20、断罪裁判と慈悲
ボーズ侯爵家令嬢アンジェリカは覚悟していた。
――王族が動いた。これでもう隠せない。
これまでのように、王宮から令嬢を排除するやり方は通用しなかった。
思えば、彼女への扱いは最初から異質だった。
彼女の衣服は質素で、大貴族の娘でありながら侍女も付けられず、待遇もお粗末。
だからこそ、金銭面以外では『魔力無し』として切り捨てられているのだと判断していたが……。
さすがは、大貴族ロナ家のご令嬢といったところだろう。
アンジェリカはぎりっと唇を噛んだ。
(あの『魔力無し』が来ることさえなければ、私が最も王太子妃の座に近かったのに……!!)
アンジェリカは正午の鐘とともに呼び出され応接間に行くと、そこには自分の取り巻きと兵士、王女タニア様。
そして――王太子セオドリック殿下がいた。
それから、大貴族『ロナ』公爵家令嬢にして『魔力無し』アニエス・ロナ・チャイルズ・アルティミスティア。
このように役者は全て揃っていた。
まずはじめに、王宮宮廷行儀見習いの総責任者であるタニア王女殿下が口を開く。
「ボーズ侯爵家アンジェリカ嬢……申し開きがあるなら、今この場で伺いましょう……」
それにアンジェリカは、首を振り正式な深いお辞儀をする。
この二年間、血の滲む思いで身に着けた美しきお辞儀だった。
「殿下、私が申し上げることは何もございません。……全て殿下のご存じの通りにございます」
アンジェリカがチラリとアニエスを見る。
なんて可憐な少女。
小さく上品な輪郭とパーツがまるで愛でられるための人形そのもの。
本当に魔力以外は、ひどく恵まれた人物だと思った。
この上に根性や覚悟。セオドリック様に取り入る狡猾さすらあるのだから……。
セオドリック王太子が一歩前に出た。
「今回の処分については被害者であるアニエス嬢に一任する。どんな処分であっても、その行使を王族の名のもとに許可するので、心して聞くように……」
……終わった。
そこにいるアンジェリカ嬢を含む、アンジェリカとともに罪を犯してきた取り巻きや、さらにその取り巻き達も……みんな死んだような酷い顔色をしている。
(この令嬢はきっと許しはしない!!)
沈黙に身を置いていたアニエスが、ついに口を開く。
真顔からこぼれ落ちる声は、冷ややかな鈴の音のように講堂の空気に響いた。
「それではまず謝罪をお願い致します。……それと社会的、肉体的、あるいは精神的な死の中でどれを一番にお望みですか?」
彼女は静かに死神の鎌を振りかざす。
……かに、見えた。
「大変なことをしでかしました。心よりお詫び申し上げます!」
「――っと申し上げたいところですが、……素直に謝って下さいましたから、一回目なので今回は許しましょう!」
……えっ、と皆の目が点になり、全員が彼女を見つめる。
セオドリックやタニアも心底、驚いた顔をしていた。
「人間、生きていれば誰しも間違いを起こします」
アニエスはさらりとそう言う。
「私はこれでも謝れば一度は許すようにしているのです。……ただ次回はございませんよ? もし次に私に危害を加えたら書面を書いていただきます!」
そこでアンジェリカ嬢が、緊張でカラカラに乾いた喉から声を絞り出す。
「その書面はどのような内容でしょう?」
「まずは、もしまた危害を表沙汰にせよ、裏にせよ、私に加えてきた場合。……その者の一族郎党。祖父から子に至るまで――私の所有する一番の獰猛な魔物の三時のおやつになって頂きます」
アニエスはニッと笑いながらそう告げた。
「――で、その次に、その一族が所有する土地、不動産、領事裁判権などの……あらゆる権利、財産の全てを王族と『ロナ』家で余すことなく没収とさせて頂きます!」
彼女は、さらに落ち着き払い続ける。
「とはいえ……命あっての財産でしょう? 失われてしまえば、お金も土地も無意味です。ですから、その点はご懸念には及びません。ですが、ご安心を。使用人の雇用は維持し、領民も我が民として、子のように、宝のように慈しみます。――いかがでしょう? 私はなかなか情け深く優しいとは思いませんか?」
