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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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六百一章 ジャネットの棒術指南

六百一章 ジャネットの棒術指南


 さらに二日後、ヴィオレッタたちはついにリーンとラクスマンの国境に到着した。ジャクリーヌの風神軽騎兵を先頭にして緩衝地帯に侵入していくと、ラクスマン兵の数はまばらで…五十騎近い風神軽騎兵の姿を見るや、無言で道を開けた。

「ほう…ここにはちゃんと通達は来ているみたいですね。軍務尚書は決まったようですね。」

 ヴィオレッタたちの馬車隊が緩衝地帯を抜けると、そこにはルド率いるベルデン軍が待っていた。ここはリーン族長区連邦のベルデン族長区領だ。

「お帰りなさい、セレスティシア様!」

「ルドさん、ただいま!」

 こうして、ヴィオレッタはようやく懐かしきリーン族長区連邦に帰還した。

 風神軽騎兵のリーダー、ジャクリーヌはベルデンの族長だ。

「ヴィオレッタ、私たちはここでお別れだ。あとの護衛はルドに任せるよ。」

「ああっと…ジャクリーヌさん、そこの二人…マックスさんとジャネットさんを連れて行ってもらえませんか?」

「二人…こいつらの事か?」

「ジャネットさんはランサーで、槍の達人です。色々あって…『技術指導員』としてイェルマから連れてきました。」

「おほっ…私たちに槍の使い方を指導するってか?面白い…面白いねぇ…!」

 ジャネットが馬から降りて…馬に跨るジャネットに土下座をした。

「ジャ…ジャネットっす!よろしくお願いするっす‼︎」

「お、おいっ…やめろやめろっ!そんな事するな、頭を上げろっ…お前たち二人ぐらい、このジャクリーヌが何とでもしてやるからっ‼︎」

 こうして、マックスとジャネットはとりあえずベルデンで生活する事となった。マックスはセコイア教大僧正代理であるエヴェレットのお沙汰待ちというところだ。

 二人はジャクリーヌの風神軽騎兵についてベルデンの首都ベルダにあるベルデン教会堂を目指し、ヴィオレッタたちは港を持つドルインを目指す。

 マックスとジャネットが抜けて、ルドはなおもヴィオレッタたちの後を着いて来る騎馬を見た。

「セレスティシア様…あれはもしや、純血のエルフ…⁉︎」

「イェルマ渓谷にいた森エルフのペーテルギュントさんですよ。」


 ベルデンでの道中、ジャネットはドキドキしていた。回りは異形の仮面をつけた騎兵ばかりで、中には男の騎手も混じっており、彼らは心臓を守るだけの皮の胸当てを装備していて上半身はほぼ裸だった。

(むむぅ…これが「異文化交流」ってヤツっすかねぇ…。馴染めるかなぁ…でも、マックスのために頑張らないと…!)

 首都ベルダに入ってすぐ、ジャクリーヌが言った。

「ベルデンのセコイア教の教会堂が見えてきたぞ。お前たちはしばらく教会の預かりとなる。」

 教会堂から教会主のダーナが現れた。

「長旅、お疲れ様でした…エヴェレットさんから「念話」をいただいて、お話は伺っておりますよ…」

 ジャクリーヌがちょっと意地悪をした。

「ジャネット、ダーナはヴィオレッタ…セレスティシアの身内の方だ。粗相そそうをするなよ!」

 それを聞いたジャネットは…再び土下座をした。

「ははあぁ〜〜っ…‼︎」

「ちょっ…やめてくださいよ。土下座なんて…無闇やたらとするものじゃありません。目上の人に礼儀を尽くす事は大切ですが、人間としての自尊心も大事にしてください…ささ、とりあえずお二人とも中へ…。」

 するとジャクリーヌが…

「ダーナさん、ちょい待ち。」

「…ジャクリーヌさん、何か?」

「ジャネットは槍の先生として、遥々イェルマからやって来たらしい。ならば、その腕前をご披露願いたい。それを見て…これからのこちらの対応も考えなくちゃだからな。…おい、ハリソン、やってみろ!」

「おうっ!」

 風神軽騎兵のハリソンと呼ばれた男が長い棍棒を二本持ってやって来た。それを見たジャネットはこれから腕試しが始まるのだな、と理解した。

(ここで私が良いところを見せられるか否かで、今後の私とマックスへの待遇が変わってきそうだ…全身全霊を以て頑張るっすっ‼︎)

