五百九十六章 メグミちゃんは女王様?
五百九十六章 メグミちゃんは女王様?
ヴィオレッタもまた、祭事館の祝勝会を抜け出して、エヴェレットと共にイェルマ城門前広場へと向かった。
城門前広場では豚汁やおにぎりなどの炊き出しが行われていて、祝勝会という事もあってさらに酒類も振舞われていた。
その炊き出しに群がるように、ジャクリーヌ率いる44人の風神軽騎兵とヴィオレッタ直属の斥候たち、城門の修復作業をしていたエステリックの元義勇兵たち、それから炊き出し目当ての少なからずのコッペリ村の住人たちがワイワイと騒ぎながら、勝ち戦の熱気に浸っていた。
「よおぉ〜〜っ、ヴィオレッタ!こっち来い、こっち来い、お前も飲めっ‼︎」
「だからぁ〜〜…私は飲まないから!」
エビータを先頭にして、レンド、ピック、レイモンド、ティモシーもやって来て、ヴィオレッタの目の前で膝を折った。
ヴィオレッタは言った。
「無礼講、無礼講…楽にしてください。みなさん、楽しんでいますか?」
「はい…。して、ご帰還は…?」
「明後日、イェルマの葬儀に参列した後…みんなでリーンに帰りましょう。」
「しかと承りました。」
ヴィオレッタはホイットニー一族と仲良くお酒を飲んでいる三人に目を止めた。
「あなたは確か…」
「やぁ、ヴィオレッタ…じゃなくてセレスティシアか。ティアーク城下町からの大脱出以来だねっ!」
「あ…ヒラリー…ヒラリーさんだ。あの時はありがとうございました。ちゃんとしたお礼もせず、ごめんなさい。」
「いいって、いいって!」
トムソンとデイブも盃をヴィオレッタに向けて笑っていた。
ヴィオレッタとエヴェレットはみんなを労った後、エルフの村に向かった。
二人がエルフの村に到着すると、すでに先客がいた。村に入ってすぐの応接間の切り株テーブルで、ユグリウシア、ペーテルギュント、そしてセシルとセイラムがユグリウシアお手製の焼き菓子をポリポリと食べていた。
ヴィオレッタは挨拶をした。
「みなさん、こんにちわ。あら…セシルさんとセイラムちゃんも!」
セシルは焼き菓子を食べながら言った。
「…ベロニカ師範が帰って来ちゃって、居心地の良い師範室から追い出されちゃいましたぁ〜〜。あの人、ちょっと意地悪だからぁ…。それでしばらく、ここに緊急避難をさせてもらってます。」
「あははは、そうなんですね…。」
ユグリウシアは言った。
「今は祝勝会の最中でしょう?」
「ああ言う催しは苦手で…それに、エルフの村でやっておきたい事がありまして。明日、イェルマの葬儀に参列した後、私たちはリーンに帰還します…」
「そうですか…名残り惜しいですね。」
「…叔母上。一緒にリーンへいらっしゃいませんか?ペーテルギュントさんも途中までは一緒ですし…」
ペーテルギュントはヴィオレッタに同行してドルイン族長区まで行き、そこでドルイン湾のエスメリアと会うことになっている。その後はどうなるか分からないが…。
「ありがとう、セレスティシア…でも、ここが私の終の住処なのですよ。」
「…叔母上の覚悟を尊重して、これ以上は何も言いません。まぁ、これからは全土にリーンとイェルマの『念話』ネットワークが構築されるので、何かあったらすぐに連絡できますしね…。」
イェルマ=リーン同盟国とエステリックが盟主国の同盟三国の間で交わされた終戦協定…その中で、リーンとラクスマンに近いステメント村、ティアークに近いオリゴ村、エステリックに近いデュリテ村の三つの拠点にイェルマの大隊が駐留することが決定している。これは、同盟三国への抑止力というだけでなく、魔道士を配置することで『念話』ネットワークとしても機能する。
また、これはまだヴィオレッタの頭の中にだけにある構想なのだが、この三つの拠点とコッペリ村、そして自由な交易…これによって、イェルマという国が外界と交わり、「男子禁制」という黄金律が有名無実…できれば解消されればと思っていた。
ヴィオレッタにしてみれば、女性だけの国家など歪と言わざるを得なかった。これでは、今回の戦争で半分近くまで減ってしまったイェルマの人口はいつまで経っても回復しないだろう。
コッペリ村がイェルマの領土となり、三つの村にイェルメイドを派兵する事によってイェルメイドが男性と接触する機会が爆発的に増える。その上に、自由貿易によって人口も流動化する。これによって遠い将来、イェルマが男女共存の健全な国家になることをヴィオレッタは期待していた。
ヴィオレッタは空を見上げて「念話」を使った。すると…どこからともなく、巨大な蜘蛛がたくさんのフェアリーを従えて現れた。
初めてメグミちゃんを見たセシルとセイラムはぎょっとした。
「大丈夫ですよ。この子はメグミちゃん…私のお友達です。」
ヴィオレッタはメグミちゃんと「念話」で会話した。
(ヴィオッタ、ヴィオッタ…何、どうしたのぉ〜〜?)
