パグとエル
ゴン達一行に出会った少女エルは、ヒーラースキルを持ちながら役立たず呼ばわりされて冷遇されていた。
ゴンはそんな少女に何かを見出し追いかけるが・・・
ゴンは無言のまま、エルの細い手を取った。
その掌から、まるで水の流れのような、あるいは古い記憶を辿るような感覚が伝わってくる。
ゴンは静かに瞳を閉じ、その感覚を研ぎ澄ませた。
彼女の体内を巡る魔力は、一般的な魔導師と比較すれば確かに少なかった。しかし、それ以上に異質だった。
彼女の魔力は「量」の問題ではなく、極限まで圧縮され、あまりにも高純度で、複雑な回路を描くように体内に留まっていたのだ。それは、小さなコップの中に強大な嵐を強引に封じ込めているかのような、制御しきれない強大なエネルギーの澱みだった。
「・・・なるほどな」
ゴンは彼女の手を離し、その前髪の奥にある紫色の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「エル、お前の魔力は『少ない』んじゃない。『極限まで密度を高めて、内側に強引に封じ込められている』だけだ。使い道を知らなければ、ただの重荷にしかならないだろうがな」
エルの表情が驚きに変わる。これまで「落ちこぼれ」としか呼ばれてこなかった彼女にとって、自分の内側に「強大な嵐」が眠っていると断言されたことは、何よりの衝撃だった。
ゴンは立ち上がり、背後にいるセドリックとアーチャに視線をやった。
そのまま、広場のベンチで呆然と座り込んでいる少女へ無造作に言い放つ。
「ダンジョンへ行く。エル、お前も来るか」
不意の問いかけに、エルは瞬きを繰り返した。自分が聞き間違えたのではないかと、ゴンの顔と自分の手元を交互に見比べる。
「え・・・私を、ですか? でも、私は何の役にも・・」
これまで「足手まとい」と呼ばれ続けてきた彼女にとって、その言葉はあまりにも重く、同時にあまりにも信じがたいものだった。沈黙を破ったのはアーチャだった。彼女はニヤリと笑い、エルの背中をポンと強く叩く。
「迷うことなんてないわよ、エルちゃん! ゴンが誘うなんて珍しいんだから。私の観察眼に狂いはないわ、あなたには絶対、何か秘められたものがあるはずだもの!」
アーチャが明るく背中を押すと、隣でセドリックも深く頷いた。彼は砕けた魔剣の柄を胸に当て、実直な眼差しをエルに向ける。
「エル殿、師匠の眼に狂いはありません。師匠が連れて行くと決めたのなら、それはあなたが必要だと判断したからだ。俺も、全力で守護することをお約束します」
二人の心強い言葉に、エルの表情が少しずつ解けていく。ゴンは彼らのやり取りを背中で聞きながら、なおも不敵な笑みを崩さない。
次回、いよいよエル覚醒の時が?