そう、そら恐ろしいことをつらつらと宣った。
宣告された者達が震えあがる中、タニアだけは、アニエスの話を耳にし、考えるように口元に手を置きながら、アニエスのその判断に感心する。
「……ええ、本当に優しいと思いますよ。――その内容だと実質二回は許されることになり、三回目で罰が行使されるわけですから……?」
しかし、この十分に寛大な罰の内容にも納得がいかず、アンジェリカの取り巻きの一人が思わず声を上げた。
「し、しかし、若い娘が個人でやったことを、一族の全てにというのは……あまりに酷ではございませんか!?」
それに冷たく返したのはアニエスではなくセオドリックだ。
「ここは王宮なるぞ?」
セオドリックの冷たく、静かな声が講堂へと響く。
「王宮に上がる者は一族全てを代表して王宮に仕えているという大前提がある……。行儀見習いに入る娘は王宮高等女官と言った国の官僚か、あるいは皇后、並びに王族の妃を目標にしているのだろう? そんな者が自分の言動に責任を持てぬようなら……それは一族全ての責である。――よって、一族全員に罰が課せられるのは大げさでも何でもなく至極真っ当だ!」
そう一喝されて、進言した先程の取り巻きの少女は恥じ入り、小さくなりながら震えて非礼を詫びた。
「それでしたら、ご、御もっともでございます! ……申し訳ございません!!」
「……アンジェリカ様、少し宜しいですか?」
アンジェリカはアニエスに直接、声をかけられて顔をそっと上げた。
「今回、私は許します。ですが……アナスタシア様には改めてお詫びを申し上げ、そちらで処罰があるようでしたら、どうか甘んじてお受けください」
アニエスはまだ幼い少女なのに、今この瞬間の表情はひどく大人びている。
「アナスタシア様は繊細な方なのに……こんな私のような子供に、一時でも身を預けなければならなかったのです。それは大変ご不安だったことでしょう。……ですから、それは、どうかしっかりと筋をお通し下さい」
アナスタシアによって酷い目に合っていたのはアニエス本人ではなかろうか?
しかしアニエスは、アナスタシアにされたことに対して、自分のこと以上に怒っているようだった。
「かしこまりました。――必ず筋は通しますわ」
そう言うとふっと、アニエスの目が急に優しいものになった。
「このような、目下の者の意見を聞き届けていただきありがとうございます。…………アンジェリカ様は、潔い方なのですね? 私はここにアンジェリカ様が来られた際には、正直、『かなり色々と言い訳をされるのだろうなー』と考えておりました!」
あっけらかんと彼女はそう言う。
「……けれどアンジェリカ様は一言も言い訳せず、ご自分の罪をすぐにお認めになられた。……思わず『敵ながらなんと天晴れ!』と、拍手を送りたい心地です。……とても格好良かった。流石は、次期王太子妃に一番近いお方です!」
そう言われアンジェリカは目を見開いた。
「……王太子殿下の正妃に最も近いのは、誰あろうアニエス様ではないのですか!?」
それに、アニエスは不思議そうな顔をする。
「え、……まさか、まさか!! 私が王太子の妃になんて……あり得ません! そもそも私が行儀見習いに入ったのは王宮高等女官になるためでも王族の妃になるためでもなく、えー…………詳しくは申し上げられませんが、例外中の『大例外』な理由で、私は行儀見習いに入ったのですから」
けれどアンジェリカは食い下がった。
「で、でも、アニエス様は魔力以外でしたら最も王族に嫁ぐのが相応しいお立場ではないでしょうか!? 行儀見習いに入った理由が違えど、……周りも放っては置かないでしょう!?」
それにアニエスは急に真面目くさった顔で答える。
「……王家が『ロナ』家を特別視するのは、何も良い意味ばかりではないのです」
その目には一切の偽りがない。
