異世界転生したらやりたかったこと
ピロン
静寂と闇に包まれた世界の中で、一際目立つその電子音が、数分ぶりに鳴り響いた。
タカシの視界には、暗闇の世界から雲一つない青々とした空に、見渡す限りの大草原が広がっていた。少しばかりの風が心地よく、季節は春なのだろうか。
身なりは、今朝確かに着ていたはずのスーツではなく、青い布生地のチュニックに黒ズボンの姿となっていた。村人Aか俺は。
しばらく何もない草原を歩いてみる。膝くらいに伸びた草を踏み潰しながら、とりあえず歩く。何もない。なんなんだこれ。
ピロン
ーこれよりチュートリアルを始めます。
あ、俺の好きなアナウンサー。
ーあなたは、この世界では、なりたい自分になれます。どんな自分になりたいか、念じてください。3分差し上げます。
ーよく考えて念じてくださいね。この世界で魔王ユジンを倒すための、最初の一歩です。
タカシに迷いはなかった。ずっとこの世界を待っていたからだ。
異世界転生したら、魔法を使いたい。
魔法だけだと魔力が切れたときにやられるから、剣術も覚えたい。
魔法戦士だよなやっぱ。
あとは、モンスターテイマー。魔物を仲間にして、みんなで楽しくラスボスを倒しにいくんだ。
そしてお姫さまと末長く幸せに暮らしましたとさ。
むふふ。
と、いつもの妄想を3分間、全力で念じた。
体感的には30分くらいに感じていた。
ピロン
ー3分経ちました。しっかり念じましたか。
ーそれでは、あなたの職業、ステータスはこちらです。
ー早速、モンスターとの戦闘を行っていただきます。準備ができたら念じてください。
え?そんな重要なこと3分念じただけで決めたのか…。
タカシは30分念じた勢いだったが、もっと念じることがあったのではないかと少しだけ後悔した。
まあいいか。悔やんでもしょうがない。
で、職業やらステータスやら、どうやってみるの?
"ステータス"とか言えばいいのかな。
ブオン
ステータス画面がタカシの目の前に表示された。どうやら正解だったらしい。
タカシ lv.1
職業:夢追い人
戦力値:100
スキル:魔法lv.1,剣術lv.1,調教lv.1,仲間lv.1,姫君lv.1
うむ、全くわからん。職業が夢追い人ってなんだよ。魔法戦士はどこいった。勇者とか賢者とか、王道でよかったのに。
ステータスウィンドウに色々と表示されているものの、中身の解説がない。姫君lv.1が1番意味わからん。まあモンスターと戦いながら覚えるしかないか。
タカシは、いつでもモンスターぶっ倒してやるわ、と念じた。今回は3秒くらいの感覚で念じた。
キキィィィーーー
何もない草原の上に突如現れた。耳が長く、目はギラリと大きく見開き血のような赤色をしている。全身は緑の体で右手にナイフを持っている。
ゴブリンだ。
タカシは直感した。
ゴブリンを倒すことがチュートリアルか。
よし、やってやる。
キキッ!!
ゴブリンはタカシに向かって駆けてきた。ザッザッと草の軋む音が聞こえる。右手のナイフを振り上げる態勢に入った。
タカシは冷静にその様子を見ながら、念じた。
異世界転生したらやりたかったこと。
それは3分の中でも初めに浮かんだこと。
魔法。
夢の中でおそらく最も使っていたであろう魔法を、ゴブリンに向け、右手を握りながら腕を伸ばし放つ。
燃えろー!
ファイヤーとか、某ゲームの魔法で使う名前ではない。純粋に手から火を強く出せるよう念じ、"燃えろ"という固有名詞で火を放った。
ビギャアアア
ゴブリンは全身が火に包まれ、黒煙が天に昇っていき、瞬きした次の瞬間には白い灰に変身していた。
一瞬で焼き尽くしたのである。
これだよ!これがやりたかったんだ!
タカシは嬉しさのあまり、誰もいない草原に響き渡るように叫んだ。




