マッチ売りの中年
商店街、といってもアーケードと呼ばれるほどの規模であるが、それが6個繋がっているのが、この街の特徴である。
雨が降ろうが雪が吹雪こうが中に入れば大丈夫。お店は肩を寄せ合うようにひしめいたビル、高さも同じ。それはちょっとでも他より高いビルを建てようものなら周りから嫉妬を買い、商売あがったりになるからだ。
その中でアタマ3つくらい高いビルの一角がある。それは、この街の奇祭、タナボタ祭りに関係した一族に由来する。そう、江戸時代の中期にこの街の街道を整備しようとある町人が私財を投じて道を掘り起こして工事をしていたら、金の鶏が1ダース出てきて、街はすったもんだの大騒ぎ。っていうあれだ。
金の鶏を見つけた町人は殿様の許可を得て、鶏が産む金の卵、それも純金の卵を蓄え続けて、この街の財政に貢献し、大飢饉でもこの街は、幕府に黙ってひっそりとこしらえた大型帆船で、鎖国なのにひっそりと海外から食料を買い付けて乗り越えたという。金の鶏を飼う特別な町人は常に一段高い振る舞いが代々ゆるされた。その名残で、この町人の子孫の持ちビルは他より高いのである。
「でもそんなの、どうせウソだろ。」
「なんかやましい話を美談にしたんじゃねーの?」
と、集まるたびに仲間は言った。小泉は黙って聞いて「まあまあ。」とたしなめる。「嫉妬する気持ちを僕たちの企みのパワーに変えればいいよ。」と言うのだった。
アーケードは6つあると書いたが、本当はもう一つある。大地震で焼けてしまったのだ。2011年の震災より40年前くらいの話だ。
焼け落ちたアーケードは復活することなく、1989年の今は新旧入り乱れた雑居ビル群となっている。
その雑居ビルの一室で仲間の1人、雄貴が言った。
「俺たちの金の卵、明日照果チケットだけど」
「累計500枚発行したよ。」
「1枚250円だけど末端価格は合計300万円かな。」
横でソファに寝っころがる玲央が
「単なる紙切れだと気づいたら0円さ。」
とくさす。
ま、人の夢に賭けてみる市民がいるのはけっこうなことだね。と小泉は喜んでいた。
明日照果チケットとはなんなのか?
それは今で言うところのクラウドファンディングみたいなものだ。
2カ月前に明治時代のマッチラベルの図案を組合せて、株券みたいなチケットを雄貴が作った。雄貴はこの街の印刷屋に勤める社員だから、ふだんの仕事で余った紙と余ったインクで遊びで刷っていた。
世の中に登場したばかりのマッキントッシュっていうパソコンで作った。ソフトもスキャナーも一式、アンドーチェーンの専務がくれたからだった。
そもそも専務にとっても、東京で知り合って応援している、今は西海岸に渡って頑張る若社長から「これが今に世界を変える!」とプレゼントされたパソコンで、使い方が分からないから、いつもアンドーチェーンのデパートチラシでお世話になる印刷屋にくれてやったのだった。
印刷屋の社長もコンピューターは分からない。よって若手社員が夢中になり、私物と化している。
「うちの社長が骨董品好きでマッチラベルたくさんあるから、組み合わせてデザインしたんだけどなんかできないかな?」
と雄貴が言うので、仲間は1枚250円で売って飲み会でもやろうや。という話になり、この仲間のリーダーである小泉は専務に「石が転がり始めましたよ」と報告した。専務にとってはパソコンは捨て石扱いなのだ。
「で、紙切れ作って何が楽しいんだ?」と専務は悪態をつく。
小泉は「何か策を打ちましょう」と言った。
39歳の小泉は51歳の専務の片腕である。
干支が同じだからか?それとも性格が真逆だからか?
の割に、専務のやりたいことと小泉のやりたいことが重なることがよくある。
半年前、この焼け落ちた雑居ビルの片隅にデザインが分かる奴だけ集めて、事務所を作らせろ。と専務が急に小泉へ指示した。
時期に必要になるアンドーチェーンの広告制作部隊だ。でも押し付けはダメだよ、自発的に奮い立たせるんだ。
小泉はのらりくらりと、この街のバーをハシゴし飲み友達を作り、クリエイターと分かれば夢のような話をして取り込んでいった。
どうもこの街には、雑居ビルの4階以上にクリエイターを惹きつける店がけっこうあるらしい。
仲間は小泉を入れて8人集まった。広告デザイナーの広瀬、印刷屋の雄貴、イラストレーターの阿波野、作家の玲央、古本屋の松島、弁護士の鎌、そして沼仏である。沼仏は何もしていない。
専務は「何もしていない奴ほど役に立つ」と気に入っていた。専務はどうも理解に苦しむ。




