第十一章「少年とシュランツ」
今回スポットが当たるのは、シュランツです。
黒髪ツンデレ少女のシュランツは2番目に会った妖精で、お姉様が大好きでした。
彼女の生きざまを是非、見てやってください。
最終章を22時過ぎに投稿いたします。
第十一章「少年とシュランツ」
「……ミュゼットさん……?」
一人残されたと気付くまで、時間がかかった。
動物園に一人?
いや、確かに彼女はそこにいた。
プレゼントを買った。
兎のネックレスを。
彼女に、ミュゼットにあげた。
首から下げて、笑ってくれた。
なら何故そのペンダントはベンチに転がっている?
「嘘でしょ……?ミュゼットさん……!?ミュゼットさん!!」
「少年!!」
「……ネオラさん……シュランツさん……。」
緑髪の女性ネオラ。
黒髪ツンデレ少女、シュランツ。
彼女達が駆け寄るのは、少年にだ。
「ミュゼットさんが……ミュゼットさんが……!!…………全然やりきってないんですよ……僕、ミュゼットさんに、何もしてやれてないんです……!!それなのに……!!」
「……そんなことないよ。」
「あるんです!!」
少年の怒号に、ネオラは体をブルッと震わせた。
「せめて……せめて…………見届けてあげたかった……!!くそっ!!くそぉぉ!!!」
拳を地面に打ちつけた。
痛かったが、この痛みさえ気にならないほど心が荒れていた。
「落ち着きなさいよ、少年。分かってたことでしょ。」
「…………シュランツさん……貴女、少々冷静すぎませんか…………?」
少年はふらふらと立ち上がり、シュランツに歩み寄った。
「大切な仲間が消えて!貴女は平気なんですか!?」
「平気じゃないわよ!!でも、どうしようもなかったのよ!?それに……これは彼女が望んだ結果なのよ……!!」
「望みたくなかったよ、こんな結末!!」
「なっ……!?……謝りなさいよ……!!アンタ、ミュゼットに謝りなさいよ!!!」
「ふ、二人とも……!喧嘩は駄目だって……!」
手で制するネオラ。
それでも少年とシュランツは、聞く耳を持たない。
「僕は最初からこんなことする気はなかった!!でも、貴女達が無理矢理に……!!」
「無理矢理だったわよ!!でも、それでも覚悟を決めてたの!!どれだけの覚悟だったか、アンタに分かるの!?生半可な気持ちを持ってない!!アンタはミュゼットを侮辱した!!たとえ2ヶ月でも、あの娘は!!あの娘はぁ……!!」
泣きじゃくるシュランツ。
「ひぐっ……私だって……ミュゼットが好きだったのに……!!もういい!!!」
シュランツは一目散に駆け出した。
「シュランツ!……ごめん、少年。」
ネオラはシュランツを追った。
残された少年。
やり場のない気持ちをどこにぶつければいいのだろう。
「…………くそっ……!!」
少年はベンチに座った。
先程まで、二人で座っていたベンチだ。
でも隣には……もう誰もいない。
あるのは兎のペンダントと、封筒と紙とペン。
「…………。」
……封筒……?
一体何の封筒だ……?
少年は手に取ると、中身を見てみた。
何も入っていない……ということは、この紙が入っていたのだろう……。紙を手に取ると、そこには文字が綴られていた。
「ミュゼットさんの字……。」
拙いながらも書かれたその文字は、ミュゼットのものだった。
その手紙にはこう書かれていた。
少年へ。
手紙を書くなんて初めてです。とてもきんちょうしているッス!でも手紙で「ッス」を付けるのはおかしいッスかね?
そういえば、アイデンティティーだと教えられたことがあるッス!だから付けるッス!ッスッス!!
この手紙を読んでいるということは、私は消えちゃったんッスねー……。まあまあ!そう哀しまないでほしいッスよ!私は少年の心の中で生き続けるんッスよ、文字通り!
