特別編:エヴァの世界(後編)
この話は特別編!本当は投稿する予定なかったんだけど、なんか急にやる気スイッチ入っちゃってアップしちゃったwwwwww
屋敷のその夜は冷え込み、暗い廊下には静寂が支配している。
吉田はローズと並んでゆっくりと歩く。彼女が掲げるランプの灯りが、かろうじて足元を照らしていた。吉田は物思いに耽りながら周囲を見回し、やがて静寂を破る。
「ローズ……」日本語で呟く。「すごく……気になるんだ。この世界のこと……知りたい」
ローズは一瞬足を止め、横目で彼を見た。その瞳に宿る真剣さを見て、彼女の表情が少し緩む。
「すぐ近くに図書室があるわ」と静かに答える。「行きましょう」
数歩歩いたところで、大きな木製の扉を開ける直前、廊下の影から人影が現れた。
シェイリーだった。
エルフの彼女はニヤニヤと笑みを浮かべながら二人を値踏みするように見つめ、腕を組んでクスクスと笑った。
「あらあら……こんな夜更けに二人きりで何をしているのかしら?」シェイリーが面白がった口調で言う。「まさか、暗いところで怪しいことでもしようってんじゃないでしょうね?」
ローズの顔は一瞬で真っ赤に染まった。
「あんた、何を言ってるのよ、シェイリー!」動揺して手を振り回す。「ただ図書室へ案内するだけよ! バカなことを考えないで!」
シェイリーはケラケラと笑、ローズの背中をポンポンと叩いてなだめた。
「冗談よ、ロゼット。落ち着いて。私も混ぜてちょうだい。どのみち暇してたところだし」
三人は図書室に入った。そこは天井まで届くほど古い書物が並ぶ広大な空間だった。重厚な木のテーブルを囲んで座ると、ローズは使い古された大きな本を中央に置いた。
ローズが地図のページを開く前に、シェイリーは肘をテーブルについて真剣な表情で言った。
「ロゼット、待って。もし彼にこの世界の歴史を理解させたいなら、まずは『ザリアの一族』について説明しないと。それがなきゃ、何も分からないわよ」
ローズは深く溜息をつき、最後には頷いた。
「そうね……その通りだわ」
ローズは吉田の方を向いた。詳細まで確実に伝えるため、彼女は日本語で話し始めた。その流暢さに、シェイリーはただただ豪然と口を開けて驚くしかなかった。
【ザリアの一族】
「ザリアの一族は、歴史上最強の人間の一族だったの」とローズはゆっくりとした口調で語り始めた。「数千年間続いた王朝で、エルフ、オーク、魔族、ドワーフ、天使、さらには神々でさえも畏怖させる存在だったわ」
吉田は熱心に聞き入った。
「神話時代に創設された一族よ」と彼女は続ける。「神々が堕ちる際、彼らは人類を率いて戦争を主導し、決定的な役割を果たした。残虐で、傲慢で、ナルシストで、誇り高く、好戦的だったわ」
ローズはオイルランプを見つめ、短い沈黙を置いた。
「この世界の人間は、他種族に比べてマナが極端に少ない。でも、ザリアの一族にはその制限がなかった。特異な存在だけど、必要な力だった。彼らの強さのおかげで、人類は窮地を切りぬける壁になれたの。彼らは人類の最大の栄光であり、希望だった」
「……今はどこにいるの?」吉田が尋ねた。
ローズの瞳が翳る。
「滅びたわ。今年、英雄暦二四九年、王朝最後の王子エドリアン・ザリア一世がミレイヤの戦目で殺された。まだ十三歳だった。歴史上最も強大だった一族は、もう存在しないの」
説明がそこまで達した時、穏やかな音が静寂を破った。
吉田とローズが横を見ると、シェイリーは重厚なテーブルに突っ伏し、名誉あるエルフの矜持など微塵も感じさせないほど無防備に寝入っていた。口元からは、糸を引くほどのよだれが垂れている。
ローズは呆れて目を回したが、それを無視して本のページをめくり、吉田への説明を続けた。
【新エヴァの宗教と信仰】
「エヴァの世界は主に一神教よ」とローズは声を潜めて説明した。「万物の根源とされる『至高の光の神』を崇拝しているの。ただ、それが全てではなくて、その信仰から派生した別の宗派やバリエーションもあるけれど、今はあまり広くは信仰されていないわ」
