何も知らないから自由にできる
ここはアンドーチェーンの会議室。
来年から次々と東京からデパートが乗り込んでくる。
この街の中心は番町アーケード、アンドーチェーンは焼け落ちたアーケードの近くにあり、市街地の中でも離れた場所だ。
専務はアンドーチェーンの創業者だが、専務の立場にいる。社長は架空の人物である。その名を「大橋麟太郎」という。てっきり安東さんがこさえたデパートだと世間は思っているが、専務は「そこはほっとけ。」と気にしない。
アンドーチェーンはand do chain。そして繋がる、という意味だ。
専務はこの街に勝負を賭けた時、番町の強さを身にしみて感じた。宝井家の傘下に入るのもいいかな?と思ったが、やりたい事ができなさそうだ。専務も番長気質だから、よその番長の下につくのもつまらない。
そこで、街の繋がりを太くしながら店を立ち上げ、仲間の店を組み入れて成功した。仲間はずれにされた精肉屋や八百屋が仲間になりスーパー売り場が出来て、噂を流されて潰れそうな呉服屋が泣きついてきて婦人服売り場が出来た。
進駐軍と商売をしていて仕事がなくなったバンドマンを引き入れて、芸能人を呼べるイベント部署が出来る。
こんな具合だ。
仲間が増えた時、社長が自分では平等さに欠ける。番長が、この街にもう1人増えただけだ。それはいかん、という訳で社長は架空の人物である。
そんな、この街の一方のヒーロー、アンドーチェーンもまた、新しい波に戦いを強いられる1989年。
「東京から8階建ての大型スーパー。」
「東京と同時に新商品が並ぶアパレルデパート。」
「この街の金持ちしか相手にしない百貨店。」
今後5年の間に東京から進出して来る。
アンドーチェーンの幹部たちは嘆く。
「勝ち目ねー!」
「どうしよう、専務が東京から来た視察団にペラペラ、秘訣を喋ったからでは?」
と専務に詰め寄る。
それは違う。これも作戦だ、と専務。
ホントかいな?負け惜しみでは?と言われてしまう始末。
「いいか。うちらも東京へ視察へ行くだろ。」
「東京のデパートもよく聞けば、地方からも客が来てるって聞いたよな。新幹線ができたから。」
専務は言い聞かせた。
「じきに東京が攻めてくる。ならば種明かしして進出を誘い込み」
「アンドーチェーンは違うとこへ行く。店は残るよ、引っ越しはしない。」
じゃあどう駒を進めます?と会議に同席の小泉がたずねた。
「若い子と直接つながるんだ。店じゃなくてね。」
この街の番長の企みで、あっさり消えるかもな、雑居ビルの明日照果。
明日を照らすどころか追い出されるかも。果実は手にしたが小泉の指示で使えない大金である。
「フリーペーパーってさ。」
「お金かけて作ってタダであげちゃうんだろ。」
「アホみたいだな、売ればいいのに。」
「だよなー。自由に記事を書く、でフリーペーパーにしようよ。」
「とにかくフリーペーパー作れば、この一角を助けてくれるんだろ?専務は。」
小泉がいてもいなくても明日照果の8人はノンキだ。
イラストレーターの阿波野は居心地のいい、この雑居ビル群が好きだから、広瀬から聞いた番長アーケードのうっかり発言を雑居ビルのお店たちに話して回った。
「あんだ、それ。ざけんなよ。」と憤慨する。




