お望みどおり、異世界へ
朝、7時。起床。
今日はまだ水曜日。週の半ば。
あーユウジから言われてた資料まだできてねーや。電車乗りたくねぇ。またグチグチうるせぇんだろうな。
ベットから起き上がる前に、ひと通り出勤したら起きるであろうことをシミュレーションするタカシ。
いつもの朝。いつもの日常である。
目が開かないうちに起き上がり、心を無にしてスーツに着替え身支度するその姿は、どこにでもいる35歳独身サラリーマンそのものだ。
誰もいない部屋に向かい『行ってきます』と、心の中で念じるタカシ。いつもの家を出る前の儀式である。
なんだか風が強いな。雨も降りそうだ。さっさと駅に向かおう。
タカシは通勤で利用しているいつもの駅に早歩きで向かった。
黄色い帽子がタカシの視界を横切った。
小学生の帽子だ。風で飛ばされたのか。
タカシは帽子が飛んできた方向に振り返った。
絶句した。
帽子を追いかけてきた少女に向かって、トラックが彗星のごとく近づいている。
うぉっ!危ねぇ!
タカシはまた心の中で叫んだ。同時に少女の元へ光のごとく向かっていった。
………………………………………
あれ?
真っ暗?夜?
あれ?あの少女は?どうなった?
…あ。トラックか。
タカシは今朝起きた時と同じように、自分がなぜこの暗闇の中にいるのか現状把握を開始した。その結果、自分がトラックに轢かれて死んだのだと仮説を立てた。
もし死んだのなら…いや…死んだことないからわかんないけど…痛いとか辛いとか何も感じないのか…。
仮説の検証を続けていると、電子音と昔好きだった女子アナウンサーの声が聞こえてきた。
ピロン。
ーようこそ、終わりのない暗黒世界へ。
ーあなたは、もう元の世界には戻れません。
ーこの世界は、魔王ユジンに支配され、人々は夢も希望ももてず、暗黒の波に飲まれています。
ーあなたは、選ばれしものとして、ユジンを倒すのです。暗黒世界の中でも懸命に生き、魔王を倒さんとする人々の声が、その吐息が、まだかすかに聞こえます。
ーその声を集め、人類の希望を結集させ、暗黒世界に光を取り戻すのです。
ーあなたが最後の希望なのです。頼みましたよ…タカ…シ…
アナウンサーの声は消え、静寂に包まれた。
え!?
これやっぱり異世界転生!?
タカシは、待ちに待った、魔王ユジンが支配する異世界に転生したのだ。




