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『二つの世界、一人の魔王』~東京2080からエヴァの大地へ~  作者: 黒猫
第十章:魔神帝国の統治
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第104話:魔族の反乱

 吉田はゆっくりと目を開け、胸の上に感じる確かな重みと温もりに、すぐさま違和感を覚えた。


 二、三度まばたきをして視界の霞みを払うと、眼下に視線を落とした。そこには、自分の胸の上に丸くなって熟睡しているエレノアの姿があった。


「え……?」


 ガンガンと痛む頭のまま固まること数秒。我に返った瞬間に跳ね起きた。


「な、なんだってーっ!?」


 エレノアはろくに身じろぎもせず、億劫そうに不平を漏らした。


「んぅ……あと五分……」


 吉田の顔が熟したトマトのように赤く染まった。


「昨日の夜、一体何があったんだよ!?」


 記憶の断片を手繰り寄せようと周囲を見回した。転がるワイン瓶、床に散乱したグラス、特注のソファで寝こけているシェイリーの姿。心臓が嫌な汗とともに跳ね上がったが、服の乱れがないことを確かめると、胸を撫で下ろして深く息を吐き出した。


「……よかった、助かった」


「何でそんな朝早くから騒いでんのよ……」


 胸元にしがみついたまま、エレノアが文句を言う。吉田は再び悲鳴を上げそうになった。


「もう夕方の五時だよっ!」


「あ……」エレノアは片目だけを開けた。「じゃあ、まだ早いわね」


「どこが早いんだよ!?」


「海賊にとっては早朝よ」彼女は再び目を閉じた。


「どんな理屈だよ!」


 少し離れたソファでは、シェイリーが気持ちよさそうに寝息を立て続けていた。吉田は呆れて首を振り、二人を放っておいて玉座の間の窓へと歩み寄り、厚手のカーテンをわずかに開けた。


 視界の先に広がるのは、いつも通りの帝都の街並みだ。だが、何かがおかしかった。はるか遠方、南北の空から二筋の巨大な黒煙が立ち上っていたのだ。


 吉田は不審そうに目を細めた。


「何だ……?」


 思考を巡らせる暇もなく、玉座の間の重厚な扉が唐突に押し開かれた。


「お気づきのようですね」


 急ぎ足で入ってきたのはデルガドだった。その表情は、いつになく引き締まっている。


 吉田はすぐさま振り返った。


「どうしたんだ?」


 デルガドは息を整え、一息に事実を告げた。


「造反です」


 二日酔いの不快感が一瞬で吹き飛ぶほどの衝撃に、吉田は絶句した。


「……は?」


「時間の問題ではありました」


「時間の問題って……!」吉田は魔族の王子の余裕に苛立ちを隠せなかった。「クーデターが起きてるってのに、何でそんなに落ち着いていられるんだよ!?」


「こうなることは目に見えていましたから」


 吉田は信じられないというように両手で頭を抱えた。


「なら、何で誰も俺に教えてくれなかったんだよ!?」


 デルガドは諦めたように溜め息をついた。


「陛下が酒におぼれておられたからです」


「……ぐっ、確かに」


 ぐうの音も出ない事実を突きつけられ、吉田はエレノアに歩み寄ってその肩を揺さぶった。


「エレノア……エレノア、起きろって」


「嫌」


「反乱が起きたんだよ」


「勝手にやらせときなさいよ」


「クーデターなんだぞ!」


「クーデターなら明日にしなさい」


「エレノアッ!」


 海賊の女将軍は、ようやく億劫そうに目を開けた。


「大変なことなんて、いつものことでしょ」彼女は吐き捨て、再び目を閉じようとした。


 吉田は歯噛みしながら、もう一人の少女のもとへ向かった。


「シェイリー! シェイリー、起きろ!」


「んん……もう……夜ですか……?」


「夕方の五時だ!」


 シェイリーは頭を押さえ、顔を顰めながらゆっくり身体を起こした。


「……道理で、頭が割れるように痛いわけですね。それで……一体何があったんですか?」


 デルガドが静かに口を開く。


「南方で暴動が発生し、北方の山岳諸部族もまた帝国に対して牙を剥き始めています」


 それを聞いて、シェイリーの顔から一気に血の気が引いた。


「ええっ……そんなの聞いてないですよぉ……」


「同感だ」吉田も深く頷いた。


「故に、今すぐ動く必要があります。我が帝国の威信に刃を向ける者が辿る末路を、全土に知らしめる好機でもありますから」


 吉田はその言葉の裏にある凄惨な意図を悟った。


「南方で蜂起した小規模な反乱軍など、迅速に対処すれば容易に鎮圧可能です。ですが、北方の山岳部族は厄介です。数も多く、険しい地形を熟知しており、何世代にもわたって独立を守り続けてきた者たちです。この火種が大きく燃え広がれば、事態は泥沼化するでしょう」


「なら……」


「私が直々に赴きます。北へ向かい、事態が悪化する前に力でねじ伏せるか、あるいは講和に持ち込みます。竜を使えば、一瞬で現地へ到達できます」


「じゃあ、俺はどうすればいいんだ?」


「この都を守り抜いてください」


 吉田の背筋を冷たいものが走り抜けた。再び窓の外へと視線をやると、二筋の黒煙が未だに空を汚し続けている。


「いつの間に……こんな大混乱になってたんだ……?」


「厳密に申し上げれば、数日前から始まっていました。我々が今日、それに気づいただけのことです」


 デルガドは出口に向かって歩き出しながら、ふと足を止めた。


「ただ……一つ、腑に落ちない懸念があります」


「懸念?」


「今それを説明している時間はありません。急ぎ北方へ向かわねばなりませんので」


 吉田は頷いた。


「ああ、頼んだぞ」


 デルガドが退室し重々しい扉が閉まると、吉田は己の腰にある剣を見つめ、意を決してその柄を固く握り直した。


「よし……俺も仕事に取りかかるか」深呼吸をして二人の少女を振り返った。「二人の力を貸してほしい」


 エレノアはまだ眠たげな目をこすりながらも、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。


「任せなさい、バカシダ。だいたい、魔族の奴らが決起するのが遅すぎたくらいよ、ハハハ!」


「何がそんなに面白いんだよ……」


「海賊の島を思い出すのよ。弱小クランの雑魚どもが、いっつもアラソーンの首を狙って湧いて出てきたじゃない」


 シェイリーも立ち上がろうとしたが、ひどい目眩に襲われ、その場に崩れ落ちた。


「うぅ……大丈夫じゃないです……こういう展開、本当に嫌です……」

遅くなっちゃって本当にすみません!トラブル続きで泣きそうです……(;ω;)

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