 ハリソンが棍棒をジャネットに投げて寄こした。それを受け取ったジャネットは棍棒の先をハリソンに向けて身構えた。

 マックスが言った。

「…ジャネット、大丈夫なのかい?」

「やるしかないっす。畑仕事やお裁縫っていうのなら自信はないけど…棒術なら自信があるっす!」

 ジャネットとハリソンは対峙した。ハリソンは自分よりも若く見えるが、尖り耳を見るにハーフエルフなのだろう…きっと、自分よりもはるかに歳上なのだろうと、ジャネットは思った。

 ハリソンが棍棒を突いて来た。ジャネットはすかさずランサーの深度2のスキル「スパイラル」を発動させた。ハリソンの棍棒はジャネットの「スパイラル」に巻き取られ、そのまま空高くに跳ね上げられた。この「スパイラル」はジャネットがエステリック大侵攻の際に獲得した初めての深度2のスキルだった。

 ジャクリーヌが驚いていた。

「おおおっ、今のは『スパイラル』か…深度2のスキルだな⁉︎…って事はジャネットは深度1のスキルをコンプした上位職の『ストライカー』なのだな?」

「その通りっす…。」

 風神軽騎兵のみんなも「おおっ!」と唸った。

「よし次、ロスマリンッ!…我々が風神軽騎兵ってことを忘れんなよっ‼︎」

 次は女の兵士だ。ジャネットとロスマリンは対峙した。

 ロスマリンは初め、「スパイラル」を警戒してチョンチョンとフェイントを入れて慎重だった。そこでジャネットは中腰からの重くて正確な突きを繰り出した。

ガンッ…ガガンッ!

 ロスマリンは何とか防いだが、ジャネットの突きを受ける度にその衝撃で体がよろめいた。やはり専業軍人のイェルメイドと、家畜の世話や家事に追われその合間を縫って訓練をしているリーンのランサーでは培った基本が違った。

 ジャネットは「とどめ」と思って強烈な突きを繰り出した。すると、ロスマリンはその突きを棍棒で受けると、その反動を利用して…何とジャネットの棍棒の上を飛んで一回転し、そのまま棍棒でジャネットの頭部を狙った。

 ジャネットは体を真後ろに倒して両腕で棍棒を地面に突き立て、バッタリ倒れるのを防ぎつつロスマリンの腹を右足で蹴り上げた。すると、蹴り上げられたロスマリンは宙高く…5mくらい浮き上がって、二回転してゆっくり地面に着地した。

(げげっ!…重さがないっ‼︎)

 そうなのだ…ロスマリンは「水渡り」を使っていたのだ。

 その時、ジャクリーヌが叫んだ。

「よし、それまでだっ!ジャネット、今の咄嗟の動き…凄かったな…」

 イェルマのランサーの技には基本的な槍捌きに加え、周直ジウジィが持ち込んだ武闘家の棒術が加味されている。その上、同じイェルメイドの剣士、戦士、武闘家などとの異種戦闘もこなしており、いかなる戦闘の局面であっても対応できるように研究と研鑽がなされている。そして、その技術は中堅であるジャネットの体に深く刻み込まれているのである。

 ジャクリーヌは続けた。

「それでは…」

 風神軽騎兵のみんながジャクリーヌに注目した。ジャネットに勝てるのは…深度1をコンプした同じ上位職「ストライカー」の族長ジャクリーヌしかいない!

「…長旅で疲れているだろうし、ここまでとするか。うん…ジャネットの技量は充分判った。三日くらいゆっくり休んで、四日目から仲間を指導してやってくれっ!」

(えええええぇ〜〜っ?…族長、やらないのかぁ〜〜っ⁉︎)

 ジャクリーヌはみんなの期待を無視して…そそくさと馬でその場を去っていった。

 その夜、ジャネットとマックスは教会堂で僧侶たちと侘しい夕食を摂っていた。すると教会堂に…ジャクリーヌが現れた。

「ジャネットはいるかぁ〜〜っ?」

「おや…ジャクリーヌさん、こんばんわっす。」

「ジャネット、すまないが…私に特訓をしてくれっ!」

「…へ?」

「…お前の技量ははたで見ていて…今の私じゃ絶対に勝てないと思った…だから、しごいて欲しい!」

「では、みなさんと一緒に四日目から…」

「私には立場ってモンがあるんだよぉ〜〜っ!三日間で、お前といい勝負が出来るくらいまでしごいてくれよぉ〜〜っ!…それで四日目からって言ったんだからっ‼︎」

「わ…分かった…っす。」

 ジャクリーヌが決して弱い訳ではない。イェルメイドが特殊なのだ。

 プライドが高く負けず嫌いな人はよくいる。それでも…努力しようとするジャクリーヌはその中でも随分ましな方であろう。

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