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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百九十二章 ダスティンの帰還

五百九十二章 ダスティンの帰還


 エステリック王国でイェルマ軍と共に講和条約締結を完了させたリーン連合軍はリーン族長区連邦に戻り、軍隊はそれぞれの所属の自治区へと帰っていった。

 ダスティンとグラントはルド率いるリーン軍に混じってリーン族長区に帰還した。ヴィオレッタの指示でラクスマン王国で諜報活動をしていたダスティンにとっては半年ぶりのリーン族長区だった。

 ダスティンとグラントはベルデン要塞でルドと別れ、二人して「セコイアの懐」の村を目指して馬車を走らせた。馬車は並足でゆっくりと草原の中を走っていき、山の麓に差し掛かるとポックリポックリと歩いたので、二人は馬車を降りて馬の鼻を曳いて歩いた。

 馴染みの小径が見えてきた。この小径は「セコイアの懐」の村へと続いている。

 ダスティンがグラントに尋ねた。

「む…あの生き物は何だ⁉︎」

「おや、ダスティンは知らなかったのか…?あれは牛だよ。ガレルたちがラクスマンから買ってきたんだよ。」

「ほぉ〜〜。」

 すると、牛たちの群れのほぼ真ん中に懐かしい見慣れた小屋が見えてきた。そして、その小屋の扉が開いて女の子が飛び出して、こちらに向かって全力疾走してきた。

「グラントォ〜〜ッ!」

「やあ、シーラ。」

「ああっ、ダスチンおぃちゃんがいるぅ〜〜っ!」

 シーラはダスティンの土手っ腹にフライングヘッドバッドを敢行したが、ダスティンはそれをひらりと躱した。

「シーラ、久しぶりだな。いつも元気だな、ははは。」

 ダスティンはシーラと手を繋いで小屋に近づいていくと…戸口に赤子を抱いた女性が立っていた。

「あ…あんたっ…!」

「おお…ルルブ…!あっ…その子が…スタリーか?」

「そうだよ…あんたの息子だよ!」

「おお…おおおっ!」

 ダスティンはルルブからスタリーを奪い取って、自分の懐に抱いた。するとスタリーは激しく泣き出した。実の父子といえども、ダスティンとスタリーはこの時が初対面である。スタリーにしてみれば、突然知らないおじさんが現れて、心地良い母親の内懐から拉致されたのだ…仕方がない。

「うへへへ…嫌われちまった、どうしよう…。」

「あははは、やっと一歳だからねぇ。」

 ルルブはダスティンからスタリーを取り上げると、ご機嫌斜めのスタリーをあやしながらシーラに言った。

「シーラ、ダスティンが帰って来たって、お父ちゃんを呼んでおいで。」

「分かったぁ〜〜!」

 シーラは草原の中に駆けて行った。

 グラントが言った。

「ダスティン、僕は先にリーン会堂へ行って帰還の報告を済ませるよ。」

「ああ、しばらくしたら俺も行く。」

 グラントは馬車を曳いて、小径を登っていった。

 ダスティンが小屋の中に入ると、ナンシーがいた。

「ダスティン、お帰りなさい。」

「やぁ、ナンシー…あれ、ナンシーだけかい?」

「ガレルが外で干し草刈りをしてるよ。今年の冬は牛がいるからねぇ…干し草作りでガレルは忙しくしてるねぇ…。それで、あんたはこれからどうするんだい?」

「セレスティシア様たちも一度、リーンに帰ってくるらしいから…それまではここにいるよ。セレスティシア様の指示待ちだな。」

 ダスティンがナンシーが出してくれたお茶を飲みつつルルブが抱いたスタリーの頬を突ついていると、シーラがガレルを引っ張って来た。

「おおっ、ダスティン…よく帰ってきたな、無事で何よりだ。」

「やあ、ガレル、久しぶりっ!」

「いやぁ〜〜…ダスティンが帰って来てくれて助かった。俺ひとりでどうしようかなと思っていたところだ。」

「…ん?」

 シーラが言った。

「あんねぇ…うチがねぇ、赤ちゃん産むんだよぉ〜〜。」

「ほお…!」

 三人は外に出て、シーラは小屋の近くで草を食んでいる雌牛を指差した。その雌牛はお尻に水風船のようなものをぶら下げていた。

「何だ、ありゃ?」

「羊膜の袋だよ。あの雌牛は出産間近で…羊膜の一部がああやって外に出てるんだ。そこに羊水が少しずつ溜まっていって、水風船みたいにぶら下がるんだ。」

 すると…三人の目の前でその羊膜が破裂し、雌牛は草原にこぼれ落ちた羊水を舐めていた。

「うおっ…まずい、すぐ産まれるぞっ!」

 ガレルは小走りでその雌牛に駆け寄っていった。そして、ガレルは雌牛の鼻を曳いて、その牛を小屋の牛屋に入れた。

「おぉ〜〜い、干し草持って来てくれっ!」

 ナンシーが小屋から出てきて、小屋のそばに山積みにされている干し草をフォークで掬ってどんどん牛屋に放り込んだ。それを真似て、ダスティンとシーラも干し草を両手一杯に抱えて運んだ。ガレルはそれを必死に牛屋の地面の上にならしていった。

「うひゃぁっ!」

 シーラが叫んだ。雌牛のお尻から何かが見えていた。それは仔牛の前脚の蹄だった。

 ガレルがその前脚を両手で持って、力一杯引っ張った。すると、仔牛の頭が出てきた。ガレルはすぐに牛屋に用意していたロープをその前脚に結わえた。

「みんな、引っ張れぇ〜〜っ!」

 ガレル、ナンシー、ダスティン、そしてシーラがロープを何度か引っ張ると、苦しいのか雌牛はしきりに鳴いた。すると、羊膜を纏ったヌルヌルの仔牛がズルリと出てきて羊水と共に干し草の上に落ちた。

 シーラは無言で大きく開いた目と口を丸くしていた。ナンシーはすぐに小屋から木綿の大きな布を持ってきて、仔牛の体を拭った。母親となった雌牛は振り返ってナンシーに頭をぴたりとくっ付けて、ナンシーを押しのけて仔牛の体を舐め始めた。ダスティンは目を少し潤ませて笑って見ていた…スタリーが産まれた時も、こんな感じだったのだろうか…?

 ガレルは言った。

「ふぅ…何とかなったな…。牛の出産なんて初めてだったからな。小屋に戻ってひと休みするか。シーラ、行くぞ。」

「あたチ…まだ見とくぅ〜〜。」

「あんまり仔牛をかまうんじゃないぞ、お母さん牛が怒るからな。」

 後は母牛に任せて、ガレルたちは小屋へと戻って行った。シーラは…仔牛が自力で立ち上がり、母牛の大きな乳首に吸い付くまでをしゃがんでずっと見ていた。幼いながらも…シーラは「命」を感じていた。

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