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第19話:残酷な世界


どれほどの時間が過ぎただろうか。

空の色が変わっても、二人は動かなかった。


太陽が天頂に達した頃――

砂漠は、ただの風景ではなくなっていた。

静かな処刑人。

砂は焼けた鉄のように熱を帯び、

空気は歪む。


息をするたび、喉が削られる。

まるで砕けたガラスを吸い込むように。


吉田は、なおもローズの隣に倒れていた。

動こうとする。

腕が震える。

制御できないほどに。

脚も応えるが――

鈍い。

ぎこちない。

まるで、自分のものではないように。


「……くそ……!」


掠れた声が漏れる。

肘をつき、起き上がろうとする。

――崩れる。

再び、試みる。

――落ちる。

顔から砂へ。


ジュッ――

焼けた砂が皮膚を焦がす。

焦げた匂いが鼻を刺す。

唇は裂け、

舌は乾ききっている。


唾を飲み込むだけで、痛みが走る。

砂漠は、音を立てない。

ただ、奪う。


目を覚ましてから初めて――

死を意識した。

戦いの中ではない。

誰かを守るためでもない。

敵と対峙することもなく。

ただ――

朽ちる。

無関心な空の下で。

骨へと。

ゆっくりと。


(……ここでも……守れないのか……)


その思考が、胸を抉る。

熱よりも鋭く。


「ローズ……起きてくれ……!」


応答はない。

風が吹く。

ザァッ――

砂が舞い上がる。

やがて――

足元に積もる。

覆っていく。

まるで、砂漠そのものが取り込もうとしているかのように。


その時――

グルル……

低く、喉の奥で唸るような音。

重く、古びた響き。


ヨシダは、顔を上げる。

痛みをこらえて。

そこに――いた。


灼ける太陽の下。

悠然と。

長く伸びた影が、砂の上を這う。

ローズの身体を覆うように。

黄金の瞳。

飢えは見えない。

だが――

情けもない。


近づく。

ゆっくりと。

ためらいなく。


声を出そうとする。

空気が、応えない。

喉が動かない。

そのまま――

身を屈める。


口を開く。

牙が、衣服に触れる。

そして――

掴んだ。

力強く。

だが、裂かない。

正確に。

重さを測るように。


……だが。

その光景は。

ヨシダの視界には――

ただ一つの意味しか持たなかった。

唯一の存在が、

奪われる。


「……やめろ……」


声は、消えた。

身体を起こす。

座る。

視界が揺れる。

大きく、歪む。


「……離せ……!」


喉を裂くような声。

それは、言葉というより――

咆哮に近かった。


だが――

遅い。

すでに走っている。

砂が舞い上がる。

その顎に、ローズの身体。

力なく揺れる。

そして――

消える。

砂丘の向こうへ。


静寂が落ちる。

風よりも、重い沈黙。


立ち上がろうとする。

脚が崩れる。

膝をつく。

そのまま――

前へ。

ドサッ――

倒れ込む。

動かない。

動けない。


脳裏に、浮かぶ。

見たくもない光景。

牙。

裂ける肉。

砂に滲む、黒い血。

砕ける骨。

噛み砕かれる音。


「……やめろ……やめろ……」


這う。

砂を掴みながら。

黒い剣へと。

指が、柄を掴む。

引き寄せる。

震える手で。


刃は、太陽に晒されているはずなのに――

熱くない。

違う。

重い。

濃い。

まるで、内に閉じ込められた闇が――

熱を喰らっているかのように。


抱き寄せる。

胸に。

守るように。

何も、守れないのに。


太陽は、さらに高く。

さらに苛烈に。


「くそっ……! くそぉ……!」


涙が零れる。

だが――

地面に届く前に、消える。

蒸発する。

それでも止まらない。


それは、戦士の流す誇り高き涙ではない。

ただ――

すべてを失った者の、

絶望の雫だった。


中世ファンタジーが大好きなので、これからもっと面白い展開をたくさん用意しています。

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