表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/25

第15話 秋葉原デート-メイド喫茶~否定しているはずなのに、気づけば距離がどんどん近づいてくる~

二人は秋葉原の街を歩いていた。


人の流れは絶えず、ネオンと看板が交錯し、空気には音楽と人声が混ざり合っている。


彼女たちは並んで歩く。


意図したわけではない。けれど、下げた手がある瞬間、そっと触れ合った。


そして、そのまま離れない。


指先が試すように触れ、やがて絡み合い、ゆっくりと重なっていく。


どちらも口を開かない。


それでも、どちらも手を離さなかった。



「たぶんここだ。」


陸念安は看板を見上げ、落ち着いた声で言った。


彼女は手を離さず、そのまま夏玖微を連れて店の中へ入る。


ドアベルが揺れる。


チリン——


「お帰りなさいませ、お嬢様。」


ショートヘアのメイド服を着た店員が一歩前に出て、スカートの裾を軽く持ち上げ、丁寧な礼をした。動きは滑らかで優雅だった。


彼女は認定カードを二枚差し出し、微笑みながら席へ案内する。


「こちらがお二人のお嬢様のお席です。ご注文が決まりましたらお呼びくださいませ。」



メイドが去ったあとも、夏玖微は少し呆然としていた。


「このサービス、ちょっと特別すぎない……?」と声を潜める。目は輝いている。


「でも正直——」彼女は頬杖をつき、向かいを見る。


「あなたの方が、お嬢様っぽいよね。」


「そうか?」陸念安は片眉を上げる。


「じゃあ私も一着買おうかな。」夏玖微は急に悪戯っぽく笑った。


「メイド服着て、毎日“お帰りなさいませ、お嬢様”って言うの。」


さっきの店員の口調や仕草を真似して、わざとらしく再現する。


「ぷっ。」陸念安は思わず笑ってしまう。


「本気だけど?」と夏玖微はスマホを見下ろす。


「今すぐ注文しようかな。」


「……ちょっと待て——」


止める間もなく、注文は完了していた。


「え、本当に買ったのか?」陸念安は立ち上がり、身を乗り出してスマホを奪う。


画面には購入完了の表示。


彼女は一瞬だけ見つめる。


頭の中に、ある光景が勝手に浮かんだ。


少しの沈黙。


それからスマホを返す。


「……まあ、買ったなら仕方ない。」小さく咳払いして、平静を装う。


「本当に手のかかるやつだ。」


「へぇ?」夏玖微は目を細め、笑みを深くする。


「もしかして……見たいの?」


陸念安は視線をそらした。


頬が、ほんのり赤くなる。


「別に。」


「嘘だ。」


「……」


夏玖微はそのままテーブルに突っ伏して笑う。


「この大スケベ。」



料理はすぐに運ばれてきた。


「お嬢様、こちらがケーキとお飲み物でございます。」


メイドは手際よく料理を並べていく。


「お料理に“おいしくなる魔法”をかけましょうか?」


夏玖微は頬杖をつき、少し考えた。


「じゃあ、一回だけお願い。」


「かしこまりました〜」


メイドは甘い笑顔を浮かべ、少し大げさな可愛い仕草で、恥ずかしいほどの“呪文”を唱え始める。


まるで儀式のようだった。


終わると、夏玖微は「なるほど」という顔をする。


そして陸念安を見た。


「あなたもやってみる?」


目を大きく開き、明らかな期待を込めて。


まるで、頷くまで離さないとでも言いたげに。


陸念安は小さくため息をついた。


「……いいよ。」



次の瞬間。


夏玖微が立ち上がる。


動きはさっきのメイドとほとんど同じだった。


声色、仕草、表情までわざとらしく誇張されている。


「これでお料理がもっとおいしくなりますよ〜、お嬢様〜」


最後はわざと語尾を伸ばした。


陸念安はそれを見て、少し呆れたような気がした


でも同時に——少し、可愛すぎるとも思った。


胸の奥が、ほんのわずかに揺れた。



「お二人、すごく仲良しですね。」


近くにいたメイドが、思わず笑いながら言った。


「わたしたちは——」


「違う——」


二人はほぼ同時に否定する。


しかし、そのまま言葉が詰まった。


空気が一瞬固まる。


「ふふ、百合ってやつですね。」メイドはウインクする。


「周りが眩しいくらいですよ。」


そう言って、意味深な笑みを残して去っていった。



静寂。


短く、落ちる。


二人は一瞬だけ視線を合わせ、すぐに逸らした。


「私たち……ただの友達、だし」


夏玖微が小さく言う。


少し不自然な声。


誰かに言い聞かせるようであり、自分に言い聞かせるようでもあった。


「うん。」


陸念安は頷く。


だが視線を落としたまま、胸の奥がわずかに沈む。


——ただの友達。


その言葉が、少しだけ痛かった。



「あ。」


夏玖微が急に声を出す。


スプーンでケーキをすくい、陸念安の前に差し出した。


「口開けて。」


当然のような口調。


拒否を許さない期待が混ざっている。


「……」


陸念安は一瞬だけ固まる。


そして、口を開いた。


ケーキは柔らかく、バニラとクリームの甘さが広がる。


そして——そのスプーンは、彼女が使ったものだった。


その事実が、遅れて頭に浮かぶ。


心臓が一瞬だけ跳ねた。


「おいしい?」


「……うん。」小さく答える。


「よかった。」


夏玖微は笑い、また一口すくう。


「あなた一口、私一口。」


それが当然のように。



一口、また一口。


ゆっくりとしたリズム。


距離は、むしろ近づいていく。


さっきの「ただの友達」という言葉は、いつの間にか薄れていた。


代わりに、もっと踏み込んだ親密さがそこにあった。



「次、私。」


陸念安がスプーンを受け取る。


その笑みは淡い。


けれど、いつもより柔らかい。


どこか引き寄せるような気配すらあった。


夏玖微は少しだけ目を瞬かせる。


しかし、離れない。



二人は互いに食べさせ合い、


飲み物を交換し、


指先が時折触れても、どちらも引かなかった。


まるで先ほどの否定を、少しずつ塗り替えるように。



店を出る時。


「お嬢様、またのお帰りをお待ちしております〜」


メイドの見送りの声の中、二人は外へ出た。


街は相変わらず賑やかだった。


しかし歩幅は少しだけゆっくりで。


そして、手は再び繋がれていた。


今度は、さっきよりも自然で、少しだけ強く。


言葉はない。


けれど、その間に生まれた感情は確かにそこにあった。


——甘すぎる何か。


認めるにはまだ早いのに、もう少しも離したくないもの。

【作者からのお願い】


二人の関係が少しずつ動き出しました……!

「夏玖微と陸念安を応援したい!」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク登録】と【評価☆☆☆☆☆】をお願いします!


皆さんの評価一つで、作者のモチベーションが限界突破します。ぜひ、あなたの清き一票を夏玖微と陸念安に!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