パグとダンジョン1
沈黙が長く続きすぎた。
どれほどの時間が経ったのか、エルには分からなかった。
ただ、一歩踏み出すたびに靴底が湿った土を踏む音が、まるで死神の足音のように耳の奥で増幅されていく。
松明の炎がわずかに揺れただけで、背筋に冷たい電流が走る。
「ねえ、ゴン。本当にこの道で合ってるの?」
アーチャがふと、冗談めかして言った。
いつもなら軽快な彼女の声も、この閉塞的な空間ではひどく頼りなく、かつ不自然に響く。
先頭をゆくゴンは、一度も振り返ることなく短く答えた。
「ああ。餌が逃げないように、わざと道順を整えているんだ」
その言葉を聞いたエルは、思わず息を呑んだ。
「餌」その単語が、自分のことを指しているのではないかと不安がよぎる。自分がここにいる意味は何か。
思考の袋小路に迷い込み、エルの視界がぐらりと揺れた。
その時。
通路の先、暗闇の壁に不自然な「隙間」が生まれた。
それは魔獣でも、罠でもない。壁自体が呼吸をするように波打ち、そこからどろりとした澱みが染み出し始めたのだ。
「来るぞ」
ゴンの低い警告と同時に、松明の火が一斉に青白く変色した。
緊張の糸が、限界を超えて引き千切れる。
ついに、深淵の門が開いた。そこから現れたのは、影を纏い、無数の瞳を宿した巨大なナニカだった。
エルは思わず杖を落としそうになり、あわてて両手で握り直す。
静寂は去った。
代わりに、耳をつんざくような重低音がダンジョン全体を震わせ始めた。これまでの沈黙は、この咆哮の序章に過ぎなかったのだ。
「エル、何を呆けている!」
アーチャの声が飛ぶ。しかし、その声さえも遠く感じる。
エルは自分の内側を見ようとした。けれど、見えるのはただ、自分自身の空っぽさと、周囲を滅ぼす「嵐」への恐怖だけ




