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パグとダンジョン4

遂に最下層。

フロアボスとの戦闘だぁ!


 


 深淵の最奥、そこにはダンジョンの迷宮主(フロアボス)である、巨大な毒竜(ポイゾンドラゴン)が鎮座していた。


「ここが、最下層か・・・」


 ゴンが低く呟くと同時に、巨大な毒竜(ポイゾンドラゴン)が鎌首をもたげた。

 その身体からは、真っ黒な毒霧が絶えず噴出し、触れるものすべてを死と崩壊へと誘う。

 それは通常の物理攻撃など届かぬ、概念的な「拒絶」の領域だった。その張り詰めた空気の中で、セドリックの焦燥がその命を危険に晒した。


「こいつは俺がやるッ!」


 セドリックは、エルを守らなければという義務感と、自身の無力さへの苛立ちから、ゴン達の援護も待たずに前へ出た。

 その判断の甘さが、毒竜(ポイゾンドラゴン)の放った漆黒の毒霧を呼び寄せる。


「がぁぁっ!?」


 次の瞬間、毒竜(ポイゾンドラゴン)が吐き出した不気味な毒霧が、セドリックの全身を包み込んだ。


 それは物理的な攻撃ではない。セドリックの胸当てが、まるで何十年も風雪に晒されたかのように音を立てて脆く崩れ、皮膚が焼けるような激痛が彼の神経を焼き尽くす。


「セドリックさん!」


 エルの悲鳴が響く。セドリックが、一撃で無力化された。

 その姿を見て、セドリック自身の脳裏に走ったのは後悔ではなく、皮肉にも「また守られる側になってしまった」という惨めさだった。


「くっ、この程度で・・・!」


 彼は膝をつきながらも剣を地面を突き立て、必死に立ち上がろうとする。

 しかし、防具を溶かした霧は、彼の筋肉や骨にまで浸食し始めていた。激痛が視界を白く塗りつぶしていく。

 アーチャが飛び出し、毒を中和する小瓶を投げつけるが、霧はそれを霧散させてしまう。

 セドリックの意識が遠のき、毒竜(ポイゾンドラゴン)がとどめの一撃を放とうと巨大な腕を振り上げる。


「セドリック!」


 ゴンの怒声が響く。しかし、それは叱責ではなく、焦燥する仲間への戒めだった。

 ゴンはセドリックを救うため、自ら霧の中へと飛び込む。その拳には、仲間を死地から引きずり出すための、凄まじい闘気が宿っていた。

 だが、毒霧の中のセドリックは、薄れゆく意識の中で、あわやという瞬間に光り輝くエルの気配を感じ取っていた。

自分の中の未熟な葛藤を抱えたまま、彼は死の淵で自分を見つめ直す。

(俺は、守りたいのか。それとも、守ることで『自分の価値』を確認したいだけなのか)


 エルが見せた力は、もはや他者の保護を必要としないほどに壮大で、美しいものだったのだ。

(俺は彼女の成長を願っていたはずだ。彼女が強くなることを、誰よりも望んでいたはずだ)

 矛盾する感情が、セドリックの胸を締め付ける。

 強くなるエルを誇らしく思う反面、彼女が強くなればなるほど、自分の役割が失われていくのではないかという恐怖。そして、「落ちこぼれ」であったエルを助けることで得ていた、自分の中の優越感や安心感が否定されたような敗北感。

(情けないな・・・俺は彼女の『無力さ』に縋っていたのか?)


「セドリック!」


 アーチャが悲鳴を上げようとしたが、エルがそれを制した。エルは杖を両手で強く握り締め、ゴンの教えを思い出す。

(澱みは、ただ消すものじゃない。私の嵐で、根こそぎ『還す』の)

 エルが杖を地面に突き立てると、彼女の足元から黄金の光の輪が爆発的に広がった。それは先ほどのような奔流ではなく、一点に凝縮された「聖なる嵐」だった。


「ゴン!」


「ああ、分かっている!」


 エルの光が魔獣の放つ黒い毒霧を相殺し、その漆黒の体に亀裂を入れる。その刹那、光の道を駆けたゴンが、空中で身体を捻った。


刻覇・(こくは・)斬壊(ざんかい)!」


 ゴンの拳が放った衝撃波は、エルの浄化魔法と共鳴し、毒竜(ポイゾンドラゴン)魔核(まかく)を捉えた。

 黒い霧が悲鳴を上げ、ダンジョンの壁が激しく揺れる。毒竜(ポイゾンドラゴン)は自らの体の崩壊に抗おうと、最後の悪あがきで強大な魔力を放射したが、それさえもエルが放つ「聖域」の力で無力化されていく。


「これで終わりだ」


 ゴンの一撃が毒竜(ポイゾンドラゴン)魔核(まかく)を粉砕し、深淵を支配していた重苦しい空気が、嘘のように晴れ渡っていった。

 戦い終えた空間には、かつて何がそこにいたのかさえ判別できないほどの静寂が戻っていた。

 エルは膝をつき、肩で息をしていた。

 その瞳には、もはや落ちこぼれの少女の怯えはなく、未知の力を使いこなした者の、凛とした輝きが宿っていた。 


 

フロアボスを倒し、ダンジョン攻略に成功!

エルは、自らの能力に完全覚醒したものの・・・

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