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明日照果は企みの秘密基地

雑居ビルの片隅の一室は古本屋の松島の店だ。

看板を出さない主義だから客も来ない。


仲間を集めて事務所で使うには好都合だ。若手の集まりと言ってもそれは51歳の専務にしてみればの話で、8人は30代や20代後半。しっかり大人であるべきだが、そうはいかない連中だった。


小泉はこの事務所を明日照果と名付けた。アステカと読み、明日を照らして果実を得よ、という中国の四字熟語から取ったというが、ウソである。漢字の方がカッコいいと思う小泉の案だ。


そんないきさつで明日照果(アステカ)チケットが出来てしまった。


「明日照果(アステカ)チケットってさ。株券みたいじゃん。」

「だったら株券みたいに価格が上がったり下がったりしたらどうね?」

と鎌が言い出した。

鎌は弁護士なだけに明治時代のマッチラベルを図書館で調べていた。このマッチラベルとやらは明治時代、コレクターアイテムとしてブームだったらしい。

福山碧水というカリスマがマッチラベルの価格を決めるとコレクターは、紙切れでしかないマッチラベルが大金のように思えて夢を見た。「あなたの珍品マッチラベル、100万円だよ!」と言われても、買う人もいないんだから夢心地を楽しむブームだったのだろう。


鎌はその史実に着目した。

「そのマッチラベルの紙切れを、ベンチャーキャピタルにするのさ。」


明日照果(アステカ)チケットは1枚250円で売る。明日照果同盟に参加するお店はレジに明日照果(アステカ)チケットを入れる寄付金みたいな箱を置くんだ。

箱にはやりたい事が書いてある。明日照果(アステカ)チケットを持つ客は、その夢に賛同したらチケットを箱に入れる。

本部のうちらは店から明日照果(アステカ)チケットを回収して、枚数✕250円で金額をお店に渡すのさ。なーに実際に箱に入れる人は、うちらが売った枚数の5%もいかないよ。つまりは95%は儲けだね。


鎌の長い長いプレゼンを聞いて、デザイナーの広瀬は言い出した。

「じゃあデザインは、手放したくない絵柄に仕立てあげないとな。」

つまり、250円で買ったものを応援でパッパカ手放して95%が明日照果同盟の箱に入れられたら大損だ。そのためには手放したくない絵柄でもありたいと。


「価格が上がったり下がったりする要素はどうする?」

作家の玲央は言った。

「あれかな?この街の会社が期間限定で1枚1000円分の商品と交換するのかな?」

「キャンペーンってやつだね。期間限定で明日照果(アステカ)チケットは1枚1000円になる。」


なるほどー、と一堂うなづく。

「もし、何かの法律違反になっちゃったら」

「沼仏が逮捕され役でお願い、何もしてないでしょ。代わりに売上の20%あげるよ。僕らはいらない。」


という訳で明日照果(アステカ)チケットはこっそり売られ始めた。小泉は専務に報告し、専務は

「近頃の若もんは全く」と言った。

専務が密かに望んでいた、フリーペーパーの話は始まるのだろうか?


雑居ビルの4階以上でしか売られない明日照果(アステカ)チケット。全部で12種類。干支にちなんだ動物を明治時代のマッチラベルの絵柄が取り囲むデザイン。動物の絵はイラストレーターの阿波野が描き、デザイン全体は広告デザイナーの広瀬。


趣旨を話してお店にも客にも徐々に広まっていった。遊びでしかないから楽しかった。

1枚250円を全種類で500枚売ったから12.5万円の売上。次第に1種類で500枚売れ始めて全体で150万円になった。原材料は余った紙に余ったインクだからボロ儲けである。

でも調べたら末端では300万円相当になってるらしい。

それは、雑貨屋で2倍の価格で取引されているからだった。

「最初は250円で売ってたらさ、すぐなくなっちゃうから倍にしたんよ。」


雑貨屋へは、置き売りで毎月1万円払うから売上は全部、本部の明日照果が回収なと言っていたのに、倍で売ってちゃっかり利益まで取っていたとは!

でも怒りもこみ上げない。なぜならタダの紙切れだし、誰も損していない。

しかも、明日照果(アステカ)同盟のお店たちは、やりたい夢を掲げて箱を用意しない。資金が集まるというのに!本部の僕たちは売上を大事に大事に貯めているのに!


僕はたまりかねて小泉に言った。

「もとは僕が考えついたラベルカード、アイデア聞いてこの街のためになるかもって思ったから商品化許したけど」

「うちの印刷屋をタダで使われて、雑貨屋が儲けてるだけじゃないか。」

「だったら降りるよ。代わりに儲けの半分をよこせなんて言わない。」

最後に僕は言った。

「それを言ったら、この街に住む資格なんてないだろ。」

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