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『二つの世界、一人の魔王』~東京2080からエヴァの大地へ~  作者: 黒猫
第七章:ライオンハートの戦い、巨頭の決闘
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第87話: 光の聖者vs魔導王

土日は作品の更新はお休みしています笑

 


 巨竜が吐き出す凄まじい炎が、今なお王都の上空を焼き尽くしていた。


 ――フシューーーーーーーーーーーーッ!!


 四人の魔導王が両手を掲げ、街の上空で巨大な魔法陣が回転を続けている。


 紫色の巨大な結界が屋根や塔、そして城壁を覆い尽くし、天より降り注ぐ炎の海を受け止めていた。


 一撃が着弾するたび、王都全体が激しく鳴動する。


 ――ドガアアアンッ!!


 ――バリバリバリッ!!


 圧力に耐えかねた路地の石畳が次々と砕け散り、眼下に集う数千の民衆は絶望に顔を歪めてその惨状を見上げていた。


 少し離れた場所では、吉田が血を流して倒れ伏していた。荒い息を吐き出す彼の周囲には、容赦のない暴行を受けたことを物語るように数本の剣が深々と突き刺さっている。


 一人の女魔導王だけがその場に残り、彼に向かって緩やかな足取りで歩み寄った。


 五人の中で最も若い女。


 揺れる長い金髪とは対照的に、その顔には冷笑的な笑みが浮かんでいた。


「呆れたわね……本当にこれが魔王なの?」


 彼女は巨大な銀の弓を掲げた。弦の上に、凝縮された魔力の矢が形作られていく。


「さようなら」


 ――ヒュイイイイインッ!!


 彼女が矢を放とうとした、その瞬間――


 ――シュカッッ!!


 近くの建物の屋上から、一筋の矢が疾風の如き速度で大気を引き裂いた。


 女魔導王は本能的に弓を旋回させた。


 ――ガキンッ!!


 易々とその一撃を弾き返す。


「え……?」


 直後――矢が炸裂した。


 ――ドガアアアアンッ!!


 衝撃波が彼女の顔面を直撃する。


 自慢の金髪が根元から激しく燃え上がり、黒焦げになった。


 数秒間、あたりの音が途絶えた。完全なる静寂。


 若い女魔導王は、呆然と両手で自分の頭に触れた。一度、二度と瞬きを繰り返す。


 そして次の瞬間――


「……私の自慢の髪(か・み・の・け)がぁぁぁぁぁッ!!!!」


 彼女は正気を失い、怒りのあまりその場で地団駄を踏み散らかした。


「誰よッ!? 誰がこんなことしたのよぉぉッ!!」


 民家の屋根の上で、一人のエルフが静かに銀の弓を構えていた。


 シェイリー・ニンティネル。


 その瞳には、氷のような冷徹さが宿っていた。


「私よ」


 女魔導王がゆっくりと首を曲げた。額に青筋が浮かび上がっている。


「……殺してあげる」


 二人はほぼ同時に武器を構えた。


 ――ヒュンッ!!


 ――シィィンッ!!


 放たれた二つの矢が、空中の中央で激しく激突した。


 ――ドガァンッ!!


 爆発が立ち上り、濃密な煙の幕を作る。


 休息など存在しない。次なる矢が連続して解き放たれる。


 ――シュッ!


 ――シュッ! シュッ!


 シェイリーは凄まじい速度で連射しながら、距離を保つために屋根から屋根へと一秒ごとに間合いを変えていく。


 女魔導王もまた、完璧な偏差で応戦する。放たれる白い光矢は民家を穿ち、柱やバルコニーを恐ろしい威力で破壊していった。


 ――バリバリッ!


 鐘楼が根本から穿たれ、轟音を立てて崩落する。


 ――ドカンッ!


 二つの矢が再び激突し、建物一つが跡形もなく吹き飛んだ。


 互いに一歩も引かない。


 ついに距離がゼロになる。


 二人は同時に跳躍し、空中で自らの弓を剣の如く交差させた。


 ――ガキィンッ!!


 衝撃が互いの身体を揺らす。女魔導王が鋭い蹴りを放つと、シェイリーは腕で防ぎ、弓の金属部分で殴り返した。


 ――ドカッ!


 若い魔導王が数メートル後方へ着地する。その顔から嘲笑が消えていた。


「やるじゃない……長耳(長耳族)」


「口の減らない奴」


 二人は至近距離から再び矢を解き放った。


 ――ドカンッ! ボカンッ!