「率直に申し上げて、王家はこれ以上『ロナ家』に力を持たせたいとはお考えにならないでしょう。ですから今の状況で、アンジェリカ様が警戒なさるような展開にはならないかと……。――いかがでしょう、タニア様?」
それにタニアは眉間に皺を寄せ、静かに頷いた。
「ええ、アニエスの言う通りです。――王家と『ロナ』家は今が最上のバランスの上にあり、それを崩すは王室にとっても、本望ではありません」
タニアのその答えを聞きアニエスも頷くと、アンジェリカにニカッと笑って見せる。
「と、いうことです。では処分は以上になります!」
アニエスは断罪をそう締めくくった。
「今回の件で王太子の心証はあまり芳しくないかもしれません。ですが……これより反省し、態度に示していけば、きっと光明は差すと思いわれます! ……ですので、どうかあきらめずに頑張ってください。陰ながら応援しております! ファイトッ!!」
そうアンジェリカに向けて声援を贈ると、アニエスは立ち上がった。
ため息をつき、そっと呟く。
「ふぅ……話がここで済んで本当によかった。……『ロナ』家で一番優しい……というか甘いのは、一番実力のない私ですからね?」
そして裁定が閉幕したその時、セオドリックの側近であるノートンが急ぎ足で王太子のもとに進み出て、何事かをそっと耳打ちした。
「公爵が……!? アニエス……ロナ公爵がどうやら面会に訪ねてきたそうだ」
「……何というタイミングでしょうか。本当に、ギリギリセーフでしたね」
アニエスはその場にいる全員に、可憐なカーツィーを披露すると、そのまま、うふふふふっと笑ってスカートの裾を持ち上げる。
「ではでは、家の者に呼ばれましたので、私はお先に失礼いたします。それでは、皆様ご機嫌よう!!」
そう言い残して、罪を裁き終えたその部屋を急ぎ立ち去った!
……部屋を出るとアニエスの実父イライアスが、扉のすぐ目の前に待ち構え、柔和な笑顔で立っている。
イライアスはエースとは本当の親子ではないはずなのに……どうしてこう、その容貌は似ているのだろう?
艶やかな黒髪には、濡れた烏羽のような光と、エメラルドや深海色が織り込まれている。
彫刻然とした顔立ちに、長い睫毛の下で冷ややかに輝く金の瞳――宝石スファレライトのようでありながら、生き物めいた鋭さを隠していた。
洗練の極みにあるその美貌は穏やかで柔らかい。
だが、その静けさは、嵐の前の海のように、不気味なほど穏やかで整いすぎていた。
しかも、アニエスはこの父が本当は恐ろしいことを、その魔脈から当然、理解している。
「お父様ー!! お久しぶりにございます。私のお部屋で待ってくだされば宜しいのに!」
蕩けるような優しい笑顔でイライアスがアニエスの髪を撫でながら言った。
「可愛い我が天使にいち早く会いたくて、いてもたっても居られずに真っすぐ来てしまったよ。どうか許してくれるねアニエス? やー、それにしても……随分と質素な召し物だね……?」
真っすぐにここに来た? ――いったいどうして? アニエスは背中に冷たい汗をかく。
「だって最初の一年は皆こんなものでしてよ! ……むしろ特別扱いは居心地が悪いので、王家の方々の寛大なご配慮を有難く感じています」
「そうなんだね。……ところで、ずいぶん手紙を送った記憶があるのだが、返事が見当たらない。少々、父としては寂しい気もしてね。――何か、事情があったのかな?」
「あの……どうか怒らないで下さいまし。書きたいことが多すぎて筆が進まず、つい先延ばしにしてしまいました。で、翌日、改めて手紙を広げたところ……机を片づけていなかったせいで、インク壺を盛大に倒してしまい……手紙は全滅! ――質問も読めなくなり、怒られるのが怖くって今まで黙っておりました。……本当にごめんなさい!」
それにイライアスは、はははっと穏やかに笑う。
「安心しなさいアニエス。父は短気じゃない。むしろ君が無事ならそれでいいんだ。……ただ、小切手が換金されていたのは事実だ。……さ〜て、今は誰が“持っている”のかな?」
