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第27話 大学生の冒険-エレベーターゲーム~私たちは本当に「向こう側」に到達した~

ある怨念の集合体が、訳も分からぬまま一枚の硬貨の中へ吸い込まれた。


自分に何が起きたのか、それは理解できなかった。


ただ、ぼんやりと分かっていたのは――


誰かが、自分に問いかけているということ。


そして、自分はただ答えればいい。


答えるだけで、どこか見えないところから、何かしらの見返りが得られる気がした。


だからそれは、一つ一つの問いに丁寧に答え始めた。


ある答えは、自らの力で探し出すことができた。


ある答えは、意味そのものが理解できなかった。


でも、それで構わない。


質問してくる人間たちは、どこか楽しそうだった。


それだけで十分だった。



だが――その質問が現れる。


「じゃあ……私たちに何かあった時、彼女は助けに来てくれますか?」


その瞬間。


それは初めて、より深い力を使った。


確かめるために。


その存在が、本当に応答するのかを観測するために。



――その刹那。


遠く離れた場所で、夏玖微がふと動きを止めた。


感じ取ったのだ。


極めて微細でありながら、規則性を持った“視線”を。


それは単なる視線ではない。


――“何か”に覗き込まれているような感覚だった。

彼女は顔を上げ、その「視線」を逆に辿る。


感覚は距離も空間も貫き――


最後に辿り着いたのは、


取るに足らない、小さな怨念。


「……」


夏玖微は一瞥した。


敵意もなければ、興味もない。


ただ単純に、


「それが何なのか」を確認しただけ。


そしてすぐに視線を外し、再びしゃがみ込む。


地面の雪を掴み、そのまま陸念安へ軽く投げつけた。



――だが。


その一瞬の“視線の交差”は。


硬貨の中の存在にとって――


それは――まるで深淵そのものに見返されたような感覚だった。


自分とは比較にもならない存在に、何の遮蔽もなく見下ろされる。


恐怖が、一瞬で爆発する。


それは、自分が何を見たのかすら理解できなかった。


ただ本能だけが叫んでいた。


触れてはならない。


絶対に、触れてはならない。



――ふ、れ、て、は、な、ら、ぬ。


硬貨は震えながら、一文字ずつその言葉を綴っていく。


教室の中。


綾澄はその文字列を見つめ、わずかに顔色を変えた。


彼は隣の二人を見る。


どうやら、彼女たちは意味を理解していないらしい。


「これ、どういう意味?」


曉月が興味深そうに尋ねる。


綾澄は少し沈黙してから答えた。


「……触れてはならない、だ。」


低く、重い声だった。


彼は“少女J”が何者なのか知らない。


だが、一つだけ確信していた。


――それは、決して関わってはいけない存在だ。


むしろあの瞬間、


こっくりさんそのものですら、そこまで危険には思えなくなっていた。


「儀式を終わらせろ。」


綾澄はすぐに口を開く。


「こっくりさん、お帰りください。」


その言葉が落ちた瞬間――


硬貨が激しく滑った。


まるで“逃げ出す”ような勢いで「はい」へ飛び込み、


そのまま鳥居へ一直線に走る。


そして――停止した。


二度と動くことはなかった。



「……なんだ、結構面白かったじゃん?」


何も起こらなかったことで、曉月は笑いながら言った。


だが綾澄は返事をしない。


彼は立ち上がる。


「俺は先に帰る。」


「今日は“おもてなし”ありがとうございました、後輩。」


必要以上に丁寧だった。


だが、その距離感は明らかだった。


そう言い残し、彼はそのまま教室を出ていった。



「えー、綾澄ってほんとビビりだね」


「安心してよ、月ちゃん。俺は最後まで付き合うからさ」


綾澄が去っていく方向を見ながら、曉月の機嫌は目に見えて悪くなる。


隣の先輩は、自信満々にそんな言葉を付け加えた。



「四隅の遊び、どうだった?」


四人と合流したあと、曉月が興味津々に尋ねた。


「えっと……別に、何もなかったよ。」


ツインテールの女子が小さな声で答える。


「四隅の遊びなんて、ただの作り話だよ。」


彼女は少し間を置いて、付け加えた。


「でも終わったあとに『暗いよ~、怖いよ~』って言って、先輩に守ってもらえるなら、結構お得かも。」


「え、綾澄先輩は?」


黒髪ロングの女子が尋ねる。


「先に帰っちゃった。」


曉月の声には、少しだけ落胆が混じっていた。


けれどすぐに顔を上げる。


「でも大丈夫。次の都市伝説、続けて挑戦しよ。」



いくつかの都市伝説を試したあと、七人は最後の場所へ辿り着いた。


十階を超える古びたビル。


「最後は――エレベーターゲーム。」


曉月は興奮した声で言った。


まるで、胸の奥に空いた何かを刺激で埋めようとしているみたいだった。



七人はエレベーターへ乗り込む。


順番に押した階は――


4、2、6、2、10、5。


そして最後に、暁月が「1階」を押した。



都市伝説では、途中の階で謎の女が現れるという。


だが、何も起こらなかった。


エレベーターは静かに下降していく。


――その時。


再びボタンを見た曉月の動きが、不意に止まった。


「……え?」


一階のボタンが、消えていた。


「壊れた……?」



次の瞬間。


エレベーターが上昇を始める。


どこまでも、上へ。


十階。


チン――


古びたベルの音が鳴り、扉がゆっくりと開いた。



外にあったのは、フロアではなかった。


広々とした屋上。


空は不自然な白灰色で、まるで色彩だけが削り取られた世界のようだった。


夜でもない。


