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第6話 帰還~現実への帰還。拾ったはずのお嬢様が、なぜか俺に依存している件~

白髪となった夏玖微は、再び保護者と生徒たちの前に姿を現した。


今度こそ——彼女を見た瞬間、全員の顔には深い恐怖しか残っていなかった。


「そんなにビビらなくてもいいじゃん。君たちのこと、思いすぎて白髪になっちゃっただけだよ。」


くすりと笑いながら、彼女は一枚の“取引表”を取り出す。


精神力20%支払い——滞在時間:2年に短縮

精神力30%支払い——滞在時間:1年に短縮

精神力40%支払い——滞在時間:半年に短縮

精神力50%支払い——滞在時間:1ヶ月に短縮

精神力60%支払い——即時帰還


全員の視線が「即時帰還」の四文字に釘付けになる。


残されたわずかな理性に縋るように——


ほぼ迷いなく、全員が最後の選択肢を選んだ。



取引成立の瞬間——


頭の中を、言葉にできないほどの“軽さ”が駆け抜ける。


夏玖微は口元をわずかに上げた。


「ご利用、ありがとうございました。」



その言葉と同時に——


全員が一瞬で元の世界へと送り返された。



彼女は踵を返し、小さな洋館へ戻る。


そして裏裏を呼び出した。



「裏裏、《裏世界管理手冊》って、管理者のステータス画面あるよね?」


「あります、主人。」


裏裏はこくりと頷く。


「A級任務を達成した時点で、《裏世界管理手冊》の初期機能はすべて開放されています。」


夏玖微はすぐに手帳を開いた。


《裏世界管理手冊》


【管理者パネル】


#夏玖微#

身分:裏世界の所有者

配偶:陸念安

(子よ、あなたはすでに不死の寿命を得ている。伴侶と裏世界結合を行うのは賢明な選択だ)

年齢:17歳

実年齢:19歳

体力:良好(未測定)

精神力:1585 / 1645

状態異常:怨魂の囁き——怨念に応じて精神力へ干渉


「配偶」の欄を見た瞬間——


夏玖微は完全に固まった。


「……いい度胸してるね、裏裏。あの“結合”って、そういう意味だったわけ?」


心の中で毒づく。



次の瞬間、裏裏の無垢な声が頭の中に響いた。


「でも主人、裏裏に聞かなかったですよね?」


「じゃあ、この後ろの一文は何?」


「それは主人が書いたものです。」


言った瞬間、裏裏はハッとしたように黙り込む。


短い沈黙。



夏玖微の目がわずかに揺れた。


(……自分で書いたなら)


(じゃあ信じるしかないか。)


その直後。


彼女の胸に、妙な高揚感が込み上げる。


——先に“身分”で押さえた。


口元がゆっくりと歪む。


(たとえ拒否されても……逃がさない。)


そんな内心の一人芝居をしていると——



「玖ちゃん。」


陸念安の声が、彼女を現実に引き戻した。



「……そろそろ、戻ろうと思う。」


落ち着いた声。


けれど、確かな意志があった。


「ここでの時間は……もう十分すぎるくらいもらったから。」


「現実に戻って、自分の人生と向き合う。」



夏玖微は一瞬だけ驚き、


すぐに懐から分厚い資料を取り出した。



「これ、持ってって。」


一枚ずつ手渡す。


「過去の宝くじ当選番号。どれ選んでも初期資金にはなる。」


「各業界の成長データ。将来性ある企業には全部印つけてある。」


「あと、これも——」


淡々と、しかし異様なほど丁寧に説明していく。


まるで——すべてを託すかのように。



陸念安は静かにそれを見ていた。


胸の奥が、すっと沈む。


——ああ、この時間は……終わるんだ。


視線が、わずかに陰る。



それを見た夏玖微は、表情を引きつらせた。


「……その顔なに?」


思わずツッコミを入れる。


「なんで私が死ぬ前提なの?」


「別に、永遠に会えないわけじゃないんだけど?」



陸念安は一瞬きょとんとし、


次の瞬間、ぱっと表情が明るくなる。



一方の夏玖微は、少し気まずそうに頭をかいた。


「……あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど。」


「うん、何でも言って。」


陸念安はすぐに頷く。


「その……」


珍しく言い淀む。


視線を落としながら、小さなメモを差し出した。


「その日……学校に、迎えに来てほしい。」


紙には、日時が分単位で正確に書かれている。


場所——至善楼 二階 総合教室。


それを見た陸念安は、少し驚いた。


——いつもの彼女らしくない。


落ち着いていて、どこか狂気じみた余裕を持つ彼女が、


今は少しだけ、不器用に見える。


(……ちょっと、可愛い。)


