第110話:新たな始まり、真の冒険が始まる!
日本語は私の母国語ではないため、毎日更新するのはかなりの挑戦ですが……それでも全力を尽くして頑張ります!(๑•̀ㅂ•́)و✧
あの凄惨な大災害から、丸一日が経っていた。
だが、魔神帝国の首都を覆う空気は重く、まるで数週間もの時が過ぎ去ったかのようだった。
街の通りには、未だ叛乱の傷痕が鮮明に残されている。破壊された建造物、散乱する瓦礫、そして石畳の表面にこびりついた乾いた血溜まり。遺体こそ片付けられたものの、鉄と死の匂いが未だに風に乗って漂っていた。
夜が明けると同時に、新たな粛清劇が始まった。
ローズ、ケン、シェイリー、エレノア、そして新たに加わったデイランド・ゼネスの五人は、クーデターに関与した魔族の残党を追って街を捜索して回った。
裏切り者たちに、生き残るチャンスなど与えられなかった。
見つけ次第、その場で即座に処刑された。
裁判も、議論の余地すら存在しない。
命じられた役目は明白だった――魔王に対する裏切りに加担した者は、誰であろうと命で償わなければならない。
その一行の中で、最も大きな変貌を遂げたのはローズだった。
かつて敵に対してすら剣を振るうことに躊躇いを見せていた少女の面影は、どこにもなかった。彼女の漆黒の刃は、完全なる冷徹さをもって振るわれていた。
絶叫もしない。
脅迫もしない。
ただ淡々と罪人を見つけ出し、切り伏せるのみ。
甲冑は埃と返り血で黒ずみ、処刑を重ねるその深紅の瞳には、一切の感情が宿っていなかった。
ケンは言葉もなく彼女を見つめ、募る懸念を隠しきれずにいた。シェイリーは彼女を見失うまいと必死につき従う。エレノアの口からも冗談は消えていた。
そしてデイランドは……。
デイランドだけは、何がどうなっているのかサッパリ理解できていなかった。
猫耳の青年は城の回廊を歩きながら、静かな足取りでその場から消え去ろうと企んでいた。
「クソが……俺は一体ここで何やってんだ?」
朝から晩まで魔族を殺して回り、悲鳴を聞かされ、冷酷な処刑人と化したローズの姿を見せつけられた。こんなものは、彼が『聖者』になった時に思い描いていた理想とは程遠いものだった。
左右を伺う。
誰もいない。絶好のチャンスだ。
一歩踏み出す。さらにもう一歩。
だが、まさに角を曲がろうとしたその瞬間――
「どこへ行く気だ、猫耳」
デイランドの身体が凍りついた。
ゆっくりと首だけを巡らせる。ケン・アラタカが腕を組み、冷ややかな視線を向けながら壁にもたれかかっていた。
デイランドは冷や汗を流しながら、引きつった笑みを浮かべた。
「へへ……俺はただ……」
「……」
「……ちょっと息抜きしようとしてただけでして」
「戻れ」
ケンは表情ひとつ変えずに命じた。
デイランドは重い溜息を吐き出した。
「へいへい、分かりましたよ……」
その頃、城の地下深部では――
デルガドが吉田の身体を抱き抱え、秘密の坑道を進んでいた。魔王の肉体は微動だにせず、冷たく、白く静まり返っていた。
エリカが黙々とその後に続く。
通路は狭く古めかしく、松明の微かな光だけが周囲を照らしていた。壁を構成する石材は、魔神帝国が成立する以前の古の時代のものであるかのように見えた。
「どこへ向かっているのですか、デルガド様?」エリカが尋ねた。
「知る者の限られた場所だ」
石造りの階段を下っていく。一度、二度と。
道の果てに、広大な地下空洞が広がっていた。
エリカは驚愕のあまり目を見開いた。
