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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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六百五章 雑話 その16

「戦乙女イェルメイド」は第六百七章を持ってとりあえず終了となります。

 長い間、お付き合いいただき誠にありがとうございました。

 さて、いろいろと考えた結果、次の小説は引き続き、「戦乙女イェルメイド」の後日譚となる「デボラの見る風景」の連載をすることにしました。イェルマ軍から脱走した斥候のデボラの視点から、その後のイェルマやリーンなどを描いていこうと思っています。そしてこの小説は第九次人魔大戦に繋がる内容でもあります。

 基本的にはツンデレ、マッタリで話は進んでいく…はずです。変人デボラと彼女に関わる人々をコミカルに描ければいいなぁと思っています。

 それでは、新連載もまたよろしくお願いします。


六百五章 雑話 その16


 アナが何とかボタンを説得しようとしていた。

「もう戦争は終わりました。せっかく傷が癒えて元気になった騎士兵たち…見逃してあげる訳にはいきませんか?これ以上、無駄な血を流すことはないんじゃないでしょうか…?」

 ボタンは言った。

「では、こうしよう。こちらに恭順の意を示して…コッペリ村やイェルマ城門の修復に協力する者は生かしておこう。そして、その後にその者たちの処遇を考えよう。実は…セレスティシア殿にも同じような事を言われたのだ。騎士兵は王国に忠誠を誓った者たちで自分の意志でイェルマ侵攻に参加したが、義勇兵は無理強いされてここにやって来たのだと…だから、義勇兵は許してやって欲しいとな…。だが、裏を返せば騎士兵には容赦をしなくとも良いという事だ。」

 イェルマ軍がエステリック軍からコッペリ村を解放した時、1000人近いエステリック軍の負傷兵がいた。その中には、王国騎士兵もいたのだった。

 アナは執拗にボタンに懇願した。

「そ…そこを何とか!命に区別はありません…失われた命はもう戻ってはこないのです。彼らにも親や家族が…」

「ああ…じゃぁ、彼らに今一度チャンスをやろう…それでいいかな?」

「…。」

 ボタンは恭順の意を示さない傷の癒えた騎士兵23名をコッペリ村の村外れの空き地に集めた。彼らはみんな上半身は裸にされていた。そして、その空き地には大きな衝立ついたてが一枚立てられていた。

 ボタンは言った。

「もう一度聞くぞ…お前たちは降伏せずに、あくまでも抵抗するというのだな?」

 騎士兵のひとりが叫んだ。

「当たり前だっ!俺たちは誇りある騎士だ、敵であるお前たちに死んでも屈服はしないっ‼︎」

「そうか、分かった。では…あの衝立ついたての向こうにひとりの女兵士がいる。その女兵士を倒すことができれば、そのまま逃げても良い。私たちは決して追いかけたりはしない。その女兵士を見事倒して、自分の運を試してみよ。」

「おうともっ!」

 ひとりの騎士兵が、あらかじめ地面の上に置かれていた武器…ショートソード、ロングソード、盾などの中からロングソード一本を拾って衝立ついたての方に歩いて行った。

 衝立ついたての向こうで待っていたのは…オリヴィアだった。オリヴィアは皮鎧を着ており、それ以外は何も装備していなかった。

 オリヴィアを見た騎士兵は言った。

「お前は武器はないのか⁉︎…素手で俺とやり合うつもりか?」

「うぬぬ…おにょれぇ〜〜…リューズの仇…ルビィとローズの仇…ペトラの仇…」

 オリヴィアは有無も言わさずに「軽身功」「黄巾力士」「梅花掌」を発動させた。

 オリヴィアのスキルの気配を感じ取った騎士兵は驚いて、すぐに「護刃」のスキルを発動させてロングソードを正眼に構えた。

(…スキル発動が三つだとぉ〜〜⁉︎近衛兵クラスじゃないか、本当にこいつは女なのか⁉︎)