彼女は古い大聖堂の挿絵を見せた。
「主流であるこの信仰から派生した宗教を、新エヴァ教会が組織している。神格は三つのグループに分類されているわ」
一、神話時代の神々:生命と宇宙の均衡を保つ全能の存在。古代戦争で下位神は殺され、現在は最も強大な神々だけが生き残っている。
二、神々:至高の存在に次ぐ、畏怖されている超越的な存在。魔神、タイタン神、軍神などが含まれる。これらは大陸や海を消し去るほどの強大な力を持ち、人間からは神として恐れられているわ。(※世界を統べる絶対的な至高の審判者としては、唯一無二の『魔導神』が君臨している)。
三、聖者:神話時代の神々に祝福された者たち。彼らが遺した聖なる武器を行使する力を持つ。神々が堕ちる際、この宇宙の危機を予言し、自らの力を武器に込めて未来の継承者を選ばせようとしたの。
吉田は、ローズが一部の記述を隠すように、あえて不自然な手つきでページを飛ばしたのを見逃さなかった。
「それは?」
「別の信仰がある……でも、禁忌よ」ローズは真剣な面持ちで語気を強めた。「今は知る必要はないわ」
【世界の時代区分】
ローズは落ち着いた声に戻り、歴史を形作った時代を語り始めた。
神話時代(???~零年):存在の始まり。神々が他種族と共存し、魔法は今よりも遥かに強大で破壊的だった。神々の大半が絶滅し、最初の魔導王たちが老いて亡くなることで終焉。彼らは自らの「魔導王の序列」を創設した。
啓盟時代(一年~五〇〇〇年):国家が興っては消える成長期。魔法の重要性は低下し、魔導王の序列によって規制・迫害された。平和な時代で、神話時代をただの伝承だと思うほどだった。ある朝、太陽が昇らなくなることで突如終焉を迎えた。
月の時代(百年間):暗黒の世紀とも呼ばれる。百年以上も夜が続き、飢餓、死、存亡をかけた黙示録的な戦争が文明を破壊した。ザリアの一族と魔導王たちが女神を解放し、秩序を取り戻したことで幕を閉じた。
大帝国時代(五一〇〇年~九〇〇〇年):人類は急成長し、他種族から身を守るために『新エヴァ聖帝国』を樹立した。イティス、ワーウィッス、ドッツ、ヘセックス、ミルバーの五王国で構成され、四千年間人類が他種族を支配した。ここでマキシミリアン・ザリアに初めて『魔導王』の称号が与えられた。
暗黒の千年紀(一〇〇〇〇年~一〇〇一〇年):平和が破られた壊滅的な十年。タイタン、神獣、そして「誰か」によって目覚めさせられたアンデッド軍団が出現。人類は三割にまで減少し、数千年の技術を失った。
【英雄の復活】
ローズは本を閉じ、最後の章を指差した。
「歴史は一〇〇一〇年で停止した。その混乱の中で英雄カマエルが現れたの。彼は世界を巡り、エルフ、魔族、そしてザリアの王女と共に、諸悪の根源である三頭のスカーレットドラゴンを討伐した」
ローズは瞳には深い敬意が宿っていた。
「彼らの物語は伝説になった。彼を讃え、世界は暦を零年にリセットした。それが『英雄暦』よ。カマエルは四十年に『彼』との第二次大戦で戦死した。それから二〇九年が経過した。だから今は二四九年なの」
説明が終わると、図書室には完全な静寂が訪れた。
吉田は、この世界の歴史の壮大さに圧倒されていた。
「英雄カマエル……」吉田は驚嘆とともに呟く。「信じられない。心から尊敬するよ」
ローズは彼を真っ直ぐに見つめ、心からの微笑を浮かべた。
「誰もがそう思っているわ、吉田。彼はこの世界の救世主だったの」
ローズは椅子から立ち上がり、ランプを手に取った。吉田もそれに続く。二人は、いまだにテーブルに頬を貼り付けて寝息を立て、木製のテーブルをよだれで濡らしているシェイリーを見やった。
彼女を起こさないように、二人は静かに図書室を後にした。ゆっくりと扉を閉め、エルフを闇の中に残したまま。




