届くことだけは止められない
大庭俊哉は、映像を再生しないと決めた。
妻と幼い娘をホテルへ移し、自分は警察の保護室へ入る。端末は電源を落として金属箱へ封じた。澪が病院で行った実験より、さらに厳しい遮断だった。
午後、彼の会社へ封筒が届いた。
宛名は手書きで、差出人はない。防犯カメラには配達員が映っているが、配送会社の記録に該当する荷物はなかった。
封筒の中には十二枚の写真が入っていた。
一枚目は佳奈の部屋。二枚目は共用廊下。順に動画を分割した写真が続く。十一枚目には保護室の椅子へ座る大庭が写り、十二枚目には、彼の妻と娘が泊まるホテルの扉が写っていた。
大庭は初めて取り乱した。
「家族も狙われるのか」
久瀬は分からないと答えた。分からないことを安全とも危険とも言い換えなかった。
澪は写真を一枚ずつ見直し、十二枚目の扉に映る室番号が実際とは違うことに気づいた。
ホテルへ確認すると、その番号の部屋は存在しなかった。
予告なのか、誤りなのか、別の場所なのか。
答えは出ない。
ただ一つ確定したのは、端末も回線も視聴も関係なく、記録は大庭まで到着したということだった。
そして十二枚目の銀色のドアノブには、写真を持つ澪の顔が小さく映っていた。
澪は見えた事実と、自分がそう思っただけのことをノートの左右へ分けた。恐怖に理由を与えれば、一晩だけは眠れるかもしれない。だが誤った理由は、次に選ばれた人をもっと危険な場所へ連れていく。だから分からないものは、分からないまま残した。
部屋の外では、誰かの日常が何事もなく続いていた。エレベーターが止まり、配達員が階段を上り、遠くで車の扉が閉まる。そのどの音にも異常はない。異常なのは、死者の時間だけが現在へ届き続けていることだった。




