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『ロゼット・ベイカーの日記』 ~二つの世界でやり直す女騎士~  作者: 黒猫
第七章:ライオンハートの戦い、巨頭の決闘
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第85話:魔王 vs 五人の魔導王

「よし……計画通りだ」


 自分を担ぎ上げた七人の代表騎士の一人が雑踏を切り開く中、ローズはその言葉を耳にした。


 数ヶ月前、彼女に容赦ない暴行を加え、エリックの命を情け容赦なく奪ったまさにその男たちが、今は完璧な連携のもと、立ちふさがる騎士たちを次々と打ち倒していた。


 ――ガンッ! ガキィンッ!


 ライオンハート要塞の広場全体に混乱が波及する中、剣と剣が絶え間なく激突する。


 中央の観覧席から、ジェイソン・ベイカーがゆっくりと立ち上がった。


 その手が、愛剣の柄へと伸ばされる。


 カミール女王が彼の方へと顔を向けた。


「何をするつもりですか、ベイカー卿?」


「我が手で、娘を殺す」


 女王の顔に驚きの色はなかった。


 ただ、静かに頷く。


 彼女はジェイソン・ベイカーの決意の固さを一度たりとも疑ったことはなかった。


 ◇


 三頭の巨竜が空を覆い尽くす中、魔族の将軍たちは人類最強の戦士たちの進撃を喰い止めようと奮闘していた。


 だが、圧倒的な実力差はあまりにも絶望的だった。


 ――ズドオオオンッ! ガキィンッ!


 魔力の爆発が夜空のように暗く覆われた天空を照らし出し、剣、槍、そして魔術が何度も何度も激しく交錯する。


 ――ドサッ!


 ――ガカッ!


 一人、また一人と魔族の将軍たちが撃ち落されていく。魔神帝国において君主に次ぐ最強と謳われるデルガド王子すらも、魔導王たちの圧倒的な連携攻撃の前に追い詰められ、叩き落とされるのがやっとだった。


 あまりにも不条理な、一方的な戦い。


 その時――


 吉田が、広場の中央へと緩やかに降り立った。


 両手には、二振りの剣が固く握られている。


『地獄の剣』は不気味なほどの漆黒の闇を漂わせ。


『光の剣』は清廉で眩い白光を放っていた。


 一瞬にして、戦場全体の視線が彼一点へと集中した。


 それこそが、ヘッセンの四人の騎士たちが描き出した作戦そのものだった。


 偽りの魔王が魔導王たちの注意を一身に引きつけている隙に、アレッシオの代表騎士部隊が混乱に乗じてローズを救出する。


 必要なのは、時間稼ぎ。


 ただ、それだけだった。


(な、なんだよこれ……)


 吉田は唾を飲み込み、周囲の凄惨な光景を見回した。


 なぜ自分がこのような状況に陥っているのか、未だに信じがたい心地だった。


 少し前までは、しがない代表騎士の見習いに過ぎなかったのだ。


 ……まあ、本人がそう思い込んでいただけなのだが。ヘッセンにおいて、彼は既に立派な代表騎士として認められていた。


 それでも、アルウィンより強い存在と戦うなど、彼にとっては想像すらできないことだった。


 視界が揺らぐほどの、ほんの一瞬――


 彼らは現れた。


 五つの影が、恐ろしいほどの静寂を纏って少年の目の前に降り立った。


 ――サラッ……


 風になびく外套。広場全体を押し潰さんばかりの重苦しい圧迫感が蔓延する。その圧力を肌で感じ取っただけで、戦っていた騎士たちの手すら瞬時に止まったほどだった。


『五人の魔導王』。


 そのうちの一人が、吉田の銀髪をしげしげと見つめた。


 次いで、骨を模したような黒い鎧。


 最後に、彼が手に握る二振りの剣。


「ふむ……これが魔王か」


 もう一人が深々と頷く。


「その髪……その鎧……間違いないな」


 最後の一人は数秒間の沈黙の後、落胆に満ちたため息を漏らした。


「……期待外れだな」


 吉田は深く息を吸い込んだ。


 二振りの剣を固く握り直す。


 構えを取る。


 後退くことなど、出来はしない。


 五人の魔導王が、同時に姿を消した。


 ――ガシャアアンッ!!


 最初の衝突だけで、広場全体が激しく鳴動した。


 白光の剣が一撃を弾く。


 漆黒の剣がもう一撃を受け止める。


 だが、吉田が体勢を立て直す隙すら与えず、三本目の刃が脇腹を掠め、四本目の刃が彼の防御を容易く打ち破った。


 ――ドゴッ!