昼でもない。



曉月は慌てて振り返り、階数ボタンを押そうとした。


だが――ボタンを見た瞬間、固まる。


「……なくなってる。」



残りの六人も、一気に動揺した。


ざわざわとした囁き声が広がる。


後ずさる者。


立ち尽くす者。


それでも結局、彼らは一歩ずつエレベーターの外へ出た。



振り返る。


エレベーターの内部は、すでに変わっていた。


金属製の空間ではない。


そこにあったのは、狭く見知らぬコンクリートの小部屋だった。



「下、行ってみる?」


唯一地上へ続く鉄梯子の前で、三人の男子が小声で相談する。


「この梯子、本当に大丈夫か?」


「でも、下へ行く道これしかないだろ。」


「じゃあお前が先に行けよ。」


「……女子たちに聞いてみる?」


数人は女子たちの方を振り返った。


返ってきたのは沈黙だけだった。



しばらくして。


「じゃ、じゃあ……私が行こうかな。」


曉月が一歩前に出る。


声は少し震えていた。


「でも、ちょっと怖くて……」


彼女は男子たちを見上げる。


無垢そうな視線と、必死に勇気を出しているような表情。


その瞬間、一人の男子がすぐに前へ出た。


「……じゃあ、俺が行ってみるよ。」


内心では、妙な優越感が湧いていた。


まるで当然のように、“ヒーロー役”を果たしている気分だった。



彼は梯子の端へ歩み寄る。


下を見る。


高さは六、七階ほど。


胃が一気に沈んだ。


それでも退かなかった。


鉄棒を握り、ゆっくりと一段目へ足をかける。


もう一段。


さらにもう一段。


そして――


ようやく地面へ辿り着いた。


彼はすぐに顔を上げ、大声で叫ぶ。


「大丈夫! 梯子、安全だ!」


「よし、じゃあ俺も行く。」


別の男子も続いた。



まだ上に残っていた男子が振り返る。


「みんなも降りる?」


「その……」


女子たちは互いに顔を見合わせ、言葉に詰まった。


微妙な空気が流れる。



「私たちは、ここに残ったほうがいいかも。」


曉月がふいに口を開いた。


「もしここが……唯一安全な場所だったら?」


不安そうな口調。


けれど、妙に説得力があった。


心配しているようにも、合理的な判断にも聞こえる。



男子は少し迷い、隣のツインテールの女子を見る。


彼女はにこっと笑った。


それだけで、彼は安心してしまった。


「わかった。じゃあ、俺たち先に見てくる。」


そう言って、鉄梯子を掴み、ゆっくりと降りていった。



地上。


三人の男子が合流する。


「なんであいつら降りてこないんだ?」


一人が尋ねる。


「安全地帯を守るとか言ってた。」


別の一人が肩をすくめた。


二人は顔を見合わせ、小さくため息をつく。


「まあいい。とりあえず向こう見てみよう。」


彼らは遠くの廃墟群を見やる。


「行くか。」


三人は廃墟の方へ歩き出した。



屋上。


空気が、一瞬静まり返る。


そして――


曉月が笑った。


「ほらね。」


「少し弱そうにしてれば、男って勝手に助けてくれるんだよ。」


軽い口調。


まるで何でもない話をしているかのようだった。


誰も笑わない。



「でも――」


ロングヘアの女子が口を開く。


声音は静かだったが、少し冷たい。


「そもそも、私たちをここに連れてきたのって誰?」


曉月の表情がわずかに固まった。


「……みんなだって、遊びたかったんじゃないの?」


声に苛立ちが混じり始める。


「だって最後にエレベーターゲームやろうって言ったの、あんたじゃん!」


ツインテールの女子が声を荒げた。


ついに感情が爆発する。


「それまでは普通だったのに!」



「はぁ?」


曉月が眉をひそめる。


「普段あれだけ面倒見てあげてるのに、ちょっとトラブル起きたくらいでそれ?」


「男に媚びるのが上手いだけでしょ。」


ロングヘアの女子が冷たく返した。


空気が一瞬で張り詰める。


まるで、何かが引き裂かれたようだった。


「……」


曉月は黙ったまま。


その目だけが冷えていく。



「まあまあ。」


ツインテールの女子が慌てて場を収めようとする。


「今は喧嘩してる場合じゃないって。」


「男たちが出口探してくれれば、きっと出られるよ。」


「そうそう。」


他の女子たちも同調した。


空気は再び軽くなる。


まるで何も起きなかったかのように。



少し離れた場所で。


夏玖微と陸念安は、その一部始終を静かに見つめていた。


陸念安が小さくため息をつく。


「……まだ助けなくていいかも。」


淡々とした口調だった。


「まだしばらくは、このままでいい。」


夏玖微は彼女をちらりと見る。


少し沈黙してから。


「……そうだね。」


次の瞬間。


二人の姿は、その場から消えていた。

【作者からのお願いと感謝】


いつも応援ありがとうございます!

最近、一気に最新話まで追いついてくださった読者様がいらっしゃることに気づき、本当に感動しております。執筆の大きな励みになっています。


さて、連載中の第一巻ですが、執筆自体は間もなく最終回を迎えようとしています。

公開の方も、あと2週間ほどで第一巻のクライマックス・完結となる予定です。


もしこの物語を「面白い」と感じていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!皆様の反応が、完結まで走り抜ける力、そして第二巻へ向かう大きな原動力になります。


感想やご意見もお気軽にどうぞ。一通一通、大切に読ませていただきます!

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