空間の中央に、巨木がそびえ立っていたのだ。その太い根は岩盤を穿ち、空間全体へと張り巡らされている。幹の内部はくり抜かれ、人が住める構造へと加工されていた。
足を踏み入れる直前、エリカはある石像の存在に気づいた。甲冑を纏い、剣を構えた一人の戦士の像だ。
「これって……」彼女は足を止めた。「勇者カマエル……? どうして人間の勇者の像がこんな場所に?」
デルガドは答えず、巨木の中へと直進していった。
エリカも慌てて後を追う。入り口をくぐると、そこは住宅などではなく、古文書や実験記録、見たこともない試薬の瓶や奇妙な道具で埋め尽くされた実験室であった。
天井の開口部から直射日光が差し込み、中央に置かれた大きな石の作業台を照らし出している。
デルガドは吉田の身体をその台の上へと横たえた。
「よく聞け、娘」デルガドは彼女をまっすぐ見つめた。「この場所のことは、誰にも言うな」
「誰にも……ですか?」
「誰一人としてな」
エリカはゴクリと唾を飲み込み、頷いた。
「承知いたしました」
それから一時間が経った。
エリカは両手で口を覆ったまま、微動だにできずにいた。自分の目が捉えている光景が信じられなかったのだ。
石の台の上で――
吉田の胸が、突如として大きく跳ね上がった。
『ゴホッ……!!』
激しい咳き込みと共に、少量の鮮血が吐き出された。
「陛下……!?」
エリカが一歩踏み出す。
吉田は大口で空気を貪り吸った。天井を見上げ、周囲の壁を見回し、最後にエリカの顔を視界に収めた。
「な……っ」起き上がろうとしたが、全身に激痛が走り、顔を歪める。「ここは……どこだ……?」
エリカは彼の手を握り締め、ボロボロと涙を溢れさせた。
「陛下……っ!」
吉田は歯を食いしばった。記憶が断片的に蘇ってくる――戦い、腹部を貫いた長槍、ローズの壊れたような表情……。
(好きだ……ローズ……)
意識を失う直前、自分の気持ちを伝えたことを思い出す。
自分の手を見つめ、胸に触れた。内側で、静かに脈打つ重い鼓動を感じる。
「待てよ……」混乱したように呟く。「なんで俺、生きてるんだ……?」
少し離れた場所から、デルガドがその光景を見つめていた。その表情は相変わらず厳格なままだったが、その瞳の奥には明らかな安堵の色が浮かんでいた。
玉座の間にて――
重厚な大門が開かれた。
ローズを先頭に、ケン、シェイリー、エレノア、デイランドが続いて足を踏み入れた。五人とも埃と乾いた返り血に汚れ、その武器は戦闘によってボロボロに刃こぼれしていた。
誰も言葉を発しない。
ローズは緩やかな足取りで階段を上り、誰もいない玉座の脇に深く腰掛けた。かつて吉田が座っていたその座席をじっと見つめる。
その瞳は完全に光を失っていた。
「ローズ……」シェイリーが優しく声をかける。
応答はない。
エレノアが重苦しい溜息を吐き出した。
「で、これからどうすんのよ?」
静寂。
ローズは唇を強く噛み締めた。今でも吉田の声が聞こえる気がした。自分の腕の中に残っていた、彼の体温の冷たさを今でも鮮明に覚えている。
(好きだ、ローズ)
瞳を閉じると、一筋の涙が静かに頬を伝った。
「ローズ」
間の入り口から、声が響いた。
透き通った、聞き覚えのある声。
ローズは目を見開いた。ゆっくりと首を巡らせる。
廊下の奥からエリカが歩み寄ってきた。そして、その隣には――
吉田がいた。
彼は自分の足で立っていた。顔色は蒼白で足取りもおぼつかず、かろうじて身体を支えている状態だったが、確かに息をしていたのだ。
ローズの手から、漆黒の剣が滑り落ちた。
『ガラガラガシャンッ!』
金属音が無人の間に虚しく響き渡る。
「……」
