第74話:魔神皇子 vs 魔王 後編
毎日同じ時間に更新したいのですが、現実はなかなか難しいですね…(笑)
二頭の化け物が放つ凄まじい衝撃音が、再び山々に響き渡った。
ドォォォォォン!
吉田の黒の剣が魔神皇子の巨大な深紅の大鎌と激突した瞬間、山脈全体が激しく揺れ動いた。
衝撃波が森林全体を根こそぎ薙ぎ払い、何トンもの巨岩をまるで小石のように空へと吹き飛ばす。
その一撃によって雲は切り裂かれた。
風が狂ったように吹き荒れ、断崖絶壁が次々と崩落していく。それでもなお……両者とも一歩たりとも退かなかった。
吉田の深紅の瞳には、人間らしさなど微塵も残っていなかった。そこにあったのは、憎悪に呑み込まれた野獣の目だけだ。山を断ち割るほどの暴虐な一撃を次々と繰り出しながら、その喉からは獣の唸り声が漏れていた。
「ガァァァァァァァッ!!」
彼の剣が容赦なく振り下ろされる。皇子は交差させた大鎌でそれを受け止めた。
キンッ!!
武器と武器が激突し、彼らの足元で大地が爆発する。ほんの一秒間だけ両者は静止した。次の瞬間――二人の姿が消えた。
遠くからは、黒と赤の閃光があり得ない速度で山脈を交錯していく様子しか見えない。
衝突のたびに新たな爆発が巻き起こり、一打を交わすごとに山のまた一角が崩壊していく。
皇子は笑っていた。楽しんでいるからではない。数十年の間待ち望んでいた存在を、ついに確信できたからだ。
「見事だ……」
彼の大鎌がただ一回、一閃した。
シュィィィン!!
吉田は間一髪で防ぐのが精一杯だった。その衝撃の威力はあまりにも絶大で、彼は四つの巨大な岩塊を突き破り、岩壁の中に深々と埋もれた。
ドォォォン!
起き上がる時間すら与えられなかった。皇子はすでに彼の目の前に立っていた。
膝蹴りが吉田の腹部を打ち抜き、少年の肺から強引に空気が搾り出される。続いて拳が叩き込まれた。もう一発。そして蹴り。大鎌の柄による一撃が、彼を再び別の山へと吹き飛ばす。
拮抗した戦いなどでは、断じてなかった。単純な腕力においては互角に見えたが、積み重ねてきた経験の差は絶望的なほどの深淵だった。
皇子の動作のすべてが精密であり、あらゆる攻撃が完璧に計算されている。
吉田が狂った動物のように戦う一方で、魔神の指導者は真の覇王として戦っていた。
完全に圧倒していた。しかし……ただの一度たりとも、彼を殺そうとはしていなかった。
◇ ◇ ◇
そこから数キロメートル離れた場所で、小さな魔神の村が完全に静まり返っていた。村人たちは作業の手を止め、子供たちは走るのをやめ、老人はゆっくりと顔を上げた。
地平線の彼方では、巨大な土煙の柱が空へと昇り立ち、黒と赤の雷光が山脈を照らし出していた。数秒ごとに――。
ドォォォォン!
彼らの足元で大地が震動する。
「何が……起きているのだ?」
年老いたオークが、震える目をして静かに首を振った。
「……戦いじゃ……」
◇ ◇ ◇
山の上では、巨大な三頭竜が咆哮を上げながら舞い降りてきた。
三つの頭が一斉に顎を開く。
ヴガァァァァァァァッ!!
三筋の炎の濁流が、灼熱の海のように降り注いだ。木々は消失し、岩は溶け始め、谷間は炎の地獄と化した。
吉田はそれを上回る野性的な咆哮で応えた。
自身の肉体が焼かれていくことすら無視して、彼は火の海を突き進む。皇子はその光景を興味深そうに見つめた。
「驚異的だな……」
だが、竜はすでに目と鼻の先に迫っていた。巨大な首の一つが激しく振り下ろされる。
バキィッ!!
