六百四章 エスメリアとペーテルギュント その3
六百四章 エスメリアとペーテルギュント その3
ワイバーンの死体を何とか大型船に運び上げ、大型船は約二時間のクルージングから戻ってきた。
マスター=ヨワヒムとマスター=ライバックは岸壁にワイバーンが揚げられると、すぐ様ワイバーンの死体に群がって、あちこちを突ついて調べ始めた。
大型船を降りたヴィオレッタたちはとりあえず宿屋に戻って休憩を取ることにした。
宿屋に入ると、エスメリアはペーテルギュントの右腕にくっ付いたままテーブルに隣同士で座った。そして、エスメリアは執拗にペーテルギュントに話し掛けていた。
『ペーテルギュント様は弓がお得意なのですね。どこかで修業をされたのですか?』
『うん…セレスティシアの家系は魔道士が多いけれど、僕らの家系は武人が多いんだ。それで僕は幼い頃からアーチャーの修業をしていたんだよ。君は職業を持っているの?』
『ええと…私は職業というものを持っておりません。でも、ペーテルギュント様がアーチャーなら、私もアーチャーになりたいです。私に弓を教えていただけませんか?』
『そうか、エスメリアはアーチャーを目指すのか。いいよ、構わないよ。』
『ありがとうございますぅ〜〜っ‼︎』
それを聞いたエスメリアはペーテルギュントに抱きついて、満面の笑みでペーテルギュントに頬擦りをした。頬擦りされたペーテルギュントは目を丸くして、これにはさすがに驚いていた。
それを見ていたヴィオレッタは…
(うわっ、エスメリアさん、やり過ぎやり過ぎっ!ペーテルギュントさんは人間社会で生活したことないから、人間にとっては挨拶でも…体の直接の接触はダメだってっ‼︎…引くってっ‼︎)
それでも、ペーテルギュントは変わらずにエスメリアのお喋りに付き合っていた。この二人、これからどうなるんだろう…ヴィオレッタはそう思った。
昼過ぎ、ヴィオレッタたちはリーン族長区に帰る準備をしていた。
するとそこにペーテルギュントがエスメリアを右腕にくっ付けてやって来た。そしてヴィオレッタに人語で話しかけた。
「セレスティシア、僕はここに残ることにしたよ。」
「残る…つまり、イェルマ渓谷には戻らず、このドルインにいるって事ですか?それって…」
「僕はエスメリアを受け入れることにした。」
「えっ…!」
ヴィオレッタにとっては予想外の展開だった。
「…何と言うか、エスメリアは僕が今まで出会ったエルフとは違っていた。僕にとって、とても興味深くて…刺激的な女性だった。」
「し…刺激的…?」
エスメリアは人語は解らない。ペーテルギュントの右腕にしがみついてニコニコしているだけだった。
「うん。言葉にするのは難しいんだけど、彼女といると、なぜか心がウキウキするんだ。彼女が僕の腕にしがみついた時も…一瞬、心臓がドキリとした。そして…次に彼女が何をしてくるのだろうと期待してしまうんだ…。それで、もうしばらくエスメリアと一緒にいようと思う。それが百年になるのか、二百年になるのかは分からないけれど…。」
ヴィオレッタは唖然とした。
(案ずるより産むが易しとはこの事ね…。ペーテルギュントさんも成熟した立派な男性で…エスメリアさんの猛アピールに屈服しちゃったって事かしら…?)
ペーテルギュントは続けた。
「それで、僕がこのドルインに残るにあたって…住居や生活費をどうしたものかと。何か仕事を紹介してもらえないかな…。」
「ああ、それなら丁度良かったです。ペーテルギュントさんには、エドナさんの代わりに艦隊司令官をやってもらいましょう。」
「…艦隊司令官?」
「大型船に同乗して、船団を指揮してワイバーンから船団を守ってください。あの弓の腕前なら弩は要らないくらいですよ。…そうしてもらえれば、エドナさんのために借りていた家屋を使ってもらって構わないし、生活費もリーンが持ちますよ。」
「ありがとう、セレスティシア。」
エスメリアがちょっと膨れてエルフ語で言った。
『ねぇねぇ…何を話しているんですかぁ?人語で話すって…私に聞かれては困る内緒話ですかぁ〜〜?』
『セレスティシアに仕事を紹介してもらったんだよ。これで僕はこのドルイン港に長期滞在することができるよ。』
『まぁ、嬉しい!私は毎日でもペーテルギュント様の元に通いますわぁ〜〜っ‼︎』
ヴィオレッタはちょっと思った。
(おいおい…マーマンたちのお世話はどうするの…?)
ヴィオレッタたちはリーン族長区に戻る旅支度を終えて、ペーテルギュントとエスメリアに見送られて、懐かしきリーン族長区に向けてドルイン港を出発した。ここで、ルドはヴィオレッタの護衛をスクルとティルムに引き継いでバーグ要塞へと戻って行った。
幌馬車の中で、ヴィオレッタはエヴェレットに尋ねた。
「エヴェレットさん、エルフって…何歳で子供を産めるようになるんでしょう?」
「純血のエルフなら…二百歳くらいでしょうか。でも、実際に結婚するのは…千歳を過ぎてからが多いですねぇ。」
「ふぅ〜〜ん…エスメリアさんって、まだ百歳足らずなのにね…。」
「彼女は年齢の割りにはおませなところがあります。屈託がなくて、何に対しても積極的というか…純血のエルフとしては珍しい方だと思いますよ。」
「…なるほどねぇ。」
エスメリアはマーマンと共同生活をしていたとはいえ、人間社会の中にいた。彼女の積極性は寿命が短くて生き急ぎをしている人間を模したもの…または、感化されたものだと思う。人間との暮らしが長くなると、エルフも人間化するということか?すると私も百歳を超えたあたりで…誰かと恋に落ちるのだろうか?同族の同じ銀髪碧眼といったら…もしかして、ハーフエルフだけど、スクルさんとか?
「セレスティシア様…私の顔に何か付いていますか?」
「い…いえ。」
馬上のスクルは何かに化かされたような顔をしていた。
いや待て…私は人間社会の中にいるとは言っても、私の回りは長命のハーフエルフばっかりじゃないか。どっちになるんだ…分からん!ヴィオレッタは考え直した。
「ところで、スクルさん…ご老体たちの姿が見えませんけど…?」
「ああ…ワイバーンの研究をしたいから、ドルイン港に残るそうです。」
「うわ…ペーテルギュントさんに迷惑を掛けなければいいけど…。ペーテルギュントさんには生活費を多めに差し上げてください。それにしても…ワイバーンの研究って、どんな目的があるんでしょうねぇ…。」
「何か…ワイバーンをテイムしたいとか言ってましたが…」
「えええ…性懲りも無く…!シーグアさんとのテイマー戦争に敗れて落ちぶれて…結局リーンに流されて来たってことを全然分かってませんね‼︎」
「…言っても聞きません。」
「…そね。」




