第80話:神聖なる護りの聖者
【デイランド・ゼネス視点】
俺の名前は、デイランド・ゼネス。
まあ、俺は読み書きができない。だから友達がこの記録に俺のことを加えてくれたんだ。未来のどこかで必要になるかもしれないからって。
まずは最初から話そう。
俺はドッツ王国の広大な大森林で生まれた。そこは木々があまりにも高く聳え立ち、その梢が空を覆い隠してしまう場所だ。毎朝、霧が地面を離れるまでに何時間もかかる。
俺は獣人だ。まあ……自分のことを男と呼んでいいのかはまだ分からない。まだほんのひよっこだからな。
俺には狼の耳がある。
誰であれ、俺が何者かを知るにはそれだけで十分だった。
俺たちの部族は、垣根や壁を築く必要なんて一度もなかった。
俺たちの家は、森で最も古い大木の上に作られていた。木製の家々は太い縄と丸太で作られた吊り橋で繋がれ、巨大なプラットフォームは夕暮れ時に狩人たちが獲物を分かち合う広場となっていた。
幼い頃から、俺は森こそが人々を養ってくれているのだと学んだ。
肉が欲しければ……
狩りをする必要があった。
水が欲しければ……
川まで歩く必要があった。
生き残りたければ……
自然を敬う必要があった。
俺たちの暮らしは簡素だった。
夜が明けると、一日の始まりを告げる角笛の音が聞こえてくる。
戦士たちは槍と弓を手に森へと出発し、女たちは燻製肉を作ったり皮を鞣したりする。その間、俺たち子供は自分たちの世界があの巨大な木々で終わっていると信じ込みながら、木製の橋の間を走り回っていた。
俺もそのうちの一人だった。
氏族の長の息子。
多くの者が、俺がいつか父の跡を継ぐのだろうと考えていた。
だが、人生ってのは時に理不尽なもんだ。
あの日、あの盾を見つけたことですべてが変わってしまった。
覚えているのは、川の近くで兄弟たちと遊んでいた時のことだ。誰が一番珍しい石を見つけられるか競い合っていた時、俺の足が土の中の硬い何かにぶつかった。
岩かと思った。
俺は素手で掘り返し始めた。
それから棒切れを使った。
掘れば掘るほど、大量の金属が現れた。
兄弟たちも遊ぶのをやめ、俺を手伝い始めた。そしてみんなで力を合わせ、泥と根っこに覆われたその巨大な物体を掘り出したんだ。
それは盾だった。
古い。
重い。
誰かが二度と見つけられないようにと願ったかのように、完全に土の下へ隠されていた。
好奇心が俺たちを上回った。
俺たちはそれを川へ運び、汚れを洗い落とした。
あの瞬間のことは、今でもはっきりと覚えている。
何世紀積み重なったかも分からない泥を水が流し去った途端、俺たちの目の前に少しずつ黄金の表面が現れたんだ。
ただの金色じゃなかった。
輝いていた。
金のような輝きじゃない。
まるで盾の内部から光が生まれているかのように輝いていたんだ。
俺たちは全員、静まり返った。
森さえも、黙り込んでしまったかのようだった。
集落へ戻ると、長老たちがすぐにやってきてその発見物を検分した。彼らの顔を俺は一生忘れない。
誰一人として嬉しそうじゃなかった。
彼らは……怯えているように見えた。
長老の一人が、当時の俺には理解できない言葉を呟いた。
「不吉な予兆じゃ……」
その知らせは、日が暮れる前に集落全体へと広まった。
多くの者が恐怖を抱いているのを感じ、怖くなった俺は集落の中央に盾を投げ出した。
戦士たちが盾の周りに集まり始めた。両手で持ち上げようと試みる者もいた。
持ち上がらなかった。
氏族で最も強い者たちも試した。
だめだった。
まるでその物体が、地面に縫い付けられているかのようだった。
父自らが中央のプラットフォームから降りてきて、それを動かそうとした。
一ミリも動かなかった。
その時、長老の一人が俺を指差した。
「その少年にやらせてみよ……それを見つけたのは彼じゃ」
何をさせたいのか分からなかった。
俺は深く考えずに近づいた。
柄を握りしめ……
そして、持ち上げた。
まるで何の重みもないかのように。
気まずい静寂が集落全体を駆け抜けた。
兄弟たちの顔が見えた。
戦士たちの顔が見えた。
父の顔が見えた。
誰一人として、驚いているようには見えなかった。
彼らは、怯えていたんだ。
その日の夜、俺は父が長老会と集まっているのを聞いた。そこにいちゃいけなかったんだが、俺は小さな木造の小屋の裏手へ静かに忍び寄った。
その時、耳に飛び込んできたんだ。
「出て行ってもらわねばならん」
「あ奴がここに留まれば、氏族に災いをもたらす」
「古の者たちも警告していた……」
「あの盾は、決して目覚めさせてはならぬものだったのだ」
固まったまま動けなかったのを覚えている。
待った。
そんなのは狂気の沙汰だと父が言ってくれるのを待った。
