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パグと魔導工学院



 魔導工学院 (Magical Engineering Academy)

 ギルドに流通する「魔核(まかく)」や魔法アイテムの鑑定・精製を一手に担う研究機関。その役割は魔獣の魔核(まかく)からエネルギーを取り出す技術の研究や魔武具の開発や強化である。


 所長室の重苦しい空気の中、所長はギルドからの報告書を持ってきた若い研究員に対応していた。

 その研究員は机の上に置かれた「黒森の主」の魔核をじっと見つめていた。その結晶からは、今もなお凄まじい魔力が波紋のように溢れ出し、部屋中の魔導灯を不規則に明滅させている。提出されたギルドの報告書に目を通していた所長が顔を上げる。


 所長の名前はヴァルダスク・フォン・アルカディア。

齢六十を過ぎた長身の老人で、極めて神経質そうな細い目をしており、常に鼻にかかる位置に銀縁のモノクルをかけている。

 また、学院指定の重厚な紫色のローブを完璧な着こなしで纏い、指先には常に数種類の魔導リングがはめられている。白髪はオールバックに整えられ、隙が一切ない。


 超一流の魔導工学理論家だが、手段を選ばない冷酷さを持ち、未知の技術を「()()()()」にすることに執着している。

 世界平和よりも「解明の快感」を優先するマッドサイエンティストの一面がある。


「単独討伐か・・・ギルドの記録には嘘はないだろうが、これは現実味がない。・・・あの魔獣の鎧皮を貫く火力が、一人のしかも『獣人』に備わっていたとはな」


  所長は眉間に深い皺を刻む。これが本当なら・・・


「所長、そんなに考え込まずとも。現物は()()にあります。これだけの魔力を秘めた個体の魔核(まかく)を、原型に近い形で回収して戻ってきた。魔獣の巣には魔獣の死体があった。それが何よりの証明でしょう?」


 若手研究者の名前は、エリュ・カストール。

  二十代前半の青年。知性を感じさせる青白い肌と、常に眼下にくまを作っている。

  乱れた茶髪に、サイズの合っていない白衣を羽織っており、首から常に小型の魔導記録装置をぶら下げている。

 また何かを書き留めるための羽ペンを常に耳に挟んでいる。


 それでも、まだ慎重な所長の様子に・・・


「ならば、指名依頼してみたらどうですか? 我々『魔導工学院』の名で、獣人を呼び寄せるのです。彼がどうやって魔獣を倒したのか?その秘密が解明できれば・・・我が学院の技術は数年先へ進めるはずです」


 所長は窓の外、街の喧騒を眺めながら、椅子からゆっくりと立ち上がった。


「指名依頼か・・・その獣人が妙な武術を使っていたと言うのも気になる」


 所長はデスクの上の通信魔道具に手をかけ、ギルドの窓口へ繋ぐための魔力を流し始めた。


 通信魔道具の先からは、ギルドの喧騒と窓口の事務的な声が響いてきた。所長の指先が微かな光を放ち、魔導回路が接続される。


「あぁ、私だ。ヴァルダスクだ。『黒森の主』を討伐したゴンと言う獣人に指名依頼を出したい」


 所長の声には、研究者としての異常なほどの執着が宿っていた。

 しばらく会話したのち、端末から手を離すと接続を維持していた淡い光がスッと吸い込まれるように消えた。


「いいだろう。最高ランクの報酬と特別顧問の皆肩書きを餌にする。何としてでも、その『獣人』の身体の構造と術の正体を暴くために学院に連れ帰るぞ」


 所長室に響くのは、若手の野心的な笑いと、魔核(まかく)が放つ不気味な脈動音だけだった。彼らはまだ知らない。

 ゴンという存在は、彼らが研究対象にしたりできるような「素材」ではなく、触れただけで彼らの理論そのものを粉砕しかねない、動く災害であることを。


 その頃、ゴンは馬車の中で、アーチャの執拗なスキンシップを必死に回避しつつ、背後に迫る「何か」の気配を、鋭い鼻で捉えていた。


「・・・また、面倒な連中に目をつけられた気配がするな」


 ゴンは小さく鼻を鳴らす。その顔に浮かぶのは、隠しきれない呆れと、これから始まるだろう無益な争いへの予感だった。


 学院の所長は、自分たちがどのような存在に接触しようとしているのか、全く分かっていないようですね。ゴンを「解明すべき対象」と見なす組織の介入は、静かなゴンの平穏を容赦なく踏みにじろうとしています。

 ゴンはこの「特別顧問」という名の罠をどう受け止めるのでしょうか?

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