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第28話 大学生の冒険-裏世界探検~恋愛脳でも裏世界に突入できる(たぶん)~

「本当にここから出てきて大丈夫なの?」


陸念安は、わずかに疑念を含んだ声で言った。


「だから大丈夫だってば。」


夏玖微は気軽に返し、コートのポケットから懐中時計を取り出す。


黒い外殼は冷たい光を帯びていて、その質感は陸念安の左手の指輪とほとんど同じだった。


彼女は懐中時計の側面のボタンを押す。


カチ——


澄んだ機械音とともに、内側の針がゆっくりと動き始めた。


「裏世界の時間は、ちゃんと私が決めるの。」


彼女は少し顎を上げ、得意げな口調で言う。


「私の言う通りに動くんだから。」


そして陸念安を見る。


明らかに「褒めて」と言いたげな視線だった。


「よしよし、えらいえらい。」


陸念安は笑いながら、軽く頭を撫でる。まるで子供をあやすみたいに。


「……」


夏玖微は呆れたように目を細めた。


「もういいから、早く記者会見行きなよ。」


そう言いながら、半ば押すように陸念安をエレベーターへと押し込んだ。



しばらくして、二人は記者会見会場のバックヤードに到着した。


外は人の声で溢れ、混雑している。


しかし奇妙なことに、誰も陸念安がいつそこに現れたのかに気づいていなかった。


「そろそろ上に出るんだよね?」


夏玖微の声が少しだけ低くなる。少しだけ緊張が混じっていた。


「うん。」


陸念安は頷く。


「外の雰囲気、ちょっと危ないけど……怖くないの?」


陸念安はただ静かに首を振った。


夏玖微はそれを見て、小さくため息をつく。


「まあ、そう言うと思ってた。」


彼女は陸念安の左手を握った。


「一緒に行く。」


「大丈夫。私、見えないから。」


二人は舞台へと上がる。


陸念安がステージに足を踏み入れた瞬間——


会場中の視線が一斉に彼女へ集まった。


彼女は演壇に立ち、冷静で落ち着いた表情のまま口を開く。


「本日、皆様に当日の出来事についてご説明いたします。」


はっきりとした声。


「まず第一に、私はこの婚約について事前に一切知らされていませんでした。」


「そして一人の人間として、自分の人生を選択する権利があります。婚約を拒否したことに、誤りはないと考えています。」


一瞬、間を置く。


「次に、私が投資している陸氏グループについてですが——」


「父の経営判断は、会社に明確な悪影響を及ぼしていると判断しています。」


彼女の語りは終始冷静で、論理的に見えた。


説明も、記者の質問への対応も、ほとんど隙がなかった。


こういった場面には慣れているようだった。


いつも通り、完璧にこなしていく。


それでも——


スポットライトの下で一人立つ孤独だけは、消えないままだった。


しかし今回は違った。


左手に確かに伝わる温もりがある。


彼女はほんのわずかに指を強く握り返した。


理解していた。


今回は、一人じゃない。



三人の男子は、遠くの廃墟へ向かってゆっくりと歩いていた。


「なあ、なんかここってあんまり疲れない気がしない?」


そのうちの一人が、少し不思議そうに言う。


「ほんとだ。」


「俺、普段ちょっと歩いただけで腹減るのに、今は平気だな。」


彼は時間を確認した。


「……もう何時間か経ってるよな?」


少し間を置く。


「おかしくない? 時間飛んでない?」


他の二人も画面をちらっと見る。


「スマホの不具合じゃね?」


「ここ電波も変だし。」


三人は深く気にしなかった。



しばらくして。


「なあ……月月たち、待たせすぎじゃない?」


二人は顔を見合わせ、呆れたような表情をした。


「まず、ちょっと恋愛脳すぎない?」


一人が思わず突っ込む。


「今どこにいるかも分かんねえのに、彼女の心配してる場合か?」


「まず自分たちのこと考えろよ。」


もう一人も続ける。


「帰り方すら分かんないのに、助けに行くとか無理だろ。」


言われた男は少し気まずそうに黙り込んだ。


三人はしばらく沈黙したまま歩き続けた。



どれくらい歩いただろうか。


「……結構歩いてない?」


誰かが足を止める。


「そうかもな。」


彼らは遠くの廃墟を見上げた。


距離はほとんど変わっていないように見える。


「方向間違えた?」


「いや、道は一本だろ。」


「じゃあ、この世界が広いだけか?」


軽く話し合ったが、結論は出なかった。


再び歩き始める。



さらにしばらくして。


空気が少しずつ霞み始めた。


最初は気のせいかと思うほどだったが、徐々に視界がぼやけていく。


「……霧?」


「さっきあったか?」


「知らん。天気変わっただけじゃね?」


三人は歩く速度を少し落とした。



次の瞬間。


霧というより、距離感そのものが曖昧になっていく。


「おい、お前らいる?」


「いるって。」


「横にいるよ。」


声がどこか遠い。


空気の層を一枚挟んだようだった。


彼らは少しずつ近づこうとしたが、異常には気づかない。



さらに時間が経つ。


急に周囲が静かになる。


「……お前らいる?」


返事はない。


いわゆる“恋愛脳”の男が手を伸ばす。


何も触れない。


「……え?」


霧がさらに濃くなる。


視界はほぼ消えかけていた。


彼はその場に立ち止まったまま動かない。



霧はどんどん厚くなる。


声は遠ざかっていく。


まるで引き離されるように。


呼びかけても、返事は弱くなるだけだった。


やがて完全な静寂。


三人はとりあえずその場で止まることにした。



どれくらい経ったのか分からない。


彼は感覚だけで座り込んでいた。


時間の感覚が曖昧になる。


「……ちょっと長くないか?」


しかし答えはない。


ただ霧が晴れるのを待つしかなかった。



ぼんやりとした視界の中、前方に二つの人影が現れる。


白髪の少女と、黒髪の少女。


どこか見覚えがあるような気もした。


「……誰だ?」


白髪の少女は彼を一瞥する。


「私?少女J。」


「帰りたい?」


「今なら送ってあげる。」


男は一瞬固まり、すぐに焦ったように言った。


「じゃあ……友達は?」


「他の二人の男?」


少女は淡々と答える。


「もう戻してあるよ。」


彼はほっと息をついたが、すぐに続ける。


「じゃあ……残りの三人の女の子は?」


「まだ送ってない。」


男は一瞬言葉を失う。


それでも勇気を振り絞るように言った。


「じゃあ……一緒に戻って探せない?」


その瞬間、隣の黒髪の少女が眉をひそめる。


「指示する立場?」


男は慌てて手を振った。


「ち、違う!そういう意味じゃなくて……!」


言葉がまとまらない。


白髪の少女は彼を見たまま、少しだけ興味を持ったように言った。


「別にいいよ。」


「先に戻って。」


「あとで、私が行く。」


その言い方はあまりにも軽かった。


まるで大したことでもないように。


――そして彼女は、ほんの少しだけ興味を抱いていた。


この男が望んでいる“結果”が、本当にあるのか、確かめてみたかった。


白髪の少女は軽く手を振る。


残っていた黒い霧が完全に消えた。


「帰っていいよ。」


その言葉と同時に——


二人の姿は消えた。



男はその場に立ち尽くす。


数秒後、ようやく現実に戻る。


周囲を見渡す。


そこは、さっきまで歩いていた廃墟だった。


彼は振り返る。


遠くに見える建物。


胸の奥に強い衝動が生まれる。

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