お姉さん達を大事にしてあげてほしいッス。こんなことになったのは、私のせいッス。だって、さいしょに少年にチューをしたのは私ッス!その流れで、あまりかくごが決まってなかった二人も、チューをしてしまったと思うんッス。
私も消えたくないッス!でもやっちゃったもんは、しかたないッスね。せめて、どうぶつえんはいっしょにたのしみたいッス。
私はたのしめてるッスか?
そろそろスペースがないから、終わりたいと思うッス!ありがとうッス少年!
お礼に、「あいッス」は、少年にあげるッスよ。
ミュゼットより
ついしん
うさぎ、かわいかったッス!
すごくたのしかっ
「………………。」
ボロボロと涙がこぼれた。
走り書きの最後の文字……書けてないじゃないか。
手紙の書き方……教えてやればよかったな。
ミュゼットは最後まで楽しんでくれたようだ。
あいつが最終的に望むものってなんだろう。
待ってた人……エンジェルと一緒になることか?
「…………分からないや……。」
頭を抱える少年だった。
・・・・・・・・・
「……お帰り、少年。」
「……。」
口をきくのは情けなくて、軽く会釈をした。
宿屋に帰ってきたのは、日も暮れて、すっかり夜になったときだった。
微笑んで迎えてくれたのはネオラだった。
シュランツは、もうすでに横になっていた。
「シュランツはもう寝てるよ。」
「……そうですか。」
見透かされたと思ったが、ネオラだってその場にいたのだ。
考えれば分かることだろう。
「ご飯出来てるよ。」
「いえ……すみません、今日はいいです。」
「そう……じゃあ、珈琲は?」
「……なら、いただきます。」
「うん。」
カップを二つ用意して、ネオラは珈琲を淹れた。
「はい、どうぞ。」
「……ありがとうございます。」
湯気がたつ珈琲を、少年はすすった。
熱いが、美味い。
「……。」
「…………うん。我ながら上手だなぁ。」
「……まったくです。」
「……ふあぁ……。」
「寝てていいですよ。後は僕がやっておきますから。」
「ううん。まだお話させて。」
「……まあ、拒む理由は無いですけど。」
「ありがとう、少年。」
その言葉を皮切りに、沈黙が流れる。
時折鳴る音は、珈琲をすする音くらいだ。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
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「少年。」
沈黙を破ったのはネオラだ。
「手紙は読んだ?」
「……知っていたんですか……?」
「ミュゼット、夜中にごそごそやってたからさ。気になってね。」
「ああ……昨日のあれは……そういう……。」
「私にも、読ませてもらっていいかな。」
「勿論です。」
少年は懐をあさり、封筒を手渡した。
「中に入ってます。」
「うん。」
ネオラが封筒の中身を確認して、手紙を取り出した。
そして、目を通す。
「…………。」
「………………。」
やがてネオラは、手紙を封筒に入れて、にっこりと笑った。
「そろそろ寝ようか?」
「……そうしましょう。」
就寝する二人。
隣で寝ていたネオラの息づかいが、少し荒れていたようだが、少年は何も言わなかった。
・・・・・・・・・
「すいませんでした。」
「なっ……ちょっ、土下座はやめてよ!」
明朝、目がさめたシュランツの前で少年は土下座した。誠心誠意謝ろうと思ったのだ。
「いやもう本当にすみませんでした。身勝手なことばかり言って……。」
「だ、だから土下座はやめなさいよ!頭上げて!!」
少年は恐る恐る頭を上げた。
シュランツが視線をずらし、照れくさそうに言う。
「私も……悪かったわよ。」
「シュランツさん……!」
「その代わり……ちゃんと私を楽しませなさいよ……。」
「勿論です!!」
シュランツとも和解して、朝食。
少年は早速シュランツに尋ねた。
そう。
何がしたいのか。
「そうね……。」
下を向くシュランツは、頬を赤く染めているようだった。
「えっ、そんな下品なお願いなんですか?」