「ローズ……」吉田が呼んだ。
次の瞬間、ローズの姿が階段の上から消え去った。
歩いてなどいなかった。
己の身体を弾丸のごとく彼に向かって投げ打っていたのだ。
「吉田ぁぁぁッ!!」
ローズは激しい衝撃と共に彼へ抱きつき、吉田はあやうくバランスを崩しかけた。エリカが弾かれたように後ろへ下がる。
ローズは少年の胸元に顔をうずめ、なりふり構わず泣き叫んだ。
「生きてる……っ! 生きてるじゃないのよぉぉっ!!」
彼女の手は、彼の服を破らんばかりの力で強く握り締められ、激しく震えていた。
「死んだと思ったのに……っ! もう二度と会えないと思ったのにぃっ……!」
訳も分からぬまま、吉田は彼女の背中にそっと腕を回した。
「俺は……ここにいるよ」
「ごめんなさい……っ!」彼女は哭泣した。「ごめんなさいっ……!」
「謝ることなんて何もないだろ」
「もう二度とこんなことしないでッ!」ローズは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、彼を睨みつけた。
「ちょっと待てよ、俺のせいじゃないだろ……」
「黙りなさいッ!」
吉田は即座に口を閉ざした。
「……了解です」
数メートル先で、ケンが疲れたように小さく微笑んだ。
「どうやら、悪運強く生き残ったみたいだな」
シェイリーも安堵の涙を拭った。
だが、エレノアだけは黙っていられなかった。
「うわあああぁぁぁんッ!!」叫び声を上げながら駆け寄ってくる。「生きてんじゃねぇか、このクソガキぁぁっ!!」
エレノアは二人まとめて飛びつき、吉田とローズを窒息せんばかりの力で抱きしめた。
「離しなさいよエレノア!」ローズが抗議する。
「離すもんですかぁっ!」
シェイリーも泣きながら走ってきて、その輪に加わった。
「ふたりともバカじゃないのぉっ!?」
「おい、冗談抜きで息ができないんだけど!?」群がる彼女たちの中心で吉田が悲鳴を上げた。
デイランドが呆れた顔でケンを見やった。
「……あの人たち、いっつもこんな感じなんですか?」
ケンは溜息をついた。
「慣れろ」
はるか遠く引き離された、暗澹たる密室にて――
巨大な赤水晶が玉座の間の光景を映し出していた。吉田に抱きつくローズ、集まって歓喜する者たちの姿がそこにある。
フードを目深に被った二人の人物が、その光景を注視していた。
そのうちの一人、小柄な人影が不気味な嘲笑を漏らした。
「あらあら……最初の試みであっさり失敗しちゃったねぇ。使えない奴」
もう一人の大柄な影が、激怒のあまり拳を握りしめた。
「デルガドめ……ハメ手に気づきおったか……っ!」
小柄な少女のフード影が、男の脚を思い切り蹴り飛ばした。
「無能! ちゃんと殺しておけって言ったでしょーが!」
「あの魔族の王子が、あんな隠し玉を持っておるとは知らんかったのだ!」
「知らなかったで済むわけないでしょ」少女は足を止めた。「まあいいわ……まだあの聖者どもを血祭りにあげる時間はたっぷりあるしね」
男が彼女を見やった。
「次はどうするつもりだ?」
「次は失敗しない。完璧に消すわ」
その時、赤水晶の映像が激しく歪んだ。
投影の中に、一本の手が伸びてくる。エリカだ。
城内にいる少女が、通信用の魔石をその手で掴み取っていた。
「あら?」少女が首をかしげる。
『バリンッ!』
エリカの手によって赤水晶が粉砕された。投影は一瞬でかき消え、部屋は完全なる闇に包まれた。
フードの少女は頭を抱え、冷ややかな爆笑を上げた。
「やれやれ……勘づかれちゃったみたいだねぇ。キャハハハハハッ!!」




