ゴンとグウ
ある晴れた日の午後。街の喧騒を背に、ゴンはいつものように無愛想な面持ちで石畳を歩いていた。その時だった。
「グウッ!」
突然、小さな衝撃がゴンの腰に突き刺さる。振り返ると、煌びやかな刺繍が施された服を着た、まだ幼い貴族の子供が、ゴンの背中に全力で抱きついていた。
「おい、離れろ。人違いだぞ」
ゴンは困惑しながら、ぶっきらぼうにそう言った。
しかし、子供は顔を真っ赤にして、さらに強くしがみつく。
「グウ! グウだよ! どこに行っちゃってたの? ずっと、ずっと探してたんだよ!」
涙目で訴えるその姿に、通行人たちが足を止め、好奇の視線を向けてくる。ゴンはため息をつき「俺はゴンだ。お前の探している連れじゃない」と何度も説明したが、子供は首を横に振るばかりで、どうしても離れようとしなかった。
数分が経った頃、慌てた様子で従者たちが駆け寄ってきた。
息を切らして駆け寄った従者の一人が、その光景を目にして完全に硬直した。
「若様、どちら様と・・・いや、まさか・・・」
従者の手は細かく震え、彼はまるで幽霊でも見るかのようにゴンを凝視していた。その瞳には、かつて失ったものに対する激しい後悔と、それが現実であるとは到底信じられないという混乱が渦巻いている。
従者の話によれば、この子供――領主家の末っ子であるレオンは、かつてゴンと瓜二つのパグ種の付き人に育てられていたのだという。
そのパグの名が「グウ」。
「あの子は三年前の『領主襲撃事件』の最中、若様を庇って二度と戻らないはずでした」
従者の言葉で語られた「グウ」という存在は、単なる付き人などという枠を超え、幼いレオンにとっては共に遊び、共に眠り、共に成長した唯一無二の親友だったのだ。
「俺は、そのグウじゃない」
ゴンは努めて冷静に言った。
しかし、抱きついているレオンの体温と、その胸から聞こえる切実な鼓動は、否定しがたいほどに「懐かしさ」を訴えかけてくる。
「でも・・・」
従者が近づき、ゴンの左肩に手をかけようとしたとき、彼は息を呑んだりゴンの肩の付け根に、古びた火傷のような星型の痣があったからだ。それは、かつてグウがレオンを庇った際に負った、深い傷跡と酷似していた。
「若様、それは・・」
従者の言葉は途切れ、その場に緊張が走った。
ゴンは、この体の本来の主が一体何者だったのか?グウと言うパグの体を俺が乗っ取ったのか?少しずつ気持ち揺らぐのを感じた。
もし、この体の主がかつて「グウ」という名前で生きていたとしたら。そして、このレオンという子供を守るために命を落としたのだとしたら。
レオンは、まだゴンの服を握りしめたまま、顔を上げようとしない。肩を激しく揺らし、幼い喉の奥から絞り出されるような嗚咽が、ゴンの服を濡らしていく。
ゴンは、その小さな頭にそっと手を置くべきか、それともこの温もりを断ち切るべきか迷い、空中で指先をあてもなく彷徨わせた。
最強の暗殺者として戦場を駆ける今の彼の手は、返り血や硝煙の臭いが染みついている。
その時、レオンが小さな声で呟いた。
「グウ、また僕を置いていくの? もう、一人ぼっちはいやだよ」
その言葉は、まるで鋭い刃のようにゴンの鎧を貫いた。
かつて守り抜こうとした幼い命が、いま目の前で壊れそうなほどに震えている。ゴンは唇を噛み締め、意を決して、ゆっくりと――しかし確かな重みを込めて、その小さな頭に大きな掌を乗せた。
掌に伝わる体温は、彼が忘れていたはずの「誰かを護る」という感覚を鮮明に呼び覚ます。
ゴンは自らの荒々しい毛並みを整えるように、優しく、不器用にレオンの頭を撫でた。
「泣くな。俺は、ここにいる」
それは、ゴンとしてなのか、グウとしてなのか。
自分でも分からないまま、彼はただ、目の前の子供が安心するまでその背中を叩き続けた。
夕闇が迫る街角で、過去と現在が交差し、かつての英雄の影がゴンの心に静かに重なり始めていた。
アーチャの予告
パグのグウ、気になりますね色々。
レオンに連れられて、貴族のお家に・・・何か美味しい物食べられるのかな?それとも・・・




