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第30話:黄金の弓と泥酔の海賊

朝の太陽が山頂を照らし、地平線を支配する山々の険しい岩肌に眩い輝きを放っていた。

眼下には、深く濃い緑の森が、絶え間ない葉擦れの音と共に谷を守るように広がっている。その無限に続く圧倒的な緑の境界線の中に、孤高の街――アルタクレスタは存在していた。


街の喧騒は絶え間ない。人々の行き交う話し声、快活な笑い声、そして客を呼び込む商人たちの野太い怒鳴り声。決して大都市とは呼べない規模だが、通りの隅々にまで瑞々しい命の輝きが満ち溢れている。

木と石で頑丈に造られた家々が街道沿いに整然と並び、煙突からまっすぐ昇る白煙が、美味そうな料理の匂いと山の冷涼な空気へと混じり合っていく。


中心部には、古びた石造りの井戸と仮設の露店が賑やかに並ぶ小さな広場があった。

平和な、あまりにも平和な光景だ。ここが現在、血を流す戦争の渦中にある王国だとは到底信じられないほどに。

そのすべてを、天へとそびえ立つ、決して無視することのできないあの巨大な霊峰が見守っていた。


そんな活気ある人混みの中を、周囲に目立たぬように進む一つの影があった。一人の少女だ。

彼女は顔のほとんどを隠す、深いフード付きのケープを纏っていた。急ぐ様子もなく、落ち着いた凛とした足取りで周囲の雑踏に紛れている。だが、布の深い影から時折覗くその銀色の瞳は、並外れた強い意志の光を宿していた。


不意に吹き抜けた強い山風が、防備の薄いフードの隙間から、彼女の「決定的なディテール」を無慈悲に暴き出した。

長く、美しく尖った耳。――エルフだ。

自身の正体を隠そうという健気な努力にもかかわらず、その洗練された若々しさと異国情緒は、この質素な辺境の街では嫌でも周囲の目を引いてしまう。


しかし、彼女は周囲の好奇の視線など、最初から全く気にする様子もなかった。その鋭い瞳は機敏に動き、明確な目的を持って、通りすがる人々の一人一人の顔を冷徹にスキャンしていく。

物珍しさに足を止めることもなく、彼女は目的地を最初から知り尽くしている者の足取りで、アルタクレスタの中心部へと真っ直ぐ突き進んだ。


「まったく……。あの二人をどうやって見つけろって言うのよ。もう何日もこの周辺を探し回っているのに……」


彼女は明らかな苛立ちと共に、小さな唇から愚痴を呟いた。

とある一軒の薄暗い酒場の前で足を止めると、傲慢とも取れるほどの自然な、堂々とした動作で扉を押し開けて中へ入る。店内の荒々しい喧騒を完全に無視して、彼女は真っ直ぐカウンターの前に陣取った。


「マスター、ミルクを一杯ちょうだい。最高に新鮮なやつをね」


髭面の店主は、あからさまに蔑むような鼻鳴らしを一つ返した。


「おいおい、お嬢ちゃん。自分の目が節穴じゃなけりゃ気づいていると思うが、ここはゴロツキの集まる酒場だぜ? 乳離れしてないガキの来る場所じゃねえ」


シェイリーは不快そうに眉をひそめ、店内を見渡した。そこは無造作に置かれた椅子と、様々な種族が入り乱れる混沌の場だった。大声で叫ぶドワーフ、床で大の字になっていびきをかく人間の戦士、そして安物のアルコールと腐った汗の入り混じった濃密な空気が漂っている。


「分かっているわ。それで、ミルクは出してくれるの? それとも、くれないの? 私の時間を無駄にしないで」


彼女は周囲の不潔な環境など、自分には一切の価値がないと言わんばかりに冷たく促した。


「この、ナメたガキが……!」


店主が顔を真っ赤にして凄もうとしたが、次の瞬間、少女の背後に背負われた「ある物」を視界に捉えて言葉を失った。そこからは、明らかに常人の持ち物ではない、異質な神聖さを孕んだオーラが放たれていたのだ。


