杭は打たれなきゃ杭をこさえた意味がない
不思議な引力があるレトロなマッチラベルの絵柄。古着屋がTシャツにプリントしたいと相談に来た。それは、売れ残りをさばきたいから絵柄を付けたいというのが本音だが、やってみたら1番の売れ筋になる。
Tシャツのプリントは雄貴の社長がシルクスクリーンの印刷屋を紹介してくれた。Tシャツにプリントするたび、ちゃっかり150円もらう約束で。それを僕が知ったのはずいぶん後だ。
この街でいちばん相手にされない一角が、賑わい始めたのを良く思わない人たちがいた。2カ月後に始まるタナボタ祭りを仕切る、別格な一族の主人、宝井である。
「あの焼け落ちたアーケードが盛り上がっているらしいな。」
腹心の部下、藤代も懸念していたらしく
「なんでも、若い子が集まり始めているみたいで。」
「私たちの番町アーケードへの人の流れが変わりつつあります。」
「どうりで最近、前を通るのは爺さん婆さんばかりだ。」
番町アーケードは江戸時代は街道が走る街の真ん中。殿様の命令により街道の整備を宝井家が一手に引き受けた見返りに、宝井家は醤油、味噌、旅籠、浮世絵、街道の通行料など合計12個の商売を独占した。その利益の総本山がこのアーケードにある。明治時代の近代化に合わせてタクシーや洋酒、養蚕も独占し、浮世絵の出版は新聞社へと変え、要は宝井家の傘下に入らなければ、この街で生きていけないほどの存在である。
金の鶏とは商売の独占権利であった。
街道を整備した時、この街に通じる幅広の道を全て番町を交差するように変えた。つまり、この街に入るたびに通行料がジャンジャン入りまくる。この恩恵で殿様を支えつつ、江戸から歌舞伎を呼んだり文化にも貢献したから、宝井家は「宝が湧く井戸を持つ家」という訳で宝井家を名乗るのである。その前の一族の始まりは謎である。
宝井は得体の知れない事を不安がる。
「街の中心はここ、番町でなければ。」
「若い子が街の中心を変えてしまう。」
一方、遊び半分のノンキな新人類、明日照果の8人は新しい金の鶏、明日照果チケットの独占販売を手にし、宝井家に比べれば小銭であるが毎月100万円単位の売上げが入り始めた。古着屋の在庫に明日照果ラベルをプリントするライセンス料から始まり、キャップやらバッグやら商品も広がる。
雄貴は少し冷めた目で見ていたが、寂れた元アーケードが復活し始める雰囲気は嬉しかった。
小泉はアンドーチェーンの専務に
「年商1000万円は超えそうです。大したもんだ。」
と報告した。専務は
「杭は出たな。宝井の小づちがガツンと来るぞ。」
とにやにや笑った。