「ぐあっ……!」


 石畳を粉砕しながら、吉田の身体が数メートル後方へと吹き飛ばされる。


 速度が、違いすぎる。


 動きがあまりにも速く、あまりにも正確。


 放たれる一撃一撃が、人間業とは思えぬ完璧さで繰り出されていた。


 押し込まれ続ける吉田は、必死に防戦に回るのがやっとだった。


 ――ガキィンッ! ズダダンッ!


 二振りの剣が敵の刃と激しくぶつかり合うものの、交錯するたびに彼の身体へ新たな衝撃が刻み込まれていく。あらゆる死角から放たれる蹴り、拳、そして斬撃。完全に圧倒されていた。


「冗談だろう?」


 魔導王の一人が呟き、吉田の全力の攻撃を意とも簡単に受け流す。


 ――バキィッ!


 直後、容赦のない蹴りが吉田の胸板を捉えた。


 ――ドガアアアンッ!!


 少年は広場を一直線に吹き飛ばされ、木製の露店を砕き割りながら地表へと激しく叩きつけられた。


「ガハッ……!」


 立ち上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。


 目を開けた時には、既に五人が再び目の前に立ち塞がっていた。


 生きてきた中で、間違いなく人生で最も凄惨な打ちのめされ方だった。


 魔導王の一人が、彼の息の根を止めるべく剣を振り上げた――その時。


 巨大な影が吉田の前に割り込んだ。


 ――ドスッ!!


「ぐおっ……!」


 重々しい肉裂き音が響き、剣が魔族の将軍の肉体を深く貫いた。


「……お逃げ……くだ……さい……魔王様……」


 巨躯の魔族は、口元に笑みを浮かべながら膝から崩れ落ちた。


 ――ドスッ!


 ――ガシィン!


 すぐさま、別の将軍がその場所を埋める。


 続いて、もう一人。


 さらにもう一人。


 彼らは吉田と敵の攻撃の間に自らの身を投げ打ち、王を守るため、何一つ躊躇うことなく命を投げ出していった。


 吉田はその光景を、ただ呆然と見つめていた。


 自分のような人間のために、なぜ彼らが命を捨てられるのか、理解が追いつかなかった。


 魔導王たちは、眉一つ動かさずに前進を続ける。


「失望したぞ……」


 レヴ・ヴァレリウスの重厚な声が、広場全体に響き渡った。


 老魔導王は緩やかな足取りで歩み寄り、吉田の目の前で足を止めた。


「魔王ともあろう者が、この程度とはな」


 彼は広場を囲む建造物を見上げ、次いで狂乱して逃げ惑う数千の民衆へと視線を向けた。


「我らが全力を出せば……この王都など、住人ごと一瞬で消滅する……生きていることを幸運に思うがいい」


 その言葉に、吉田の血が凍りついた。


(これだけやり合っておいて……まだ本気じゃねえのかよ……!?)


 息も絶え絶えに立ち上がろうとした瞬間、レヴの姿が視界から消え去った。


 老人は一閃の光となって目の前に現れる。


 ――ドゴォンッ!!


「ぶはっ……!?」


 一撃の拳が吉田の身体を跳ね飛ばした。


 地表に落ちる暇すら与えず、追撃の蹴りが叩き込まれる。


 ――バキッ!


 ――ガキィン!


 ――ボガッ!


 次々と襲い来る衝撃。


 吉田は反撃の糸口すら掴めずにいた。


『地獄の剣』と『光の剣』を振り回し、死に物狂いでレヴ・ヴァレリウスへ斬撃の連打を繰り出す。


 ――ブンッ! ズバッ!


 しかし、老魔導王は薄く笑みを浮かべたまま、最小限の動きですべての攻撃を回避していく。まるで、剣を握り始めたばかりの赤子をあやすかのように。


「遅すぎる」


 ――ドガアアアアンッ!!


 容赦のない激しい蹴りが、吉田の腹部を直撃した。


「ガハァッ……!!」


 少年は数十メートルも吹き飛ばされ、広場の石畳を転がりながら激しく叩きつけられた。


 かろうじて顔を上げる。


 そこには既に、五人の魔導王が揃って見下ろしていた。


 一斉に剣が掲げられる。


 正午の陽光を受け、五振りの刃が煌々と輝いた。


「死ね……魔王」

パワーバランス(強さの描写)はすごく大事にしています。ご都合主義な展開は好きじゃないので笑

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