「お前、まさか……その背中のものは……」


「そうよ。私はシェイリー・ニンティネル」


その名は、いかなる鉄のジョッキよりも重く酒場に響いた。男はゴクリと唾を飲み込み、無理やり冷静さを装って髭を震わせた。


「……まったくとんでもないお嬢ちゃんが、こんな辺境に来たもんだ」


少しして、信じられないことに、一杯の並々と注がれた白いミルクが彼女の前に置かれた。


「ありがとう! 話が早くて助かるわ」


「おい、わざわざ隣の商人から無理を言って融通してもらったんだ。二度とそんなバカな注文はするなよ。店評に関わる」


「はぁ……。そこはごめんなさい。でも、お礼にもう一つだけ聞きたいことがあるの」


店主は今にも爆発しそうなほど太い眉をひそめた。


「この近くで、黒い薔薇の眼帯をした、お行儀の悪い女を見かけなかった?」


「ああ、そいつのことか」


男は心底どうでもよさそうに、酒場の最も薄暗い隅の方を顎で指差した。シェイリーは目を見開き、勢いよく木製のテーブルを叩いた。その拍子に、せっかくのミルクが数滴こぼれる。


「見かけたのね! どこよ!?」


「どこって……そこだ」


指し示された場所――そこには、酒瓶を抱えたまま床にひっくり返り、手負いの巨大なドラゴンのような凄まじいいびきをかいて、無様に眠りこけるエレノア・アラソーンの姿があった。


「ゴゴォォォォーーーー……、プハッ……ゴゴォォォォーーーー……」


シェイリーは迷いのない、怒りを孕んだ歩みで彼女へと向かった。流れるような無駄のない動作で背中から『光の弓』を引き抜く。それは眩い黄金色に輝き、古の神の力を放つ圧倒的な逸品だった。

自分の世界に没頭している周囲の酔っ払いたちは、その伝説の武器にすら気づかないほど泥酔していたが、カウンターの店主だけが悲鳴を上げた。


「ここでそれをぶっ放すなよ、シェイリー・ニンティネル!! 店が吹き飛ぶ!!」


エルフの少女は一度足を止め、店主を鋭い視線で一喝してから、再び足元の標的を見据えた。その瞬間、アルコールで完全に濁りきった茶色の隻眼が、うっすらと開いて彼女を捉えた。

エレノアは顔を真っ赤に茹で上がらせ、じっと少女の顔を見つめる。


「あんた……、なんだぁ……? ぺったんこの、生意気なガキ……」


海賊の女は、完全に呂律の回らない酷い声で呟いた。


「そんなピカピカ光る弓なんか持って……、アタイに何すんだい……? ヒック!」


シェイリーは一秒たりとも時間を無駄にしなかった。一瞬で光の矢を番え、満月に近いくらいに弦をギリギリと引き絞り、床に転がる女の顔面に完全に狙いを定める。


「ロゼット・ベイカーはどこ? 吐きなさい、この泥泥海賊」


エレノアは横目でその眩い光を見つめ、数秒かけてようやく質問を脳内で咀嚼したようだった。


「ああ……、あの……、カタブツの騎士の、ねーちゃんかい……?」


シェイリーは弓を維持する指にさらに力を込め、いつでも放つ準備を整えた。緊迫した空気が走る。


「あいつなら……、今、アルタクレスタの……」


再び、酒場の片隅に完全な沈黙が支配した。

エレノアはふっと満足そうに目を閉じ、そのまま緊張感の欠片もなく再び床に崩れ落ちた。

次に聞こえてきたのは、先ほどよりもさらに深くて力強い、安らかな「大いびき」だった。


「ゴゴォォォォーーーー……グウゥゥ……」


シェイリーは、極限まで引き絞った弓を構えたまま、ポカンと口を開けてその場で凝固した。

静まり返った空気の中、エレノアのいびきの音だけが空虚に、そして盛大に響き渡る。


「……嘘でしょ? 寝たの?」


信じられないといった様子で、シェイリーが引きつった声で囁く。

彼女は限界まで達した脱力感と共に、ゆっくりと武器を下ろした。黄金の神聖なオーラは儚く消え失せ、あとに残ったのはツンとする安酒の臭いと、事の顛末を見ていた奥の酔っ払いたちの、下俗な嘲笑の残響だけだった。

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