 前日のことである。ボタンはオリヴィアに声を掛けた。

「オリヴィアちゃん、斥候の連中から聞いたぞ…新しいスキルを覚えたそうだな。」

「ふん…あんまり役に立つスキルじゃなかった…。」

 オリヴィアはまだ、ペトラにとどめを刺した事を引きずっている。

「オリヴィアちゃん…死刑執行人エグゼキューショナーをやらないか?」

「…ん?」

「傷が癒えても降伏しない敵兵が23人いるんだ。そのスキルを使えば相手を苦しませずに即死させる事ができるだろ…武人の情けを掛けてやってはくれないか?」

「何でよぉ〜〜っ!あいつらはとことん苦しめて、じわじわ殺して…地獄の釜にでも突き落としてやればいいんだわっ‼︎」

「んん、そっか、分かった…ベレッタさんにでも頼むか。ベレッタさんなら青龍刀で首をひと薙ぎだな…」

「…待って!…やる、わたしがやるっ‼︎」

「心臓を一撃…これで頼むよ。」

 オリヴィアは「軽身功」ですっと間合いを詰めた。それに驚いた騎士兵は接近するオリヴィアに拙速にロングソードを突き込んだ。

 オリヴィアは反三才歩で左に回避すると、手刀で騎士兵の右手首を攻撃しロングソードを叩き落とした。そしてすぐさま、紅潮した右掌で騎士兵の左胸を強打した。

 騎士兵は「うっ」と唸って数歩後退りし…ばたりと倒れてそのまま心臓が停止した。騎士兵たちが上半身裸で集められたのはこのためだった。

ドンドンッ…

 衝立ついたてを叩く音がした…ひとり目が終わったらしい。

「よし、次は誰が行く?」

「俺が行くっ!」

 二人目の騎士兵はタワーシールドとショートソードを拾って、衝立ついたての向こうへと歩いて行った。ひとり目の死体はすでに片付けられていて、そこにはなかった。

 オリヴィアを見た騎士兵は思った。

(…女か。最初の騎士兵はどうなったんだろう…?)

 オリヴィアが言った。

「二人目か…さっさと掛かってらっしゃいっ!」

 オリヴィアの言葉で、ひとり目の騎士兵はやられてしまったのだと確信した男は、女と侮ってはいけないと思い、タワーシールドを全面に突き出しショートソードに「護刃」のスキルを纏わせ慎重に構えた。

 すると、またもやオリヴィアが突進してきて騎士兵に飛び蹴りを浴びせた。騎士兵はそれをタワーシールドで受け止めると、オリヴィアはその反動を利用して騎士兵を飛び越し、騎士兵の背中側に着地した。

「むっ!」

 騎士兵は振り向きざまにショートソードでオリヴィアを横薙ぎした。しかし、オリヴィアはそのショートソードを…何と左腕でがっちりと受け止めた。

「バ…バカなっ、素手でショートソードを受け止めるなんて…!」

 剣士の「護刃」のスキルごときでは、武闘家の「黄巾力士」を纏った皮膚を切り裂くことはできなかった。せめて、「研刃」でないと…。

 オリヴィアはすぐに双掌打で騎士兵の胸を強打した。騎士兵は半回転して後頭部を地面に叩きつけた。

ドサァッ!

 その音を聞いた衝立ついたてのこちら側の騎士兵たちは戦慄し、凍りついた。

ドンドンッ…

 衝立ついたてを叩く音を聞いたボタンは言った。

「…次は誰だ?」

 名乗り出る者はいなかった。衝立ついたての向こう側にはモンスター級の女兵士がいる…!

「では…指名する。…お前行け。」

 こうして…23名の内19名の騎士兵がオリヴィアによって処刑され、4名がイェルマに帰順した。


 朝食が済んだ朝の九時頃、コッペリ村の大通りに面したダンの雑貨屋の店先にラウンドシールドとショートソードを持ってジョルジュがやって来た。

「ダフネ師匠ぉ〜〜っ!ダフネ師匠ぉ〜〜っ!」

 ダフネが戦斧「鬼殺し」を肩に担いで、ダンの雑貨屋から出てきた。

「おいおい、ジョルジュ。大声を出さなくても聞こえてるから…ユノがびっくりして引き付けを起こしちゃうじゃないか。」

「…すんません。」

 ジョルジュは今年十六歳で冒険者登録をしている。ティアーク王国で偶然イェルメイドのルカと会い、その強さに魅せられてさらなる高みを目指していた。ルカが出産するのを機に、養い親のヘクターと共にコッペリ村までやって来たのである。