自分は息子だと。
誰もお前を追い出したりはしないと。
けれど……
そんな言葉は永遠に聞こえてこなかった。
翌日、父は集落全体の前で俺を呼び出した。
俺の目を直接見ることすらできなかった。
「デイランド……」
「お前は氏族を去らねばならない」
何と答えたのかは覚えていない。
ただ胸の中に広がった、あのぽっかりとした虚無感だけを覚えている。
一緒に狩りをした。
一緒に訓練をした。
あの人々の間で育ってきたんだ。
それなのに……
たった一つの盾のせいで、彼らは俺を仲間として見るのをやめてしまった。
日が暮れる前に、俺は去った。
別れも告げずに。
振り返ることもなく。
俺はただの子供だった。俺たちの部族は森に適応していたとはいえ、子供を追放するなんて滅多にない異常なことだった。
恐怖を感じていた。
何日もの間、俺は森を一人で歩き続け、木の実やたまに狩れる小さな動物を食べて食いつないだ。どこへ向かっているのかも分からなかった。ただ前へ進み続けた。いつかやり直せる場所が見つかるはずだと信じて。
探していた矢先……それが起きた。
ある夜……
空が鳴り響いた。
雲から雷光が降り注いだ。
続いて、足元の木々さえも震動するほどの凄まじい爆発が巻き起こった。
俺はすぐに音がした方角へ振り向いた。
俺の集落だ。
走った。
集落から遠くへ離れたと思われていただろうが、俺は迷子になって結局同じ場所をぐるぐると回っていただけだったんだ。星を頼りにして、ようやくそれに気づいた。
肺が引き裂けそうになるまで走った。
けれど、辿り着いた時には……
もう何も残っていなかった。
木の上に立っていた家々は消え失せていた。
折れた幹の間で、吊り橋が燃え盛っていた。
森全体が、巨大な破壊の野へと変えられていた。
生き残った者は一人も見つからなかった。
あるのは静寂だけ。
そして、灰だけだった。
かつての我が家の残骸の間を歩いていると、荒廃の中央に立つ一筋の影が見えた。
人影だった。
俺に背を向けたまま、完全に微動だにせず立っていた。
顔は判別できなかった。
奇妙な悪寒が走った。
それでも勇気を振り絞り、近づいて声をかけた。
「おい……!」
その人影が、ゆっくりと振り返り始めた。
そして、その姿が視界に入った瞬間――
全身が硬直した。
生まれて一度も感じたことのないような恐怖が、俺の身体の隅々にまで駆け巡った。
一歩、後ずさりした。
瞬きをした。
すると……
その人物は完全に消え去っていた。
どのくらいの時間、集落の廃墟を見つめていたのかは分からない。
数時間だったかもしれない。
丸一日だったかもしれない。
覚えているのは、焦げた木の匂いと、静寂だけだ。どんな傷よりも痛む、重苦しい静寂。かつて兄弟たちの笑い声や狩人たちの議論が響いていた場所には、今や打ち砕かれた木々と、風がゆっくりと舞い上げる灰しか残っていなかった。
ここで死ぬのだと思った。
けれど、俺が行動を起こす前に、奴らがやってきた。
ドッツ王国の騎士たちだ。
数人の魔導士たちが現場を検分する中、彼らの銀色の鎧が森の中で輝いていた。彼らは手がかりを求めて残骸の間を歩き回り、やがて一人の兵士が俺の隣に立てかけられていた盾を見つけた。
彼らの顔に浮かんだ表情を、俺は完璧に覚えている。
家族を失った少年など見ていなかった。
彼らが見ていたのは、兵器だ。
魔導士の一人が、触れることすら恐れるように盾の前で膝をついた。
「そんな……あり得ん……」
別の騎士が周囲を見渡し始めた。
「すべてが魔神帝国の攻撃を示している。最近、奴らの動きが活発化しているからな」
その言葉が、兵士たちの間で何度も繰り返され始めた。
悪魔について語る者もいた。
禁呪について語る者もいた。
誰も答えを持っていないようだった。
奴らはただ、罪をなすりつける対象を必要としていただけだった。
やがて、全員の視線が俺に注がれた。
指揮官の一人が一歩前に出た。
「その盾はお前のものか?」
答えなかった。
ただ、より強く盾を握りしめた。
男は深くため息をついた。
「ならば、お前にもはや選択肢はない」
俺は眉をひそめた。
「何の話だ?」
「それは神器だ」
その言葉は頼み事などではなく、絶対の命令だった。
「それを扱える者は『聖者』の称号を授かる。これより貴様には我が国に仕え、国王陛下への忠誠を誓う義務がある」
胸に込み上げた怒りを今でも覚えている。
家族全員を失ったばかりだった。
それなのに奴らは、もう戦争の話をしていたんだ。
「嫌だ」
思っていた以上に荒々しい声が出た。
「俺はただ、犯人を見つけ出したいだけだ」
兵士たちがざわめき始めた。
その時、俺の運命を変えることになる男が現れた。