「ええ……その件もお詫びします。……実は小切手をまとめて持ち歩いていたところ、都会に不慣れなせいでスリに遭ってしまいました。……泥棒は逃げ足が速いと言いますが……油断禁物ですね、お父様!? ですので次からは、貴重品は即アレクに預けることにいたします!」
アニエスはしゅんと落ち込んだように、顔を伏せてみせた。
「そうかそうか、そうだったんだね……」
イライアスはそう言い、しゃがんでアニエスをぎゅうっと抱きしめる。
「君は優しいね、アニエス。本当に……胸が痛むほどに。……ただし次は例外だ。父は寛容だが無限ではない。だから今度は何も隠さず話すことだ。――理解したね?」
「ええ……もちろんです。お父様」
「よし、いい子だ!!」
イライアスは、アニエスを腕から解放した。
「何だか痩せたようだ……」
「太りにくい体質は、お父様かお母様の影響だと思います。目立ちませんが筋肉量は増えています。鍛錬は一日も怠っておりませんので、どうか、ご安心ください!」
確かに言う通り、細い腕なのに力を込めると力こぶができる。
「……愛娘よ、どうか父を置いて行かないでくれ。君がたくましくなるほど、父は誇らしく……そしてほんの少し、切ない……」
どうにか丸く収まった。
アニエスは内心、腰が砕けそうなほど安堵する。
詰めていた息をそっと全部吐き出した。
そしてそこからは、親子の通常通りの会話となる。
「実は今からエースとアレクと食事に行ってくるんだよ」
「え〜、ずるいずるい! 私も行きたかったな……」
アニエスは、拗ねて少し頬を膨らませる。
「城を出る許可をもらってこようか?」
「……私は一応、人質なので……たとえお父様でもすぐにはお許しが出るかどうか」
そう言ってアニエスは残念そうにこの話をそのまま諦めようとした。だが、その時――。
「いいや、許可しよう」
そう後ろから現れたのは、亜麻色の髪にエメラルドグリーンの瞳の王太子。セオドリックその人。
そんな彼が形良い口元をふっと笑みで緩ませる。
「……ただし、条件がひとつ」
その声は穏やかだったが、どこか有無を言わせぬ響きを帯びていたのだった。
【ぷち閑話・格差といじわる】
その日、私は人生で最も大金持ちだった。
銀行から興奮気味に胸にその大金を抱く。
これだけあれば最新流行のドレスに、靴、帽子に、日傘に手袋に……ああ、欲しかった白粉に香水。頬紅だって買えるわ! あと、ジュエリーもコルセットも!?
話題のカフェにも行っちゃおうかしら……?
そんな私に付き合って隣に立つのは、昔からのばあや。
だって私個人にはヤング・レディーズ・メイドはいない。
何故なら我が家は古いだけの貧乏貴族だから。
だけど、私はそこから抜け出したくて必死に勉強と努力をして“王宮宮廷行儀見習い”になった。
これで、未来は約束されたようなもの!
ところが―――。
「ねえ、休暇は何処に行かれるの? やっぱり海外?」
「そうね……世界一周も楽しそうだけど、夏の休暇だけじゃ足りないわよね」
「ねえ、マダムの最新ドレスと、他トータルコーディネートでもうご予約はされまして?!」
「ええ、どれも受注生産で本当に助かりましたわ……数量限定だと、タイミングが合わないと買えないんですもの!」
「本当ですわよね。ぜーんぶ、受注にしてくれたらいいのに!」
「あーあ、今月はお金を使いすぎちゃったわ! 大ピンチ!」
「何を言ってるのかしら! そう言いながら休みは全部お出かけで埋まってるじゃない!?」
「まあ、そうなんだけど…………お父様は私に甘いんですもの。“パパ〜”なんて言えばイチコロよ!」
王宮宮廷行儀見習いは、名家や大富豪のご令嬢ばかり……そこには私の胸が苦しくなるような……華やかな話が毎日ごろごろと繰り広げられていた。
王宮宮廷行儀見習いに支払われる『維持費』という名のお給金は、決して少なくはないし……行事や季節ごとにドレスを作るための高級な生地やら備品は王宮からきちんと支給される。
だけど、それでも彼女たちの輪の中にいて微笑むには……。
足りない。足りない。……全然、足りないのよ――!
