表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/28

第19話 君のために存在する-結婚

山田の話を聞き終えた後、夏玖微は落ち着いた口調で言った。


「あなたの願いを一つ、叶えてあげる。」


「でも……」思いがけず恩恵を得た山田は、かえって不安そうな表情を浮かべる。


「でもじゃないって。チャンスなんだから、ちゃんと掴みなよ。」


陸念安は彼のやや怯えた様子を見て、淡々と言った。


「じゃあ……お金が欲しいです。」


「お金ね。それは彼女に聞いて。」


夏玖微は首を傾げ、ぽいっと彼女に振る。


「二千万円あげる。」


陸念安はまるで些細なことのように、平然と口にした。


「それはちょっと……多すぎるのでは……」


「少なかった?」


彼女はわずかに眉を上げる。


「じゃあ三千万円でどう?さすがにこれ以上は言わないよね?」


山田は完全に固まり、思考が一瞬止まったようだった。


「い、いえ!三千万円は本当に多すぎます……!」


「三千万円って言ったら三千万円よ。連絡先を残して。後は助手が処理するから。」


夏玖微は少し面倒そうに手を振る。


山田は半ば呆然としたまま情報を伝え、やがて現実へと送り返された。



東京のとある部屋。


白石小透はその場に立ち尽くし、ほとんど変化のない室内を見つめていた。


胸の奥で、不安がじわじわと広がっていく。


時間は、山田が普段買い出しに出る時間の三倍をすでに過ぎていた。


あの、存在感が薄く、今にも消えてしまいそうな人――


いざいなくなると、逆に強く意識される。


それが、彼がいる日々がどれほど安定していたかを、よりはっきりと実感させた。


壁の時計が、コチコチと音を刻む。


配信の時間が近づき、彼女は感情を押し殺して、無理やり配信を開始した。


「こんばんは、透羽です。」


「それじゃあ……今日の配信、始めます。」


こんなにも辛い配信は初めてだった


ずっと一人でいるよりも、

一度手に入れてから失う方が、はるかに耐えがたい。


時間が引き伸ばされたように感じられ、

一秒一秒が重くのしかかる。


この半年、確かに少しずつ良くなっていたはずなのに――


この瞬間、すべてが空っぽになったようだった。


(きっと何かあっただけ。すぐ戻ってくる。)


(もしかしたら……サプライズの準備かも。)


