……因みに国王陛下もご了承済みですよ、お兄様?」
「んなっ!!」
「ロナ公爵閣下もお兄様の言動に相当の危機感を持たれたのでしょう。そりゃあ社交界デビュー前の大切なご令嬢が、王太子の御手付きにでもなったら一大事ですもの。しかもアニエスは竜持ち………これは当然のご判断でしょうね?」
なんと何と、事の次第の黒幕はアニエスの父イライアスの手によるものだった!
「そんな法案まで使って一個人の動きを制限するなど、……いくらなんでもやりすぎだろう!?」
しかし、セオドリックは納得いかずなおも食い下がる。
「では、もしも私達が何もせず、お兄様がアニエスに毎日普通に会うことが出来たなら、アニエスは……そうですね。ぶっちゃけて申せば身ごもるような事態にはなら無いと、百パーセント保証できますか?」
タニアは本当にぶっちゃけたことを聞いてきた。
それには、セオドリックはどう答えるのか!?
「………」
セオドリック、黙ったーーーーー!!
アウトーーーー!!
「………………」
「………………」
エースとアレクサンダーは、顔中に青筋を浮かべ世にも美しく恐ろしい表情になる。
美しいとは罪である。
何故ならこのような場合、それこそ本当に迫力がすごくて、エグいまでに怖いからだ。
タニアはため息をついて兄に尋ねる。
「王宮の判断が妥当だと、これでご納得いただけましたかお兄様?」
「ああ……解った」
遂に、セオドリックも反省し折れた……。
「ということは、やはりこの一ケ月が勝負ということだな……?」
というわけでもなかった。
この王太子。ネバーギブアップの精神が強すぎる!
「お兄様のその鋼鉄の精神力。ある意味さすがは王の器です……」
さて、事の中心人物であるアニエスはここまでずっと静かにしていたわけだが、その時、彼女はどうしていたかというと……?
……すっかり、蚊帳の外で砂浜でもくもくと見事な砂の城を作っていた。
「ええと……お話は終わりでしょうか?」
自分を中心とする話なのに、途中から彼女の耳には一切届いていなかった様子である。
「義姉さん話聞いてた?」
「いや、途中から法案とかなんとかって話になっていたから、自分とは関係のないお話だろうなと思って、邪魔しないように遊んでたの」
……確かに、まさか自分のために法案が出来ているなどと、普通ゆめゆめ思わないだろう。
「……そのスルースキルが不要な危険を招くんだからマジで、気を付けて? 特に出来るだけ僕等かタニア様に付いて、セオドリック様とは距離を置くようにして、わかった?」
「え、どうしてまた?」
「不要な狼に出くわさないようにです」
アレクサンダーがいつの間にか一緒に砂の城を作りながら言った。
「……カサンドラに狼はいないはずだけど?」
「いますよ。人の顔をしてます。危険です」
アニエスは何を訳の分からない……という顔で、でも、とりあえず素直に頷いた。
城が完成するとアニエスは立ち上がり、パッパと砂を払う。
「ね、それより泳ごうよ! タニア様ーーー! 泳ぎましょう!!」
それに、タニアは手を振って見せる。
アニエスは早速持ってきていた革製の浮き輪を腕に通すと一番~と言って、駆け出した。
それにエースとアレクサンダーも便乗して駆け出し、三人は大きくジャンプするように海に入る。
「気持ちいい~!」
「アニエス、ズルいわ。先に行くだなんて!」
アニエスはニヤリとして、タニアに水をバシャッとかける。
「~やったわね!! じゃこちらも、それぇっ!!」
互いに水を掛け合うその最中、結構な水圧の水がアニエスを襲った。
見ると、ミーカガンという水中メガネをしたエースが大型の水鉄砲をぴゅぴゅっと打っている。
「飛び道具とは卑怯なり!」
だが今度は、エースがかなりの水圧の攻撃に襲われた。
犯人はアレクサンダーである。
「飛び道具には飛び道具を、ですよお嬢様!」
「ナイス!! さすが、我が腹心!!」
それにタニアも乗って即興でチームを作る。
「では二対二ね!」
タニアはエースとペアを組み、アニエスは合意した。
「望むところです!」
それを遠くからパラソルの下、眺めるのはブスくれたセオドリックだ。
彼にノートンがさっと冷たい飲み物を差し出す。
「お前まで裏切るとは……」
受け取りながらセオドリックは苦々しく言い放つ、それにノートンは眉を下げた。
「……これでもご協力出来るよう、可能な限り努力したのですよ?」
そう苦笑する。
フンと鼻を鳴らし飲み物を奪うと、セオドリックは一気にグラスを空けた。
「私をコケにしようとは全員いい度胸だ……見てろ……目にもの見せてやる!」
「大人しくされた方が良いかと思いますよ?」
セオドリックは薄目になって続ける。
「何を言ってるんだ。あそこにいる二人……あいつらだってまるで羊のように振舞っているが、とんだ食わせ者だというのは、お前だってもう十分知っているだろう!?」
そう言い、新しい飲み物を要求する。
「そちらの方が賢明だと思いますよ? 殿下はアニエス嬢に対して、露骨過ぎます」
「あんな脚を見せられたら……仕方ないじゃないか?」
ノートンはハァッとため息をつく。
その様子にセオドリックは呆れたように言った。
「お前も少しはあっち側を見習った方がいいのではないか? またタニアに婚約者候補が増えたぞ?」
その言葉にノートンは激しくむせる。
「な……なっっ!!」
「惚れた女に頼まれたなら、そりゃあ断れないよな……主人を裏切っても?」
「それに関しては本当に仕方なくですよ!?」
ノートンは赤くなりながら抗議した。
「で、新しい婚約者候補が誰か、聞きたいか?」
「だから何を……!」
そこで、セオドリックが海の方に向かって顎で指す。
「………………」
セオドリックは二杯目の飲み物のストローをズーーーッとすすった。
「ロナ家の次期跡取り。エース・ロナ・チャイルズ・アルティミスティアだそうだ」
そうして新たな波紋がひろがるのだった。