「ばっ……馬鹿じゃないの!?消える前に消してやりましょうか!?」
「悪霊退散!」
「誰が悪霊じゃ!」
朝食も賑やかになった。
最初は仲が悪かったシュランツとも、今は打ち解けて話せる。
「すみませんシュランツさん。それで、本当は?」
「…………結婚。」
「…………はい?」
空気が凍りついた気がした。
「血痕って……やっぱり僕を消そうと……?」
「そうじゃなくて!……結婚式を挙げてみたい……。」
顔を真っ赤にするシュランツ。もうすっかり涙目だ。
冗談……ではないだろう。
少年は一つ息を吐くと、シュランツの目を見てこう言った。
「僕……結婚式を挙げたことないですし……調べてみましょうか。一緒に。」
「……!う、うん!」
パアァっと顔を明るくして、シュランツは朝食を食べ始めた。
少年の隣で朝食を食べていたネオラが、少年を見て言う。
「私が手伝うことはある?」
「そうですね……。いえ、ここは二人でやらせてください。お願いします。」
「少年…………そっか。頑張ってね!」
「はい。」
その後……朝食を食べ終わると、暫くして少年とシュランツは外に出た。
「とりあえず……どこで挙げます?式場を借りるお金は無いですし……。」
「ふん……場所なんていいのよ。大事なのは気持ちなんだから。」
「意外とロマンチストなんですね。」
「一言余計なのよ!ったく……。」
シュランツが、ぷいっと顔を背ける。
こうやって見れば可愛らしいところもあるものだ。
「因みに、一応確認しておきたいんですけど……新郎は誰が?」
「はあ!?アンタに決まってるでしょ。」
「やっぱりか……。」
「何よ。……嫌なの?」
「いえ。何て言うか……嬉しいです。」
自分ではよく分からないが……恐らく赤くなっているだろう。
「じゃあ、借りてる部屋でしましょう。次は……ウエディングドレスかなぁ。」
そこで、シュランツの体がピクッと震えた気がした。
「シュランツさん?」
「ウエディングドレスなら、その!もう決めてるの!」
「え?」
「一昨日、お姉様と見に行ってね、こっち!」
少年の手を掴んで走り出す。その時の彼女は、今まで想像ができなかったくらいに無邪気だった。
・・・・・・・・・
「こ、これなんだけど……。」
専門店に着くと、シュランツはとあるウエディングドレスを指さした。
シュランツの黒髪とは正反対の純白で、男で何の知識も無い少年でも、目を奪われてしまった。
「綺麗……ですね……。」
「でしょ?これ、着てみたいの。」
「似合いますよ。絶対。」
「当たり前でしょ、私なんだから。」
腕組みをしてふふんとドヤ顔をする。
シュランツらしいと言えばシュランツらしい。
「…………ただ、今は持ち合わせが無いので、また明日にしましょう。」
「むっ……仕方無いわね。」
「僕の正装も用意しないといけませんし。」
「そうね。じゃあ、これからどうするの?まだ時間はあるけど……。」
「うーん……招待状……ですかね。」
「でも呼ぶ人なんて……お姉様とエンジェルくらいしかいないんだから……。」
「形でも大事にしましょうよ。ね!」
「……それなら、画用紙とペンとはさみを買いに行くわよ!」
「リボンも付けましょうか!」
……シュランツさんと共に、結婚式の準備をするのは楽しかった。
あれをどうするこれをどうする。
何かをする都度、彼女は笑った。
無事にウエディングドレスも購入し、ネオラさんやエンジェルにも招待状を渡した。
部屋の装飾もバッチリだ。
赤いカーペットも敷いて、椅子も並べた。
キッチンが見えるのも、これはこれで有りかもしれない。
資金不足で幼稚な物だが、手作りでブーケも用意した。
シュランツは文句を言っていたが、指輪を用意しなければならなかったので、仕方無いことだった。
・・・・・・・・・
結婚式当日。
「……。」
「ひゃあ!似合ってるよシュランツ!」
「や、や、やめて、よ!お姉様!」
純白のドレスに身を纏ったシュランツ。
隣を歩く予定のネオラが着付けをしてくれた。
「これは本当に結婚したくなるねぇ。」
「もう……。」
赤面し、口を尖らせる。