 ――ドガァンッ!


 連鎖する爆発が、路地全体を眩しく照らし出す。


 ◇


 その頃、エレノアは吉田の周囲に突き刺さった剣を丁寧に引き抜いていた。


 少年は歯を食いしばる。


「くっ……!」


「おやおや……吉田、ドッツの借金を踏み倒そうとして連中に殺されかけた時の私を思い出すよ」


 吉田は荒い息を吐きながら、都市を覆う巨大な結界を見上げた。炎の波浪が絶え間なく打ち付けている。


「……言ったろう、連中は化け物だってね」


 エレノアは空を見つめたまま呟いた。


「他の国なら、とっくに地図から消えているよ」


 数メートル先で、デルガド王子が千鳥足で歩み寄ってきた。


 彼の鎧は粉々に砕け散り、息は激しく乱れている。巨大な赤き大鎌を維持することすら困難な様子だった。


 彼は周囲を見回した。瓦礫の山の中に、無数の魔族の将軍たちがピクリとも動かずに転がっている。


 その目元が険しくなった。


「……ここまでだ」


 吉田はゆっくりと顔を上げた。


「……」


「将軍たちを失いすぎた。これ以上の戦闘は、無駄な死を増やすだけだ」


 その瞬間――天空の炎が勢いを失い始めた。


 ――フシューッ……


 空中から、四人の魔導王が緩やかに降り立つ。巨大な結界が霧散していった。


 彼らは一人また一人と歩み寄り、若き女弓手の元へと集う。


 同時に、シェイリーも近くの屋根の上で膝をついた。激しい呼吸を繰り返している。腕や足には無数の切り傷とやけどが刻まれていたが、その手は固く弓を握りしめたままだった。


 若い女魔導王は、残された黒焦げの髪を苛立ち紛れに整えた。頭に触れながら、恨めしそうに唸る。


「次は絶対に殺すわ」


「いつでもどうぞ」


 二人は視線を外さぬまま、静かに距離を取った。


 広場に五人の魔導王が集結する。彼らは視線を前方に向けた。


 対峙するように立っているのは、吉田、エレノア、そしてデルガド王子の三人だけだった。


 レヴ・ヴァレリウスが一歩、前に踏み出す。


 ――コツン。


「決着の時だ」


 大気が再び重苦しく歪む。


 その時――砂塵を突き抜け、一筋の影がゆっくりと立ち現れた。


 漆黒の髪。破れた白いドレス。


 ロゼット・ベイカー。


 彼女は躊躇うことなく歩みを進め、吉田の目と鼻の先で立ち止まった。


 両手で巨大な漆黒の剣の柄を握り締め、真っ直ぐに構える。


 ――ハチチチッ……


 剣身から、底知れぬ闇の光彩が溢れ出した。


 魔導王たちが驚愕に目を見開く。あのレヴ・ヴァレリウスですら、眉間に深い皺を刻んだ。


「……本気か……?」


 少女は一歩も引かなかった。


 その背中が、吉田の身体を完全に覆い隠している。


 風が彼女の髪を揺らす中、闇の剣の尖端は人類最強の戦士たちへと真っ直ぐに向けられていた。


 そして、まさにその時――魔導王たちの背後から、新たな足音が響いた。


 ――コツ……コツ……


 ――コツ……


 破壊された瓦礫の山の中から、ジェイソン・ベイカーが姿を現した。ケンとの死闘を経た彼の愛剣には、未だに石の粉塵と破片が付着している。


 彼は何も言わず、レヴ・ヴァレリウスの隣へと並び立った。


 誰も言葉を発しない。


 崩壊した広場に、完全なる静寂が訪れる。瓦礫の隙間を吹き抜ける風の音だけが空虚に響いていた。


 吉田は地表から、ゆっくりと頭を持ち上げた。彼の瞳が、ローズの背中を捉える。


 自らが命を賭して救おうとした少女……その彼女が今、五人の魔導王と実の父親の前にただ一人立ちはだかり、『地獄の剣』を絶大な力で構えている。


 ローズは振り返らなかった。ただ、柄を握る手に一層の力を込める。


「……バカね、来るんじゃなかったのに」

第100話の更新を区切りとして少しの間休載し、その後アルファポリスでもこの作品の投稿を始める予定です笑

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