第29話 大学生の冒険-図に乗る~すみませんが、あなたたちの道徳的な強要は受け入れません~
裏世界、数日前。
三人の女子は建築物の頂上に立ち、三人の男子が遠くの廃墟へと歩いていくのを見下ろしていた。
彼らの姿は次第に小さくなっていく。
彼女たちはそれを見て、少しだけ安心した。
彼らならきっと出口を見つけて戻ってきて、自分たちを連れて行ってくれる——そう信じていた。
「ちょっとお願いするだけで、男って結局必死に動くよね」
金髪の少女が得意げに言った。
残りの二人も頷く。
そもそも——自分たちが直接下りるつもりはなかった。
彼女たちは高所から、三つの影が遠ざかっていくのを眺めていた。
そして徐々に気が緩んでいく。
「ねえ?あれ、何してるの?」
ツインテールの少女が眉をひそめた。
遠くの三人は確かに動いているのに、まるでその場で足踏みしているようだった。
距離がまったく縮まらない。
「全然前に進んでないじゃん」
次第に苛立ちが混じる。
「だから言ったでしょ。男なんて結局頭悪い生き物だって」
黒髪の少女が冷たく笑った。
「ただ突っ込むことしかできない、行動力だけのバカ」
そう言うことで、胸の奥にあった小さな不安を押し込める。
三人はしばらく、男子たちを軽口で嘲るようになった。
しかし——
次第に会話は途切れていった。
喉が乾くような沈黙。
時間だけが妙に長く流れていく。
それでも遠くの三人は、依然としてその場にいるように見えた。
近づくことも、離れることもない。
「何やってんの……」
ツインテールの少女の声に焦りが混じる。
「いい加減、早く見つけて戻ってきてよ……」
さらに時間が過ぎたそのとき——
遠くに黒い霧が立ち込め始めた。
最初は薄く。
そして急速に濃くなる。
三人の男子の姿を、ゆっくりと飲み込んでいく。
「え……?」
反応する間もなく、彼らの姿は完全に霧の中へ消えた。
三人の女子は、完全に彼らを見失った。
◇
さらに時間が経つ。
不安だけが膨らんでいく。
しかし、何をすればいいのかも分からない。
そのとき——
二つの影が、彼女たちの前に現れた。
「あなたたちは……?」
どこか見覚えのある二人の少女。
「私は少女J」
白髪の少女が、気だるそうに名乗った。
その瞬間。
金髪の少女の表情が変わる。
「その態度、何?」
不満げな声。
「こんなに待たせておいて、まず謝るのが普通でしょ?」
彼女は当然のように言った。
他の二人も同意するように頷く。
「今さら説明とかいらないから」
金髪の少女は腕を組んだ。
「謝って、それから私たちを戻せばいいでしょ。」
空気が一瞬で凍る。
夏玖微の目がわずかに冷たくなる。
一方、陸念安は何も言わない。
ただその足元に、歪んだ黒い影が静かに広がっていく。
無数の断片が組み合わさったような異様な影。
三人の少女の表情が固まった。
空気が変わる。
「帰すことはできる」
夏玖微が淡々と言った。
「ただし対価として、精神力の10%をもらう」
金髪の少女の顔が歪む。
「それってあなたの仕事でしょ?」
不満げな声。
「なんでお金取るの?」
「精神力」の意味など、理解している様子はなかった。
しかし——強く出れば相手が折れるという経験則だけは知っていた。
「じゃあ考えてみたら?」
夏玖微の声が冷たくなる。
「そもそも、どうやってここに来たと思ってるの?」
「自分で遊んで入ってきたんでしょ?」
「それで後始末まで他人にやらせる気?」
彼女の中で、忍耐はすでに限界に近づいていた。
視線を他の二人へ向ける。
「あなたたちは?」
「10%払って帰る?それともここに残る?」
二人は顔を見合わせた。
しばらく沈黙し——
そして首を振った。
三人揃って拒否すれば、相手が折れると思っていた。
「いいよ」
陸念安が静かに言った。
「じゃあ次からは20%ね。」
その声には、逆らう余地がなかった。
圧が空間を支配する。
その瞬間——
夏玖微が何かを言おうとしたとき。
陸念安がそっと彼女の手を握った。
次の瞬間。
二人の姿は、その場から完全に消えた。
◇
しばらくしてから、夏玖微は再び「救助作業」を始めた。
黒い霧の中で、すぐに一人の男子を見つける。
「君たちは誰だ?」
警戒した様子で、男は突然現れた二人を見た。
「私は少女J」
夏玖微は淡々と答えた。
その瞬間、男の表情が崩れた。
「やっと……やっと来てくれた……!」
今にも泣き出しそうな声。
「お願いだ、ここから出してくれ!何でもするから!」
感情が一気に崩れ落ちた。
夏玖微は彼を見て、軽く笑った。
「簡単だよ」
「精神力の10%を支払うだけ」
彼はほとんど反射的に頷いた。
取引成立。
次の瞬間、彼の姿は裏世界から消えた。
その後に見つけたもう一人の男子も、状況はほぼ同じだった。
同じ恐怖。
そして同じように、迷いなく承諾する。
処理はあまりにも順調に進んだ。
しかし最後の一人だけは——
明らかに「特別」な反応を示した。
二人は裏世界の小さな洋館へ戻っていた。
暖炉では火が燃え、橙色の光が壁を揺らしながら映している。
二人はソファに並んで座り、寄り添っていた。
窓の外は静かな夜。
細雪が音もなく降り続き、世界を少しずつ覆っていく。
「安ちゃん、その男の子、戻ったらどうなると思う?」
夏玖微が気だるそうに口を開いた。
「まずは冷たく笑われると思う」
陸念安は淡々と答える。
「それから、適当に慰められる」
迷いのない口調だった。
夏玖微は小さく「うん」とだけ返し、それ以上は何も言わなかった。
しばらくしてから、再び口を開く。
「ねえ……私が毎日裏世界で問題解決したり人を助けたりするのって、ちょっとバカみたいかな?」
声は少しだけ低い。
「そういうの、無償で尽くす良い人みたいに見えるのかなって」
言い終えたあと、空気が静かになった。
暖炉の薪がはぜる音だけが響く。
しばらくして。
「別にいいんじゃない?」
陸念安が静かに言った。
「自分が楽しいと思えるなら、それでいい」
余計な装飾のない、ただ真っ直ぐな言葉。
夏玖微はすぐには答えなかった。
窓の外に落ちる雪を見つめる。
頭の中が少しだけ空白になる。
——楽しい?
そんな感覚を、いつから失っていたのか——彼女はふと考えた。
今の彼女は、人を救うときに楽しさや満足を感じることはほとんどなかった。
そこに残っているのは、もう習慣だけだった。
そもそも最初に、なぜ人を救おうと思ったのかすら——
もう思い出せなかった。
◇
長い時間をかけて、彼はようやく老朽化した建物の下に辿り着いた。
少し息を整え、休憩する。
そして壁際の鉄の梯子を掴み、一段ずつ登り始めた。
頭の中にあるのはただ一つ。
——彼女たちに「帰る方法」を伝えること。
すでに彼の中では、ある光景が出来上がっていた。
全員が諦めて彼女たちを置いていく中、自分だけが戻ってきた。
唯一、諦めなかった存在。
そのとき彼女たちはきっと、自分に感謝するはずだ。
そして——これまでとは違う目で見るはずだ。
そう考えながら、彼は無意識に登る速度を速めた。
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