表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/27

第5話 審判~慈悲なき裁き。逃げるつもりか?それは許されない~

「域」の中で、怨念から生まれた黒い影たちが、夏玖微の足元で蠢いていた。


「あなたたちが相手にするのは——あれじゃないよ。」


彼女は軽く地面を踏む。


今にも溢れ出しそうだった黒影は、見えない力に押さえつけられるように、ゆっくりと地面へ沈んでいった。



「お前……俺たちに何をするつもりだ?」


一人の保護者が前に出て、彼女を指差す。


強気な口調。


「訴えられたくないだろ?」


周囲の生徒たちはその様子を見て、徐々に表情を緩めていく。

中には、あからさまに嘲るような笑みを浮かべる者もいた。


——所詮、ただの学生だ。


大人たちもすぐに同じ結論に至る。


顔に浮かんでいた恐怖は、いつの間にか根拠のない余裕へと変わっていた。


空気が、次第に軽蔑へと傾いていく。



夏玖微は足元の黒影を一瞥し、小さく息を吐いた。


(多すぎる……でも、足りない)


そのまま、自身の中にある怨念を——ゆっくりと、自分の影へと流し込んでいく。


少しずつ。


確実に。


影が膨れ上がる。


平面だったはずのそれが、立体的に歪み始める。


そして——


巨大で歪な怪物が、彼女の背後の影から浮かび上がった。


黒い怪物は、さらに分裂する。


一体が二体に。


二体が四体に。


それぞれが、夏玖微の半身以上は高い異形。



笑顔は消えなかった。


ただ、そのすべてが——夏玖微の顔に集まっただけ。


「皆さん。」


穏やかな声。


「まだ、何か言い残すことは?」


空気が、一瞬で冷え切る。



「な、夏玖微くん……」


校長が無理やり笑みを作る。


声が震えていた。


「私たち教師は……ずっと君の味方だったじゃないか……」


「見ての通り、処分もしなかったし、退学にもしていない……」


「保護者からの圧力も、全部こちらで抑えてきた……」


「人として……恩は忘れるべきじゃないだろう?」


言いながら、無意識に後ずさる。



夏玖微は彼を見つめた。


ほんの一瞬、沈黙。



「そう?」


首を傾げる。


「トイレで囲まれてた時——あなた、どこにいたの?」


「階段から突き落とされた時——見てた?」


「それとも……」


声が、静かに落ちる。


「見えてるのは——寄付だけ?」


誰も答えない。


彼女の視線が、ゆっくりと全員をなぞる。


保護者。

生徒。

教師。



「安心して。」


指を一本、立てる。


「半分は——帰してあげる。」


一同が固まる。


「残りは——自分たちで決めて。」



そう言い残し、彼女は扉へ向かう。


バン——!!


