表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王に恋をして、世界に裁かれた  作者: ケン・アラタカ
第一章:東京の女騎士
7/12

第6話:運命


【ローズ視点】


 鉄の塊(ゴーレム)が、静かに止まった。二人は自然に降りる。リュウジン先生が、こちらを見る。


「降りないのか?」


「え……あ、うん……」


(くそ……どうやって出る、これ)


 彼が扉を開けてくれた。少し恥ずかしくなりながら、私は後を追う。


 質素な家の前に立つ。キヨミさんが扉を開けた瞬間――胸に、不思議な感覚が広がった。


 静けさ。庭は木々に囲まれ、空気は澄んでいる。穏やかで……静かすぎる。


 二人の後について歩き、ようやくリュウジンの家の中へ入った。そして――見た。窓の前。奇妙な装置の上に座る影。


 即席の玉座のようなそれに腰掛け、ゆっくりとこちらへ振り向く。


……動いていない。 腕も使っていない。 力も入れていない。


 それでも――その椅子は、彼に応えていた。


「ただいま」


 リュウジンが言う。青年が顔を上げた。


 その瞬間――世界が、止まったように感じた。


 肌は白く、夕暮れの光に透けるほど淡い。瞳は静かで、奥に何かを宿している。恐れはない。哀れみもない。ただ――不気味なほどの、静けさ。


 黒い髪が額にかかり、窓からの風で揺れている。まるで――リュウジンを見ているようだった。そのままの姿。ただ――もっと若い。若すぎる。


 それなのに――胸が、妙に重くなる。


(これは……違う)


 惹かれたわけじゃない。同情でもない。まるで――永遠に鞘に収められた剣を見ているような感覚。それでもなお、危険だと分かる剣。


「いらっしゃい」


 彼は、静かに言った。


「兄さん、リュウジン。キヨミさん」


 そして――私を見る。黙って。じっと。


 敵を見る目じゃない。異物を見る目でもない。……何かを、理解しようとしている目。


「彼女は……?」


「ローズだ」


 リュウジンが答える。


「しばらく、ここにいる」


 一歩前に出る。


「ほ……ら」


 手を差し出す。王国の礼に倣って。


……反応がない。一瞬、苛立つ。無視か?


 そのとき――彼が、笑った。傲慢な笑みじゃない。疲れていて、でも――真っ直ぐな笑顔。


「ごめん」


 彼は言った。


「応えられないんだ」


 椅子は、動かないまま。


「ヨシダです」


 彼は続ける。


「それと……俺は、動かぬ体(まひ)だ」


 静寂が落ちた。胸の中で、何かが崩れる。同情じゃない。哀れみでもない。もっと――深い違和感。


……それでも。弱く見えない。


 しばらくして、リュウジンとヨシダは会話を続ける。声は低く、穏やかで、まるで日常の一部のようだった。その間に、キヨミさんが私の手を取る。


「来て」


 微笑みながら言う。


「部屋、見せるね」


 うなずいて、ついていく。歩きながら――思わず振り返った。一瞬、目が合う。ヨシダの目。


 そこには――かすかな光。ゆっくり消えていく炎のような。悲しみでもない。怒りでもない。ただ――静かな何か。すぐに視線を逸らした。


……なぜか分からない。けれど――お互いに、興味を持っている気がした。理由は、分からないまま。


 家は小さく、質素だった。けれど――不思議な安らぎがある。どんな城や陣地とも違う。ある扉の前で、キヨミさんが止まる。


「ここよ」


 扉を開ける。慎重に中へ入る。部屋は簡素で整っていて、柔らかな光に包まれていた。低い寝台。小さな机。明るい木の棚。


……きれいだ。きれいすぎる。


 私の趣味じゃない。王国での遠征では、冷たい地面で眠り、外套にくるまり、火のそばで休んだ。ここは――本当に休むための場所だ。


「あなたのために準備したの」


 キヨミさんが言う。


「少し飾りもしたのよ」


(……ありがたい、けど……)


「ありがと」


 私は声に出す。


「す……好き」


(……嘘だ。ケンが見たら、絶対に笑う)


 キヨミさんは満足そうに笑う。


「じゃあ、ゆっくりしてね。リュウジンのところに戻るわ」


「ありがと、キヨミさん」


「また来るね」


 彼女は付け加える。


「日本語、教えるから」


 少しだけ間を置いて――。


「心配しないで」


 振り向かずに言った。


「リュウジンと一緒に、あなたの家族や国の情報、探すから」


 うなずくしかなかった。キヨミさんは足早に去っていく。急いでいるようだった。


……一人になる。


 持ち物を整理する。鎧を丁寧に畳み、部屋の隅へ置いた。まるで――別の世界のものみたいに。


 それから、あの柔らかい寝台に倒れ込む。天井を見る。拳を上げて、深く息を吐く。


「へんな……せかい……」


 ここ数日の出来事が、現実に思えない。


「魔王……いる……ここ……」


 小さく呟く。


「でも……こわい……ない……?」


 違和感が胸に残る。


「もう……たおした……?」


 まぶたが重くなる。


「みつける……しなきゃ……」

「……そ……れ……」


 言い終える前に――意識が沈む。そして――この静かで異質な世界に来てから初めて、深い眠りに落ちた。


【設定補足】

ヨシダの体についてですが、彼は身体が不自由で自力では動けません。「なぜ車椅子が彼の意思で動くのか」と疑問に思われた方もいるでしょう。

本作の舞台は2080年であり、テクノロジーは現在よりも遥かに進歩しています。彼の車椅子は、脳内に埋め込まれたバイオチップと連動した電動式で、脳の電気活動を信号として読み取り、彼の命令通りに動く仕組みになっています。

驚きの技術ですよね。この設定は今後の展開で重要になってくるので、ぜひ覚えておいてください。……本編で詳しく説明すると少し複雑になりすぎてしまうため、こちらの後書きで補足させていただきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