顎が少年の身体を噛み砕いた。
鋭い牙が肉を貫き、血が飛散し、谷全体に凄まじい砕骨音が響き渡る。
遠くから見ていたエレノアの心臓が凍りついた。
「吉田……!」
激痛が、残された最後の理性の壁を完全に打ち砕いた。少年の瞳は完全に赤く染まり、漆黒の脈動が全身の皮膚を駆け巡る。
沸き立つ衝動と共に、彼は化け物の両顎を掴み上げた。腕を血が伝い落ちる中、彼の筋肉が爆発的に膨れ上がっていく。
「ガァァァァァァァッ!!」
バリバリバリッ!!
巨大な顎が強引にこじ開けられ始めた。三頭竜が絶望的な悲鳴を上げる。皇子は僅かに目を見開いた。
少年の筋肉は増強し続け、山々が彼の怒りに応えるかのように鳴動する。そしてついに――。
ドォォォォン!
吉田はドラゴンの下顎を引き裂いた。漆黒の血が山全体を濡らす。化け物は凄絶な叫びを上げながら、千鳥足で後退していった。
谷に完全な沈黙が訪れた。皇子は小さな高笑いを漏らした。
「……素晴らしい」
初めて、彼が言葉を発した。
「見せてみろ……魔王の真価を!」
威厳に満ちた厳かな声で、皇子は力強く呪文を唱えた。
『ドルヴェルスク!』
だが、その言葉が少年へ届くことはなかった。
吉田はすでに、漆黒の弾丸となって消失していたからだ。
彼は人外の速度で皇子へと肉薄した。
黒の剣が彼の首元へと直線的に振り下ろされる――しかし、届く直前で少年の身体が唐突に静止した。
痙攣が全身の筋肉を駆け抜ける。
剣がその手から零れ落ちた。
「……?」
吉田は片膝を突いて崩れ落ちた。絶望的な激痛が、体内から彼を蝕み始める。背中が大きく反り返り、黒い脈動が皮膚の下で爆発的に広がり始める。
「あガぁぁぁぁぁッ!!」
彼の悲鳴が山脈全体にこだました。
そして、それは起こった。
彼の背中から、暗黒の何かが溢れ出し始めた。煙でもなければ、魔法でもない。それは……生きた物質だった。
粘着質で脈動する黒い物質が、まるで体内から化け物が誕生するかのようにゆっくりと広がり始める。
それは彼の肩を滑り、腕を覆い、首元へと這い上がっていく。
……パキ……パキパキ……
骨が成長する音が、エレノアの背筋を凍りつかせた。
その質量は硬化を始め、黒い骨で組み上げられた鎧へと変貌を遂げていく。
あたかも目に見えない存在が少年の身体の上に部位を一つずつ組み上げていくかのように、装甲が重なり合って生まれていく。肋骨が閉じ合わさり、肩には巨大な棘がつきだし、前腕には鋭利な刺が張り巡らされ、背中が緩やかに変形していく。
同時に、彼の黒髪も変化を続けていた。かつては気付きもしなかった小さな白髪の束が、爆発的に増殖し始める。一本、五本、十本、二十本……夜が雪に呑み込まれていくかのように、黒と白が混ざり合っていく。
吉田が再び顔を上げた時、その瞳はもはや人間のまなざしではなかった。そこには濃密な深紅の光が揺らめいていた。
皇子はその変貌を、完全に魅了された様子で見つめていた。その唇が、本物の歓喜の笑みへと歪む。
「ついに……」
だが突如として、彼は僅かに眉をひそめた。その瞳をじっくりと観察すると、再び笑みを浮かべた。
「奇妙だな……」
彼の声には、どこか愉悦の色が混ざっていた。
「このような姿に変貌しようとも……貴様は未だ、人間らしさを残しているか」
エレノアには一言も理解できなかった。
二人が交わす言葉は、すべて魔神語だった。倒れたまま手負いの女海賊は、ただ無力にその光景を見つめることしかできなかった。
皇子はどこか諦めたように息を吐いた。
「予定変更だ……」
彼は巨大な大鎌をゆっくりと掲げ、吉田を直視すると、今度は人族の言葉で言葉を紡いだ。
「この戦いは……終わりだ」
刃が振り下ろされ、世界は光と闇の爆発の中に消失した。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
三頭のドラゴンは非常に高速で飛行する超巨大な魔獣です…長距離の移動にとても便利ですね。要約すると、魔神皇子が広大な魔神大陸を巡回するために使っているモンスターです…ちなみに私の頭の中では、魔神大陸の広さはロシアと同じくらいありますwwww