ネオラが、「ふふっ」と笑い、「少年呼ぶ?」と言った。
恥ずかしいが……。
「…………お願い。」
「うん。少年!入っていいよー!」
「はーい。」
ドアが開くと、そこには少年の姿があった。
グレーのタキシードを着た少年が、少し大人っぽく……格好よく見えた。
「……ネオラさん、本日は宜しくお願いします。」
「うん!」
「シュランツさん。」
「なっ、何よ?」
「とても似合ってます。」
「~~!!だ、だから!私なんだから当たり前でしょ!そ、そろそろ始めるわよ!」
「……そうですね。始めましょうか。」
ネオラとシュランツは、一度部屋の外に出た。
ドアを閉める際、シュランツは照れながら「また後でね」と言ってくれた。
「…………ふぅ。」
「似合ってるよ、シュウ。」
「ありがとう、エンジェル。」
「……ミュゼットもそう言うと思うし。」
「……。」
椅子に座っていたエンジェル。その隣には、兎のペンダントが置いてあった。
「……いってきます。」
少年は、二人にむけてそう言った。
壇上の前まで歩き、深呼吸。
「どうぞ。」
ドアに向かって言えば、彼女は姿を現した。
エンジェルの拍手のなか、ネオラと共に、ゆっくり……ゆっくりと歩くシュランツ。
少年の前まで来ると、ネオラと少年は深く頭を下げた。
「いっておいで、シュランツ。」
「ええ。……ありがとう、お姉様。」
「こちらこそ。」
ネオラがシュランツを引き渡すと、トコトコと壇上の最前まで行った。
二人はネオラの方を向く。
「新郎。」
「はい。」
「何時如何なる時も、新郎は新婦を永遠に愛すると誓いますか?」
「誓います。」
ネオラの心がチクリと痛んだ。
「では新婦。何時如何なる時も、新郎を永遠に愛すると誓いますか?」
「ええ。誓います。」
「では、指輪の交換をしましょう。」
シュランツは手袋とブーケを、ネオラに預けた。
一方少年はネオラから指輪を受け取った。
「……あれ?薬指でしたっけ?」
「…………そうよ。はい。」
シュランツが左手を差し出した。少年は苦笑しながら、そっと薬指に指輪をはめる。
「次は新婦だね。」
「ええ。」
シュランツは少年の左手薬指に指輪をはめた。
「私のセンスのように、この指輪も光っているわね。感謝していいのよ。」
「はいはい。」
「『はい』は一回!」
「はい。」
「よし。」
シュランツが笑った。
本当に結婚したら、尻に敷かれそうだ。
「では、誓いのキッスを。」
「…………ネオラさん。言い方。」
溜め息を吐いて、少年はベールをあげた。
……あれ、シュランツさんって、こんなに綺麗だったっけ?
「何よ、少年。見とれてるわけ?」
「あ、はい。すみません。」
「……正直に言わないでよ!!嬉しいけど……。」
「すみません。」
「…………少年……私さ、最初はアンタのこと嫌いだったよ。」
「突然何ですか。」
「お姉様の近くに居て、羨ましかっただけなんだけどね。……もっと居たかったよ、アンタの隣。」
「……シュランツさん……?」
シュランツの体が、淡い光に包まれた。
「シュランツさん!!」
「抵抗してるから、まだこうやって話せるけどさ……。」
少年はシュランツの肩を掴もうとした。
だが、出来なかった。
「もう、触れられないのよね。」
「シュランツさん……!」
「時間が無いから言わせてよ。幸せな記憶をありがとう。……本当に大好き。」
「僕だって……!!シュランツさんのこと、大好きです!!」
「……そっか。……あーあ……私が最初に会ってたら…………もっと……話せた…………。」
やわらかな音とともに、純白のドレスが落ちた。
「…………シュランツ……さん……。」
少年は落ちた指輪を拾った。
シュランツがはめていたその指輪にキスをして、ポケットにしまったのだった。
次回予告
少年「ネオラさん。」
ネオラ「それがロマンってものさ。」
少年「夢をみようかな。」
ネオラ「少年よー。」
少年「ありきたりな言葉でも貴女に伝えたいから。」
ネオラ「後悔してる?」
少年「優しいネオラさんが大好きです。」
次回最終章「少年とネオラ」