そんな風に苦しみ悩む中、ある日、偶然。
いいえ……神様のご配慮か、こんな噂話が耳に入った。
王宮宮廷行儀見習いの二人がヒソヒソとお喋りをする。
それは内緒話か、逆に聞かせたくてうずうずしているのか……あるいは両方か。
なにしろ矛盾は少女の首飾りだ。
だけど、確かにそれはいつもの……私にとって不快な、華美な自慢話とはちょっと違っていた。
「それにしても……聞きまして? アンジェリカ様がさっそくお始めになったとか……!」
「やっぱり例の『魔力無し』? でも、大丈夫なのかしら、だってあそこは『ロナ家』の……ご実家が知ったら大変なことになるのでは!?」
「うふふふ……彼女がご実家に大切にされてるとお思い? いっつも似たようなお召し物で、あの家格なら初年度に複数人の侍女を連れて来て、仕事でも雑用も絶対にさせないはずよ……!」
「確かに……じゃあ、やっぱりご実家にも疎まれているのね。彼女……」
「そうよ。なんたって、立派なご実家の面汚しだもの!」
「さすがは、アンジェリカ様ね〜。考えてるわ〜!」
「アンジェリカ様は令嬢たちのまとめ役だけど、中にいる子たちは結構、好き勝手にさせてもらっているみたい! アンジェリカ様は『魔力無し』追い出すことができればいいだけだから。…………それで、その子たちから聞いたんだけど、実は思わぬ臨時収入があったらしいのよ」
「臨時収入?」
「手紙に超高額の小切手が同封されていたんですって! ……手紙の内容はどうせ大したことが無いから、さっさと破いたらしいけど、お金はお金だものね」
「ええ〜それって泥棒じゃない。……駄目よ!?」
「あら、……相手は不相応の『魔力無し』よ? そもそもの存在自体が大間違いなのに、常識を言うのはそれこそ変よ!?」
「うーん……言われてみれば確かに……ねえ。……でも、おかしくはない? 冷遇されているはずなのにお金は援助してくれるの??」
「だって、あれだけの大名家よ……いくら目障りでもそれ以上、家名に泥を塗らないように対面を維持しないわけにはいかないでしょう?」
「そうね。名家ほど世間体は気にするわ!」
「そーゆーこと!!」
「――ねえ」
私はそこまで聞いて二人に話かけた。
そうよ……優秀な私がこんなに苦しんでるのに何で不相応な『魔力無し』がお金持ちなのかしら?
役にも立たないお荷物の『魔力無し』にお金があって一体どうするの? ――勿体ないわよ!
私ならもっと有効に……お金だって喜ぶような使い方が出来るのに!?
私は二人から詳しく話を聞いて、みごと侯爵令嬢アンジェリカ様の取り巻きになった。
空間移動や階段消去など……そのあまりの私の働きぶりに、彼女も目を丸くしていたわ。
ふふん、当然よ! 私の魔法の腕はピカ一なんだから!
私はついでにもう一つ銀行をまわる。
この国一番の大きな銀行だ。
「失礼……こちらの換金をお願い致しますわ」
すると、初めて見る金額に行員も驚いたのか、じっと私の顔を見ている。
だって、受け取りのサインは『魔力無し』本人の筆跡を練習済みだから、疑われる筈はないし……もしかして、金額が大き過ぎてこのまま応接間に通される?
それはさすがに困るのだけど……。
しかし、暫く見つめた後、行員はにっこりと微笑んだ。
「………………すぐにご準備致します! そちらでお座りになってお待ち下さい。お嬢様」
ほっ……。この金額なら、まだ大丈夫みたいね?
私はばあやと共に銀行のクッションのきいた長椅子に座った。
「ばあや……腰はツラくない?」
ばあやは高齢で、少しボケも出てきている。
……本当はもっと楽をさせてあげたいけど、条件の悪い我が家に、新しい使用人はなかなかやって来ない。
それに、このばあやに年金を払ってあげる余裕も無いのだ……。
「お嬢様は相変わらずお優しい」
ばあやはそう寂しそうに微笑みながら呟く。
「当たり前じゃない! 私は、ばあやが大好きだもの!?」
「なんと……嬉しいお言葉。お嬢様は賢くて、美しくて、優しくて……ばあやの一番のご自慢です」
「もう……ばあやったら!」
「こんなお嬢様にもっと綺麗なドレスを沢山着せて、美味しいお菓子を召し上がって頂きたい。……でも、同時に踏み止まって頂きたい……そう願う年寄りのわがままよ……」
「え…………?」
何のこと?
その時、私の番号が呼ばれて私はにっこりと立ち上がった。
「ばあや……このあと、うんと良いところに連れて行ってあげるから!」
「…………」
さあ、今日はとびきりの贅沢をしましょうか!!