 本当であれば、ジョルジュはそのルカに稽古をつけてもらいたかったのだが、ルカは産まれたばかりの赤子の育児で忙しく…代わりにダフネがジョルジュの稽古を引き受けてしまったのが事の発端だ。

 こうして、毎日の日課となってしまった「ジョルジュの稽古」が始まった。

 ダフネも結構大雑把な人間だったので、お互いに真剣での稽古も気にしていなかった。だが、ジョルジュにとっては普段の素振りや打ち込み訓練とは違って、極限までに緊張感を持った訓練となっていた。

 ダフネは「鬼殺し」の柄尻でジョルジュのラウンドシールドをガンガンと突いた。ジョルジュは必死でラウンドシールドを構え、その衝撃に耐えていた。

「ジョルジュ、このくらいでフラフラしてんじゃないよっ!もっと腰を低くして踏ん張れっ‼︎」

「は…はいっ!」

「盾持ちの戦闘スタイルってのはな、敵が打ち込んできた武器を完璧に弾き返して…その反動で怯んだりのけ反ったりしたその一瞬にカウンターを決めるんだ。ほらほらぁ…攻めて来い、攻めて来いっ!」

 ジョルジュはダフネに叱咤されて、突撃してダフネにショートソードを振り下ろした。ダフネはそれをひらりと躱して、ジョルジュの尻を蹴飛ばした。

「…無策で突っ込んで来るんじゃないっ!」

「ひいぃ〜〜っ!」

 二人の稽古を遠巻きに見ている者がいた。それはグレイスの養い子のヘンリー、ベイブ、イアンだった。彼らははらはらしながら二人の稽古を観戦していた。彼らは十三歳…こう言った男らしい「殴り合い」に興味を持つ年頃なのだ。

 ヘンリーは隣のベイブに言った。

「あの剣も斧も…真剣だろ。ジョルジュくん、怖くないのかなぁ…。」

「ダフネの姉ちゃん、あんなでっかい斧を振り回して…凄えなぁ…。」

「…俺も稽古やりたいなぁ。」

 すると…悪ガキ三人の後ろに大きな影が立ち…声を掛けてきた。

「お前ら、何見てんだ?」

「…うわっ…‼︎」

 三人が驚いて後ろを振り向くと、そこには方天戟を持ったルカが立っていた。

 ルカに気づいたダフネは、ジョルジュの稽古を一旦中止した。

「おや、ルカ師範⁉︎」

「ジョルジュが毎日世話になってる…いつも済まんな。」

「ジュニアは元気ですか?」

「うん、今、ヘラに預かってもらってる。」

 ルカの息子は「ヘクタージュニア」と命名されていた。

「ダフネ、ちょっと打ち合わないか?…体を動かさないせいで、全身うずうずして困ってるんだ。」

「方天戟…それで打ち合いを…⁉︎」

「…構わないだろ?」

 ルカはダフネよりももっと大雑把だ。

 二人はお互いにメインアームを持って対峙した。一体何が始まるのだろうかと…ジョルジュとグレイスの男の子たちは固唾を飲んで見ていた。

 突然…

「うおりゃぁ〜〜っ!」

 ルカはいきなり方天戟をダフネの頭部に振り下ろした。ダフネは咄嗟に肩の上の鬼殺しを両手に持ち替えそれを受けた。

ガキィィ〜〜ンッ!

 方天戟と鬼殺しが壮絶にぶつかり轟音を響かせた。その音は周りで見ていたジョルジュやヘンリーたちを驚かせた。

 方天戟を受けて少し手が痺れたダフネは思った。

(うわっ…この人、容赦ないな…!下手に気を抜いてたら殺される…‼︎)

 ルカはすかさず方天戟に付いている刃…「月牙」でダフネの腹を薙いできた。すぐにダフネは手練の蹴りで方天戟を迎撃した。

「うおっとと…!」

 方天戟の勢いを殺し切れず、逆にダフネがよろめいてしまった。基本に忠実なルカの槍術は全てにおいて騎馬立ちの低い姿勢から繰り出され岩のような安定感だ。蹴りを繰り出して片足立ちになったダフネの方が方天戟の勢いに押し返された形だ。

(さすがルカ師範…あたしの生半可な蹴り技じゃ、攻撃を受け切れないか…!)