(メグミちゃん…明後日、リーンに戻るよ。)
(…。)
(あれれ…喜ぶと思ったのに…?)
(あのねぇ…メグミちゃん、ここでいっぱいいっぱいお友達ができたの。みんな、メグミちゃんにずっといて欲しいって言ってるの。どうしよっかなぁ…?)
お友達とはフェアリーたちの事だろう…思いがけない事でヴィオレッタは戸惑った。
その様子を見ていたユグリウシアが言った。
「どうしたのですか?」
「それが…メグミちゃんが珍しく駄々をこねちゃって…」
会話の内容を聞いたユグリウシアは言った。
「メグミちゃんは蜘蛛…人間の中で暮らすよりも、この原生林でフェアリーたちといる方が幸せなのかもしれません。それに、もっともっと大きくなる可能性もありますよ、なにせシーグアの眷属なのだから。リーンに連れ帰っても人間並みに大きくなった蜘蛛がいたら…結局はセコイアの懐の原生林に棲んでもらわなくてはいけなくなるんじゃないでしょうか…。」
「そっかぁ…」
ヴィオレッタは苦渋の決断をした。
(メグミちゃん…それじゃぁ、メグミちゃんはお友達のフェアリーを守るために、このエルフの村に残りなさい。もし、メグミちゃんに会いたくなったら…私がやって来るから。)
(…うん。メグミちゃんはお友達を守るよ…。)
ヴィオレッタは…まさかこんな形でメグミちゃんと別れる事になるとは思ってもみなかったので、それだけにショックも大きかった。
するとセイラムが…
「おっきな蜘蛛さん、おっきな蜘蛛さん。ちっちゃな女王さま万歳、ちっちゃな女王さま万歳っ!」
「えっ?」
「…ん?」
「は…?」
セイラム以外のみんなが顔を見合わせた。セシルが言った。
「今のは…予知?」
ユグリウシアは答えた。
「…かもしれませんね。」
ヴィオレッタは言った。
「何で…メグミちゃんが女王様?確かにメグミちゃんは女の子だけど、それにしても…何の女王なのかしら。蜘蛛たちの女王、それともフェアリーたちの女王?それに、大きな蜘蛛と言っておいて小さな女王とは…ねぇ、セイラムちゃん、どういう事かしら?」
「あのねぇ、おっきなメグミちゃんがちっちゃくなって女王さまになるよ!」
「…まんまじゃん。」
ユグリウシアも首を傾げていた。
「あまりにも漠然としていて…皆目見当がつきませんねぇ…。」
セイラムはさらに言った。
「セレスティシアァ〜〜…今度会う時は、セレスティシアはセイラムの翼よりももっともっとおっきな翼でやって来るんだねぇ〜〜っ!」
「う…これは…」
「これまた、訳分からん…」
「…さっきよりは具体的?」
みんなはセイラムの予言の解釈を諦めて、ユグリウシアが持って来てくれたエルフのハーブティーを美味しくいただいた。
セイラムのこの二つの予知は十年以上の時を経て成就することとなる。