思わず小さく笑ってしまい、


軽く首を振った。



そして、その瞬間——


彼女は決めた。


夏玖微が、裏世界で自分の支えになるのなら。


自分も——


現実世界で、彼女の支えにならなければいけない。



結合を通じて、軽く精神力を一部送り出したあと、夏玖微はただ簡単に陸念安へ別れを告げた。


言葉は多くなかった。


なぜなら二人とも分かっていたからだ――この別れは、決して終わりではないと。



陸念安が去ったあと、裏世界は再び静寂に包まれた。


夏玖微は裏裏を呼び出し、この世界をより精密に制御する方法を学び始める。



今の彼女の精神力であれば、「怨魂の囁き」はすでに実質的な影響を及ぼせない。


それでも彼女はあえて一部の精神力を消費し、その囁きを完全に封じ込めた。



その後、長い時間にわたり、夏玖微は裏世界に留まり続けた。


裏世界の時間は確かに奇妙で、ある時は一日が一ヶ月のように感じられ、またある時は一瞬のように過ぎ去る。



彼女は多くのことを学んだ。


影を従わせる方法。


怨念を沈黙させる方法。


力を、感情に頼らず扱う方法。


数多くを学びながら――


同時に、少しずつ「人としての在り方」を忘れていった。



三十年目の終わり。


夏玖微は懐中時計を取り出し、時間を確認する。


「……そろそろ、戻る頃か。」



彼女は長く閉じ込めていた生徒たちと担任のもとへ歩み寄る。


彼らの精神は、すでに数年前に崩壊していた。


瞳は虚ろで、生きているのかどうかすら分からない残骸のようだった。



その姿を見て、彼女は理解する。


――今回は、もう遠慮はいらない。



一人あたり60%の精神力を、一気に引き剥がす。


そして全員を元の時間軸へと送り返した。



「私より老けさせるわけにはいかないからね。」


そう呟きながら、自分の実年齢を計算する。


――49歳。


陸念安も同じく、49歳。


彼女は満足げに頷いた。


「楽しみだな。」


次の瞬間――彼女の姿は裏世界から消えた。



現実世界。

至善楼二階・総合教室。


瀕死の教師、精神が崩れた保護者と生徒たち。

本来なら厳粛であるはずの三者面談は、まるで死の気配に満ちた異様な光景へと変わっていた。


夏玖微は机に突っ伏し、だるそうな表情でその空気を崩そうとはしない。


やがて校長と数名の教師が意識を取り戻す。


――次の瞬間、怒号が爆発した。


彼らは顔を歪め、夏玖微を指差して罵倒を浴びせる。

しかし周囲にいる者たちの虚ろな様子には、一切気づいていない。


唾を飛ばし、耳障りな声が響く。


夏玖微はわずかに眉をひそめた。


――うるさいな。


その耐性が切れかけた瞬間――


バンッ!!


教室の扉が勢いよく開かれた。


全員の動きが止まる。


入口に立っていたのは、一人の少女だった。


若く、柔らかな容貌。

しかし、逆らえない圧をまとっている。


その場の全員が、無意識に息を呑んだ。


「ここにいる皆様へ。」


静かな声。だが圧倒的な支配力。


「私は、夏玖微に対するあなた方の行為について、正式に法的措置を取ります。」


「異議がある場合は、私の弁護士へ連絡してください。」


言い終わると同時に――

四人のボディガードと一人の弁護士が入室する。


空気が一変した。


完全な主導権の逆転。


「玖ちゃん、行こう。」


夏玖微は目の前の陸念安を見て、一瞬だけ戸惑う。


――変わったな。


車に乗せられたあと、陸念安は目の前の夏玖微を見つめ、ふっと表情を緩めた。


十五年前とほとんど変わらない姿。


その距離感が、静かにほどけていく。


「玖ちゃん、会いたかった。」


「私も。」


時間は陸念安に変化を与えた。

成熟と鋭さを。


だが今この瞬間――

あの優しくて穏やかな彼女が、確かに戻ってきていた。


「これから、どうするの?」


「ちょっと、爺さんに会って聞きたいことがある。」

夏玖微は軽く頷く。


「安ちゃん、急がなくていいよ。無理に合わせなくても。」


陸念安は少し黙り、意を決して口を開く。


「……うちに、来ない?」


夏玖微は、ほとんど迷わなかった。


――これは、いい流れだ。


目の奥にわずかな悪戯っぽい光が宿る。


「いいよ。」

【作者のつぶやき】


第1話(6話まで)を読んでいただきありがとうございます!PVは増えていて嬉しいのですが、実はお気に入り(ブックマーク)がまだ『0』で、作者は少し泣きそうです(笑)。


もし続きを楽しみにしてくださっている方がいたら、ぜひ下のボタンをポチッと押して、夏玖微に勇気を分けてください!

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