 そこから、方天戟と鬼殺しの柄尻が激しくぶつかった。

ガン…ガンッ、ガリッ…ガガンッ…!

 その様子を少年たちは瞬きするのも忘れて食い入るように見ていた。ジョルジュは思った。

(うわぁ〜〜っ…ルカ師匠もダフネ師匠も、どっちも強いなぁっ!ヘクター師匠よりも強いんじゃないか?)

 ルカが笑いながら叫んだ。

「ダフネ、受けてばかりいないで攻撃してこいよ!」

「ええっ⁉︎…でも…」

「その斧はミスリル合金で…私の方天戟が折れるとでも思ってるのかぁ〜〜?」

 …まさしくその通りで、ダフネは攻撃をためらっていたのだ。

「…よぉ〜〜し、じゃぁ…」

 ダフネは隙を見て、「ダフネ流鬼ごろし担ぎ上段」の形から、肩の僧帽筋の反動をつけて鬼殺しの刃をルカ目掛けて撃ち出した。

 緩やかな弧を描いて迫り来る鬼殺しを…ルカは方天戟をやや斜めにして受けた。

ギャリリリッ…!

(わっ…ルカ師範、うまいっ!…そうか、ランサーのスキル「スピンドル」で弾いたのかっ!)

 ランサーのスキル「スピンドル」は槍や矛などの長物をドリルのように高速で軸回転させるスキルだ。

 その瞬間、ヘンリーは頬に何かがぶつかって来たので顔を背けた。

「痛てっ…。」

「ヘンリー、どうしたんだ?」

 ヘンリーが地面に落ちた物を拾ってみると、それは木屑…こけらの様なものだった。

「…何だこれ?」

 ルカとダフネは方天戟と鬼殺しで攻守交えて激しく打ち合った。そしてしばらくして…

「痛てててて…ダフネ、ちょっとタンマッ!…足の裏が攣ったっ…‼︎」

 ダフネは鬼殺しを止めた。

「あはははは、いきなり無茶して動いたからですよ。ルカ師範、今日はこれまでにしましょう。」

 ルカは右足のアキレス腱を伸ばすような仕草をしながら言った。

「うむむ…鬼殺しは強いな。ダフネよ、方天戟を見てみろ…」

 ルカから方天戟を渡されてダフネが見てみると…方天戟の柄には螺旋状の傷がいくつも刻まれていて、ボロボロでいつ折れてもおかしくない状態だった。ヘンリーに飛んで行ったこけらは削られた方天戟の一部だった。

「…方天戟の柄は樫の木なんだがなぁ、こりゃ…取り替えないとダメだなぁ…」

「何か…すいません。」

「いや、ダフネよ、気にするな。良い運動になった!じゃ、私はもう少し…寝る‼︎」

「…お休みなさい。」

 ルカはボロボロの方天戟を肩に担いで宿屋の方向に帰って行った。

 次の日の朝…ダンの雑貨屋の前でダフネを呼ぶ声がした。

「ダフネ師匠ぉ〜〜っ!ダフネ師匠ぉ〜〜っ!」

 ダフネが雑貨屋から出てきた。

「何度も言ってるだろう、大声を…おおっ⁉︎」

 ダフネの目の前に四人の少年が立っていた。それは…ジョルジュ、ヘンリー、ベイブ、イアンだった。

「お前たち、確か…グレイスさん家の男の子だよね?」

 ヘンリー、ベイブ、イアンはどこかで拾ってきた棒っ切れを腰紐に挟んでいた。

「お…俺たちにも稽古をつけてください!ダフネ師匠、お願いしゃぁ〜〜っす‼︎」

「お願いしゃぁ〜〜っす!」

 …どうしたものだろうか?ダフネは困惑した。

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