パグと騎士団
聖騎士団 (Order of Holy Knights)
国境警備や大規模な魔獣討伐を管轄する正規軍組織。ギルドの冒険者を「正規の兵」として雇用することもある。
国家の治安維持。アーチャが所属する組織であり、ギルドの冒険者とは「契約関係」にある。
駐屯地の中央練兵場。そこはまさに剣と汗と怒号が支配する世界だ。ゴンが姿を現すと、広場にいた百人近い騎士たちの視線が一斉に突き刺さった。
ゴンの訪問目的は討伐した盗賊団の報奨金と、騎士団から出される「討伐の証」を受け取ること。
「あれか? アーチャ様が連れているという・・・ただの犬に見えるが」
「おい、笑うな。あの犬を見た盗賊は、全員が恐怖で失禁していたというぞ」
冷ややかな視線と、興味本位の囁き。ゴンはそれらをBGMのように聞き流す。パグの短い足で、地面の砂を軽く踏みしめた。その瞬間、周囲の空気が一変した。ただの獣ではない。「殺す側」の空気が、小さな身体から放射されたのだ。
重厚な鎧を纏った壮年の騎士団長の視線は、練兵場の喧騒を一瞬で黙らせる重圧を帯びていた。彼はゆっくりとゴンに歩み寄り、その長身を折り曲げて、小さなパグと同じ視線の高さまでしゃがみ込んだ。
「この騎士団を預かる団長のガルドス・ベルンハルトだ。ギルドから報告を受けた時は、耳を疑ったものだが。確かに、ただの獣人にしては・・・この『気』尋常ではないな」
団長は立ち上がり、周囲の騎士たちを一喝する。
「全員、配置に戻れ! 英雄に対する敬意も忘れたか。ゴンと言ったか。君の実力が、この練兵場の騎士たちを超えていることは理解した」
騎士団の駐屯地では、アーチャが連れ帰った「謎のパグ」の噂が駆け巡っていた。
休憩中、若手騎士たちが焚き火を囲み、驚きと疑念を口にする。
騎士A(新人):
「聞いたか? アーチャ様が連れて帰ってきた、あの小さなパグの話。城塞跡の襲撃で、盗賊団の頭を一撃で仕留めたっていうんだぜ。しかも、あの体でだぞ?」
騎士B:
「ああ、聞いた。だが、そんな馬鹿な話があるか。アーチャ様が可愛がっている、ただのペットだろう? きっと、アーチャ様自身の剣技を見た盗賊が、恐怖で幻覚でも見たんじゃないのか?」
騎士C(噂好き):
「いや、俺は現場検証に行った兵士から直接聞いたんだ。盗賊たちは、あのパグが空を舞ったと言っていた。それも、ただのジャンプじゃない。まるで影そのものが移動したような身のこなしだったとな」
「実は魔獣ではないか?」「いや、古の武術を極めた隠者か?」「いいや、アーチャ様に取り入っている魔物だ!」と、話はどんどん尾ひれがついている。
常にあの小さなパグを抱きかかえ、頬を寄せているアーチャの姿は、騎士団内では「高嶺の花が完全に壊れてしまった」と密かに心配されている。
騎士A:
「アーチャ様といえば、あの『銀の剣』と呼ばれる天才だぞ。その方が、あんなちんまりした生き物に骨抜きにされているなんて……。もし、あいつが本当に強力な戦士だとしたら、騎士団の立場はどうなる?」
騎士団内での噂話は、ゴンの実力を過小評価するものから、恐ろしいほどに美化するものまで様々です。しかし、彼らが知る由もないのは、当のゴンが彼らの噂話を聞きながら「モフモフの刑」に処されているという滑稽な現実なのです。




