再生していない動画
雨宮澪のスマートフォンに動画が届いたのは、午前二時十七分だった。
通知音は鳴らなかった。枕元の画面が白く光り、眠れずに天井を見ていた澪は、その明るさで気づいた。
差出人の欄は空白だった。件名も本文もない。添付された動画は七分四十三秒。受信した記録だけがあり、どの通信アプリにも同じ履歴は残っていなかった。
澪は再生せず、画面を伏せた。
三日前、大学時代の後輩だった藤代佳奈が死んだ。自宅マンションの廊下で倒れていたという。事件性はないと聞かされたが、死因は家族の希望で伏せられている。
添付ファイルの縮小画像には、その佳奈が映っていた。
暗い部屋で、こちらへ背を向けて立っている。右下の時刻は、佳奈が死亡した日の午前二時十七分だった。
澪は電源を切った。画面は消えたが、黒くなったガラスの中に、自分の顔と、その後ろの閉じた寝室の扉が映った。
扉の前には誰もいない。
それでも黒い画面の縮小画像だけが変わった。
佳奈の姿が消え、澪自身の後ろ姿が映っていた。
部屋の外では、誰かの日常が何事もなく続いていた。エレベーターが止まり、配達員が階段を上り、遠くで車の扉が閉まる。そのどの音にも異常はない。異常なのは、死者の時間だけが現在へ届き続けていることだった。
澪は見えた事実と、自分がそう思っただけのことをノートの左右へ分けた。恐怖に理由を与えれば、一晩だけは眠れるかもしれない。だが誤った理由は、次に選ばれた人をもっと危険な場所へ連れていく。だから分からないものは、分からないまま残した。
部屋の外では、誰かの日常が何事もなく続いていた。エレベーターが止まり、配達員が階段を上り、遠くで車の扉が閉まる。そのどの音にも異常はない。異常なのは、死者の時間だけが現在へ届き続けていることだった。




