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36、王位継承者と不穏


「…………いないっ!!」


 セオドリックは得意魔法の『探索』を使用したにもかかわらず、またアニエスとすれ違いになっていた。


(いったい何がどうして……もしかして避けられている?)


 何故かセオドリックの気持ちと反比例して、アニエスとのエンカウント率は日々だだ下がるばかりだ。

 セオドリックの使い魔も、目標を見失いオロオロとしている。


(わざわざ、こんな場所まで来たのに……)


 セオドリックは庭の奥に佇む。

 硝子造りの温室であるガーデンハウスを見つめた。つい何となく中へと足を進めてしまう。

 温室には昔と相変わらず珍しい花々が咲き誇っていた。そしてそこには……。


「!!」

「あ、もう来たのか。あの子仕事が早いなあ……それとも偶然?」


 何故かタイミングというものは、悪いことに関してはピタリと合ったりするものだ。


「叔父上……どうして、ここに?」

「ふふふ……久しぶりセオドリック。丁度会いたかったんだ」


 セオドリックと同い年の王弟は、楽しそうに目を細める。


「ここは亡くなった元王妃……私の母の温室ですよ。なのに何で、貴方がいるんです?」


 セオドリックの言葉は温度が無く、ひどく冷えていた。

 それに、フレイは大仰にリアクションして見せる。


「誰の温室だって? 秘密裏に処刑された罪人に、王宮に残された財産があるとでも……? ここは今は魔女が賜っている。つまりは僕の派閥のテリトリーだよ」


 セオドリックは爪が食い込むほど強く拳を握った。


「魔力だけはやたら高く最初こそ期待もされていたが、頭が悪くセンスも無く、王妃という地位だけでもその身には余るくらいの地位だったのに、……周りに担ぎあげられ創始の魔女……『神』になるだなどと浮かれて禁忌に触れた。本当、ほかに類を見ない馬鹿な人だよね?」


「……その下品な口を閉じろ。それともお前のその両眼を今ここで潰されたいか?」


 フレイは楽しそうに口の端を上げる。


「国を代表する魔女の第一の弟子に勝てるとでも本気で思っているの?」


「十分勝てるさ、国王には私がなるからだ。絶対にお前なんぞにその座は譲りはしない」


「君みたいな甘ちゃんが国王になれるとでも?」


「魔女と歪な関係を結んでる、お前なんぞより余程マシというものだろう?」


「魔女とは本来そういうものだ。何故、彼らの魔力が特別か知らないわけじゃないだろう?」


「吐き気がする……! 人間性を失った者に人民は付いて行かないぞ!!」


 苛烈する罵り合いの中、ふとフレイが急に黙った。

 おもむろに手に持っていた花束をセオドリックの前に掲げて見せる。


「何の真似だ気色悪い」


「アニエスが忘れていったんだ。渡しといてくれないか?」


 目の前の相手との会話で、まさかその名が出てくると思ってなかったセオドリックは、思わず驚愕に身を固くする。


「初めて会ったけれど……なるほどって感じだったよ。面白そうな娘だね。僕の派閥の者が僕の伴侶にどうかと聞いてきたけど。案外、悪くないかもしれないね?」

「……彼女は、『魔力無し』なのをご存知ですか?」


 わざわざ、『でも実は、違うかもしれない』等という情報はもちろん提示などする気はさらさら無く、セオドリックしっかりと隠蔽する。


 ……というかセオドリックはこの時、相手にわざとそう言いカマをかけていたのだ。

 そのためについ走り出しそうになる自分の怒りの感情に、一度固く鍵をかける。


「くすっ……皮肉なものだよね? 偉大なる魔女の偽物の母親を持つ息子が、まさか完成間近な本物を相手にして惹かれるだなんて」


 フレイは笑い、目には勝ち誇った光があった。

 ……やはり何か知っているのである。魔女側にいるこの彼は……。

 セオドリックはわざと咳払いをした。


「親子とでさえどうかと思われるものを、孫は言うに及ばず、世間が白い目を叔父上に向けますよ?」


「別に王族という立場上、大して珍しくも無いよ」


 フレイはなんてこと無いと余裕を見せた。……下衆が! と思いつつ、セオドリックはさらに畳みかける。


「まあ……他の誰と結婚しようと、叔父上の結婚を国王の席から祝わせてもらいます。親族の礼儀としてね」


 嫌味たっぷりに微笑む。

 フレイは一瞬ひどく不機嫌そうにセオドリックを睨んだ。


「ここをまだ貴方がたのものだとは、私は認めていませんが。花束は了解しました」


 セオドリックはそう言い、わざと丁寧にゆっくり挨拶する。一刻も早く離れたい気持ちを抑えながら、優雅に温室を後にした。

 そしてその場を離れると、セオドリックは普段しない舌打ちをする。


(自分の能力におぼれて国民の事なんてはなから何も考えてないクソ野郎が!! あいつが国王になるくらいなら、どんな手を使っても必ず自分が王になる。それから……)



「……誰が、あんな畜生以下にアニエスを渡すか!」


 セオドリックはそう口にして、花に罪はないが、その場で魔法を使い、花から瞬時に水分を蒸発させ、粉々にしてその命を地面へと返した。


 フレイとアニエスはいったいどのようなやり取りをしたのだろうか? 

 セオドリックは非常に気掛かりではあるが、しかし、どちらにせよセオドリックのするべきことに変わりはなかった。


「アニエスは、利用させない」


 このセオドリックの次期国王の身を以て。





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