摂政たる魔術師。
レヴ・ヴァレリウス。
彼の圧倒的な存在感だけで、すべての騎士たちが敬意を表して道を空けた。彼はゆっくりと俺の前まで歩み寄ると、数秒間盾を見つめてから顔を上げた。
残忍な男には見えなかった。
けれど、逆らえるような相手でもなかった。多くの者が、数ある魔導王の中でも彼が最強だと言っていた。
「復讐がしたいか?」
深く考えずに頷いた。
彼はしばし沈黙した。
「ならば、私について来い」
彼の声は静かだった。
「魔神帝国がお前の家を奪ったというのなら……いつか奴らと相まみえる機会を約束しよう」
なぜ彼を信じたのかは分からない。
たぶん、俺にはもう何も残されていなかったからだ。
あの日から、俺は兵士となった。
訓練、軍事行動、そして果てしない行軍の中で年月が流れた。盾と共に戦う術を学び、他の国の戦士たちを知り、この戦争が俺が集落で暮らしていた頃に想像していたよりもはるかに巨大なものだと理解した。
そしてついに、ミレイヤの戦いが訪れた。
五つの大国が、一つの旗の下に軍勢を集結させた。
エヴァ騎士団。
数千の騎士たち。
魔導士たち。
弓兵たち。
全員が、たった一つの敵と戦うために集まった。
魔神帝国。
あれこそが、復讐を果たせる戦いになるだろうと思っていた。
なんて甘かったんだろうな。
戦場の中央に、奴が現れた。
魔族の王子。
あの眼光を俺は一生忘れない。
冷たかった。
静かだった。
まるで、既に結果を知っている戦いを眺めているかのようだった。
倒せると信じ込んで奴へと突き進んだ。
俺たちの激突は大地を揺らした。
俺の盾は次々と放たれる猛攻を防ぎ、俺も全身全霊をもって応戦した。だが、打ち合うごとに、俺たちの間の絶望的な実力差が浮き彫りになっていった。
持てるすべてをかけて戦った。
それなのに……
一度たりとも押し返すことすらできなかった。
俺がまだ生きているのは、ひとえにこの盾のおかげだ。
命を落としていたはずの攻撃を、その神器は何度も何度も弾き返してくれた。最後には疲労困憊し、傷だらけとなって、俺は魔族の兵士たちに包囲された。
捕虜となったんだ。
それ以来……
俺の世界は再び暗闇へと縮小した。
宮殿の地下室に閉じ込められた。
そこにあまりにも長く閉じ込められていた。最初は日々を数えていたが、やがて意識を失い、あの戦いから数ヶ月が経っていたかもしれない。
鎖のせいで腕を動かすことすら満足にできなかった。
日付の感覚すら失われた。
飢えに苦しんだ。
渇きに苦しんだ。
毎朝、今日が最後になるのだろうと思いながら目を覚ました。
それが起きるまでは。
最初、凄まじい気配を感じた。
牢獄の壁を振動させるほどの、途方もない魔気の奔流。魔王そのものが目覚めたのだと思った。
けれど、その数瞬後――
別の力が城中を駆け抜けた。
違っていた。
温かかった。
嵐が去った後の森を照らす、太陽の光のように。
俺の盾が振動し始めた。
黄金の輝きが、その表面全体を駆け巡る。
と同時に、疲労が消え去った。
傷の痛みが引いていく。
飢えも。
渇きも。
身体の虚弱さも……
すべてが、最初から存在しなかったかのように消え失せた。
自分の手首を見た。
鎖が軋んだ。
歯を食いしばる。
バキンッ!
分厚い鉄の枷が砕け散り、床へと転がり落ちた。
数秒間、固まって動けなかった。
信じられなかった。
盾を取った。
深呼吸をした。
そして、あの牢獄を後にした。
城の廊下は、宮殿を揺るぎ動かす大騒動に完全に気を取られた兵士たちが行き交っていた。混乱に乗じ、足音が近づくたびに身を隠しながら、柱や回廊、階段の間を誰にも気づかれずに移動した。
計画なんてなかった。
分かっていたのは、たった一つのことだけ。
魔神帝国の最高幹部たちを見つけ出し……
奴らを一人残らず片付ける。
前進するにつれ、盾はより一層強い輝きを放ち始めた。最初は気のせいかと思ったが、すぐにそれが何かに反応しているのだと理解した。
城の奥へ進めば進むほど……
脈動が強くなっていく。
その奇妙な感覚に従い、中庭の一つに停められていた巨大な貨物馬車の中へと身を潜めた。
それほど時間を置かずに、声が聞こえてきた。
魔導騎士の群れが馬車を押し始めた。
車輪がギィギィと音を立てる。
車体が動き始めた。
一歩進むごとに黄金の輝きが増していくのを感じながら、俺は盾を胸に抱きしめ、完全に身をかがめていた。
この城の中に、何かがある。
俺の盾を呼び寄せている何かが。
そして、捕えられてから初めて……
運命が俺を、まさに居るべき場所へと導いているのだと感じていた。
更新時間はお昼の12時(正午)になりそうです! 正直、この時間帯が一番落ち着いて投稿できるねんな……(笑)