そう自分に言い聞かせる。


だが、抑え込むほどに思考は乱れていく。


数時間後、配信を終えても――


部屋には、誰もいなかった。


「……そこにいるの?」


震えるような小さな声。


「……戻ってくるよね?」


ついに声が崩れ、彼女は小さく泣き出した。


この半年、確かに今までにない安心を感じていた。


それでも同時に、ずっと不安もあった。


彼の存在は、あまりにも不確かだった。


もしかすると――山田は、自分の幻想だったのではないか。


もし彼が消えたら、それはつまり――


最初から、誰にも必要とされていなかったということなのではないか。


そして今、その最も恐れていた可能性が、現実になりかけていた。



一方その頃。


山田は裏世界に戻ると、すぐに資産の受け取り手続きを済ませた。


その後、指輪と、大きな赤いバラの花束を買った。


抑えきれない高揚を胸に、彼は現実へ戻る。


今度こそ、もう無視されることはない。


――彼女に、ちゃんとプロポーズするんだ。


扉を開ける。


部屋は暗く、かすかな泣き声だけが響いていた。


「……どうした?」


声を頼りに進む。


そこにいたのは、涙でぐしゃぐしゃになった白石小透だった。


「小透……どうしたんだ?」


彼女は彼を見る。


バラの花束を。


そして――確かにそこにいる、彼の姿を。


一瞬で感情が溢れ出す。


泣くべきか、笑うべきか――もう分からない。


「あ……」


思考を放棄したように、彼女はそのまま彼に飛びついた。


「どれだけ待ったと思ってるの……!」


「……本当に、急にいなくなるんじゃないかって、怖かった……!」


泣きながら、何度も拳で彼を叩く。


山田は苦笑しながら、それを受け止めるしかなかった。


長い時間のあと、ようやく彼女は落ち着く。


山田は深く息を吸い、片膝をついた。

指輪を取り出す。


「小透。俺と結婚してくれないか?」


その夜。


東京の役所の前に――


また一組、新しい夫婦が誕生した。



窓の外では雪が舞っている。


小さな洋館の中で、陸念安は収録したばかりの物語を、静かに窓辺の本棚へと収めた。


「相変わらず、物語を集めるのが好きだね。」


夏玖微は彼女を見ながら、思わずため息をつく。


「今回の話も、なかなか面白いと思わない?」


彼女は本棚を整えながら、軽く答えた。


「……確かに。」


夏玖微は一瞬ぼんやりとし、少ししてから意識を戻す。


「ねえ、安ちゃん。人が一生で目指すものって、何だと思う?」


その声には、珍しくわずかな物寂しさが混じっていた。


陸念安は首を傾げて彼女を見て、気楽な口調で言う。


「どうしたの、その顔。人生なんてまだ長いんだから、いずれ見つかるでしょ。」


「じゃあ、あなたは?」


夏玖微はじっと見つめる。


「自分の意味、見つけたの?」


陸念安は小さく頷いた。


「うん、見つけたよ。」


「じゃあ教えて。」


「だめ。秘密。」


彼女は少しからかうように笑う。


「……じゃあ、そのうち絶対教えてね。」


二人はしばらく見つめ合う。


短い沈黙のあと——


夏玖微の気配が、ふっと抜けたように弱まった。


「お腹空いた?帰ってご飯作ってあげる。」


彼女は視線を逸らしながら言う。


「いいね。」


陸念安は自然に応じた。


二人は顔を見合わせて笑う。


その笑みは淡く、静かで——それ以上、言葉は続かなかった。


やがて二人は、現実世界の小さなアパートへと戻った。



食卓には出来たての料理と飲み物が並び、まだ湯気がほのかに立ち上っている。


陸念安と夏玖微は並んで座り、窓の外の夜景を眺めていた。


街の灯りは静かに流れ、まるで遠くの止まらない星の川のよう。


その中で、彼女たちは珍しく足を止めている。


この静けさの中では、時間さえ柔らかく感じられた。


「実はね、人生の目標って、そんなに大げさじゃなくてもいいと思う。」


陸念安は隣の彼女に視線を向け、静かに言う。


「こういう時間が……それだけで十分かもしれない。」


夏玖微はすぐには答えなかった。


窓の外を見つめるその視線は、ガラスに映る二人の重なった姿を捉えていた。


「……そうだね。」


彼女は小さく応じる。その声は珍しく柔らかい。


「ずっと、こんなふうにいられたらいいのに。」


その言葉は軽く発せられたが、決して軽い意味ではなかった。


夕食を終えると、夜はさらに深まった。


部屋の中は静まり返り、かすかな呼吸音だけが残る。


夏玖微はベッドに横になっても、なかなか眠れなかった。


頭の中で、さっきの陸念安の言葉が何度も繰り返される。


——「これで十分かもしれない」というあの言い方が、妙に引っかかっていた。


彼女は寝返りを打つ。


隣では陸念安がすでに目を閉じ、穏やかな呼吸をしている。


無防備なその姿。


窓から差し込む月明かりが、彼女の横顔を静かに照らし、柔らかく浮かび上がらせていた。


夏玖微はその姿を見つめる。


すると、さっきまでのまとまらない思考が、ふっと薄れていく。


悩みなんて、たいしたことじゃないように思えてきた。


彼女は静かに息を吐き、視線を逸らす——


それでも、もう一度だけ、見てしまう。


そして最後には、取るに足らない思考をすべて手放した。


残ったのは、この瞬間の安らぎと——


隣にいる、この人だけ。


やがて彼女は、ゆっくりと目を閉じた。

【作者より、大切なお願い】


ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

勝手なお願いかもしれませんが、作者から小さなお願いがあります。もしこの作品を少しでも「面白い」と思ってくださったら、ブックマーク登録と評価(☆☆☆☆☆)をお願いできませんか?


実は私は学生で、この物語を書くことは一つの大きな「夢」の実現でもあります。忙しい学業の合間に毎日更新を続けるのは、時に大きな根気が必要ですが、皆様の応援が私の背中を押してくれる最大の力になります。どうか、執筆を続ける勇気を分けてください。


物語のボリュームについてはご安心ください!今後の展開はすべて設定済みです。地球編だけでも三巻分、その先には異世界編も待っています。

夏玖微たちの物語を最後まで描き切れるよう、温かい応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