古びた木の扉が閉まる。


その直後。


激しい衝撃音が爆発する。


「開けろ!!」


「出せ!!」


「選ばせるんじゃなかったのか!!」


叫び声は次第に混乱し、鋭く、狂っていく。


だが——


その扉は、びくともしなかった。



「域」の別側。


裏世界に引き込まれた生徒たちと、陸念安の担任教師は——


真っ白な、閉ざされた空間に転送されていた。



「ここ……どこ? 先生、怖い……」


女子生徒が震えながら担任を見る。


「くそ……陸念安のやつ、俺を倒したと思ったらここかよ。」


男子生徒が苛立ちを隠さず首を鳴らす。


「まさか……これ、陸念安の仕業……?」


誰かが恐る恐る言う。



「あり得ない。」


担任が即座に否定した。


断言するような口調。


「陸念安みたいな内向的で抑圧された生徒に、こんなことができるわけがない。」


「家庭に迷惑をかけるのを極端に嫌うタイプだ。」


「ああいう扱いやすい“いい子”が、大それたことなんてできるものか。」


そう言って、周囲を落ち着かせようとする。



「——へぇ?」


その空間に、不意に声が響いた。


どこか楽しげな声音。


全員が息を呑む。


気づけば——


一人の少女が、人混みの中に立っていた。



「……誰だ?」


誰かが反射的に問いかける。


少女は軽く首を傾げる。


「それは、どうでもいいよ。」


淡々とした声。


唇が、ゆっくりと弧を描く。


「でも——」


「私は、陸念安の友達。」



夏玖微は、両手をわずかに広げる。


迎えるように。


宣告するように。



「私の“お友達”のみなさん。」


静かな声。


「私の世界へようこそ。」


その笑みを見た瞬間。


生徒たちの背筋に、寒気が走る。



「き、君……何をするつもりだ?」


担任が作り笑いを浮かべる。


だが声は隠しきれずに震えていた。


「話せば分かる——」



夏玖微は思い出していた。


「結合」のときに流れ込んできた、あの絶望。


その冷たさ。


そして——


目の前の人間たちが、さらにそれを煽っているという事実。


彼女は、ゆっくりと首を横に振る。



「あなたたちがやってきたことは——もう言うまでもないよね。」


静かな声。


「後は、自分で償って。」



その言葉と同時に。


白い空間が、ゆっくりと広がっていく。


形を持ち始める。


やがて——学校の構造へと変わっていく。


閉ざされた、処刑場。



無数の黒影が、夏玖微の足元から溢れ出す。


すべて、「域」に溜まった怨念から生まれたもの。


一体一体の力は高くない。


だが——


数が、圧倒的だった。



「ちゃんと償ってね。」



意識を動かす。


次の瞬間。


夏玖微の姿は、雪に覆われた小さな洋館へと移動していた。


この「域」は三つの空間に分けられている。


二つは“処刑”のため。


そして最後の一つが——今、彼女がいる場所。



裏世界は、彼女が離れている間、時間が停止する。


だから——


陸念安は、ほとんど待たされていない。



暖かな洋館の中。


静かに、夏玖微の姿が現れる。


「……おかえり。」


陸念安が小さく言う。


「待たせてないよね?」


夏玖微は軽く笑う。


そのまま手を振る。


すると——


どこからともなく、古い映写機が現れた。


光が空間に映像を映し出す。


そこに映るのは——


“審判”。


逃げ惑う姿。


泣き叫ぶ声。


命乞い。


崩壊。



陸念安は、ただ静かに見ていた。


目を逸らさない。


嫌悪も、同情もない。


ただ——


ゆっくりと手を伸ばす。



夏玖微の手を、そっと握る。


——今度は。


彼女はもう。


置いていかれる側ではない。



それからの二年間、二人はずっとその洋館で暮らしていた。


裏世界に大きな変動は起こらず、時間もまるで意図的に遅くされたかのように、静かに前へと進んでいた。


夏玖微は陸念安に寄り添い、これまで誰にも一緒に叶えてもらえなかった願いを、一つずつ埋めていった。


そこに劇的な理由はなく、記録を残す必要もなかった。


幼い頃の空白が完全に埋まったわけではない。


けれど、その空白はもう彼女を傷つけなくなっていた。


陸念安は時折過去を思い出すことがあったが、それに長く囚われることはなかった。


なぜなら、今の生活は——過去よりもずっと現実だったから。


そして夏玖微は、ずっとそこにいた。



ある、ごく平凡な午後。


裏裏が久しぶりに《裏世界管理手冊》から姿を現した。


「主人、S級任務の達成を確認しました。

『域』は完全に浄化されています。」


小さな体が空中で揺れ、珍しく興奮した声を出す。


「現在、あなたは完全な権限を獲得しています。

裏世界と融合し、さらなる力の向上も可能です。」


「融合を実行しますか?」



夏玖微はすぐには答えなかった。


ただ、自分のものとなったこの世界を見つめていた。


少しの沈黙の後——


静かに頷いた。



次の瞬間。


裏世界全体が“目覚めた”ように揺れた。


力が四方八方から押し寄せ、音もなく彼女の体へと流れ込む。


彼女と繋がっている陸念安にも、その一部が分け与えられた。


だがその直後——


別の“何か”が混ざり込んだ。


それは力ではなく、むしろ「声」に近かった。


無数の囁きが彼女の脳内で弾ける。


抑えきれない怨念のようなもの。


痛みが一気に広がる。


陸念安もまた同じ衝撃を受け、表情をわずかに変えた。



「これは……何?」


夏玖微は眉をひそめた。


裏裏は視線を落とし、小さな頭をゆっくり振る。


「主人、この世界の裏世界は本質的に巨大な“域”です。」


「その声は残留した怨念です。」


「処理しなければ、徐々に思考へ干渉してきます。」


少し間を置き、続ける。


「十分な精神力で封じ込めれば問題ありません。」


「そうでなければ、感情が不安定になります。」



夏玖微は静かに聞き終えると、少しだけ間を置いた。


そして問いかける。


「普通の人は、どの程度で壊れるの?」


裏裏は小さな表を取り出し、淡々と差し出した。


「参考データです。」


00〜20% —— 正常稼働

20〜40% —— 軽度疲労、集中力低下

40〜60% —— 明確な倦怠、思考混乱

60〜80% —— 判断力低下、日常機能に支障

80〜90% —— 精神崩壊寸前、外部支援または介入が必要

90〜100% —— 完全崩壊


夏玖微がその表を読んでいると、陸念安がふと彼女を見て驚いたように言った。


「……髪、どうしたの?」


「ん? 私の髪?」


鏡を見た夏玖微は、思わず口を少し開けた。


——黒髪が、すべて白に変わっていた。


「終わった……」


小さく呟く。



「でも綺麗だと思う。」


陸念安が静かに言った。


「本当?」


夏玖微はじっと彼女を見つめる。


「本当。」


陸念安は頷いた。



夏玖微は少しだけ安心したように息を吐き、口元に笑みを浮かべた。


「じゃあ問題なしだね。」


彼女は軽く笑いながら立ち上がる。


「ふふ、新しい姿で——最初の“お客さん”を迎えないとね!」

【作者からのお願い】


今回の「ざまぁ(報復)」はいかがでしたか?もし「スッキリした!」「もっとやれ!」と感じていただけたら、ぜひ下の【ブックマークに追加】と【評価の☆☆☆☆☆】で応援をよろしくお願いします!


次回はさらに予想外の展開が待っています。お見逃しなく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