五百九十七章 コッペリ村の会合
五百九十七章 コッペリ村の会合
イェルマが祝勝会で盛り上がっていた頃、コッペリ村でもひとつの会合が行われていた。キャシィがコッペリ村の貿易商人たちに声を掛けてキャシィズカフェに招集したのである。その中にはユーレンベルグ男爵の姿もあった。
キャシィズカフェの一階のワイン倉庫にテーブルを並べて、そこで十数人のコッペリ村の商人たちが粗茶を飲んでいた。
キャシィはみんなに挨拶をした。
「みなさん、足元のお悪い中、かくも賑々しくお集まりいただき誠に…」
コッペリ村の商人のひとりが言った。
「今日は朝から良い天気だぞ。そんな事より、キャシィ、早く本題に入ってくれ。」
「あはははは、そっか。じゃ、単刀直入に話しますね。城塞都市イェルマは正式に国家に昇格して、コッペリ村はイェルマの領土に編入されました。これは皆さんご存知?」
「ああ、知ってるよ。税金なし、自治権あり…その代わりに、イェルマ軍が常駐するって話だろう?村長から聞いた。」
「そそ。みなさんはイェルマの国民になりました。イェルマの女王ボタン様はコッペリ村をしばらくの間は商業特区として扱うお考えです。今回の戦争でイェルマが勝利して、エステリック、ティアーク、ラクスマンとの間で自由貿易ができるようになりました…」
「おおっ!これからは、俺たちも自由に同盟三国の城下町に入れるんだな…素晴らしい、ボタン様万歳っ‼︎」
これまではコッペリ村の商人が城下町に入ろうとすると、必要以上にイェルマとの関係を長時間詮索されて無駄な時間を浪費していた。なので、商人たちは門番の衛兵に袖の下を掴ませたり、取引相手を城門の外に呼び出したりしていた。
キャシィは叫んだ。
「待て、早まるなぁ〜〜っ!」
「んん…違うのか?」
「違わない、違わないんだけどぉ〜〜…みなさんに勝手放題に商売をされては困るんですよ。例えば、馬…勝手に馬をエステリックに売ってもらっては困ります。現在、エステリックは馬をとても欲しがってます。でも、馬はリーン族長区連邦が数を限って売る事になってます…」
「コッペリ村じゃ、馬なんか生産してないぞ。」
「最後まで話を聞けぇ〜〜!馬は例え話です、つまり、計画的な貿易をしようって話をしてるんですよっ‼︎もうひとつ例え話をすれば…コッペリ村の不動産を抵当に入れて借金をしてもらっては困ります、そんなことをしたら同盟三国につけ入る隙を与えてしまいます…」
「なるほど…」
「なので…同盟三国との貿易にあたっては、私の『キャシィ&ハインツ商会』が全て取り仕切る事になりました。みなさんに商売をするなって言ってるんじゃないです、同盟三国と商売する際は事前に売買する相手と品物をリストにして私に提出してください。」
「何だと…商売の内容を検閲するってか⁉︎面倒臭いなぁ…。」
「これがイェルマがコッペリ村のみなさんに課した唯一のルールです。このくらいは守ってくださいよ。」
「イェルマの女王はコッペリ村の自治権を認めてるんだろう?…それは、自治権の侵害じゃないのか⁉︎」
その時、会合に参加していた顎髭の商人が発言した。
「お前ら、誰のおかげで生きて来れてるんだ?コッペリ村がエステリック軍に占領されて、食い物全部持って行かれて…飢え死に寸前のところを食料を配って助けてくれたのは誰だったか忘れたのか?」
「しかし…あれは、エステリック軍の食料だったって話じゃないか…」
すると、三十台の男性が発言した。
「あなたはあの時、エステリック軍から食料を奪うことができましたか?そんな知恵と勇気があなたにありましたか?…家族が餓え死にを免れた事を思えば、キャシィに恩を感じることはあっても、キャシィを糾弾するなんてことは筋違いも甚だしいんじゃないですか⁉︎」
キャシィは発言者の男を見た。あれは…キャシィズカフェを贔屓にしてくれている老夫婦の息子だ!
二人の発言者のおかげで、会合でキャシィに不満を漏らす者はいなくなった。それで…
「ここに『キャシィ&ハインツ商会』の鑑札を作っておきました。私の提案を承諾していただいた方にはこの鑑札をお渡しします。これがあれば、同盟三国の城下町の出入りが自由になるはずです。誤解しないでくださいね…これは商売を制限しているんじゃないんですよ、したたかな同盟三国から末長くコッペリ村を守るための方策ですからね。」
みんなは納得してくれたようで、一枚一枚とキャシィから鑑札を受け取ってキャシィズカフェから出て行った。
顎髭の紳士がキャシィから鑑札を受け取った。
「ひげのおっちゃん…ありがとぉ〜〜っ!」
「俺は受けた恩は必ず返す主義だからな!」
三十台の男もキャシィから鑑札を受け取りながら言った。
「…早くキャシィズカフェを再開してくださいね。親父とお袋が待ちわびてるんで…。」
「うんうん…!」
二人が去ると、キャシィズカフェの一階はキャシィ夫妻とユーレンベルグ男爵たちだけになった。
ユーレンベルグ男爵は慎重に言葉を発した。
「キャシィ…この前の話なのだが…」
「この前の話って…別れろって話ですか?」
「違う!…商売の話だ。もう一度、ワインに関してキャシィと売買契約をしたいのだが…。」
「良いですよ。ただし、新しい契約をしたいと思います。以前の契約は純利益の5%が私の取り分でしたが…それは破棄します!」
「…ん?」
「これからは…ユーレンベルグさんのワインを買います!」
「おおっ、そういう事か!」
以前の契約では、ユーレンベルグ男爵がコッペリ村までワインを運び込み、輸送費、馬車の護衛料なども男爵の負担だった。その代わり、コッペリ村でのワインの純利益の95%が男爵の取り分となっていた。つまり、キャシィの儲けはワインを売った「手間賃」だった訳だ。
しかし、キャシィが希望する新しい契約は…男爵からワインを卸値で買うという契約である。この場合、ワインの輸送費や馬車の護衛料などはキャシィの負担となるが、キャシィはワインの値段を自由に設定でき、利益も100%キャシィのものとなる。但し、もしワインの輸送中に事故が起こったり、盗賊に襲われたりしてワインが失われた場合は全てキャシィの損失になるというリスクもある。
「…良いだろう。お前にワインを卸してやるよ。それとだな…エルフのハーブティーの独占権も復活させてくれないか…?アレは意外に儲かっているのだ。」
「構いませんよぉ〜〜。今後とも『キャシィ&ハインツ商会』をよろしくぅ〜〜っ!」
ユーレンベルグ男爵は恨めしそうにキャシィ夫妻を眺めた。
(ハインツはもう諦めるしかないか…。まぁ、リヒャルドがいる…ユーレンベルグの全財産はリヒャルドに継がせる事にしよう…。)




